SUPER NOVA〜蛍は翠の光を灯す〜   作:akivas

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ホタルと出久は二人で一つ、いえ、二人が一つになっています。


“一つ”の存在。“二つ”の魂。

 

今から約三ヵ月前。

 

夢か現実かも分からない不思議な体験をした出久が意識を覚醒させたのは、病院のベッドの上だった。

 

知らない天井だ、等というお約束の言葉を発するより早く、母親の『緑谷引子』が滝のような涙を流して抱き着いてきた。

 

引子と担当医師曰く、出久は約一週間もの間、意識不明であったという。

 

身体に受けた火傷は時の経過と共に言えていくが、顔の右半分を覆うような大きな火傷は根治が困難であることも聞いた。

 

その日の昼には、警察関係者が見舞いにも来た。見舞いといっても、殆どが当時の状況聴取と、出久の無茶な行動への叱責であったが。

 

夕方には、爆豪の父母が見舞いにも来た。深々と何度も頭を下げられるものだから、出久は逆に居心地が悪く、早々に謝罪を受け入れた。そもそも、爆豪が悪い訳でもない。寧ろ、非は自分にある。

 

爆豪自身の姿はそこに無かった。その件に関しても、彼の両親から謝罪を受けたが、彼が主出には出さないものの、深く傷ついている事を伝えられた。

 

眩暈がしそうな一日の中にあって、出久の心はここに無かった。

 

手を握り締めれば確かに感じる“感触”。

 

 

“一つ”の存在。“二つ”の魂。そして、“二人”の力。

 

それが彼の心を満たしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

【静岡県立星核高等学校・1年A組】

 

 

『昨夜、東京都品川区に於いて発生した火事により、ビル一棟が倒壊。当時ビル内にいた6名の男性が全身火傷の重傷を負う事故がありました。警察は放火の可能性も入れて捜査を……。』

 

 

見た目に反して大きな弁当箱を机に広げ、教室の自席でひとり食事を取る少年『緑谷出久』は、机端に置いたスマホに映るニュース映像に耳を傾けている。

 

GWの連休前、遊びの予定打ち合わせで賑わう教室の隅っこが出久の席だ。

 

顔の右半分を覆うような深刻な大火傷の跡を撫でながら、出久は視線を宙に彷徨わせる。

 

親しい友人は特にいないが、出久はそれでもよかった。

 

寂しくは無いから。

 

 

「ん?」

 

 

スマホの画面上部にポップアップが起きる。大量にフォローしているゴシップ系インフルエンサーの一人が新規に投稿をしたようだ。

 

再生中のニュース動画を静止し、SNSを立ち上げて投稿内容を確認してみる。

 

 

『独自スクープ!違法金利の街金業者!その正体は薬物取引のブローカー!場所は静岡県の…。』

 

 

出久は目を細めて思案する。

 

場所は自宅からも高校からもそれほど遠くない繁華街の路地裏。つまり、自分の生活活動圏内だ。

 

下手に周辺をウロウロして同級生や知り合いに目撃されるのは避けたい。そうでなくても、顔に火傷を負った自分は人目に着く。

 

目立つといえば、『彼女』の人形のような可憐な見た目も人目には着くものの、自分のような悪目立ちで無い分、まだマシだろう。

 

「……今回はホタルさんに任せよ。」

 

 

出久は若干の申し訳なさを感じつつ、“自分自身でもある彼女”に向けて、スマホのメモに伝言を残した。

 

 

 

 

【警視庁本署・大会議室】

 

講堂上に配置された座席を埋め尽くすスーツ姿の大人達は、前方のスクリーンに投影された映像を険しい表情で睨んでいる。

 

スクリーンに映るのは、激しい炎に包まれて倒壊寸前の雑居ビル。

 

消防隊員が懸命な消火活動を行う傍らで、救急隊員が、倒れ伏す“人”のような黒焦げの物体に寄り添い、処置を行っている状況だった。

 

現場の混乱状況をありありと映すその映像が途切れると同時に、スクリーン前の特設席に座る、黒服に身を包んだ壮年の男性。警察高級官僚の男性がマイクを手にして口を開く。

 

 

「今見て貰ったのは、昨夜、品川区内にある雑居ビルでの映像だ。確証を得られていなかったが、犯罪者集団の溜まり場になっているという書き込みがネット掲示板で複数件あり、以前からマークをしていた場所だ。」

 

 

その男性は、座席の最前列に座る、スーツ姿の若い男性刑事に目配せをする。その若い刑事はタブレットを手にして立ち上がった。

 

 

「本件により当該ビルは完全に倒壊。幸いにも死者はいませんでしたが、6名の成人男性が全身大火傷の重体を負っています。搬送先の病院医師によると、ひどい暴行も受けている事が判明しています。」

 

そしてスクリーンに新たな映像が写される。

 

 

「これはSNSに投稿された映像です。現場から約10km離れたアパートで一般人が撮影したものですが。」

 

再生された映像には、立ち上る炎と煙の中から、“何か”が深紅の炎を吹き上げて夜空へ高速で飛び去って行く様子が映っている。

 

スクリーン上では、その箇所が拡大され、荒い画質がAI処理で綺麗に加工されていく。

 

そこに映るのは“白い鎧”。

 

 

「マスコミには情報を伏せていますが、今回の事件も『熔火の騎士』の犯行と断定して問題ありません。」

 

 

この会議室にいる誰もが予想していた事実。驚く者はいなかったが、冷たい緊張感が場を包む。

 

 

 

『熔火の騎士』

 

 

約数ヶ月前に出現したヴィジランテ。

 

大小問わず、犯罪を冒した者の目の前に突如現れ、行動不能になるまで痛めつけるという。

 

その容貌は、一言で表現するなら“白銀の鉄騎”。

 

被害者、及び目撃者曰く、息をする事すら厳しい高熱の炎を噴出し、苛烈な攻撃を容赦なく加える戦士であるという。

 

 

 

事件の概要を説明していた若手の男性刑事は更に説明を続ける。

 

 

「熔火の騎士が引き起こしたとされる事件はこの一カ月で既に10件を超えています。犯行現場は東京、神奈川、千葉、静岡、山梨、長野と、東日本を中心に展開。高ランクのプロヒーローが幾度となく捕縛を試みていますが何れも失敗。前期ランク13の“ブラック・オプス”は未だに意識が戻らない重体です。」

 

 

座席後方に座っていた女性刑事が挙手をし、発言を挟む。

 

 

「熔火の騎士の行動パターンに規則性はあるのですか?」

 

 

若手刑事は手元のタブレットを操作しながら答える。

 

 

「明確な規則性はありませんが、被害者は何れも犯罪歴のある日陰者や、ヴィラン予備リスト掲載者です。恐らくはSNSやネット界隈を情報源にして場所を特定し、犯行に及んでいると思われます。」

 

「では、事前にネット情報を抑えれば犯行を予想できるのでは?」

 

「ネット上の情報が多すぎます。既にある情報に加え、日々更新される情報は真偽問わず膨大です。」

 

 

そこで、スクリーン前に座る警察官僚がマイクを手にして再び口を開く。

 

 

「未だ手掛かりは少ない。だが、このヴィジランテを野放しにしておく訳にもいかん。…熔火の騎士を準一級ヴィランとして指名手配をかける。今後は、他府県の警察本部及びプロヒーロー達と密に連携しつつ、厳戒態勢を敷くことになる。気を緩めぬように。以上だ。」

 

 

この日、この時以降、熔火の騎士は正式に“正義の敵”となった。

 

 

 

 

【静岡県某市・とある廃ビル屋上】

 

 

「あそこか…。」

 

 

ネオン外から離れた人気も無い路地裏の廃ビルの屋上。そこに少女の姿はあった。

 

 

銀色に少しの瑠璃色を混ぜたような髪を風に靡かせながら、その美しい翠の瞳は『○○興行』と錆びた看板を掲げる雑居ビルへ向けられている。

 

 

「イズク君のメモだと……、中にいるのは犯罪歴のある日陰者が5人、か。相変わらず良く調べてるなぁ。」

 

 

片手に持ったスマホの画面をスクロールしながら、出久が書き残したメモの情報量に少女『ホタル』は感心をする。

 

同時に、わざわざスマホを介してしか取れないコミュニケーションに面倒臭さも感じてしまう。

 

 

「まぁ、仕方ないか。“どっちか”が起きてると、“どっちか”は寝ちゃうし。……さっさと終わらせよう。」

 

 

ふぅ、と一息ついた彼女は息を整えて夜空を見る。

 

夢の中で見た仮初の空でも、自分の現実で見た灰色の死の空でもない。

 

出久の世界の現実の夜空。そして今は、ホタルにとっても現実の夜空。

 

 

「よし。」

 

 

拳を握りしめると、身体中を巡る血が沸騰するような感覚に支配される。

 

彼女の中で眠っている『出久』の意思が呼び覚まされ、『ホタル』と交わり、溶ける。

 

 

「「行こうか。」」

 

 

少年と少女の声が重なると同時に、全身から噴き出した炎がホタルの身を包んだ。

 

冷たい夜風が炎を拭い去った時、そこには少女も少年も最早いない。

 

 

「サム…イン・ポジション。」

 

 

地面に片膝をついた白銀の鉄騎の姿がそこにあった。

 




少しややこしくて申し訳ないですがご容赦を。
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