幻の夢を追いかける華   作:日振

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 1から10までを拍手喝采で

 

 落ち着いた色のカラーブラウスの胸元にはキラキラとボルドーに輝く飾りが付いたリボンが結ばれ、美しく鍛えられた両脚は歩く度にふわりと揺れるスカートで隠されている。

 コツコツと太めのヒールで音を奏でているのは柔らかく巻いた髪を結んだウマ娘、アセビロード。

 

「お客さんとして来るのは久し振りだ」

 

 どこかワクワクとした表情を浮かべながら、ポツリと呟いた言葉は賑わうレース状の中で誰にも聞かれずに溶けていく。

 レースプログラムを手にし、目的のレースが記載されたページの隅を軽く折る。

 

「さて、時間はまだ余裕があるし、楽しんじゃおうね?」

 

 ロードはプログラムをバッグにしまうと、再びヒールをコツコツと鳴らしながら広い場内を歩き始めた。

 

 

 レース場内で営業しているグッズショップへと入り、様々なウマ娘のグッズが並んでいるのをロードは感慨深そうに眺める。一つ一つにウマ娘の頑張った歴史があり、頑張ったからこそグッズが作られる。

 だが、グッズが作られるのもごく一部の、嫌な言い方をすれば才能がある上澄みのウマ娘だけで、自身のグッズがないのはまだしも、何人、何十人と顔や走りが思い出せる仲間達のグッズが殆ど置かれていない事実に眉を下げる。頑張っているのになぁ、という気持ちと、もっともっと頑張らなければという気持ちに襲われる。

 

「お祭り前に、ネガティブは駄目だね」

 

 深呼吸をして、気持ちを切り替える。そして、例え少なかったとしても確かに存在する仲間達のグッズへ手を伸ばし、カゴに入れていく。常日頃、お小遣いを貯める努力をしておいて良かったと先程とは打って変わって幸せそうな笑顔をロードは浮かべた。

 居座るのも悪いからと手早く会計を済ませ、ショップを出たロードは時計を確認し、早めに食事を済ませようと頭の中で何にしようかと考えていれば、視界の中に見慣れた姿を見つけて立ち止まる。

 間違えたらどうしよう。いや、間違える筈がないと早足で近付いて、あの、と声を掛ける。

 

「ん?」

「やっ、ぱり、ジュウちゃんだったね……!」

「おー、先輩じゃん。何、レース?」

「この格好でそんな訳ないんだね? そういうジュウちゃんはレースかな?」

「今ポテト食べてるから無理」

 

 その言葉と共にロードがジュウちゃんと呼ぶウマ娘から口にポテトを入れられむぐむぐと咀嚼する。揚げたてだったのか、口の中に暴れウマが入ってきた様で吐き出せない代わりにロードの尻尾が熱を逃そうと無意味に動く。

 ジュウちゃんはロードの姿を見てケラケラと笑うが、ロードはジュウちゃんの肩を勢い良く叩く。

 口の中のものを漸く飲み込んで、熱を覚ます様にポテトを売っていたであろうお店からロードはドリンクを購入する。

 

「全く、悪戯っ子は困りものなんだね?」

「それを許してくれる先輩で助かるぜ」

「いつか仏の顔がなくならないと良いのだけれど」

「先輩は俺達の事大好きだから、仏の顔はなくならないだろ?」

「……そんな事ないね」

「先輩は分かり易いなぁ!」

「そ、そんなのはどうでも良いね! それより、デイトちゃんは?」

「あ? なんでアイツの名前が出んだよ」

「だって、君達ニコイチみたいなものじゃない」

「は〜? そんな事ないんだが? まぁ、でも、そこら辺歩いてるんじゃねぇの」

「もう、連絡しちゃお」

 

 ロードが携帯を取り出しデイトちゃんへとメッセージを送れば、タイミングが良かったのか直ぐに返信が届く。

 現在地を共有すれば、動かないで欲しいと返ってきてロードはジュウちゃんの空いている腕に自身の腕を回す。

 

「どうしたんだよ」

「君はもう、動けないんだね?」

 

 ニコリと笑顔を浮かべるロードに対し、ジュウちゃんはこれからを察したのか面倒臭そうな表情を浮かべた。

 

 

 過酷なコースを強く踏み込み、目の前に迫る障害を飛び越えていく。一年の中でたった2度しか出走出来ず、たった2度しか見る事が出来ないお祭りはレコードの文字で決着した。

 レコード、そして、連覇の栄誉を己の脚でもって掴み取ったウマ娘は、長丁場の疲労など感じさせず緑と黄色を基調とした勝負服で飛び跳ねながら嬉しさのままに声を上げていた。

 

「よく頑張ったんだよー!」

 

 出走した9人がゴール板の前を通過した後、大きく離された1人のウマ娘が通過する。唯一左耳に飾りを付けたその娘は、実力だけで言ってしまえば勝負の土俵には立てなかった。しかし、4000メートルを超え、道中も過酷な中山のコースを諦めず、小柄な体格にも関わらず転ぶ事なく走り切った。

 大きな声援が10人のウマ娘に送られる中、ロードもまた惜しみない拍手と言葉を送る。

 

「今回のレースも良いもの見れたんだね!」

「えぇ。私達も負けていられません」

「俺の方が速い」

「ジュウちゃんはちょっと、速過ぎるかもです」

「大丈夫よ。私がちゃんと勝つから」

「俺、絶対王者なんだけど?」

「私も王者。舐めないで」

「まぁまぁ! ビリビリするのはレースの時だけ、なんですね! 今は走り切った皆が主役、です!」

 

 ロードを挟み、ライバルらしい一触即発の雰囲気を宥める様に、軽く手を鳴らした後2人の肩を抱く。

 ウマ娘の中でも大柄なロードの腕に包まれて、ジュウちゃんとデイトちゃんの勢いは鳴りを潜める。

 

「お疲れ」

「ありがと〜ってなんだ、先輩か」

「あ〜? 俺からの労りをもっと喜びやがれ」

 

 ただの気紛れか、ジュウちゃんが誰に向けるでもなく適当に放たれた言葉はコースから上がってくる明るいミモザ色の勝負服のウマ娘が捉えると、レースの特性上他と比べても年代問わずに繋がりが強いが故の気安いやり取りへと変換して言葉を交わした後、ウマ娘は改めて有難うと笑いながら「逃げろ〜」と控え室の方へ走って行った。

 





これからも、幸多からん人生であります様に。
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