タイトル通り、カルデアの2人がただ戦うだけの短編。

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第1話

「では……じいく殿。いざ勝負といこうか」

「ああ、いくぞ。イオリ」

 

 

 剣を構える魔剣士が二人。

 一人は日本刀を2つ構えた深緑衣装の若武者、宮本伊織。

 一人は西洋の両手剣を携えた白髪赤目の魔術師、ホムンクルスのジーク。

 

 互いに見合った視線は相手の足先から息遣いまで、その動きを見落とすことなく観察し己がものにしようとする。

 周囲は趣味レーターで再現された、隠れる場もない平原。風すら立たぬ静寂が続く。

 

「ふっ……」

 

 最初に動いたのは、ジークのほうだった。真剣勝負において、気の読み合いは侍に勝てぬと踏み、ならば先に飛びだすが吉とばかりに剣を抱えて間合いへ飛び込む。

 

(斬る)

 

 伊織は一切の迷いなく、右手の刀で相手の剣の軌道を逸らし、左手でその首を刎ねに向かう。

 二天一流の使い手は、いくら魔術で強化されている相手とはいえ、我流のジークに対して技では遥かに優っていた。

 しかし、伊織はまた、この程度で勝てるほど目の前の魔術師が楽な相手ではないことも知っていた。

 

 ガチンッ!! 

 音がして弾かれたのは、ジークではなく伊織の剣であった。

 ジークの腕には、先ほどまではなかった銀色の甲冑の籠手。それが伊織の鋭いがゆえに繊細な剣技から首を守っていた。

 伊織は動揺により身を固くする。だが、相手は魔術師、摩訶不思議を起こす存在だと即座に状況を飲み込み、次の技へ移るべく刀を握る手を動かそうとする。

 ジークはその瞬き一つ分もない時間にできた伊織の隙を捉えていた。ホムンクルスゆえに上質な魔術回路に高速で魔術が通り、光を放つ。使うは『理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)』。ホムンクルスが生来持つ、対象を硬度や物体に依らず分解する魔術である。

 

 伊織の直感と、鍛えられた反射神経により、0.02秒以下の速度で飛びのいた。だが、ジークの指先から漏れた光は、その刃筋に届いていた。

 

 バキリ!!! 

 

「……剣が」

 

 伊織は驚きながらも、冷静さを保つ。

 二天一流の名を知らしめる、二刀流のうち一刀が今、刃の半分を残して、割れた硝子のように粉々と砕けた。

 

「悪いが、まずは潰させてもらった」

 

 ジークは、伊織の剣を防いだ腕をプラプラと振る。

 籠手で防御したとはいえ、その威力は防ぎきれず痺れが残った。日本の侍のサーヴァントは数多いが、その穏やかな顔つきから撃剣を繰り出す猛者も多い。油断すれば、先ほど壊れたのは伊織の剣でなく籠手のほうだったと、ジークは反省する。

 

(だが、剣を一つ潰した。これだけで俺にも勝ち筋があるだろう)

 

(成程。剣を一つ奪ったか。悪くない策と、それを成せるだけの才能だ)

 

「では、こうする他あるまい」

 

 二天一流は二刀の剣技のみにあらず。あらゆる状況に対応できねば、武術とは言えない。

 伊織は一刀を両手で持ち、胸元の正中へ構えると刃をわずかに上げた。

 そして息を整え

 

(土の型で行く)

 

「ふっ……」

 

(な、速いッ!!)

 

 三足で長距離から詰められ、右足を荒馬のように大きく上げたかと思うと地割れができるほど踏み込み頭蓋を割る一撃を放つ。

 刀をたかが一本失っただけではない。操る鉄塊を一つ減らすことで、その身は軽く、走りは滑らかとなる。

 ジークは何とか剣で受けるも、その竜の力が宿る身体ですら重さに耐えきれず、逸らした刀身に肩を抉られ血が噴き出す。

 

「痺れろ!!」」

 

 竜の血を浴びる伊織へ、ジークは雷撃の魔術を放つ。

 近距離で電流を浴びた伊織は、多少の魔術礼装を持っていたものの、足先まで筋肉が火傷を負った感覚に呻いた。

 

「おおおッ!!」

 

 伊織は刀を返し、第二の剛剣を放つ。

 土の型は一撃必殺の強者の剣にして、一撃では終わらぬ一連の技を指す。

 死地の間合いに飛び込んだ侍は、一刀ごとに退くなど無粋。確実にその急所を斬るまで何があろうと動きを止めない。

 

「理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)!!」

 

 ジークの地面に魔力が通り、高く厚き土壁が生み出される。

 だが伊織は膨れ上がった筋肉と、荒い息を吐き続ける。

 

「たあああ!!」

 

 伊織の声と共に、壁が爆発四散する。

 違う、その剣がただの一振りで破壊したのだ。

 ジークは魔術を止めない。壁で猛攻を防げないのならば。

 今度は伊織の脇から土壁がせり上がり、伊織めがけて迫りくる。

 

「ふっ!!」

 

 伊織は半身をひるがえし、剣で叩き切る。ジークは次々と壁を生み出すと途切れなく伊織へぶつけていく。それを全て躱し、壊し、時に壁を蹴ることで次の壁を避け、柔軟に対応していく。その動きを、ジークは目で追いながら、ホムンクルスの演算力で、次の動きを予測していく。

 

「追い込んだ」

 

 ジークが声を上げたとき、伊織の地面がせりあがった。

 目の前の土壁を斬りつけようと脚を踏み込んだ伊織は逃げる事ができず、空へ打ち上げられる。ジークは腰の西洋剣を抜き、雷を宿す。

 

「はあああ!!」

 

(殺気、だが受けようにも足場が!!)

 

 伊織は懐から赤き魔力の宿る石を取り出す。

 間に合うか、伊織は魔術を起動する。

 

「食らうがいい!!」

 

 雷光一閃。剣より放たれた衝撃波は緑の雷撃を宿し、光線となって伊織へ飛んでいく。地面を抉るほどの一撃に、伊織の手から放たれた魔力石が爆発した。

 

「躱したか!!」

 

 伊織は爆風を利用して己の身を吹き飛ばすと、僅かに光線の軌道から逸らした。自身のダメージもあるが、土の型は防御にも特化しており、地面への衝突を腕や背を使い和らげ、すぐさま立ち上がって見せた。

 回避が成功したものの、一瞬光線でやけた右半身は内側で痛みがあり、袖口から血が零れた。

 

(剣の間合いに入れば剣士である俺が勝つと思ったが、魔術というのはこうも自由自在か)

 

 伊織の良く知る魔術と剣を使う剣士は二人。

 ヤマトタケルは流水を操りながら、正面から相手を叩く凄まじき王者の剣技を使う。あれは伊織に真似ができない。

 由井正雪は剣の腕こそセイバーたちには及ばないものの、五行元素を用いた巧みな魔術を用い、更には味方の強化も戦闘中に行う。ヤマトタケルに比べれば伊織も真似ができそうな技がいくつかあるが、体格差や魔力量の違いによりやはり剣を真似するには難しい。

 しかし折角カルデアで多くの魔剣士のサーヴァントたちと出会っているのだ。

 戦闘の補助としか使えなかった伊織の魔術も、彼らを真似ることでより柔軟に技として剣の型に組み込めるのではないか。

 そして行き当たったのが、伊織と体格も身体能力も近いジークであった。

 

 

(今の雷電から土壁の流れは、俺の炎の魔術でも真似できる。相手の地面をせり出すのは難しいか? いや、足元に魔石を巻き、爆風で相手を浮かせれば似たことができるか……いやはや、ジーク殿の技は学ぶべき手本となることばかりだ)

 

(イオリの剣はすごいな。魔力に頼らず、肉体の使い方次第でこの威力とは。俺も、もっと彼の動きを観察したい)

 

 そういうジークの肉体は、既に『人口英雄(偽)』というスキルにより傷が修復し終わっていた。

 決して戦闘狂などではない二人だが、好奇心がその身を動かし、再び剣と魔術が火花を散らしていく。

 伊織は剣のみでは相手に致命傷を与えられぬと、技の中に魔術を使う回数が増えていく。

 ジークは一度見た技を学習し、すぐさま用いては剣の読み合いで徐々に伊織に迫っていく。

 雷と炎の魔術が舞い、二人の剣技も手数が増え、互いが互いを精進させていく。

 

(……さすがは、じいく殿。魔術と剣を使うのみでなく、水のように柔軟に俺の技を飲み込み自らのものとしてる)

 

 伊織にも、風の型という剣魔一体の構えがある。

 炎魔術を得意とする伊織は宝石を使い、火炎球を放つ、焔を刃に纏わせる、あるいは簡単な治癒を行う。

 侍相手では魔術が初見殺しとなり、魔術師であれば剣が効き、魔術を纏うことで怪異も打ち倒せる、宝石ある限りではあるが自由自在の型だ。

 

 しかしそれは、それは伊織の魔術の才能が伸び代に対して足枷となっていることでもある。

 

(魔術起動までの時間、剣技との切り替え時もたつき、魔術自体のムラ……まだまだ改善すべき展は多い)

 

 伊織はジークを見つめる。

 剣を一振りした次には、物質破壊、雷撃や瞬間武装による攻撃魔術が飛んでくる。

 刃の届かぬ間合いへ逃げたはずが、剣の形が変わり心臓を貫き、あるいは魔力の乗った剣風が遠くの大龍まで一刀両断する。

 しかも、その剣と魔の切り替えに澱みがないから、次に来るのは剣技か魔術か、魔術であればどの技かが寸前まで見極められない。

 伊織が剣に比重を置く魔剣士だとすれば、ジークは魔を中心にすえた魔剣士。

 タイプが違うからこそ、その巧みな魔術を組み合わせた型に伊織は魅入られていた。

 

(……イオリの剣、恐ろしいな。並いるセイバーのサーヴァントとは一つ違ったタイプだ)

 

 それはジークも同じであった。

 カルデアにいる剣使いのサーヴァントたちは、魔術を使うものがいるとはいえ、基本は剣技が中心の戦闘をする。

 北欧の龍殺し、平安の怪異殺し、円卓の騎士から神話の英雄まで、神秘の濃い時代を生きた英霊は多い。

 彼らの技は類稀なる剣の才能や人間離れした肉体を下地にしており、ジークが如何に真似ようとも同じ動きはできない。

 

 だが一方の伊織は。

 神秘の薄い時代に生まれた彼の剣は、鍛錬により培われた、あくまで技だ。

 超人的な身体能力は必要なく、型の染み込んだ手足によって成立する。

 

(……俺と同じホムンクルスの正雪も、サムライの剣技を学び、魔術と組み合わせ己が技を作り上げていた。ならば俺も、伊織という魔剣士から学ぶことは多いだろう)

 

 

 

 

「貰った……!」

 

 ジークの剣は振り下ろされる。伊織は顔を上げることもないまま、その一撃を受けた。

 

(流れる水が如く)

 

 伊織は剣を手放し、その両拳を突き上げ、ジークの刀身をするりと挟み込む。

 

「真剣白刃取り……!?」

 

「悪いが違う。柳生但馬守より学んだ無刀取りだ」

 

 カルデアに来てから柳生宗矩直々に学んだ、柳生新陰流の奥義。それを咄嗟に出せるのは、彼の剣への貪欲な姿勢が故に他ならない。

 伊織は手をくるりと返すと、合気の要領でジークの剣をそのまま奪う。

 

「……!?」

 

 油断していたわけではないはずだが、まるで当然のように自分の腕からポロリと剣が落とされる技に、ジークは驚愕する。

 なんとか飛び退いたものの、武器を奪われてしまった。そして伊織の元には剣が二振り。

 

 伊織はだらりと両手を下げ、相手を正面に見据える。二天一流の、空の構え。

 

「じいく殿、如何する。まだ試合を続けるか」

 

 それは最初に取り決めた、魔術を使う剣士として互い力量や技を学びたいという目的が、ジークが剣を失ったことで終了したことを暗に伝えていた。

 

「……いや、安心してくれ。イオリの剣が二振りなように、俺にももう一本、とっておきがある」

 

 バリッと空気中に魔力の弾ける音がした。

 ジークの体に刻まれた魔力回路が、そして英雄より授かった龍の力を宿す心臓が波打つ。

 人工英雄(偽)のスキルは、彼が短時間のみジークフリートに変身できる竜告令呪(デッドカウント・シェイプシフター)から来ている。

 少年は、ニーベルンゲンの歌に語られる、龍殺しの英雄の姿へと変身する。

 屈強長身、剥き出しの背中に銀色の長髪が揺れる。翡翠色の瞳は穏やかだ。

 そして手に握られたのは、龍殺しの巨剣バルムンク。

 

「さてイオリ殿。制限時間は3分だが、まだ付き合ってくれるか?」

 

「勿論、相手にとって不足なし。どころか、俺もまたようやく二天一流の秘儀を見せられる」

 

 日本刀と西洋剣の変則二刀流は、生前境地に至ることで獲得した、空の型を構えを取った。それは伊織の記憶にないが、かつて望んだ盈月の儀で多くのサーヴァントを倒し、師である宮本武蔵すら破りすらした究極の剣技が一つ。

 

 対するジークは竜殺しの肉体を借り受けた。先ほど放った衝撃波より強力な剣撃を宝具として何度も放つことができる。彼もまた聖杯大戦にて、大英雄と互角に渡り合いすらした姿である。

 

「「いくぞ」」

 

 荒れ地の中に、奥の手にして最強の姿が2つ。

 両者は剣を構え、駆け出した。

 

 

 

 勝負の行方はただ、風のみぞ知る。

 

 

 

 




FGO準拠にするか、他作品のスキル準拠にするかで戦闘描写も変わるなと思いました。今回はあいのこ。

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