その夏は忙しかった。色々なところを駆け回った。
私が見たものは何も珍しくない。周知の醜悪。
知った上で私はヒーローとして人を救う選択をしてきたはずだ。
あの日から自分に言い聞かせてる。あの日から……。
「それで悟はどうするの」
「悪い。聞いてなかった。なんだっけ」
「はぁ、夏休みだよ。夏休み」
「あぁ。そうか……夏休みか」
例の任務から一年が経とうとしていた。
世間一般にあの任務は存在していなかったことにされ、事件もただのヴィラン騒ぎとして処理された。
「傑は?どうすんの」
「私は祖母の家に行くことが決まっていてね。帰ってきたら連絡するよ」
「……お前」
「大丈夫さ。もう何年も前の話だ」
「そうか、なら良い」
「で、悟は?」
「うーん。まぁ適当に過ごすよ」
「悟。もう高校生活だって半分しかないんだよ」
「分かってるよ」
「……そう言えば、まだヒーロー名決めてないだってね。先生が言ってたよ」
「あー、じゃあヒーロー名でも考えるとしますかね」
「夏休み丸々使う気かい?まぁある意味悟らしいけど」
あの日から悟は変わった。
どうやったか分からないが致命傷を治し、例のヴィランをも倒してみせた。
彼は文字通りの最強になってしまった。
だがどういうわけかその力を一切使おうとはしていない。
彼なりの考えがあるのか、それとも私の思い違いか。
「どうした傑?何か考えごとか」
「大丈夫。ただの夏バテだよ」
「そうめん食い過ぎた?」
彼と別行動が増えたわけでも、一緒にいる時間が減ったわけでもない。
ただ私は─────────────────
日本の村、それも歴史ある村であればあるほど根付いた文化を取り除くのは難しい。
勘違いしていた。少し経てばあの村も変わるだろうと。いや、違う。目を背けていた。目を瞑っていた。
始めて事実を知った時の私は無力だったから。
それは今でも変わらない。結局そうだ。私もだ。何も変わっていない。この村と同じだ。
あの時と、同じだ。
結局、そうだ。何も変えられない。何も守れていない。それでもヒーローに?私は。
私は────────────────────
| ■■■■年■月■日 ■県旧■村 ■時■分頃火災が発生。現場に消防士及び、警察が出動したところ多数の遺体と生命体を発見。その後ヒーロー要請を行こない、付近のヒーローが出動。現場と遺体の損傷を確認するに個性による犯行と断定。 現場に残っていた生命体から犯人は夏油傑と推定。夏油傑を 追記 夏油傑と深い関係を持っていた五条悟に尋問を開始。情報が出次第報告。 |
|---|
「……………………」
「お前は本当に何も知らないんだな」
「知ってるわけないでしょ」
「そうか……」
英雄高校の進路指導室。軽くここの常連と成りつつある五条悟とその担任夜蛾正道による何時もとは違う対談があった。
「悟。今回の件はある程度の報道規制を敷いているとは言え目撃者がいた。それも複数名だ」
「で?」
「……恐らく傑と友好関係を持っていた人物としてマスコミやらが押し寄せてくるかもしれん」
「そう……」
「こちらでもできる限りのサポートはする。……悟」
「…………」
「いつでも相談に来い」
傑は村を焼いた。人を殺した。身内を殺した。何がそうさせるのか俺には分からなかった。
思い当たる節がないとは言えない。
天内理子の死が一番大きいだろう。けど、それでも分からない。
あいつはヒーローに憧れて雄英に来た。弱者生存なんて綺麗事を並べて、人一倍努力して雄英に来た。
俺たちは二人で最強だった。
今はどうだ?
「あっ五条君!いたいた!」
「良かったここに居たんだ」
「探したよ」
「お前ら……何の用?」
「先生が呼んでよ」
「そうか……」
「悟君」
「あ?」
「余り一人で抱え込みすぎないでね」
「……」
「確かに俺達は君ほど強くない。今言うべきじゃないのも分かってる。けど、それでも」
「落ち込んでいる友達を放っておくことなんてできない」
「………………」
「さっ、早く先生のところに行こう」
「……へいへい」
何故雄英に来た?
ヒーローに憧れたから?
違う。
いい高校に行きたかったから?
違う。
自分が最強であることを証明したかったから?
違う。
俺は二人で最強だった。
あいつはどうだ─────────────
「久し振りだね。悟」
「答えろ傑。お前はどこに行くつもりだ」
夕刻。人々の喧騒と往来の中で問答をする男が二人。片方は雄英高校の制服に身を包み。片方は灰色のスウェットを着ていた。
「オールマイトはまさに平和の象徴さ。彼の輝きは多くの人々を照らしている。最高のヒーローさ」
「……何が言いたい」
「私はね、悟。彼でさえ照らすことのできない影に呑まれた人達を救い出したいんだ」
「じゃあ何で殺した」
「あの村は何一つとして変わらなかった。変わっていなかった。直接、この手で変えるしかなかったんだ」
「理想のためなら親も手にかけるのか」
「あの人達だけ特別というわけにはいかないからね」
「ヒーローになって変えていけばいいだろ!」
「それでは遅すぎる。今この瞬間にも多くの人々が苦しんでいるというのに悠長に待ってられないよ」
「できるわけねぇだろ!」
「傲慢だな。君にならできるだろ、悟。それとも君は自分にはできることを他人にはできないと押しつけるのかい?」
「平和の象徴に俺がなれるとでも思ってんのか!?」
「不可能じゃない。それにもう決めた。あとは自分にできることを精一杯やるだけさ」
そういうとスウェットの男は踵を返した。制服の男は苦悶の表情を浮かべていたが、まもなくして手印を結ぶ。何かを感じ取ったのかスウェットの男は再び向き直る。
「殺すなら殺せ。それには意味がある」
「……ッ!」
固まりきらなかった決意が綻び、手が下がる。彼が本当のヒーローならここで逃すべきではないだろう。他のヒーローに応援を仰ぎ、追跡するという手立てもあるだろう。
しかし、スウェットの男は再び群衆の中へと消えた。
「先生。俺って強いよね?」
「あぁ、生意気にもな」
進路指導室に生徒と教師が向かい合って座っている。
「でも俺だけ強くても駄目らしいよ」
「ヒーロー目指してるくせして。俺が救えるのは、他人に救われる準備があるやつだけだ。俺一人じゃ誰も救えない」
最もNo.1に近い男からの吐露。それは未だ彼が子供である証明と共に子供が背負うべきでないものまで背負っている証明でもあった。
「悟……。ありふれた言葉なのは理解している。今のお前に言うべきでないのも理解してる。だが……」
「お前には後輩が、何より、学友がいる。一人で抱え込みすぎるな」
そう言い残すと夜蛾正道は部屋を出た。
俺たちは二人で最強だと思っていた。
傑はどうだった?
どう思っていた?
分からない。全部が分からない。
いや、一つだけなら分かる。
俺は一人じゃ誰も救えない。俺以外の誰かに救われる人間しか救えない。
なら。
その誰かを助ければいい。その誰かが人を救えるように。
強く、聡い仲間を育ててみせる。
最高じゃなくていい。俺が目指すのは最強だ。
この物語は俺が最強のヒーローになるまでの物語だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は一つの節目ということでちょっとした話を。
実はこの小説、元々ラストシーンを描きたくて見切り発車で書き始めました。
プロットを作ってないからこんなグダグダになってるんですね。
なので正直、ここまでの人に見てもらえるとは思っていませんでした。
ここからも続けていきますので読んでくださると幸いです。