金を稼ぐってのは大変な事さ、それはちゃんと解ってる。身体を売れば稼ぐ事も出来るだろう、でもあたしは決してそんな事はしないと昔誓った。でもあたしが稼ぎたい額は女子高生がバイトしてもそう易々と稼げる金額でもない…だからと言って
「なんで産業スパイみたいな真似事しなきゃいけないんだい?芳乃」
「だーって、亜巳ったらジャングルとか嫌がるじゃない?だから今回は都内を選んだのよ」
「そいつはありがたいねぇ、帰らずの森に比べりゃ何処だって天国だろうさ」
「…持ち帰ったソーマの写本の写真も原材料が存在しなければただのゴミだったわね」
「おまけに迎えに来た時雨にはこっぴどく叱られちまったしね、踏んだり蹴ったりさ」
「初めてよ、お尻百叩きなんてされたの…」
「ありゃどう考えたってあたし達が悪かったんだからしょうがないよ」
芳乃と組んで仕事をするってのは間違ってたかねぇ?
芳乃とはクラスメートという垣根を越えた親友だ、お互いが普通の高校生の枠を超えてるというシンパシーもあり色んな事を相談できる良き理解者だとも思っている。だから相談してみた、いつかは世話になってる時雨のパートナーになりたいと、アイツが医者になると言うのなら同じ道に進みたいと、しかしソレをするには金が掛かると、時雨に言えば医大の授業料すら払ってくれるだろうがそれじゃぁパートナーになりえないと。そうすると芳乃はあたしにバイトの話を持ちかけてきた、曰く「あたしのボディーガードになって欲しい」と。
優のヤツが芳乃の事を「遺跡荒らし」なんて言っていたから芳乃がトレジャーハンターをやっている事は知っていたし彼女が荒事に強いことも知っていた、でもこと戦いの腕に関しては馬師父に鍛えられているあたしの方が強い事もわかっていた。
だから軽く引き受けてみた、そこからこの腐れ縁が始まったんだ。
正直甘く見ていた。
遺跡荒らしだなんていうから最初はどこか古めかしい遺跡で宝探しをして、時々原住民みたいな奴らが槍でも投げてくんのかと思っていたら…向かう場所は現代科学なんて考えが吹っ飛ぶ程のオーバーテクノロジー満載の古代遺跡で相手は原住民どころか最新装備をまとった現役軍人が
オマケにギャラは出たり出なかったりと不定期で目標金額にはまだまだ遠い…
それでも
「あたしがいなけりゃあんた10回は死んでるよ、芳乃」
「だから頼りになる亜巳って好き♪」
あたし達は中々いいパートナーって事なんだろうね。
「ところで、やけにこのビル警備が厳重だね」
「まぁ日本の一製薬会社にしちゃ厳重すぎるのは確かね、でもそうなるのも無理は無いかもしれないわ」
「…今回の獲物ってのはそんなに凄いモンなのかい?」
「なんでも今ココでは生物兵器の開発が行われているらしいの」
「それってこの間優と時雨が倒したっていう
「いえ、アレは優ちゃんの話ではどっちかって言うと戦車みたいな兵器に近いものだって言ってたから違うわ。ここで進められているのは
「ライカンスロープ?それって確かスプリガンの…?」
「しっ!」
私たちが隠れている物陰の横を数人の科学者が通り過ぎていく
「サンプルαとβの成長具合は良好とみていいのか?」
「細胞が成長しすぎるキライはあるが概ね良好と見ていいだろう」
「今までは生物としての形を保つ事すら出来なかったんだ、上出来だろ」
「もう少し獣人の細胞を弄りたい所だが…」
「あれは貴重な研究材料だ、迂闊な事は出来んよ」
「はぁ、どっかに獣人が捨てられてねーかな」
「ばーか、犬猫じゃねーんだぞ」
「似たようなもんさ」
胸糞の悪くなる会話だねぇ、軽く締めとくかい。
「ストップストップ亜巳!あんな奴ら相手にしてもしょうがないわ、さっさと頂くもの頂いてずらかりましょう」
「…そうさね」
そうしてあたし達は間抜けな研究者たちの下から各種資料や例の体細胞をかっぱらってきた、明日になればこれ等をアーカムに売り飛ばしに行くそうだ。組織に属する事を嫌う芳乃だがその辺の分別だけは最近付きつつある、以前は全て闇ルートなんかで捌いていたらしいけど今はきな臭い物は全てアーカムに引き渡す(売る)ようになっている。
時雨の尻叩きは本当に百回やらないと終わらないからねぇ。まっコレが金になれば目標金額までもう少しだ、後は暴走する芳乃を抑えていくようなスタンスで十分だろうね。
私たちが襲われたのはそんな事を考えて家路についた夜の事だった。
「こーら、辰、雪、天、風呂で暴れるんじゃないよ」
家に帰ってみればあたしの帰りをわざわざ待っていてくれた妹達、そりゃぁ嬉しくて一緒に風呂にも入るさ。うちの風呂は最近家に住み着いた小雪のムエタイの師匠のアパチャイさんが裏庭に掘った露天風呂だ、小雪と嬉々として掘り出しいきなり温泉が噴出したのには驚いたもんだがまぁ今となってはありがたい話さ。
しかし結構な住宅街での露天風呂だ、当初は覗きなんて馬鹿な真似をする奴(6割が馬剣星、2割がカメラを持った探偵みたいな声をした猿)もいたが軒並み時雨が撃退していったから今ではすっかりいなくなった、…そう思っていたんだけど
「二重の極み!!」
軽いネタ技が聞こえてきた、時雨は社会的に手加減しなくていい相手だとあの手の子供が喜びそうな技を練習する悪い癖があるからねぇ
「しーちゃーん、ソレ終わったらいっしょにお風呂入ろうよ~」
「バ、馬鹿なこと言ってんじゃないよ、雪!」
「え~、亜巳ねぇしーちゃんとお風呂入るの嫌なの?」
「そういう問題じゃないんだよ!……ん?どうしたんだい、天」
「いや、なんか気配が変じゃね?今の覗き」
そう言えば確かに、普通覗きという行為はその性質上素人でも無意識に気配が希薄になるもんだが…こいつからは妙な殺気も感じる。そんな事を考えていると向こうの方から…
「
「ちょいとちょいと、素人にっつーか覗きにかける技にしては凶悪過ぎないかい?」
「けんせいのおじちゃんかな~?」
「ちょっと確かめてくるからあんたらはココにいな!」
そういい残してあたしは身体にタオルを巻いて現場に向かった、そこにいるのが時雨で覗き魔が既に倒されているなら……まぁこの格好でも問題ないね。チラッと見られるのと一緒に風呂に入るのとでは次元が違うんだよ!!そんな事を考えながら現場に着くと
「時雨どうしたんだい?」
「どうしたもこうs…ブッ!?お前なんちゅー格好で!?」
「アンタしか見てないなら気にしないさ、ソレよr「オッホン、すまないね時雨だけでなくて」お、おじ様!?」
時雨には見られてもいいけど流石におじ様相手では恥ずかしい、少し後ろの木陰に身を隠す事にした。
「ところで時雨、あの技を使ったみたいだが?」
「あぁ、最初は金髪だったから外人の新手の覗きかと思ったんだがな…」
その時蹲っていた覗きが身体を起こした…アイツは!?
「…どうやら人外の覗きだったらしい」
「ふむ、
そんな二人の会話を他所にその獣人はあたしに向かって襲い掛かってくる!?しかしあたしと獣人の間に立ちはだかるのは勿論…
「理由はどうあれ、亜巳に手を出す奴は許しちゃおけねーな」
「調度いい、捕まえるにしてもある程度弱らせないといけないだろう。しかも相手は獣人、あの技の練習台には持ってこいだね」
「なんだよ、さっきの完璧だっただろ?」
「いや、まだ甘い。新陳代謝が人間より優れており怪我の回復が早く、身体の造りが頑丈な獣人相手に立ち直りが30秒では人なら死んでいるだろう」
「UGAAAAAAAAAAAA!!!」
「せっかちだねぇ君も、なら私が一つお手本を見せて上げよう」
そう言っておじ様はいつの間にか獣人の前に立っていた、そして…
「
ヒュゥゥゥゥ…グシャッ!!!
「・・・お、5秒で起き上がったぞ」
「今位のが人間相手への目安だ、さぁやってみなさい時雨」
※以降達人による覗き(獣人)いじめがしばらく続きますのでその手の描写が苦手な方はご注意を
「
「まだだ!手首の返しが甘い!そんな事では落下の際に首の骨をヘシ折ってしまうぞ!もう一度!」
「
「手の関節への極めと脚の関節の極めへの力の加減を考えるんだ!無駄な力がまだ入ってる、もう一度!」
「
「今のは投げまではよかった、だが落とす角度がまずい。首へかけた圧力を考慮しないとせっかくの加減が台無しだ、もう一度!」
「
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
夜の住宅街に先程とは質が違う叫び声が木霊したが出所が岬越寺邸だったので近隣住民にはスルーされる事となった。
「しっかし、なんだったんだコイツは?」
時雨が衰弱したのであろうグッタリした獣人をワイヤーで編んだロープで縛っていく、うちの何処にあんな物があったんだろう?
「亜巳を狙おうとしていたが…心当たりは有るかい?」
そう言っておじ様と時雨がジト目で此方を見てくる…
「いや、その……わーかったよ時雨、正直に言うからそんな目で見ないでおくれよ!」
はぁ、この二人に隠し事は無理さね。
「実は今日芳乃と二人である製薬会社に忍び込んだのさ、芳乃の話じゃそこでは
「
「しかしその結果が彼だと言うのなら中々馬鹿に出来た話では無いかもしれないね、パワー・スピード・タフネスどれをとっても人間以上だったよ」
ソレをおじ様が言うと何故か釈然としないのは何故だろう?
「とにかくコイツはアーカムに突き出そう、それと亜巳がこうして襲われたって事は芳乃も危ないかな?」
「そういえばあいつ等αとβって言ってたね…」
そんな事を考えていると時雨のケータイが鳴った。
「おう、優かどうした?……あぁそれか、こっちは大丈夫だ親父と捕獲したよ。……何、逃がした?まぁ帰る先なんて芳乃が知ってるだろ。それよりコイツを回収してくれないか、流石にペットとして飼うには無理がある。……あぁ、よろしく~」
「やはり向こうにも現れたかね」
「あぁ、芳乃が優に頼ってアーカムビルに駆け込んだらしい。もしかしたらジャンと関係が有るかもしれないからこの件は一任して欲しいってさ」
「そういう事なら問題ないようだね」
「一件落着って事かい」
「いや、この件はまだ終わってないよ亜巳」
あぁやっぱり逃げられないのかい…
「さて亜巳、他でもない話というのはもちろん君のアルバイトの事なんだが…」
あれからあの覗き(獣人)は時雨がアーカムに引渡し私たちは道場へとやってきた、もちろん私は辰達と一緒に服を着替えて来たがあの子達には席を外してもらっている。
「アルバイトをするなとは言わないよ、しかし流石に企業に潜入して資料を盗んでくるというのはねぇ…」
「あー、その辺の事に関しては芳乃に一任してまして…ついていったあたしも悪いですけど」
「うん、以前帰らずの森から帰った時に今後危険な場所に行く時は私か時雨に連絡を入れるようにと言ったはずだけど?」
「その辺りについても今回はあたしの認識不足でした。おじ様、時雨本当にごめんなさい」
そう言ってあたしは頭を下げる、誰がどう見たってあたしが悪いんだからね。すると時雨が…
「あ~、親父その辺でいいんじゃないか?今回の件は恐らく芳乃がちゃんと伝えてなかったみたいだし」
と、フォローを入れてきた。コイツ、本当はあたしにもっと注意したいくせに…あたしが不利になるといつもフォローに回ってくる、例え自分の思いを殺してでも…。だから、あたしは…
「ふむ、まぁ亜巳も反省しているし今回の件に関してはここまでにしよう。ただ一つ聞いてもいいかい亜巳?どうしてそんなにお金が必要なんだい?」
やっぱり聞かれるか、ただ…
チラ…
コイツのいる前じゃぁ……
「……時雨、小雪達が心配しているかもしれないから少し見てきてくれるかな」
おじ様は暗に席を外すように時雨に伝え
「…わかった。亜巳、風呂上りなんだから風邪引くなよ」
時雨はそれに答えて部屋から出て行った、まただ。アイツは解ってた筈だ、あたしが言いにくいのはアイツ本人に聞かれたく無いからだって事に。本当は聞きたいくせに、あたしを気遣ってまた自分の心を殺して席を外しやがった…
視界がぼやける…まったくなんて情けない奴なんだい、あたしは!
「…あたし、時雨の傍に…いたいんです」
「…今も居るじゃないか、現状では満足できないかい?」
「満足なんて出来る訳無い!!だって…、あたしはいつもアイツに護られてる!!拾われた時だって!高校に入った時だって!そして今だって!!今のあたしはアイツの寄生虫みたいなもんだ、とてもじゃないけど隣に立つことなんてできやしない!!」
そう、
「その為にお金が必要だと?」
「アイツの夢は医者になることだって本人が言ってました…、だからそんなアイツの力になれるようにあたしも勉強したいんです」
「…医大の学費かね?」
「はい、アイツの夢が医者になることならあたしの夢はその隣に立つこと。だからそこに時雨の手を借りる訳にはいかないんです、それじゃぁ何時までもおんぶに抱っこで隣になんて立てやしない」
「なるほど…ふぅ、これが若さと言うヤツかな」
「おじ様?」
「そういう事なら仕方が無い、ただし今後は仕事の内容を芳乃君とよく打ち合わせてから行動を取るようにしなさい。それと事前に私かアーカムの方に連絡を入れておいてくれると何かと手伝う事もできるだろう」
「おじ様…でもそれじゃぁ」
「わかっているさ、だが私は君の父親だ。親には子供の夢を応援する義務があるんだよ」
また視界がぼやけ出す…馬鹿だなぁあたしは、結局独りよがりで皆に心配をかけてただけじゃないか。
「ありがとう…父さん」
「話は終わったのか?」
道場を出て母屋の縁側に行くと座って庭を眺めていた時雨がいたのでその横に腰を下ろす。
「あぁ…あの子達は?」
「もう子供は寝る時間だ」
「それもそうだね…」
会話が途切れ静寂が訪れる……
「亜巳」
「なんだい?」
「…好きな女の子を護りたいって思うことは変な事か?」
心臓が止まるかと思った…ダメだ否定の言葉しか思い浮かばない、あたしみたいな素直じゃないケバイ女の何処がいいんだとか、あたしなんかより可愛くて優しくて気の利いた子なんていくらでもいるとか…でも、きっと無駄なんだ。コイツはそんな事を全部ひっくるめて言の葉に想いを包んだんだ、だったらあたしもこの想いを偽る訳にはいかない。
「変な事じゃないさ…。でもね、女だって護られてばかりじゃ嫌なのさ。ソレが本気で愛している男なら、尚更ね」
「そっか」
「そうさ」
言葉はソレっきり……二つの影が一つに重なるのを見ていたのは夜空に浮かぶ月と星達だけであった。
はずだった。
「あ~、しーちゃんと亜巳ちゃんチューしてる!いいなぁ~」
「しー!静かにしろってユッキー、気づかれちゃうだろ」
「やっぱり亜巳ねぇもしーちゃんの事好きだったんだね、私たちといっしょだ」
「しっかしどーする、亜巳ねぇに先こされちまったぜ?」
「だいじょ~ぶだよ、相手はしーちゃんだもん。ボク達が悲しむようなことには絶対しないと思うよ?」
「うん、私もそう思うな~」
「…そうだよな、ぐれ兄ぃだもんな!」
亜巳や時雨の知らないところで一つの派閥が出来ていた、この派閥が後に膨れ上がり「世界最強の花嫁部隊」と呼ばれるようになるかは…この世界の誰も、そして作者もまだわからない。
「む…亜巳と時雨の事をカオス理論で計算してみると何度やっても6~7年後に大騒動と出るな、でもまぁ恋はそれぐらい激しくないとね」
失礼、一人感づいてらっしゃる方がいました。
亜巳さん回でした、なぜAではヒロインに選ばれなかったのかがわからない程…いやもうこれ以上は言うまい。とにかく時雨は彼女を一人ゲットです、しかし作者が目指すはハーレムEND!(周りが納得するかは置いといて)
ま、まぁ…たった一人の女の子に操を立てるのがやっぱり誠実だとはわかってはいますが昔はタカヒロさんも風雲空也城みたいなENDも書いてたし…いいよね?(言い訳)
何が言いたいかと言うと皆ええ子やってことですわ!