「ワノ国」――
「四皇」〝百獣のカイドウ〟が率いる「百獣海賊団」が本拠地にしているその国では至る所に湖が点在しているが、その中のある湖のほとりに2人の男が立っていた。
「ウォロロロロ!!」
そのうちの1人はカイドウだ。彼は湖を眺めながら高笑いを上げていた。
「ウォロロロ!!活きのいい魚じゃねェか!!なァ?スサノオ!!」
満面の笑みを浮かべるカイドウは隣に立つ男に顔を向けてそう言い放つ。そんなカイドウの言葉を受けてスサノオ――オレはニヤリとする。
「リュドドド!!そうだろ!!親父ならこいつらを気に入ってくれると思ってたぜ!!」
父の予想通りの反応を拝めた事で満ち足りた気持ちになったオレは湖に視線を移し、その中にいる〝それら〟を見て笑みを深める。
そんなオレ達に凝視される湖の中の〝それら〟とは――
「「「フゴゴ!!フゴゴ!!」」」
湖を縦横無尽に泳ぐ「闘魚」の群れだった。
そう、オレの注文を承ったドフラミンゴの手引きにより「闘魚」を「ワノ国」へ移送してもらったのだ。その「闘魚」をカイドウが初めて目にしたが、その姿形と獰猛な力をすっかり気に入り笑みを抑えられなくなった。
「ウォロロロ!!随分と賑やかだな!!」
湖を泳ぎ回る闘魚の群れの獰猛な勢いに満足感を得たカイドウは再びオレの方に顔を向ける。
「よくやってくれた!!スサノオ!!」
「闘魚」を調達するように手配したオレをカイドウが率直に褒め立てる。父から直で賞賛を受けたオレもその事実に充実感を覚えた。
「リュドドド!!なんの!!親父が喜んでくれて何よりだぜ!!」
オレがそう返して朗らかに笑う。そうしてオレ達が笑い合うが、ふとしてカイドウが言う。
「お前がスカウトした「トンタッタ族」の奴らだが」
オレが連れてきた小人達の件をあげるカイドウがその途端にニヤリとする。
「今「ナター」で森の栽培をやってもらっているが……確かにありゃ腕は悪くねェ!!」
「しかもよ!!あいつらは小せェのに強いときた!!」
「本当に良い人材を連れてきてくれたぜ!!スサノオゥ!!」
小人達のスペックに再び満足感を得られたカイドウはそのような者達をスカウトした張本人であるオレにやはり賞賛を送る。父から重ねて褒め立てられたオレはその事実につい口元を緩ませずにはいられなかった。
照れ隠しに表情をなんとか引き締めてみせたオレは次の話題に移ろうとする。
「親父、ドフラミンゴの事だが」
オレが真剣な表情でそう言うとご機嫌だったカイドウもその途端に同じく真剣な顔つきになる。
「……ああ、情報は聞いている」
オレとカイドウにも異質だと思われる海賊ドフラミンゴ。
そんな男が治める国をオレが訪れ、そこで滞在した事で判明した情報によりドフラミンゴに対する認識を少し改める事になったのだから。
「やはり、あの小僧には何かあるな」
「ああ」
カイドウがそう言うのにオレは重々しく頷く。
何せ、ドフラミンゴが実は一国の王家の末裔だった……までは別にどうでもいい。ただ、その一族が国を去った時期が引っかかる。それがちょうどあの〝空白の100年〟あたりになっているからだ。
その事実からドフラミンゴの血筋に深い意味がある気がして仕方がないのだ。
「だが、手にできた情報はそれだけなんだ」
「調査を続けているが、更なる情報を手にするのは難しいだろう」
「……」
といえ、今把握している情報が足りていない事からこれ以上の事実を掴められないという事にオレは苦慮せざるを得なくなった。
だが、一方でそんなオレが口にした言葉を耳にしたカイドウは険しい表情を浮かべていた。それに気付いたオレは眉をひそめる。
「親父?」
父の態度に疑問を抱いたオレに凝視されるのを受けてカイドウが重々しくも口を開く。
「……あの小僧の正体に関して心当たりがあるはある」
「!!」
カイドウが真剣な表情でそう言い放ったのにオレは驚愕する。
「それは本当か!?」
「いや、まだ確証はねェんだ」
衝撃のあまり勢いよく身を乗り出したオレに対してカイドウはさっきとは態度を少し一変させてそう返す。だが、その頭にはある事が浮かぶ。
――「世界政府」の
「(滅多な事では動かない筈のあいつらが動いているという事は、あの小僧は……)」
その事実から考えられる可能性にカイドウは目を鋭くする。が、まだ確定した訳ではない故にはぐらかす事にした。
「れっきとした確証を得たらすぐ教える」
「……分かった」
カイドウが堂々とそう言う。その毅然とした態度を受けてオレはおとなしく引く。
そうしてオレ達の間に張り詰めた空気が漂うようになる。
――だが、そこに
「スサノオさん〜〜!」
「だー!」
「「!!」」
2つの朗らかな声がその場に響いた。その声にオレとカイドウの厳しい顔がその途端に明るくなる。
「小紫、アマノム」
そうオレの妻子、小紫とアマノムがオレ達の元にやってきたのだ。その登場にオレが顔を綻ばせるが。
「お〜〜!!アマノム!!」
カイドウの方はその風貌から考えられない程にだらしなく破顔し、あっという間に小紫が抱っこするアマノムの元に駆け寄っていった。
……カイドウは気性が荒く凶暴な海賊である男だ。だが、そんな男でも人の親だ。
どのような者を前にしても容赦せず大暴れするカイドウも我が子達に対しては印象を壊す程の親バカぶりを発揮した。そんなカイドウが孫を前にすると更なる溺愛ぶりをみせるのも道理だろう。
……まァ、それでもカイドウの恐ろしい風貌を考えればやはり違和感がありすぎるのはそうだが。
とにかくものすごい勢いで迫ってきたカイドウの姿にアマノムはしかし恐怖を覚えずに朗らかな笑みを向ける。
「ぎゃはは」
「お〜!笑ってくれるのか!やはりお前はいい子でちゅね〜!」
普通子供が見れば泣いてしまう程に恐ろしい風貌をしている自身にそれでも笑顔を向けてくれている孫にカイドウは熱いものが込み上げる。
すっかりメロメロになったカイドウがアマノムの方に顔を近付け、そしてあまりにも似合わしくない猫なで声でそう言い放った。そんなカイドウの姿勢にアマノムは恐れるどころかますます明るくなった。
そんな孫の姿にカイドウはますます喜んだ。そんな状況にオレと小紫は苦笑を禁じ得なかった。
「リュドドド、まったく親父はよォ」
「ふふっ……ですが、アマノムの事を可愛がってくれているんです。悪くないと思いますよ」
「リュドドド!それはそうだな!」
といえ、祖父が孫を率直に可愛がるという微笑ましい光景につれてオレ達も微笑まずにはいられなかった。
そうしてその場が和気藹々とするようになっていく。
そんなところで小紫がふと気付く。
「――そうそう、スサノオさん。報告があります」
「ん?どうした」
その場にやってきた目的を思い出した小紫がオレに向けてその事を知らせる。その内容にオレが少し気を引き締めて問いかけると小紫が真剣な表情を浮かべて言う。
「
そう言う小紫がその途端にその口元が緩んだ。
「さっき完治できたとのご連絡がありました」
「……!!」
小紫が嬉しそうに言い放ったその事にオレは目を見開く。
ワノ国「スケープ」――
その地は多数の工場と研究施設が建ち並んでいるが、その中にある建物が存在していた。その建物には緑地が併設されているが、そこでは
「うおおおお!!」
1人の女性が太陽の光を浴びながら両拳を突き上げて雄叫びを上げていた。
それは一見気が触れたと思える光景だが、その彼女本人は心から叫ばずにはいられなかった。何せ、長きにわたりその身を苛んできた苦悩からようやく解放されたのだから。それ故に歓喜を体で表したのだ。
そんな女性の姿にそばに立っているもう一人の女性――ステラが微笑みを浮かべながらも涙を流していた。
「良かったね……!」
ステラはその女性――親友の今の境遇を心から喜んだ。嬉しさのあまりに泣いたステラが感情のままにその名を呼ぶ。
「ジニー!!」
「ああ!!全てあんたらのおかげだ!!」
ステラの呼びかけに応えてジニーは満面の笑みを向ける。その笑顔、というか肌は全く滑らかだった。
実はジニーは自然光を浴びた皮膚が青い石のように固まり、やがて全身の皮膚が青く石化していく病〝青玉鱗〟にかかっていた。その病によってかつてのジニーはもはや死を待つしかない状態だった。
だが、手の施しようがない状況下でジニーは何の因果かスサノオと「暴獣海賊団」と遭遇した。
重体ながらも赤ん坊を抱きしめるジニーを放置する事ができなかったスサノオの手引きによってジニーは「ワノ国」で治療を受ける事ができたのだ。
といえ、未知の病である〝青玉鱗〟には〝珀鉛病〟の治療薬の開発に成功した実績を持つクイーンも苦戦せざるを得なかった。そのためにジニーは窮屈な療養生活を送らなければならない事になってしまった。
だが、さすがクイーンがかつてある天才的な研究チームに所属できる程の科学者であるだけはあって時間が随分とかかってしまったが、ようやくジニーの〝青玉鱗〟を完治させる事ができたのだ。
それによってその肌から青い石が一欠片も消えたジニーが久しぶりに太陽の光を直で身に受けても平然としたのだ。その事実にジニーは歓喜し、ステラも祝福した。
そんな風に和気藹々とするその場だが、そこに声が響く。
「おかーさ〜ん!」
「!ボニー!」
その声にジニーが顔を明るくしてその方向に視線を向ける。そこにはステラの息子ノヴァ、そして彼と手を繋ぐピンク髪の幼い女の子が駆け寄ってきた。
その女の子はボニー。ジニーの娘だ。そうジニーが大切にしている赤ん坊は元気に成長したのだ。
無事に2歳になったボニーがノヴァの手を離しながら母ジニーの元に駆け寄り、明るい顔で母を仰ぎ見る。そんな娘の姿にジニーは優しく微笑み、彼女と目線を合わせるためにしゃがむ。すると
「……おかーさんが」
「ん?」
ボニーが何かを言おうとする。それにジニーが耳を傾けてみるとボニーは感極まった表情をしてて目を潤ませていた。その思わぬ姿にジニーが目を見開くところでボニーが声を震わせながら言い出す。
「おかーさんがげんきになったぁ……!」
ボニーが大泣きしながらそう言い放った。
ボニーはジニーの娘だけはあって活発な女の子だ。その明るさは彼女と関わった者達を自然に笑顔にする程だった。だが、実はその胸のうちは憂鬱な思いで満たされていた――母の事で。
ボニーは母の事が大好きだ。だからこそ幼いボニーはほぼ母から離れず寄り添ってきた。その時間は幸せだった。だが、母とずっといるうちにボニーは気付いてしまったのだ。母の容体が良くないという事実に。
何せ、ボニーが物心ついてからも母は部屋から全く出ず長らく療養していたのだから。
その原因である母の青い石のように固まった皮膚に対してボニーは純粋にきれいだと思い、うらやましいとも思っていた。
だが、その他でもならない青い石のせいで母の命が脅かされてる上に太陽と月などの光を避けるために窓がない部屋にいなければならないという事実を知ったボニーは大きなショックを受けた。
――おかーさんがおひさまにあえず、おへやでずっとずーっと?
――そんなの
――ひどいよ!!
母が大好きなボニーはその事を嘆き、母のために何かをしたかった。それでもボニーはまだ幼い故にその方法が分からなかった。せめてとして母のそばにいながら彼女が元気になりますようにと心から祈り続けた。
するとその祈りが通じたのか近頃に母の体から青い石が少しずつ消えていき、そして今ついに母が太陽の光を浴びても平然とするまでと化した。
太陽の光を直で身に受けても平気な母の姿にボニーは胸がいっぱいになったのだ。そんな娘の姿にジニーは驚愕するが、すぐ優しい微笑みを浮かべ
「……はは、お前は優しいな」
どうしてボニーが大泣きしたのかその理由を察したジニーは彼女に優しくそう言い、そして抱きしめた。未だに大泣きするボニーをジニーはその背を優しくさする。
しばらくその場には和やかな雰囲気に包まれていた。
やがてボニーが落ち着くようになったところでジニーは彼女と真っ向から向き合う。そしてニヤリとする。
「……へへっ」
「?」
その笑みに首を傾げるボニーの脇をジニーが抱え、そのまま天高く掲げた。
「うわぁ!?」
突然の事で驚くボニーにジニーは高笑いする。
「はは!ほぅら!見ての通りウチは元気だぞ〜〜!!」
ジニーはボニーに向けて朗らかな笑みでそう言い放った。そして言う。
「だから大丈夫だぞ!!ボニー!!」
そう言い切ったジニーがその途端にボニーを掲げながら緑地を走り回る。そんな状況にボニーは呆然とするが、母が笑いながら言い放った言葉を理解した瞬間にすぐ満面の笑みを浮かべる。
「――うん!!」
「ははっ!」
ボニーが朗らかな笑みで頷くのにジニーも笑みを返す。そうして2人は笑いながら緑地を元気に走り回った。
そんな母娘の姿にそばで事態を見守っていたステラとノヴァは涙を流しながらも微笑んでいた。
「良かった……!ジニー、ボニーちゃん……!」
「うん……!」
実はジニーとステラの2人が親友になったのをきっかけにジニーとボニーの母娘とギルド家は家族同然の間柄になった。だからこそステラとノヴァは目の前の光景に胸がいっぱいになったのだ。
そんな風に和気藹々とする光景がその場に展開されているが
「ねぇねぇ!」
「ん、どうした?ボニー」
その時にボニーが大きな声を出す。それを受けてジニーはボニーを降ろし、そしてしゃがんで耳を傾ける。そんな母に向けてボニーは目を輝かせる。
「これで」
「みんなと、おとーさんと会えるよね!?」
「!!」
ボニーが声を弾ませてそう言い放つ。その内容にジニーもハッとする。そう、ジニーには心から会いたい者達がいる。
「ワノ国」で療養生活を送りながらもジニーはその者達に思いを馳せ続けた。するとそんなジニーの姿を目にしたギルド家の動きによって条件付きだが〝電伝虫〟を使わせてもらえるようになった。
ジニーがその〝電伝虫〟を通してその者達と久しぶりに声を交わした時はもちろん歓喜の渦に包まれた。
本当は直接の再会が望ましかったが、しかしジニーは安静にしていなければならない状態になっている上に療養場所の実情もあって当面の間会わない事に決めた。
それでも〝電伝虫〟を通す形でだが、会えなかった時間を埋めるようにジニーとその者達が和やかに語り合った。
そんな中でボニーの事を紹介した時はもちろんすごく驚かれた。一悶着あったが、最終的にボニーの存在を受け入れてくれた。
ボニーは父だという者と母の仲間という者達と〝電伝虫〟を通してだが楽しく語り合ったのもあって彼らに対する思慕を抱くようになり、直で会う時を待ち望んだ。
一応ボニーをその者達と会わせる案も出てきたが、肝心のボニーは会いに行きたい気持ちを我慢してまで母から離れない事もあってなしになっている。
そんな風にジニーはその者達との語り合いに励まされながら療養生活を送り続けたが、そんな彼女が今ようやく完治できた。
これであの者達の元に行けるのではないか。そう考えたボニーが期待に目を輝かせる。そんな娘の姿、言葉にジニーは心が揺さぶられた。そして頭にその声が響く。
――ジニー!
愛しきあの人の笑顔が浮かぶ。
「……くまちー」
そう呟くジニーは物思いに耽る。だが、すぐ朗らかな笑みを浮かべる。
「そうだな!!会いに行こう!!お父さん達に!!」
ジニーが堂々とそう宣しニッとするのを受けてボニーが顔を明るくする。
「うん!!」
勢いよく頷くボニーにジニーは笑う。
そしてジニーが顔をステラに向ける。その表情は変わらないが、どこか真剣さがにじみ出ていた。
「……ここからが正念場だよな?」
「……ええ、話し合う必要があるからね」
ジニーが重々しくそう言うとステラが真剣な表情でそう返す。さっきとは一変してその場はただならぬ雰囲気が漂うようになる。
だが、それも仕方がないかもしれない。
実はジニーは下手すれば「百獣海賊団」――否、海賊とは対立するであろう立場にいるのだ。
何せ、ジニーは民衆のために戦う組織――「革命軍」のメンバーなのだから。
☆苦難を乗り越えたジニー!!
だが、一難去ってまた一難…!!