●
さて、乱れの原因は早々に分かった。
「ゴールデン・エイジ?」
「はい。奴らはそう名乗っているとのことです」
それは、目的のなかった世界に産まれた、望まれない目的の持ち主だった。
彼等の行動原理は、彼らにとっては複雑な大義であろうがツラトゥストラからすれば至極単純。要するに、オラクル・セレスの教義を理想として納得していないからそれに反抗し、ゼニス・セレスの支配からの脱却を掲げるレジスタンス、ということだった。
「構成員は教団員でなく在家の民たちが主の様子です。リーダーとなっておりますのは、火文明におります鬼丸と修羅丸というヒューマノイドの双子。集団内では『希望の双子』と呼ばれており、彼らを護るために五文明の在家の民たちから賛同者が集まっております」
「希望の双子……よう言うたわ」籠の中からタブラ=ラーサは言った。
「しかし水晶の乱れであれど、弱体化でないのには合点が行った。わらわに歯向かう力、それも確かに『目的』の意思なのじゃ」
そうだ。目的が存在しなかったこの世は、ツラトゥストラによって目的の概念を刷り込まれた。
そして目的の概念は、それを生み出したゼニス・セレスに牙をむく目的すらも生みかねないほどに、成長したというわけだ。
だがそちらが主流になってしまえば、世界全てを水晶の華畑にするオラクル・セレスの計画は台無しだ。しかし部下たちに聴いたところそのゴールデン・エイジ達の戦力は並大抵ではない……今までサクサクと支配が進んだのはタブラ=ラーサの圧倒的な武力故だ。そのタブラ=ラーサがこうなってしまった今、どんな手が取れるか……。
「まあ、黙っておくわけにはいかんの」
だが蛆の身体を隠すローブこそ外しはしないが、タブラ=ラーサは事態を完全把握し頭ばかりは冷静な彼女に戻っている様子であった。
「ゼニスどもをここから動かす。主犯格は双子であろう?やつら一人ずつ、そして雑魚どもを別々に叩くか」
「……可能なのですか?」
「蛆人形に支配された者は、蟲兵たちは、全てわらわの手駒じゃ。奴らの動向なら、わらわは掴める。これは別段物理的な物以外は何も阻害せん、ただの籠じゃ。それに、動かすだけなら大して水晶の力は食わん。手足を動かすようなものじゃて」
「……誰を、誰のもとに?」
「別に誰でもよかろう?……『近づいて来ておる』らしいに、ローゼスを兄に、ライオネルを弟に、残り二人は雑魚相手でどうじゃ」
「……」
ツラトゥストラはしばらく神妙に考える。
「タブラ=ラーサ様。少し思ったのですが……」
「なんじゃ、申してみい」
「此度の反乱はゼニス・セレスがいかに神足り得るかを信徒たちに知らしめ、世に知らしめられる好機たり得るかもわかりません」
そうだ。悪いことばかりでも、無い。そもそもそのレベルにこの世界に「目的」が育ったこと自体、好機ではある。
その上、神なら圧倒的な強さを見せて損はない。タブラ=ラーサが神足り得るのは結局シャングリラを世界の民の前で倒したからだ。
ならば、五大ゼニス・セレス達にその舞台があっても、得になるはず。
「と、考えますと」そうなればツラトゥストラの思考回路は、その中でいかに、さらに効率よく五大ゼニスの力を世界に見せるか、だ。
「まず、グレートが雑魚狩りは申し分ないでしょう。奴には戦いの幕開けを告げる『使命』の象徴たる偶像の座を与えましたので、オラクル・セレスのために、アンノウンと共に景気よく多くの命を屠らせる姿を見せた方が良い。幕開けで大将を殺す必要はないので。ローゼスは……まあ、誰でもよいのでそのまま兄の所でよいかと。それに、希望の双子と呼ばれるからには双子であるのがアイデンティティです。故に二人を分けるのは是非に実行に移したい算段。偶像のアイデンティティを失わせることは偶像の価値を著しく損なうでしょうから。ただ……弟の方に向かわせるのは、ライオネルではなく、サスペンスの方が良いかと」
「ほう、なぜじゃ?」
「ライオネルではだめというより、サスペンスをより戦わせたいのです。奴が管理しているのは闇文明の信徒たち……闇文明は本質的にはエゴイスティックな精神を秘めたるものであり、かつそれでいて、そのエゴを圧してまでも信じるに値すると確信すれば一途なもの達です。お前たちの神はこれだ、と強く信じさせるアピールをするならばそちらを優先したい。ならば大物相手にサスペンスをぶつけましょう」
「承知した。その二人は入れ替えよう。多少『離れて』はおるようじゃが」
「それと……ベートーベンを動かしましょう」
大量の水晶の力無くしては満足に動けない不全のゼニス・セレス。ツラトゥストラは確信した。奴を動かすのは「この時」だと。
「勿論、水晶の力でではありません。兄と弟、どちらでもいいので先に捕まえた方を、ベートーベンのエネルギー源として取り込ませ、ベートーベンを本格的にゼニス・セレスとして完成させ動ける状態にするのです。そんなものを率いるほどの『意志』の持ち主ならエネルギー源には十分でありながら、メイと違っていなくなっても困らない。最適の器です。なぜベートーベンが動いたか、そんな説明は私がいくらでも致しますとも。とにかく自然の民たちはベートーベンを動かすのが反乱軍の者だなどと知る由もないのですから、彼らが見るのは今まで献身を捧げてきたベートーベンが完成する様だけです。反乱軍というものが現れ、果たして自分たちの道が正しいのか自信が揺らぐものは決して少なくないはずの中で、ベートーベンの完成という『自分たちの献身の結実』、そしてその結実が、ゼニス・セレスとして反乱軍たちを屠る姿を目の当たりにするのです……報われた気になることでしょう。自分達の信仰こそが正しかったのだと。それで彼らは満足しますし、彼らを見てきた在家の民たちの意識の中にも刷り込まれるはずです。どちらが、正しかったのか」
「なるほどの。どこまでも抜け目のない奴じゃ、お主は」
くっくっ、と笑い声が聞こえる。そのほどには彼女は平生を取り戻しているようだった。
……逆に言えば。
それでも彼女は、身に纏ったツラトゥストラのローブを脱がない。
「では、始めよう」
そして、ゼニス・セレスと、配下のアンノウン達は動き出した。
腐ってもかつては神と崇められた者であり。それを殺したタブラ=ラーサの力を得た者たちであり。
そして、そのタブラ=ラーサの意思のままに動く者たち。彼らが、弱い道理などなかった。
たとえ小さい命の命がけの特攻を仕掛けられようが傷の一つもつかない。そして……もしも万一傷つかば次の瞬間に、水晶の華から生まれるマナの力で、神に相応しい無傷に帰る。
それこそが、「タブラ=ラーサに祝福されし者」、ゼニス・セレスの力である事を、世界の民は知った。無論その世界の民には、こんなものは理想の世界じゃない、と誇り高く「希望」をうたうゴールデン・エイジ達も含まれていたのだ。
分断された希望の双子のうち、先に敗北したのは兄の修羅丸。そして計画通り、彼を取り込み、いよいよ五体目のゼニス・セレス、ベートーベンが完成し、動き出した。
動き出し、そして、ゴールデン・エイジ達をまさにタブラ=ラーサに祝福されしものに相応しい勢いで虐殺しだした。
オラクル・セレスが湧きかえる。戦うゼニスたちに水晶のマナを捧げる。いくらでも、いくらでも。
働きこそが、献身こそが、彼らの法悦となる。いつかゼロに至れると。教団側も足りなくなれば、次から次へと水晶の華にすればいい。昨日までともに畑の世話をしていた同志が今日水晶の華になる。ゴールデン・エイジがいくら、それこそが恐ろしい事じゃないか、目を覚ませ!と言おうが、実際その水晶色のマナで傷を癒すゼニス・セレスが天の上で華麗に戦う以上、偉そうに説教をしておいて結局そんな彼らがまさにゼニス・セレスに屠られる以上、オラクル・セレスの民にそんな言葉は届かない。誰が、美しく強い者を知っておきながら、美しくも強くもない者の言葉を信じる。誰が、自分達の働きを今まさに力にする者に、自分達の働きを頭ごなしに全否定する者が敵わない様を見て、自分の働きを疑う。彼らの心に宿る想いは、ただ、明日こそは自分もこの美しい水晶の華に、という憧れ、ただそれだけだ。
随分といい仕事をありがとうよ、ゴールデン・エイジ。ツラトゥストラはそうとでも笑いたい気分だった。
……一つの計算違いさえなければ。
希望の双子の分断が、彼らの偶像としてのカリスマ性を消す。彼はそう思っていて、事実100%の間違いでもなかった。しかし100%の正解でもなかった。
鬼丸と修羅丸。彼らは「偶像」である前に「家族」であった。偶像なら崩れれば幻滅もする。しかし、愛し合う家族の絆に幻滅というものは早々入らないのだ。
在家の民の生まれではなく、産まれた時から親や家族の概念などはないオラクル教団の育成所で育ったツラトゥストラだからこその盲点がそこにあった。
世界全体ではゼニスたちの圧勝なれどももう一人の希望の双子の下だけは、様子が違っていた。
修羅丸が消えたことで、鬼丸は怒りか悲しみか、それとも兄の意を報わせんというより一層の「希望」故か寧ろ力を増し、サスペンスとすら互角に戦っているという。これはまずい。神が圧倒的でないことが晒されれば、そのリカバリーは多少厄介だ。
援軍を送りこまねば。……そう考えていた時だった。「ツラトゥストラ様」一人の信徒が彼の前に、とんでもない情報を送り込んできたのは。
「ゴールデン・エイジの『希望の親衛隊』のうち、二人が秘密裏に投降してまいりました。こちらに、極秘情報をすべて渡すと言っております」
「……なに?」
希望の親衛隊。それはたしか世界中から希望の双子を護るために集まった者たちの精鋭と聞く。
本当に投降してきたというのなら、彼等の情報なら、相当重大だ。対鬼丸戦に申し分はない。
「通せ!」
「お目通りをお許しくださりありがとうございます。水晶のセンドウ、ツラトゥストラ様」
恭しく頭を下げながら話すのは、シウバと名乗るビーストフォークに、ペッパーと名乗るサイバーロード。
前もってシダンの部下たちに集めさせておいた情報と相違は見られない。本人達だと信じてもいいだろう。しかもその二人は、確か修羅丸に仕え、彼が去った後もローゼスに対抗する部隊を率いていた。そしてその部隊は昨日丁度、散り散りになったと聞く……心が折れてもまあ、おかしくはない。
そして、彼らが前金の如く渡してきたのは計画のリークと聞く……ざっと目を通せば、確かに各地の戦況と噛み合っていて、こんな計画が立てられていてもつじつまは会う内容だった。
「我々は悟りました。修羅丸様も消え、最早我らに勝ち目はなしと。そして、水晶の神の輝きは誠に、この世を平定する真なる力であるということを。センドウ様、あなた方オラクル・セレスに鬼丸様、並びにゴールデン・エイジの主だったもの達の情報、我らのこれからの計画、事前にお渡ししたもののほかに、全てをお話いたします。このペッパーはサイバーロード。その叡智で全てを覚えこんでおりますので」
「……それで、お前達は何を望む?」ツラトゥストラは言った。
「投降に不自然なタイミングではない、お前達の降伏の意思を疑う理由はないが、所詮は反乱軍だ。何の見返りも求めない帰依など期待もしていない。お前たちの求める見返りを正直に言え。お前たちの信用を担保できるのはそれだ」
「我らが水晶の力に魅せられたことをお疑いになられるのもしょうがない。それは追々献身によりご覧に入れるほかないとして、それがセンドウ様の求める誠意であるからには望みの程を申しましょう」顔を伏せたまま、ペッパーが言った。
「修羅丸様はお亡くなりになりました。鬼丸様も……最早、あそこまでオラクル・セレスに反抗して生き延びさせて頂けるとは、こちらも思ってはおりません。兄君と同じく世界の果てに行けるならば、せめてもの幸福かとも思います。故、鬼丸様の命までは、最早我らは諦めます……しかしお二人は道こそ誤れど、我らゴールデン・エイジを希望の道に導き、幸せな生を送らせんと戦ったお方ではあったのです。過ちなれども善意ではありました。故に、あの二人の過ちは罰せども善意まではどうにかお見逃しを願いたい。つまり……鬼丸様を罰された後は、他のゴールデン・エイジの命まではどうか見逃し、オラクル・セレスの民として教育を施し、水晶の祝福の下幸福に生きさせてくださいませ。あの二人が望んだことは我らが反逆者として死ぬことではなく、我らが幸せに生きる事であったのです。せめて、真の正しさの下その思いだけは報われて欲しい。それこそが、望みです」
「長々と言ったが要するに、鬼丸以外の命は見逃せと言いたいのだな」
まあ……要求としては妥当か。あの頑固者たちを「教育」は多少骨が折れそうなものだが……よくよく思えば律義に守ってやる必要もない。
タブラ=ラーサは言っていた。彼女を殺そうとする意志も立派に水晶の種となる。
ならば、取り込んでも一向に回心しない者は華にして、適当な畑に植えてしまえばいいだけの話だ。信徒たちは、信心無くして華と化した存在の華だなどとわかるわけがない。
「面を上げよ」
どうにしても分かったのは、都合の良すぎる話でもないと言うことだ。被害が甚大だから降伏してでも仲間は生かしたい……きれいごと好きのレジスタンスなら考えるだろうことだ。
信用してもよさそうだ、と、ツラトゥストラは笑って上記のように命じ、彼らに微笑みかけた。
……そして次の瞬間。
顔を上げた彼らの「目」を見た瞬間、ツラトゥストラの顔は引きつった。
「……?」
「どうされましたか?」
シウバとペッパーが疑問を隠さず聞く中、ツラトゥストラは……理屈などない「嫌な予感」としか言いようのない感情に心臓を跳ねさせながら、彼らに命じた。
「私についてこい。クリス=タブラ=ラーサ様に会わせてやろう」
……そうだ。
それは、「直感」以外に、言いようがない。理屈など、ないのだ。
だが、感じた。彼らの目を見た瞬間。自分は、あの目を知っている。それは、鏡にずっと映り続けた自分の目なのだ。
自分はゼニスを、オラクルを信じていなかった。そしてその心故彼らを裏切ることに罪など感じなかったように。
彼らはきっと、口では魅了されたと言っている水晶の力を信じていない。きっとゴールデン・エイジどころか自分たちを裏切ることの方に、何の罪とて感じない。
ただの直感。何の証拠も、無いけれども。
「タブラ=ラーサ様!」
証拠すら引きずり出せそうな「力」こそ、まさに自分たちの崇める偶像。
「……ツラトゥストラ?お主一人の気配ではないの」
シウバとペッパーは、呆気に取られている様子であった。彼等とて、見たことはあるのだろう。輝く水晶の蝿、クリス=タブラ=ラーサを。
それに会わせると言っておいて、実際に部屋にいるのは籠の中に入って白い布を被っている何かでしかないのだから。
だがそれを説明する価値など、彼らにはない。ツラトゥストラはただ、ほんの少しローブを動かし目玉一つだけはのぞかせてペッパーとシウバを不審げに見つめるタブラ=ラーサに聴く。
「タブラ=ラーサ様。この者共は、反乱軍の幹部です。そして今日、我々に投降してまいりました」
「うむ。ローゼスの目を通じて見たことがあるぞえ」
「そこで物は相談なのですが、貴女の支配の力で、彼らの『本音』を聴くことは、出来ますか?」
タブラ=ラーサは、支配する。
ゼニスを従えるほど、その支配は強大。ならば……「小さな」支配は、出来るだろうか?
例えばそれこそ、ゼニスを思いのままに「動かす」ならば、発話も思考も発言の取捨選択も結局は動作であり、それを操ることはできないのか、とツラトゥストラは考えたが……。
「できるぞ」
答えは実に簡単だった。
そして、本当に問いたい方の答えの数割も既にだいぶ出た。
つまり、それを聴いて、ペッパーとシウバがぎょっと肩を跳ねさせたのを、ツラトゥストラは見逃さなかった。
しかし。
「逃げるな」
……タブラ=ラーサがそう言った。その一言で彼らは、金縛りにあったように動かなくなった。
不意に、その場に蝿が二人現われる。ゼ=ブブとベルゼだ。タブラ=ラーサはローブからちょこんと手を出し、二人に小さな水晶玉を渡す。
そして、ゼ=ブブとベルゼは、何も言わず。
ペッパーとシウバの頭を切り裂き、そこに水晶玉を埋め込んだ。二人の悲鳴が聞こえ、そして……ゲル状に透き通ったペッパーの頭から、見えてしまった。彼らの頭に、蛆が一匹産まれたのだ。
「さて、貴様ら」
手も再び隠し、目一つのぞかせた状態でタブラ=ラーサは問う。
「『本音』とは何か?何の話をしていたかも知らんが、申せ」
「……“我々は、知っている!!修羅丸様は、殺されていない!!”」
絶望に満ちた顔と、朗々と話す声は、実にちぐはぐであった。
「“連れ去られ、あの自然文明のゼニスに入れられたのだ!あの中で修羅丸様は生きている!”」
「“だから我らの希望は失われていない!鬼丸様と修羅丸様を再び引き合わせれば、必ずや希望が生まれる!”」
「“そのためには何でもする!仲間を裏切りお前たちのような邪教に阿る生き恥を晒そうが、希望の双子を守り通せるならば本望!!”」
「“貴様らを油断させ、修羅丸様をあの自然のゼニスから解放し、鬼丸様と引き合わせる!それこそが我らの願いだ!!”」
「“渡すはずの情報も、鬼丸様だけは逃げ伸びるように計算ずくで一部を狂わせている!!”」
「“我々は、裏切るために投降したのだ!!”」
「……そうか」
最初から、裏切るつもりで投降してきた、貴様らなど所詮邪教だ。その本音をあらいざらい強制的にぶちまけさせられてしまった二人。裏切りの親衛隊。それを前にしてのタブラ=ラーサは……あの泣きわめいていた蛆とも、シャングリラを優しく殺した美しい殺戮者とも、どちらとも同一人物とも思えない。
「反乱軍の身でわらわの力を認めたと申したに、そのような未来をわらわに与える心づもりであったか」
それは。
「貴様らは、裏切り者か」
恐ろしいほど、冷たく。そして。
憎悪の色を孕んでいる。
「ウ……」
うめき声のような声。ゼ=ブブとベルゼは何も動かず何も反応せず、立ちすくんでいる。
「ウ……ラ……ギリ……」
ツラトゥストラも、異常に気が付いた。
いつしか、ローブから目が覗いていない。あの日自分が破いたローブにくるまっていた姿はその布越しに見える質感を変化させている……「硬く」なっている?
蛆、つまり幼虫が、硬くなる。それはすなわち……?
「裏切り、裏切り裏切り裏切り、裏切り者が、裏切り者が、裏切り者、が……わらわは……」
その声一つで、シウバとペッパーは悟ったのだろう。
神の殺意を。
「裏切りが嫌いじゃ。裏切り者は、死ね」
その場が、水晶のエネルギーに満ちようとした。しかし、その時だった。
タブラサ・チャンタラムの最上に築かれたタブラ=ラーサの間の天井が、割れた。
そして現れた姿を見て、ぎょっとツラトゥストラは驚く。なぜ……彼が、ここに!!
「……!」
ツラトゥストラと同じくシウバとペッパーも口を開く。動揺が見えないのはタブラ=ラーサとゼ=ブブとベルゼだけだ。
砕け散った天井から覗いた。天に輝く、その巨大な姿、それは……。
「ベートーベン!?」
「修羅丸様!」
ゴールデン・エイジ討伐に向かわせていたはずのベートーベンが、なぜ、ここに……嫌。違う。
「ウ……ッ……」
アレは、ベートーベンではない。ツラトゥストラは悟った。
聴いたから。
「シウバ……ペッパー……」
ゼニス・セレスなら発さないはずの「言葉」が、そこから湧き出るのを聴いた。
なら、それは。
ベートーベンの鎧が内部から砕け散り、ヒューマノイドの青年が……希望の双子の片割れ修羅丸が、殺意に満ちた形相でそこから飛びだした。
莫迦な。
タブラ=ラーサの支配を、彼は抜けたというのか!?従者たちのために!?
ツラトゥストラの驚きに返答することなど無しに、彼は、ゼロの鎧を砕いた槍を構えてツラトゥストラに襲い掛かる。彼が、口を開いた。
何を、言おうとしたのだろう。
邪教を広めた男への罵倒か。愛する者を傷つけられた怨みか。
あの日ツラトゥストラが世界中に新たな希望を説いたように、高々に自分たちの希望を説く気だったか。
しかしその言葉が何であろうと、もうこの世界にとっては、何の価値もないものなのだ。
ツラトゥストラの心臓に槍が届く前に、あるものが修羅丸に届いた。ツラトゥストラは見た。自分を殺す槍を退けたのは。
世にも美しい、無垢の長い、巨大な手。
それが、修羅丸の口をふさぐように顔面を掴んだ。
「そうか。貴様も……反乱軍の身で散々にわらわを乱し、それでもわらわが手塩にかけたベートーベンを動かす身としてわらわに従いながら……」
それは、間違いなく。
クリス=タブラ=ラーサの腕。
いつの間にか、彼女は籠から這い出ていた。そして。ローブが解ける。
ローブの下で、彼女は蛹になっていた。
それが、「羽化」する。
「斯様な狼藉、ベートーベンを台無しにした上さらに……ツラトゥストラまでにも手をかけると申すか」
ズルリ、と蛹から現れ出でるのは。
シウバも、ペッパーも、修羅丸も知る、「クリス=タブラ=ラーサ」の姿そのもの。
「裏切り者か。貴様も」
その、圧倒的すぎる姿。その顕現にゼ=ブブとベルゼ以外の全員が、目を見張る。そして……シウバとペッパーは、震えていた。
自分達が信念を捨て仲間を裏切ってまでも信じた希望と、輝く神の対比を目の当たりにして。
「のう……貴様。裏切りは、この世で最も、醜いものじゃ」
ぎり、ぎり、とその間にもタブラ=ラーサは修羅丸の顔を握り続けていた。最後の引導の言葉を吐くまで。
「裏切り者の言葉も醜い。故に、裏切り者に言葉は要らぬ」
その宣言と共に。タブラ=ラーサは修羅丸の口を「握りつぶした」。
凄惨な光景を目の前に、シウバとペッパーはもはや、タブラ=ラーサの言霊など無くとも動けなかっただろう程腰が抜けている。だが彼女は彼等の方も一瞥した。
それだけで十分。言葉は要らない。ツラトゥストラは見た。
彼等の目は、水晶玉に変わった。いくら瞬きをしても閉じない目を、タブラ=ラーサは彼らに与えた。
そして当の彼女は、修羅丸に向かう。
「のう。貴様。わらわは蝿族。蝿は、糞も屑も腐肉も醜いとは思わん。産まれた世界を飛び出てようよう、そちらの価値観の方が少数派と分かったほどじゃて。……して、貴様。裏切り者よ」
その感情は。
「生まれてこの方一瞬たりとも、自分が糞より醜いものだという自覚を忘れることなく生きてきたのであろうな?」
一体「何」か。
彼女は修羅丸の頭を掴み、今度は思い切り床にたたきつける。何度も、何度も、ガンガンガンガンとぶつけながら、彼女は恐ろしい声音で、返答も望まぬ語りを続ける。
「醜い……醜い。裏切り者は醜い。裏切り者こそがこの世の醜さじゃ。裏切り者が居るだけで醜い。醜い裏切り者よ、のう、自分が糞より醜い自覚はあるのであろうな?なくしてよく生きていけるものよ。わらわとツラトゥストラを裏切るのみならず、かような醜き実存の身を仲間に、家族に愛させる欺瞞を犯しておいて、それでなお醜さを自覚せぬ生き恥を晒すことでそやつらをも裏切るのか、貴様は。なんという裏切りじゃ、なんという醜さじゃ、汚い、汚い。糞に土下座し、糞を崇めよ。醜い裏切り者、裏切り者。この世で最も醜いものが、裏切り者よ、ああいやじゃ、いやじゃ、世界に裏切り者が居るなど!」
タブラ=ラーサの恐ろしさは支配の権能と思っていたが、とんでもなかった。ツラトゥストラも初めて見た。
あれほどまでのしなやかな腕で。
純然たる腕力すら、恐ろしい。それが彼女だ。
ガツン、ガツンと叩きつけられ。修羅丸の身体はだんだん衝撃で節々が変な方向に曲がっていき、彼は人型種族の原型からじわりじわりとかけ離れていく。
シウバとペッパーは、閉じること叶わぬ水晶玉の瞳でその様子を見せつけられていた。
「醜い、醜い、裏切り者は、醜い。裏切り者が生み出す全ては醜い。裏切り者の生み出す全てはこの世に要らぬ!!裏切り者に言葉は要らぬ!!裏切り者は言葉を発するな、この世が穢れる!!裏切り者は息をするな、この世が穢れる!!裏切り者は汗をかくな、涙を流すな、糞をたれるな、この世が穢れる!!裏切り者はどこにも目線をくれるな、裏切り者はこの世の大地を踏みしめるな、最も醜い者が世界を穢すな!!裏切り者が裏切り者が裏切り者が裏切り者が!!裏切りは、この世で一番醜い!!裏切り者は、存在するな!!裏切り者が居るだけでこの世が穢れる!!」
何とも知れぬ感情は、次第に激昂へと変わる。口を握りつぶされた修羅丸はどの道何も言えない。命乞いもできなければ、誇りを貫き通すこともできない。タブラ=ラーサが彼に、その権利を認めない。
「裏切りが嫌い」そう、ツラトゥストラと初対面の日に言った身で。
「裏切り者」に相対した彼女は。
「醜い……」
彼女は、修羅丸を叩きつけるのをやめ、変な姿の塊、としか形容のできなくなった彼を震える声でつまみ上げた。
「貴様という存在が、裏切り者がこの世に生まれた事実が醜い……」
ツラトゥストラはその時知った。
そんな姿になりながら、修羅丸の目は動いていた……おそらく彼は、生きていた。
「のう。貴様の母はいかにして貴様を孕んだ?睦言を囁かれ笑ったかえ。犯されながら泣いたかえ」
生きながら。
希望の双子、修羅丸はすさまじい仕打ちを受けた。
「どうであれども、これからはもうそれが『なくなる』。貴様は貴様の母から生まれた身ではなくなるのじゃ。醜き裏切り者でも、なくなる。裏切り者が生まれた醜い事実は消える」
その様子を、彼を心から慕うペッパーとシウバは、見ないことを許されなかった。
タブラ=ラーサが力を送り込むと同時に、修羅丸の身体から、心臓を突き破るように、一本の赤と白の二つの華を咲かせた鬼百合の様な水晶の華が生える。
それを茎から折ったのち、タブラ=ラーサはそっと、ぽっかりと空いた自分の胴体の空洞に、修羅丸を放り込んだ。
そして、胴体を閉じ。
修羅丸の水晶の華を思い切り嚙み砕き、エネルギーを取り込んだ。
「何」が起こったのか。皆までは分からない。
ただ、「かき回される様な」凄惨という言葉も使えないほどの音と。
途中までは、タブラ=ラーサの腹の割れ目をこじ開けんとする手が見えていた。
それが見えなくなった後、どんどんと、タブラ=ラーサの腹を叩く音が聞こえた。
それも聞こえなくなって、しばらくして、漸く静寂が訪れた時。
タブラ=ラーサが痛みに呻くような声を出したかと思うと、ぼとり、と、水晶玉のような卵を彼女は産卵した。
そのときだった。
動いていた。水晶の力無くしては動かないアレが。
空の上で、いつの間にか水晶の力を吸って傷を癒したベートーベンが、変な動きをしていた。自分の上にあるものをこつこつ、こつこつと叩くような手つき。
そして、水晶の卵からも聞こえる。こつこつという音。
……いや。あれは。
「ベートーベンの動き」では、ない。
自我を宿さぬゼニス・セレス。ベートーベンはただ、「連動」しているだけなのだ。
ぱりん。
水晶の薄殻が破れ、そこから、蛆人形が這い出した。ちょうど、上空のベートーベンも、同じポーズを取っていた。
「この世で最も醜き者よ。存在自体も、醜き者よ」
それは、「ただの蛆人形は寄生出来ない」、「強い意志を持った命をエネルギー源にしなくては動かない」ベートーベンの身体に、納まった。
「産みなおしてやったぞ。綺麗な存在に」
何が起こったか、分からなくとも、明白だった。
「さあ、とっとと雑魚どもを倒してこう」
そう言われてこくん、とうなずいたベートーベンが立去って、その場には静寂が訪れた。静寂。それを知って、ツラトゥストラは悟った。
裏切りの親衛隊たちは、どのタイミングか……完全に、気を違えてしまっていた。
●
裏切りの親衛隊たちはつまみだした上で信徒たちに任せ……ツラトゥストラはタブラ=ラーサに向かい合う。
と、言うのも。
「ああ……嫌じゃ」
あれほどのことをしておきながら。彼女はまた、威厳も何も感じさせないパニック状態になってしまった。
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!!どうして裏切り者などが存在した!!裏切りは醜い!!裏切りは悍ましい!!裏切りはこの世で最も醜い!!裏切りは、全てを腐らせる!!裏切り者が、裏切り者があっ!!う、ううぐっ、お、えぇっ……」
大きな体でのたうち回りながら彼女はわめき散らし、かと思うと嘔吐でもしそうな声を出す。……ゼ=ブブとベルゼの二人は、何も言わない。動きもしない。
「ツラトゥストラアッ!!」彼女はわめき散らした。
「水晶の華を、水晶の力を、集めさせよ!!持ってこい!!裏切り者の水晶の華を喰ろうてしまった!わらわの喉が穢れた!!穢れた華を喰ろうてしまった!!いやじゃ、いやじゃ!!はよう清めねば!!裏切り者の水晶の華など汚らわしい汚らわしい汚らわしいっ!!はよう、はよう、美しい心を持つ者の水晶の力を!!」
「は、はっ、ただいま!!」
急いで水晶のエネルギーの回収係、サトリたちに指令を出さねば……そうツラトゥストラが踵を返したとき、後ろから聞こえた。
「どう、して……」
ころん、ころんとまた音が聞こえる。
「どうして、うらぎる、の……」
彼女はおそらく水晶玉の涙を流して、泣いていた。
水晶の力を恐ろしく吸って、漸く彼女は少し落ち着いた。
「あの者共をどうするのじゃ、ツラトゥストラ……」
それでも、声音は弱々しい。強大な体は明らかに、もう脅威はいないのに、わずかに震えていた。
「あの者共も裏切り者ぞ。裏切りはこの世で最も醜い。いやじゃ、裏切り者の水晶の華なぞ喰いとうない。裏切り者が育てた水晶の華もいらぬ……裏切り者など、大嫌い、じゃ……」
「タブラ=ラーサ様……」
裏切りが嫌い。それは大体の存在がそうだろう。
だから、彼女のその言葉が、まさかここまでとは思っていなかった……なんと声をかけていいのか分からなかった。
だから、ツラトゥストラがした行動はこうだった。
「その醜きもの相手に、水晶の力乱れし中よくぞ戦って下さいました。貴女様こそ、オラクル・セレスの美しき神です。あの者共をどうすべきか……殺してもよいですがそれ以上に、私にうっすら考えがございます。しかしそのお話は貴女様が落ち着かれてから」
言葉だけでは、鎮められないと判断したから。
「今は、ごゆっくりとお休みを。水晶の力乱れし中で、そのお姿になるのもお疲れであったことでしょう」
そっと、あの日破いた自分のローブと、そして籠を彼女の前に差し出した。
「……」
タブラ=ラーサは無言のまま、縮小していき、輝きを失い、蛆になると同時にさっとその身をローブにくるんだ。
ツラトゥストラは彼女が動くより先にそれを抱き上げ、そっと籠に入れた。
「……お主は、冷静じゃな」
「いえ……」
「……少し寝る。お主も、休め……」
「有難きお言葉を」
……そうはいっても、放っておく気にもなれなかった。じっと床に座っている中、いつしかうつらうつらと座ったままツラトゥストラは寝ていた。
数時間寝て、起きた彼の目に飛び込んできたのは、「おお、よう寝たかえ」と話しかけてくる、成体の方のタブラ=ラーサであった。
「わらわの方は思い切り取り乱して休んで、落ち着いた。そうしたらあとはもう、腹が立ってきおった。もう片方の方も邪魔にしか思えん。寝て起きたというにサスペンスはまだ手間取っておる様じゃ。今まではお主の図式に乗っていたが、今回ばかりは崩してもよいの?早々に終わらせてやりたい気分じゃ」
「ええ……第一、弟の方がここまで手間取ることになったのはまさにその私の図式の落ち度でしたので、私は責任を取らねばならぬ立場です……。タブラ=ラーサ様がご随意に。ですが……」
「またお主の新しい考えか」
「はい。鬼丸軍は可能であれば生け捕りを。……使えるかもしれぬ案が湧きました。水晶の華でも、労働力でもない、別の力として。あれらの水晶の華など喰らいたくない、と貴女様は仰いましたが故に……」
「……?あの青と緑の二人はそう云うたが、弟の方やほかの反乱軍はどうでもよいぞ?」
「ええ?」
「だって、あちらは別に裏切り者ではなかろう。ただわらわに歯向かってきただけの小僧共じゃ。それ以上に憎む理由はない」
しれっと発されたその言葉に、ツラトゥストラは目を瞬かせた。あのパニックを目の当たりにしたものとして。本当に今の彼女は、冷静に鬼丸軍を特に邪魔な反乱軍以上に憎んではいないと分かったからだ。
……それは、それとして。
「まあ、だとしましても……絶対に殺したい理由が無ければ、おそらく教団に優位に働くことですので」
「承知した。じゃがぞろぞろと連れて帰られるほどの手加減をする気分でもない。汚いものを見た憂さ晴らしもしたいでな。後ほど、お主の部下共を連れ、回収に参れ」
「お聞きくださり光栄の至り。ではそのように準備を」
「では、行って参る」
そう言って飛び立ったタブラ=ラーサの神秘は……本当に、ただ、「いつも」の彼女であった。
だからこそ、分かった。
あの取り乱して泣いていた蛆の小娘も、彼女であった。どこまでも、どんな姿でも、どんな態度でも、切り離しがたいほど彼女は、彼女であった。
程なくして伝令が届き、回収に向かったその場には、散乱する武器と、一面の水晶の華。
「生きたまま華にした。後で解除すれば元通りじゃ」
……そうだ。彼女には、この手があるのだった。
「殺したいほどの意志」があればこそ、それは水晶の種になり、それは水晶の華となるのだから。
だが、大勢の信徒が居るのに、この光景は……。
「ツラトゥストラ、様……?」
シダンの兵たちが戸惑っている。……当然だ。「ゼニスへの献身と信心の証故に至れる究極」であり、彼らが骨身を削ってゼニスに尽くす理由の形態を、よりにもよって反乱軍が取っているのはどういうことか、と思うだろう。
……その疑問は。
「ちょうどよい。お前たちにだけ、教えよう。だが他言は無用。案ずるな、遠からず全信徒に大々的に喧伝する『新たなる段階』とタブラ=ラーサ様の御慈悲の程を、お前達はセンドウたる私の直属故にいち早く見ることができたのだ。この、今までは在りうべからざることであった光景を見ることが叶ったのもまた、お前たちの献身の証だ」
自分が思い描いていた「次の図式」にぴったりはまってくれる。何の問題も、そこにはない。
あらかた「それ」を語り終え、納得したシダン達が意気揚々と華を引っこ抜く中、一人、華畑の中で、ぼうっと佇んでいる影があった。
何も言わず、何も動かない。
その姿はまるで……甲虫族のアンノウン。しかしそれは……「ある者」に似ていた。
「タブラ=ラーサ様、あれは……」
「ああ、あの、弟の方じゃ」こともなげに彼女はそう言った。
「わらわに特に強く歯向かったものが、華ともならずああなるのじゃ。何とも知れぬ存在に」
「……ゼニスたちに贈ったアンノウンたちも、あの、ひょっとして……?」
「うむ?今までわらわが渡り歩いた世界で、わらわに特に害をなした者共じゃが」
タブラサ・チャンタラムに飛び、牢へ入れ。そう言われて、ゴールデン・エイジの希望の双子の片割れ、鬼丸だった「何か」は、ただこくん、とうなずき、翅を広げ、まだ水晶の華を摘むシダン達に先駆けて飛び去った。
希望の双子が真に失われ、ゴールデン・エイジは、タブラ=ラーサの力の前に、結局呆気なく壊滅した。
タブラサ・チャンタラムの自室にようやくツラトゥストラは帰った。さて、やることはまだあるが、とにかくも鬼丸が片付いた以上目下の一番厄介な事項は終わった。疲れた……だいぶ疲れた。
翼を縮めて寝台になだれ込もうとしたその時……ツラトゥストラは、ある違和感にぼんやり気が付いた。
自分の部屋の鏡に映った、自分の顔を見て。
しかし、それを意識する前に彼は眠りに落ちてしまい、起きた時には、その違和感は忘れていた。
その違和感とは、何だったか。
あの裏切りの親衛隊の違和感を自分が見抜けたのは。
見覚えのある目。鏡に映る自分と同じ目をしていたから。それなのに。
なぜか、その自分自身から、「その色」が抜け落ちているような気が、一瞬したのだ。