長女の場合
あたしが中国武術を習い始めたきっかけ?ついでさ、ついで。
時雨から「将来は医者になりたい」とか聞いてね、世話になりっぱなしも癪だしなんかできないかね~っとおじ様に軽く相談してみたのさ。すると「今時雨は整体を学んでいるから別のアプローチでカバーしてみるかね?」と針や灸や漢方に詳しい先生を紹介してくれた訳だが…
「お願いする時はこのポーズでお願いしてみるといいね!」
とんだエロ親父だったわけさ。
名前は
確かに漢方の知識は半端じゃないし針の腕だって針一本で患者に麻酔を掛けれるほどだ、武術に関してもあのおじ様とタメを貼るほどの達人だった。だけどソレをマイナスまでいかなくてもプラマイゼロくらいに持ってくくらいのエロ親父だ。
馬師父(物を教わる身としては最低限こう呼んでいる)はおじ様と一緒で相手を治すだけでなく壊す事にも長けていて、どうせならということで武術も教えてくれている。
まぁ小雪もムエタイをやってるらしいからね、時雨の傍にいると厄介ごとも多いし最低限自分で自分の身くらいは守らないとね。
べ、別に朝早くから時雨と一緒に小雪が楽しそうに鍛錬してたのが羨ましかった訳じゃないんだ、勘違いするんじゃないよ!
しっかし時雨や小雪みたいに子供の頃から武術をやってるのと比べるとどうしても劣ってしまうんじゃないかい?と師父に聞いてみると
「亜巳ちゃんくらいの年齢だと関係ないね。秋雨どんもついてるし、おいちゃんに任せるといいね!」
とか言ってたね、弟子の意思とか才能の有無はとりあえず関係ないみたいだ。
さすがにあたしも女だから筋骨隆々ってのは避けたいと思ってたんだがおじ様が組んだメニューを消化している現在は見た目上はあんまり変化がない、馬師父の内功も効いているのかこの間のスポーツテストではえらい数字を出しちまって危うく部活動なんかに誘われるところだったよ。
もちろん武術メインになっちゃ本末転倒だから漢方も針もしっかり勉強している、時雨の家庭教師もあって頭に詰め込む事は山ほどあるが…こんな生活も悪くないさね。
ちなみに馬師父の盗撮は全て時雨が撃退してくれている、その時に時雨にはチラっと見られちゃうんだけどコレくらいは撃退料って事で。そうさ、しょうがないのさ。
次女と次男の場合
Zzzzzz…Zzzzz…
辰ねぇが寝ちまったか、しょうがねぇから俺達が空手を始めたきっかけってのを教えてやるよ。
俺は見ての通りだが、実は隣で立って寝てる辰ねぇも二人揃って暴れ癖ってのがあったのさ。
クラスのウジウジしてるような奴らと一緒にいたらこっちの気が滅入っちまう、だから昔はその辺で好き勝手暴れたもんだ。辰ねぇも滅多な事じゃぁ暴れなかったがその分一度暴れだすと俺以上に手が付けられなかった。
しかしそれも亜巳姉ぇが兄貴を家に連れて来た時までだった。
第一印象は最悪だった、亜巳姉ぇが男を連れてきたのも気に入らなかったがそれ以上にうちのクラスにもいそうなヒョロっとした身体が気に入らなかった。だからムカついて殴りかかった時にブン投げられたのは衝撃的だった。俺の身体にはなんの力も掛かってなかったと思う、だから音もなく部屋の床に落とされた事に理解が追いつかなかった。
「なるほど、元気な弟だな」
そう言って俺を困ったような笑顔で覗き込む兄貴の顔が俺の脳裏に焼きついた。
それから兄貴はよく家にきて遊ぶようになった、辰ねぇも兄貴と一緒に遊ぶのが楽しいらしくあのやんちゃな天までもが懐いてた。兄貴は強くて優しくて俺の憧れになるのにそう時間は掛からなかった。
そんな兄貴の背中に一歩でも近づきたい、そう思って俺にも武術を教えてくれ!と頼んだんだが「柔術はお前には向いてないし俺が人に教えるにはまだ早いんだ、すまんな竜」と言って頭を撫でられた。
そんな時に俺たちのじょーそーきょーいくとかいう事のために秋雨のおじきが呼んだ先生と出合った。
「俺は弟子は取らねー主義だ!!!」
第一印象は最高だった。兄貴の時とは違い顔に残るデケー傷や分厚い胸板、俺の身体より太い二の腕がその強さを物語っていたからだ。
名前は逆鬼至緒、空手家でその道では「喧嘩100段」なんて呼ばれているらしくあまりにも強すぎて試合にも出れないそうだ。
だけどそんなの関係ねぇ!ここに強さを形にしたようなのがいるんだ、兄貴に鍛えて貰えねーならこのおっさんに教えて貰えばいいんだ!そう思い俺は胸の内を師匠に打ち明けた。
「俺は兄貴の背中に追いつきてーんだ、でも今のままじゃ追いつくどころか背負われちまってる。それじゃぁいけねーんだ!俺は背中に乗せてもらいたいんじゃない、その背中を預けてもらいてーんだ!」
「時雨の背中を、か。あいつは俺から見ても中々の腕だ。あいつの背中を背負うなんてのは厳しい道のりになんぞ、ガキんちょ」
「どんなに厳しい道でもだ!俺の兄貴に対する想いはそんなに軽くはねぇ!それに俺の名前は竜兵だ、ガキんちょなんてなよっちい呼び方すんじゃねーよ!」
「プ…ハッハッハ!そうだな今日び犬猫にも名前があるんだ、そうか竜兵か。いい名前じゃねぇか、気に入った!だったら竜兵、俺にその時雨に対する想いってのを見せて見やがれ!」
「わたしも~」
「ん?なんだ嬢ちゃん、起きちまったのか?」
「わたしも~しーちゃんの事すきだよ~、竜に負けないくらいにね~」
「負けないぜ!辰ねぇ!」
「へっ面白れぇ、だったら二人纏めて面倒みてやるぜ!」
そうして俺と辰ねぇの武術に身をおく生活は始まった。師匠の言うとおり決して楽な道じゃぁなかったがこの道が兄貴の背中に繋がってるなら必ず追いついてやる!待ってろよ、兄貴!
待っててね~、しーちゃん。私も…ユッキーみたいに~…がんばるから…Zzzzzzz。
三女の場合
うちが香坂流を始めた理由?そりゃもちろんカッケェからさ!
あれは皆が武道を始めてうちが一人でゲームで遊んでる時だった。
ぶっちゃけつまんなかったぜ、みんな一緒に鍛えているのにうちだけ仲間外れってのが。でも格闘技ってのがあんまり合ってないってのはうちにも解ってた。
だって皆素手なんだぜ?ゲームでいやみーんな武道家、だれか一人くらい剣士や戦士はいねーのかよ!でも秋雨のとーちゃんが時々やってくる槍や日本刀持ったやつをポンポン投げてるのを見てたらなんか一気に萎えちまった、武器装備しても強くねーじゃんって。
そんな事考えてた時だった、いきなり後ろからじーちゃんに声をかけられたのは。
「なんじゃお主、こんな所で一人で遊んで。どうじゃ、暇じゃったらわしと遊ばんか?」
後ろをみると和服を着て眼帯をしたじじぃが座っていた。
「んだぁじじい?とーちゃんの知り合いか?」
「ほっほっほ、そうじゃ香坂と言うての。あやつが席を外してしもうて暇じゃッたから遊び相手を探しておったのじゃ」
「ん~べつにいいけど、ゲームできんのか?」
「むぅ、流石にファミコンはわからんのう」
「ファミコンじゃねーよ、サターンだよサターン。はぁでもゲーム出来ないんなら何して遊ぶ気なんだよじじぃ」
「そうじゃのぉ、じゃぁ的当てでもして遊ぶかの?」
「的当て?なんだそりゃ」
「まぁおぬしの様な若者に言わせてみれば「だーつ」みたいなもんかの?」
「おぉ、マジかよ!じじぃダーツできんの!?」
「ほっほっほ、まぁ付いてきてみ」
そうしてじーちゃんに連れられて庭に行くとじーちゃんが木でできたボールみたいなのを持ってきた。
「それが的?っつーか刺さんのかよ?」
「まぁまぁ見ておれ」
そう言ってじじぃがボールを投げると
カッカカカッカカカカッ!!
「スッゲェェェェェ!!!」
なんとじじぃが投げた木の棒が空中で全部刺さっちまった!?
「ほれ、ウニじゃ」
「すげぇぜ!じじぃ!どうやったんだ!?」
「ほっほっほ、なーに香坂流にしてみればこの程度お安いもんじゃ」
「香坂流?それも武術なのか?」
「武術と言うよりは武器術じゃな。秋雨たちのように素手ではなく剣や槍、他にも今みたいな手裏剣の類も使う」
「武器使って強くなれんのか?」
「ん?おぉそうか、お主は秋雨の戦いをよく見ておるのだったの。アレはワシが武器相手に戦う術を教えてやったのよ、故に武器が決して弱い訳ではない」
「マジで!?じゃぁうちにも教えてくれ!」
「なんじゃ嬢ちゃん、香坂流を習いたいのか?」
「だって、ウチ武道とかあんまりガラじゃねーし。それに武器使って戦うってカッケェじゃん!」
「ふむ、嬢ちゃん名前は?」
「名前…え、
「ほう、ハイカラでかわいい名前じゃの」
「へ?変な名前じゃないか?」
「何を言うとる、ワシはハイカラでいいと思うぞ?」
「そ、そうか?へへへ…」
「さて、天使よ。香坂流を習うのは並大抵の事ではありゃせんぞ、覚悟はいいか?」
「おうよ!これでウチが強くなったらぐれ兄ぃも驚くぜ!」
「ふふ、どうせなら時雨より強くなってみるかの?」
ウチがぐれ兄ぃより強く?おもしれぇ!
「これからヨロシクな!じーちゃん!」
ウチもいつか亜巳ねぇみたいに、ウチの名前を可愛いって言ってくれたぐれ兄ぃの横に立ってみてーんだ!
こうして彼と彼女達はそれぞれの道を歩み始める、その道は幾度も交わりそして一つの場所へと続いていく事になる。
次回はついに川上学園に入学!