「作戦名はアトラ・ハシースの箱舟占領戦。 おそらくこれが最後の戦いになるでしょう」
「さ、最後……」
「成功したらサンクトゥムは作られないわけだし、失敗したらキヴォトスは終わる……」
「そうですね。 いずれにしても最後の作戦になります」
「成功させればいいだけの話ですよね!? 不安を煽るような事を言わないでくださいカヨコさん!」
「それに専門家が集まって検証したんでしょ? これ以上ない、完璧な作戦のはずよ」
村人が集まる中、マインクラフターは最終決戦仕様にと戦艦の武装化を急いだ。
艦橋周辺と船首を中心に黒曜石で覆い堅牢にし、窓硝子らしき場所には粘着ピストン回路で丸石シャッターが降りるようにして、戦闘時の簡易的な対閃光衝撃防御とする。
武装化も急ぐ。 信頼性のある既存技術によるTNTキャノンに、爆風で矢を空に撒き散らす対空散弾砲。 ディスペンサーからのファイヤーチャージフルオートをする為のクロック回路。
「……では作戦の説明に入ります。 私たちの目標はキヴォトス上空にあるアトラ・ハシースの箱舟を破壊すること。 多次元バリアが箱舟を守っていますが、こちらも同様の状態となることで通過が可能となります。 その計算はヒマリさんと……サポートAIがしてくれました」
キヴォトスで学んだ銃火器技術も駆使。 迫撃砲や無反動砲を括り付ける粗末な物から、対物狙撃銃を副砲代わりに設置。 頼りないが火力は少しでも高い方が良い。
あとは我々なりに解釈研究して再現した、巡航ミサイルを積んでいく。 大きくて不便だが火力はあると信じる。
「計算に失敗したら?」
「そうですね、万が一、計算に失敗した状態でバリアが展開されている空間に進入した場合、運が悪ければ原子単位でバラバラに、運が良い場合でも、船から弾き出されて地上7万5千mの高さから墜落する事になります」
「そ、その高さからの自由落下……流石にヘイローが壊れてしまうのでは……」
「いや、その前に肉体が耐えきれないと思うよ。 高度7万5千mもあればマイナス60度は優に超える。 呼吸をしたら肺が凍るだろうから。 体液も一瞬で気化するだろうし、どのみち、その環境下じゃ2分足らずでヘイローは壊れる」
「あ、ありがとうございます、カヨコさん。 と〜っても、参考に……なります」
「マインクラフターも無事じゃ済まないんじゃないかな? ユメ先生、どう?」
ユメが手帳を渡してきた。
高高度……普段は及ばない場所の経験はと。
クラフターは答える。 余りないが平気だと。
多く試した事はないが、エリトラ飛行でひたすら昇っても息切れや体力の減少は経験していない。 花火とエリトラ耐久値の無駄遣いなので暫くしてやめたが。 流石に宇宙まで行ったら死ぬかも知れないとは思う。
「って、ことだけど……」
「建築魔の体はどうなってるんですか?」
「ヘイローが無いだけじゃなくて、人の形をした別の生物なのかも知れない……」
ヒナのペットの横乳と、柴大将の建物を爆破した一味の片翼角蝙蝠が変な視線を向けてくる。
どうも村人には高高度は毒らしい。 我々としてもそこまで昇るメリットが今まで無かったから、その特性を活かす何かを思いつかない。 残念だ。 ハッピーガストを使役したとしても、荒らしへの拷問に使うには非合理的だ。 コストがかかり損をする。
「……続けます。 無事進入できたら、主要施設のハッキングを行い、これ以上作動しないよう徹底的に破壊します。 勿論、箱舟内にいる敵から抵抗を受けるでしょう。 攻撃を防ぎつつ、箱舟の各エリアを少しずつ占拠。 最終的に箱舟の制御権を奪う……それがこの作戦の最終目標です」
「制御権を掌握したら、箱舟自体を自爆もしくは、地上に墜落させることが可能になるでしょう」
「ご説明ありがとうございます。 目標は至極シンプルですね。 その時こそ建築魔に暴れて貰いましょう」
ユメに手帳を渡された。
荒らし拠点の破壊を頼みたいと。 気持ちは分かる。 だが何事にも順序が必要だ。 素晴らしい造形の建築物であれば、出来るだけ形を残しておくのがクラフターである。
「駄目です。 破壊も得意でしょう?」
拒絶のハァン。
横乳ペットの癖に生意気だ。
「万が一の場合に備えて、地上に戻る方法を提供して貰いましょう。 その為の力が彼等にはあった筈です」
「空を飛べるマントとか?」
「地上に脱出するだけであれば、もっと簡単な方法があったはずです。 ユメ先生、お伝えください」
またユメに尋ねられる。
地上に生きて降りる方法を問われた。 いくつかあるが村人相手に貴重なエリトラは渡したくない。 コントロールもコツがいる。
昔のやり方であれば、水バケツだ。 地上スレスレでぶち撒くか、最初から滝みたいに垂れ流して水と共にゆっくり落ちるか。
「いや、水バケツを使うって何!? あと高い場所から水に叩きつけられたら普通に死ぬし、というか外に出た瞬間危ないし、流水とはいえ凍る可能性とか、私たちが凍傷起こす危険性とか……ああ、建築魔にはそういう概念がないんだね……」
蝙蝠村人にゲンナリした。
なんなのださっきから。 聞いておいて失礼な反応ばかりじゃないかね君達。 マルチの躾はどうなっているんだ躾は。
であればとエンダーパールを紹介して、やっとそれらしく纏まった。
「ああ、それは投擲した先に瞬間移動できる不思議な玉だね。 頼るのは怖いけど、緊急事態の際は使わせて貰うよ。 溺れる者は藁をも掴むって」
「人数分の確保や安全性の問題が残りますね。 こちらでも脱出方法を探しておきます」
村人分のストックが無い。
我々は罪悪、エリトラか水バケツか死に甘んじるとしても村人はそうはいかないハードコアモード。 ままならない。 不死のトーテムだなんてレアアイテムもないし。
……ベッドを用意して、こいつらを寝かせようか。 リスポーンする可能性に賭けるのも悪くない。 実験も兼ねる。
「……言いたかないけど、これって実現できる作戦なんだよね?」
「はい。 何度もシミュレートした結果、成功確率は……なんと3%もあります」
「さん、パーセント……?」
「奇跡みたいな確率を味方にするしかありませんね。 いえ、この場には不可思議なマインクラフターがいるのでした。 賭けなら彼等となりますかね」
「それでもやる価値は十分にあると思うよ」
「先生?」
「うん、そうだよ! クラフターさんもいる、この作戦はきっと上手くいくよ!」
「ユメ先生まで……そうですね」
「はい、先生方のおっしゃる通りです。 キヴォトスに到来した未曾有の事態、私たちは不可解な問題に立ち向かい、そうして、ここまで至ったのです。 最初の兆候だった、百合園セイアの予言。 その後の6つの超高濃度エネルギー反応の探知。 当初は目に見えない不可解な現象でしかありませんでした。 続くように現れる、生徒の存在を歪める色彩も。 解決できた現象は、マインクラフターの創造と可能性……『マインクラフト』を含め、未だありません。 それでも私たちは進むしかないのです」
「そうだね。 みんなで力を合わせて頑張ろう」
「そうですね。 これ以外に方法がないのですから、最初から選択肢は存在していません」
「ええ、そうね……」
「はい。 シロコ先輩を連れ戻す為にも」
「はぁ……やるしかないよね」
「そうですね。 他に道はありません」
村人が勝手に満足して各々頷く。
流れで我々も頷いておく。 協調性大事。 集団圧力ともいう。 村人如きに屈したつもりはないが。
「それでは発進準備に入ります。 各々準備を」
「私が総責任者になるよ」
「えっ、先生が!?」
「シッテムの箱があるから、きっとなんとかなるよ」
「私も先生のこと、最後まで支えるよ。 シャーレの先輩として、大切な人として……揚陸する時、私が盾を構えて先陣を切る。 みんなのこと、守ってみせる」
「私もサポートします」
「リンちゃんも?」
「ここまで来たのですから最後までお供します。 1番危険な部分を先生方だけに負担させるのは忍びないので」
「はぁ〜……この雰囲気で舟から降りれるワケないじゃん。 いいよ。 私たちも残る」
「ありがとうみんな。 頼りにしてる」
「エンジニア部のコスプレ好きなヒビキがいたら、コスチュームを作りそうな展開ね」
「あっ! それ楽しそうだね! クラフターさんに頼んでみるね!」
「えっ? 大丈夫なのですか?」
またしてもユメに頼まれ事。
皆の服を作れるかという。 なぜ急に。 とはいえ作るのは好きな我々だ。 ここは白服に準じて白染色した革服を提供する。
「これが試作した服だって」
「いや、味気なさすぎでしょ」
「うーん、裁縫は得意じゃないけど、手の空いている人で装飾とか微調整を頑張ってみるよ!」
「……まぁ戦闘員枠は到着するまで、手が空いてしまいますからね。 先生、なにかご意見はありますか?」
「はいはーい! やっぱ制帽だよね! 定番だけどスカーフも外せない! あと艦長はロングコート!」
「せ、先生が子供のようにはしゃいでます。 なんだか一気に不安になってきましたね……」
そうだ。 物作りは楽しい。
みんなで盛りあがろう。 祭りなんだし。
「オペレーター、航空管制担当、ハッキング担当、調理担当に治療担当……発進までに占領戦に参加してくれる戦闘員ももっと集めないと……」
「やる事が山積みだよ〜」
決戦仕様の装備とアイテムも掻き集めねば。
上位金リンゴ、ポーション、フルエンチャントの防具に剣と弓矢。 銃火器。
『先生……シッテムの箱でウトナピシュテムを起動します。 ですが、所有者である先生に影響を及ぼします……』
「大丈夫だよアロナ。 よろしくね」
全ロスト覚悟の相手だ。 面構えが違う。
……何故そこまでするのですか?
この破滅を逃れる事などできません。
これは、古より定まっていた事象。
それが私の結論です。
そう、砂狼シロコ……彼女がこの世界に存在した瞬間から、決定された結末。
時間は連続する事なく、決まりきった因果を繰り返すのみ。 我々……全ての存在は、そうした決定論の下にある布石でしかないのです。
これを防ぎたいというのであれば、あなたは過去に戻って彼女を殺すべきでした……クックックッ。
あなたは、絶対に己を理解できないだろうと豪語しておりましたね……ええ。 私は今もなお、あなた方という存在を理解する事などできません。
何故、運命を変えられると考えるのですか?
何故、破滅の未来に突き進むのですか?
故に今1度、お聞きします。
……何故、と。
"大人として子供を守り、先生として生徒を守る為。 大人の責任、先生の義務を果たす為だよ"
それがどのような方法であろうと……。
いかなる代償を支払う事になろうと?
"そう。 どんな方法だったとしても"
"いかなる代償を支払う事になったとしても"
……生徒をたすけに行くのですね、先生。
"そうだよ"
「メインパワーの起動を確認しました!」
「メインコントロールシステム稼働完了!」
「各エリアの通信システムクリア!」
「演算システムチェック、オールクリア!」
「エンジンシステムクリア」
「多次元解釈システムのチェッククリア!」
「管制システムチェック、オールクリア!」
「発進準備完了! 命令待機中です!」
始まる。 血が滾り肉が踊る荒らし討伐が。
「先生、発進の号令をお願いします!」
「ウトナピシュティムの本船、発進!!」
「これより本船は離陸します!」
「高度上昇中! 現在780m!」
「目標高度75,000m!」
「箱舟までの航路計算、設定完了」
凄い! 凄いぞ! コイツは空を飛んでいる!
既に我々の想像(創造)を超越している!!
「多次元解釈の計算完了。 システム起動!」
「システムの正常動作を確認!」
「本船は目標と同列体となりました!」
「今、私たちは『確率的な存在』です!」
「…………ッ!!!」
喜びを分かち合うように、鍵となった先生を見やると……苦しそうだ。 顔色が悪く震えている。
「つまり確率的に存在可能な宇宙に、私たちが存在している……?」
「並行世界が存在するのでしたら」
「次元パラドックスが発生しないといいですが」
「大丈夫。 衛星の1つとしか認知されない筈よ」
ここにきて状態異常か。 嬉しすぎて足でも挫いたか。 取り敢えず贅沢にも金のリンゴを与えておく。 一時的にも体力をつけされた。 回復のポーションと後で使えとばかりに牛乳バケツも与える。 いいからドーピングだ先生。
「あ、ありがとう……いただくね」
「先生、大丈夫?」
「乗り物酔いが、ね……」
「ええっ!? 取り敢えずクラフターさんのお薬を飲もう! 直ぐに効果が出るから!」
「ユメ……聞いて欲しい」
「……うん」
「もし私に何かあったら、シャーレを継いで欲しい。 生徒を宜しくお願い……する、ね……」
「ッ、弱気にならないで。 きっと大丈夫。 みんなが望むハッピーエンドになるから。 だから、だから……大丈夫」
ユメが陰で先生を抱擁している。
観察する。 増えるならそうだろうと思った。