蒼崎橙子と衛宮嗣郎の戦いは白熱していた。ルーンや人形、魔眼などを駆使して戦う橙子と剣弾で牽制しながらそれらを回避する嗣郎。
その戦いは魔道の道を歩もうとしている凛や桜、イリヤスフィール達には言葉が出ないほと見入っていた。
嗣郎の投影魔術の異常性を知っている3人でさえ嗣郎が展開した固有結界は知らなかった。
そして、ゼルレッチによって2人の戦闘の邪魔にならない上空に結界を張られている者達はその光景を見た。
なんと悲しい心情風景なんだろうと思う者やこれがアイツの未来の可能性だなんて認められないと怒る者など様々だ。
そして、子供達を見守る大人達はどうだろうか?
普段から良く手伝う子供で時折大人の様な雰囲気のある子供だと思っていた葵にとってこの戦闘は衝撃だった。
葵の家系は昔は優れた魔術師を排出する家柄だったが彼女の時には廃れ果てて結果的に遠坂へ嫁ぐ事で2人の優秀な魔術師を排出した。
しかし、彼女自体は魔術の訓練を受けてはいない。だから、死んだ時臣から凛へ残された魔術師になる為の訓練を改めて見て驚愕した。
桜が間桐で受けてきた魔術訓練と言う名の数々の陵辱を聞いて愕然として呆けていた自分何も出来ない自分を呪った。
そして、傷だらけでボロボロになりながらも目的の為に命を懸けて戦う嗣郎を見てようやくあの時の雁夜の気持ちが分かった気がした。
命を懸けて望みを叶えるにはこれだけの事をしなければならないのだとふと涙が溢れてきた。
あの時の雁夜の気持ちは一方的であったけど、彼の顔から見えた生気の無い蝕まれた身体を見て今になって彼の愛に気が付いた。
静かに泣く自分に幸いな事に戦闘音やその光景を見て集中する2人の子供達は気が付きもしない。
それで良い。それで良いんだ。葵は目に決心を固めてこの戦いを見守る。どうか嗣郎君の願いが叶います様に思いながら見守った。
「グッ……!? あの嗣郎ってガキィ……段々と動きが良くなりつつあるっ……!? 何がどうなっているんだっ!? チクショウめっ……!!」
ルーンや人形などの魔術触媒を使い魔術を行使して攻撃する度に嗣郎の動きが加速的に良くなっていた事に苛立ちが隠せない。
固有結界前は、まぁ魔法使いの薫陶を受けている癖に良くて2流程度の雑魚魔術師だった。
だから、遊んだし舐めプレイもしてボコボコにでもすれば格の違いを理解して降参すると思っていた。
ただ、固有結界を展開する前後からは戦いの素人感が抜けて行き、今では歴戦の戦士と戦っているとすら感じていた。
「お前、どうなっていやがる!?」
「フッ。そうだな……あえて言うのであれば、"この身は戦う毎に英霊エミヤに置き換われていく"かな……?」
「ふざけやがってっ……!!」
そして、歴戦の戦士さえ超えた嗣郎の猛攻を受けて初めて橙子は膝を付いた。
「お互いに酷い有様だな……!!」
「お前が言うかよっ……!? クソッタレめっ……!!」
本当にどうなっていると橙子は疑問に尽きなかった。まるで相手が昔戦った妹の様に魔法を駆使している様にさえ感じてイラついた。
「━━━━━━━━
嗣郎が弓を何処からか取り出す。この固有結界も置換魔術か何かの延長だろうと考察していた。
そんな彼がわざわさ剣弾を使用せずに弓を取り出して足元にあるグネグネした形の歪な剣を取ると構える。
「(大弓にグネグネした歪な短剣? 何考えてやがる!?)」
だけど、何かの詠唱をした以上警戒は必要と判断して簡易的に作った5重の防壁を即座に作りルーンで強化した。
そして、剣弾に注意しつつ人形にルーンを込めて迎撃体制を取る橙子だがそれを嘲笑うかの様に短剣はまるで矢の様に変形する。
「━━━━━━━━
放たれた改造宝具・破戒すべき全ての符Ⅱは強度よりも魔術キャンセルと言う特性を抽出して作った嗣郎オリジナルだ。
アレの本来の性能は数多のエミヤ達に苦い思いをさせた事は知っていた。だから、驚愕する橙子の顔も知っていた。
「っ!? ざっけんな! チクショウめ……!!」
防壁がキャンセルされた瞬間に放たれた物が何かを察して回避に専念した。
「━━━━━━━━
回避したにも関わらず放たれた魔術礼装に含む神秘が一気に破裂して漸くこれが、ここにある全てが宝具である事に気が付いた。
何故なら破裂した武器から出てきた神秘の量があまりにも現代の神秘に比べて多過ぎたからだ。そして、橙子は敵の魔術に気が付く。
「ぐっ……!? お前の投影、どうなってんだよー!?」
「ようやく気が付いたか……。案外遅かったな……」
グランドクラスの冠位持ちの魔術師にここまでバレずによくやったと自分を褒めてやりたい気分だった。
「ふざけるなっ……!! 投影魔術は世界の影響を受けて消滅する筈なのに消滅しない投影なんて気付くか!? 普通っ……!!」
「あはは……。それは確かに。だけど、お互いに良い感じにボロボロだから……これで最後にしよう」
片目を閉じて構えを解いた嗣郎にチャンスと思った橙子だったが案外これまで蓄積されたダメージは大きいらしく動けなかった。
「真理、究明。
継承理念、蓄積。
魔術技法、有界。
片目が閉じていた目が魔眼に変化した。その時に橙子は今まで魔眼が通じなかった訳を悟った。
「そこに至るは数多の世界。
千の夢、万の想を継承し、積み重なった我等の願望。
此処に辿るはあらゆる
此処に示すはあらゆる
此処に積もるはあらゆる
我等が夢幻の果ては、誰も泣かずに済む為に。
収斂こそ理想の証。
俺に力を貸してくれ、
夢限の剣製とは別物の8節詠唱。
これはとある世界で衛宮士郎の肉体を憑代とした千子村正と呼ばれた英霊の詠唱や宝具の在り方を参考にした衛宮嗣郎が辿り着いた1つの答えだ。
嗣郎はエミヤの記憶以外にもこう言う憑代の記録も受け継いでいる。
だから、歪で貼り合わせた様な固有結界が嗣郎の手に1つずつ重なり、新たな武器へと変貌した。
それを見て魔術師である切嗣や橙子やその卵である凛や桜、イリヤ達は魅入ってしまった。
嗣郎の手元には1つの武器。いや、剣と鞘を兼ねた盾が現れた。幾つもの世界で作られたそれはまるで星の聖剣と妖精達の鞘に似ていた。
「これで最後だ」
橙子はハッとする。戦いの最中で意識を飛ばしていたなんて未熟な真似をした自身を恥じる。
それほどまでにあの武具は凄かった。だがもう遅い。嗣郎は鞘盾から剣を抜くとそのまま振り下ろした。
「━━━━━━━━
そこから先の橙子の意識は無くなった。
自分は死んで新たな自分へと魂が移ったのだと。それでも、良いものが見れたと感心して目が覚めると見知らぬ天井が見えた。
いや、そこは1週間前にも見た形の屋敷の屋根だった。橙子は衛宮邸の布団に寝かされていたのだった。