今日は気温が高く、霧が濃ゆかった。だからきっと、こんな出会いでもないと、彼女を見つけることはできなかったであろう。
※作者の完全な妄想小説です。苦手な方は見ない方がいいと思います。
※一応、ラブコメに入るのかな、でもほぼ恋愛は無いです。また、完全に本編について知ってる前提で話しています。『リバース:1999』をプレイしていない方、ストーリーが進んでいない方は見ないでください。
ザザザザザ────────
強く、雨が降り出した。
これまで経験したことのないような、雨だ。
『ストーム』の前兆の代わりのように現れたその豪雨は、一瞬にして、世界を覆った。
ノアの方舟の大洪水を思い立たせるそれは、人生で一度は触れる我々にとって、畏怖の対象だ。
それは、私にとっても変わらない。
時代の終わりは何度も見てきたはずなのに、今までとは違うそれに、確かな恐怖を抱いていた。
下を見てみる。すると、いつの間にか、土が泥絵と変わり、小さな沼のように私の靴を咥えている。
そして、さらに不思議なことに、ついさっき降り出したはずの雨は、いつの間にか、うっすらと、しかし確実に肉眼で見えるように水面を作っていた。
ほんの数分で作られた薄い水面の波に、鉄砲のように振り続ける雨に打たれ、雑草が踊るように激しく揺れていた。
少しだけ、息が荒い。
でも、自分の息遣いは聞こえない。ただ、小さく会いたまま閉じない口を自覚して、そうと分かっただけだ。
これは恐怖からくるものだ、未知への恐怖、足元を侵食している水への恐怖、そして、孤独からくる恐怖。
全ての音を、豪雨による轟音が打ち消した。
三歩ほど離れたところで、赤髪の少女が必死の形相でこちらへと叫んでいるが、聞こえなかった。
本当に、不思議な気分だ。
何も聞こえず、ただただラジオの砂嵐のように耳元を、断続する水の音が制圧している。
何も考えず、空を見上げた。単純に、この惨状を作り出す雨の送り主が、どのような姿をしているのか気になったからだ。
見上げてみても、それは何の変哲もない黒い暗雲が広がっていた。まるで、この豪雨とは、何の関係もないように。
大きな雨に打たれ続け、とうとう衝撃が摩擦を上回ったシルクハットが足元へと落下した。
シルクハットという薄い防護膜を失った私の白い髪は、バケツを掛けられたような大量の水にさらされた。
地獄のような雨で、救いのような雨だった。
まるで、海がそのまま流れ込んできたような雨で、この世界にこびりついた何か濁ったしつこいものを洗い流すようで、私たちの終わりを告げるような、冷ややかな雨。
いつの間にか、私の体は重心の制御を失い、仰向けに倒れていた。
すでに泥がクッションになる程ぬかるんでいて、痛みは感じなかった。
私はまた、何も考えずに瞼を閉じた。
ほんの少しだけ、この、幻想的で終末的な世界に、浸ってみたかったのかもしれない。
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その日は、いや、その日々は突然とやってきた。
朝、リビングで歯を磨きながらスマホを覗く、そして、一応ニュースを垂れ流しながら優雅な朝を過ごしていた。
そんなひと時を邪魔するかのように、テレビからけたたましい警告音が鳴り響いた。
それに対し、ほんの少しだけ関心をスマホから逸らされた俺は、テレビを横目見た。
そこに書いてあるのは、洪水注意報。しかも俺の地域だ。これは、今日は雨靴にカッパをつけなきゃな、めんどくさいな、なんだかジメジメしそうだなとか思いながら、再びその日の朝を続行した。
異変に気づいたのはその後すぐだった。
スマホの画面上に学校からのメールが来たという通知が表示される。
一途の期待を胸に、俺はそこからメールを開いた。すると期待通り、今日は休校だという知らせが目に入った。
その時は、無邪気にも狂喜乱舞していた。
しかしそれも一瞬のこと、洪水は、その翌日になっても続いていた。
小市民な俺は、たった一日続くだけで、なかなかに怯えてしまった。
水戸たび玄関の扉を開けると、津波のように押し寄せ、玄関の靴を濡らしまくる雨水たち。洪水の影響で、乗り捨てられたまま道路の脇に放置されている車達、どれも初めてみる、違和感満載の光景だった。
それに、恐怖しつつも、変わりきってしまったこの街へ、小さな探究心も生まれていた。
それから一週間も経つと、俺の在校する自称進学校は、休校状態を解除し出した。イカれたことに、一週間たってもなお、雨は一日たりとも降り止まなかった。
急行状態が解除され、二週間ほどがたったある日、この洪水が流れて、およそ一ヶ月がたったある日のことだった。
勿論まだまだ洪水が止む気配はない。それでも、冷蔵庫の食料が尽きたらスーパーまで買いに行かねばならないのだ。
面倒な程に襟の高い雨靴を足にはめ、黄色のレインコートをかけて、防水仕様のカバンを持った。
玄関を出ると、足首の上の方まで上がった水面が、街を覆う水たまりが、歩こうとする足に絡みつく。
このせいで、一ヶ月前までの何倍もの時間がかかるし、何より、とても疲れた。
だんだんと慣れてきたこの感覚に苛立ちながらも、俺は目当ての場所へ歩みを進めた。
足を一歩進めるたびに大きな波紋が立ち、それと同時にバシャンという水が飛沫となった時の音が鳴る。
街を見ると、乗り捨てられたり、はたまた忘れられたりしたものが多く目に入る。
歩道の水たまりに沈み、錆だらけになった自転車。
車道の脇だったり、真ん中だったりに乗り捨てられ、今やタイヤは完全に沈みきっている誰かの車。
ぷかぷかと浮かぶ、誰かの水筒や携帯電話、そして木の枝。
最初のうちは、物珍しさに目を光らせていたが、流石に一ヶ月も経つと日常となってしい、今はさほど興味はない。
空は雨雲に覆われ、この街は、最近ずっと暗いままだ。
しかも、この日はやけに気温が高く、街中だというのに霧が出ていた。
視界も悪ければ、雨音のせいで耳を聞こえない、そして、足は水のせいでもつれてる。最高に最悪な日だったと言えるだろう。
でも、そんな日も最高になるようなものに出会った。
イライラしながらも、このジメジメとした暑い街を歩く。
シャドウを使ったショートカットをしながらも、ひたすらに歩いていくと、突然、肩に衝撃が走った。
生暖かく、濡れている、それでいて柔らかい感触だった。
その直後、バシャン!と言う、水柱が立つ音が、この雨で作られた轟音の中を掻い潜って、俺の耳に届いた。
そこでやっと、人とぶつかったと言うことに気づいき、焦って横を振り返った。
「すみません、大丈夫───」
ここでは見かけない、洒落たネイビーブルーのシルクハット。
「──で──」
英国紳士のようにボーイッシュ、しかし、少女にも見える可憐な、帽子と同色のトレンチコート。
「──す──」
空を覆う雲が、そのまま描かれたかのような、少し明るい灰色の髪。
「──か──」
そして、どこか神秘を感じさせ、しかし人らしく、感情の隠しきれない灰色の『瞳』。
鈴のような『彼女』の声が、俺の耳から侵入し、心臓を通過し、そのまたさらに奥の、まだ名称のついてないであろう部分に突き刺さった。
「すみません。少し、よそ見をしていました」
心臓が、雨の音を押し上げるように、騒々しくなり出した。