バスに揺られること数時間そしてまたそこから1時間ほど歩いてやっとついた村は川神市なんて政令指定都市からやってきた俺にとっちゃ村というよりもジャングルといった所だった。
「あの~、俺たちがお世話になる人って「ドクター」なんですよね?こんなとこに医者なんているんすか?」
「わ~い、ジャングルぐるぐる~~」
「えぇ居ますよ、といっても元々この村は無医村でここに越してきて勝手に住み着いたドクターが診療所を開いているといった形ですが」
「……免許持ってるんですか?」
「必要なのはスキルです、その辺の医者なんかより何倍も腕が立つのは確かですよ?」
そんな話をしながら村の中を歩いていると一つの小屋に列が出来ているのが見えてきた。
「あれは?」
「あそこがこれからお世話になるドクターの診療所ですよ」
「おぉ~家よりボロっちぃ~」
「こら小雪、人の家を悪く言っちゃめーでしょ」
「ごめんなさ~い」
しかし俺も口に出さないだけで結構不安だ、衛生面とか大丈夫か?というか家よりって事は家も多少なりともボロいと思っているということか妹よ…。そんな事を考えていると建物から男の叫びが聞こえてきた。
「ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「なんだ!?」
俺は人垣を分け声のする部屋に飛び込むと信じられないものをみた。
人の手が身体に刺さっている……?
「っ!?おいじj「お待ちなさい」!?朧さん!」
そう言って目の前で横になっている男性の身体に腕を突き刺している白髪の爺さんに飛び掛ろうとする俺を朧さんが制した。
「目に焼き付けておきなさい、コレがあなたの辿り着くべき道の一つです」
そんな俺たちのやり取りなど気にも留めていないのか爺さんは少し手を抉ると無造作に手を引き抜いた、……血が出ていない?というか傷口すらないぞ!?
「ただの盲腸だ、さっさと帰って2~3時間休むがいい」
「おぉ、もう全然痛くありません。ありがとうございました先生!」
そう言ってさっきまで身体に腕を突っ込まれて悲鳴を上げていた男性は元気に帰っていった、…ダメだ理解が追いつかない。
「お久しぶりです、ドクター」
「なんじゃ、やかましいと思ったらお前か朧。ん?それにその子供は?」
「はい、秋雨から連絡がありました…」
「あ、岬越寺時雨です!」
「ほほう、連絡は受けとるよ。お前さんか龍掌を発動させたというのは」
「あの、さっきのは一体?」
「あれはお前さんにはまだちと早い、まずは龍掌をある程度使えるようになってからではないとのう」
「ということは、あれって俺にも出来るようなことなんですか!?」
「まぁ直ぐにとは言わんがの、大体お主気をまともに扱えんのじゃろう?」
「う…、ハイ三日前に初めて使ったばかりで気がついたら倒れてました」
「まぁそうじゃろうな、なんの修行もしとらんヤツがいきなり全力で開放したら誰だってそうなる」
「ハイ…」
「阿呆、落ち込んでどうする。今後はそうならんようにワシが手ほどきを授けてやろうというんじゃ、おまけに朧までついてきておる。はっきり言って気を学ぶのにこれ以上の環境なぞありゃせんぞ?」
そういって爺さんはうつむいている俺の頭にその右手を置いた、暖かいと感じたのは決して気の力なんかじゃなかったと思う。
「お主には気のイロハをワシと朧でミッチリ叩き込んでいく、時間の問題は気にしなくていいと秋雨も言っておったからお主は何
「期待していますよ、時雨」
「はい!よろしくお願いします、ドクター!朧さん!」
「お前さんのような子供にドクターなんて呼ばれても堅っ苦しいだけじゃな、これからはワシのことは師匠と呼べ」
「私の事も朧と呼び捨てで結構ですよ」
「ハイ!」
あの日手に入れた力に最初は戸惑いそして恐怖した、でもこの力が誰かの為に使えるなら…俺は、やってみせる。
「そういえば、秋雨の奴は子供が二人来ると言っておったがもう一人はどこじゃ?」
「あ」
ヤベェェェすっかり忘れてた!この部屋に飛び込んだ時に外に置いて来ちまった!こんな異国の地で一人っきりにしてしまうなんて!?
そうしてもと来た廊下を急いで外に出るとそこには…
「きゃっほ~~~~い!」
「アパパパパパパパ!」
我が妹が2mを超えるであろう巨人と追いかけっこをしていました……虎にまたがって。
「小雪ぃぃhしjhs‘@ふぁy%ぃ!!!」
「おぉおぉ、あれがお主の妹か。元気じゃの~」
「ほう、あの彼はもしや…」
二人の言葉が頭に入ってこない。なんであの娘虎に乗ってんの?っつーか敏捷な虎を余裕で追っかけてるあのでっかい人何?っつーかあんな動きしてる虎を乗りこなしてる我が妹は流石だと思わざるをえない!
「ドクター、いい感じに時雨が錯乱しているようなので説明を頂きたいのですが」
「ほほ、そうじゃの。お~い!アパチャイ!嬢ちゃん、遊んどらんでこっちへ来なさい」
「わかったよ~、じじい」
「うわ~い、ねぇねぇしーちゃん見てみて猫さんだよ~♪」
「いや、ソレ絶対猫じゃないから!虎だから!?」
「え~どこからどう見ても猫さんだよ?ねぇメーオ♪」
「ガウゥ♪」
「猫は「ガウゥ♪」なんて鳴きません!こんな巨体が路地裏にいたらそれこそパニックになるでしょーが!」
「こらこら、時雨。虎はれっきとして猫科の動物じゃ、嬢ちゃんは間違っておらんぞ」
「そうですよ、時雨。第一虎に怯えすぎです、いざとなれば虎の一匹や二匹どうと言う事はないでしょう」
「メーオはアパチャイが昔拾った猫よ~、大切に育てたから他の子よりちょっぴり大きくなったよ~」
あるぇー?もしかして間違ってるのって俺だけ?タイでは虎ってペット扱いなの?
「そ、そうなんですか。まぁそうですよね…、家の地蔵だって陽気のせいで大きくなる事もありますし」
「しーちゃんも撫でてみる?いいよね、メーオ?」
「がうぅ~♪」
野郎、ちょっと可愛いじゃねーか。しかもこれは…
「おぉ…思ったより肌触りがいいな、もっとゴワゴワしてるかと思った」
撫でてみると思いのほか気持ちよかった、こりゃコイツと昼寝とかした日にゃたまんねーなオイ
「さて、時雨も落ち着いたところで自己紹介でも始めようかの。ワシの名前はパーカップ・ラムディ、周りからはドクターと呼ばれておるが…まぁ好きに呼べ」
「じゃぁ、じ~じでい~い?」
「おぉ~おぉ、かまわんかまわん」
そういって笑顔で小雪の頭を撫でる師匠は何処にでもいる孫好きのおじいさんに見えた。
「じゃぁ次は僕の番ね、僕の名前は岬越寺小雪です!」
「元気がいいね~コユキ~」
「うむ、今日からよろしくの」
「よろしくお願いしますね、小雪」
「次は俺ですね、俺の名前は岬越寺時雨です。ここには師匠と朧に修行をつけてもらいにきました、改めてよろしくお願いします!」
「えぇ、ビシビシ扱いていきますので覚悟しておいてくださいね♪」
「おーシグレは修行に来たね、じゃぁアパチャイムエタイ教えてあげるよ~」
「よさんかアパチャイ、せっかくの弟子を壊されてはかなわん」
「ドクター、やはり彼は」
「うむ…じゃぁ次はお主じゃ、アパチャイ」
「わかったよ~じじぃ、アパチャイはアパチャイ・ホパチャイよ~。よろしくね、シグレ、コユキ、オボロ」
「わ~い、よろしくアパチャイ♪」
「よろしくです、アパチャイさん」
「よろしくお願いします、アパチャイくん。それでは最後に私の名前は朧と申します、以後よろしくお願いしますね」
「オボロぼろぼろ~♪」
「アパパパパ、ボロボロよ~」
「こら小雪、それにアパチャイさんも人の名前をからかっちゃめーでしょ」
「かまいませんよ、小雪はまだ子供ですから」
(え、じゃぁアパチャイさんはどうなっちゃうの?)
「それじゃぁ揃ったところで飯にするかの、お主らも長旅で腹がすいとるだろ。修行は明日からにするから今日はたらふく食って明日に備えてやすみなさい」
「は~い」
「今日は食って食って食いまくるよ~」
「お主とメーオは腹六部で抑えんか!いったい誰がエンゲル係数を上げとると思っとるんじゃ!」
そういってアパチャイさんの頭を師匠がガツンと殴った、すげぇアパチャイさん隙なんて微塵もなかったのに無造作に一発入れたぞ。
「わ~いごっはんごっはん、しーちゃん、アパチャイ行こう♪」
「あー、俺はちょっと師匠と朧と話があるから先に行っててくれ」
「うん、わかった~。しーちゃんも早く来てね、アパチャイいこう~」
「アパパパパパ」
そうして小雪とアパチャイさんは師匠の家に入って行った、この場に残ったのは俺と師匠と朧だけだ。
「師匠、アパチャイさんってもしかして…朧もなんか知ってるの?」
「ほう、気付いておったか。実はアパチャイはあの若さで「裏ムエタイ界の死神」と言われておっての、実力は今はお主の親父にも勝らずともいずれは…と言ったところかの。」
「やはり彼が噂の死神でしたか、一度手合わせをしてみたいものです」
「やめておけ朧、あやつはその生い立ち上手加減が出来ん。試合ではすまんぞ?」
「…大丈夫なんですか?」
裏だの死神だの良い印象の単語が一つもないんだが……でもあの人は
「お主も気付いておるのじゃろ?確かにあやつは死神等と呼ばれてはおるがソレは生きる為には仕方が無かった事じゃ、この国ではそうやって稼ぐ事しか出来ない人間が多いのじゃよ。しかしあやつが死神となるのは戦う時だけじゃ、相手を倒さなければ自分が死ぬという裏ムエタイ界で勝ち続けたあやつの闘争本能は並ではない、じゃがその優しさは遺伝子レベルに達しておる。それに気がついたから溺愛している妹を任せたのじゃろう?」
そう、最初に見た時に驚いたのは体捌きもさることながら一緒に遊んでいた小雪の笑顔だった。
小雪とは会ってから3日しか経っていないがアイツがあそこまで楽しそうに笑って遊んでいるのは初めて見た。小雪はその生い立ち上、悪意には敏感になっているようで俺や親父みたいに小雪にたいしてまったく悪意の無い人間は問題ないが少しでもそういったものを抱えている人間に会うと露骨に反応が変わってしまう。ASEビルに寄った時に何人かのスタッフに反応してしまった為に親父が百舌さんに忠告をしていた、まさかとは思うが…な。
つまり小雪があそこまで懐いたアパチャイさんだ、俺が信じない訳にはいかない。
「はい、とても優しそうに思えました。」
「こちらにいる間はあなたは修行漬けになってもらいますのでその間小雪の相手には調度いいんではないですか?」
「そうじゃの、戦う際はリミッターが外れてしまうが子供や動物と遊ぶときはなんの問題もないからの」
「本当は俺が見てやりたいんですが…」
「お主のような若い奴にありがちじゃがアレもコレもと欲を出すと何も手に入らんぞ?まずは目の前の問題を片付けてそれから次の問題を解決せい。一人でやれることなんてのは限られておる、誰かに任せられるうちは任せてしまえばいいんじゃ」
「そんなもんですか?」
「「そんなもの(じゃ)(ですよ)」」
二人に言われて少し肩の荷が下りた気がした。
俺は心のどこかで小雪を守ってやれるのは俺しかいないと思っていたのかもしれない。
でも俺の周りには親父や高槻のおじさん、それにココには師匠や朧、アパチャイさんもいる。
こんなにも小雪(あいつ)は皆に護られてる、なら小雪の傍にいる俺の役目は小雪といることを楽しむ事なんだろう、きっとそれが小雪の幸せに繋がるんだと思う。
「さて、それじゃぁ飯にするか。あんまり遅いとアパチャイの奴がうるさいでの」
「そうみたいですね」
待ちかねたのか小雪がプンスカ頬を膨らませながら俺たちを迎えに来た、それだけならとても可愛らしいのだが虎にまたがってる時点で台無しだ。
でもこういった生活が小雪にはこれから必要なんだ、家族と暮らして友達と遊ぶ。そういった日常を守る為にも俺はここで頑張ってみせる!
こうして俺のタイでの修行が始まろうとしていた、俺にとっても小雪にとってもここでの生活は掛け替えの無い物となるだろう。
「そうですか、アパチャイくん。ボロボロですか、ボロボロ…ね」
何も聞こえてないよ、ホントだよ?
ドクターとアパチャイ参上!なにげにドクターも昔裏世界最強の殺し屋とか言われてましたね~、しかし擬似瞬間回復?的なソーマを飲んだ武器商人を一蹴してたけどそれってまんま百代にも使えるんじゃね?いややった瞬間死ぬけどね。