幻の夢を追いかける華   作:日振

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 おめでとう

 

 1人のウマ娘がトレセン学園内を歩く。本人は気にしていないが、一歩踏み出す度に周りからの視線を集め、動きが止まっていく。

 ヒソヒソと話される会話に耳を傾けず、今にもスキップをしそうな軽い足取りで進むのはアセビロードという名の少女。

 長い髪が尻尾と共に揺れる。時折誰かを探す様に首を振るが、踏み出す一歩を止める事はなかった。

 

「……ど、こ、か、な〜」

 

 揺れるリボンが解けていないか確認しながら歩くロードの瞳には、純粋な喜びだけが映っていた。

 ウマ娘の感覚からしても暫く歩いたと感じる時間を歩き、ロードは漸く脚を止める。そして、一度深呼吸をした後に大きく口を開く。

 

「ジュウちゃん!!」

 

 声は、廊下。いや、廊下から繋がる関係のない教室にまで響き渡り、なんだなんだとこれまで以上に視線を集める。

 ジュウちゃんと呼ばれた相手は、突然の事にどこか未知なるものを見たかの様な表情で振り返る。

 

「うるさ……なんだよ、センパイ」

 

 仰々しく耳を抑え、不満げに口を開くウマ娘はジト目でロードを見つめる。

 反対に、ロードは彼女の様子を気にする事なく、離れた距離を大股で縮めれば大事そうに抱えていたものを掲げる。

 

「おめでとうっ!」

「あー……何が?」

 

 正反対なテンション感。全身で祝福を伝えるロードと、首を傾げるジュウちゃん。

 はい、と掲げた花束をロードは手渡すが、矢張りジュウちゃんは首を傾げるばかりだった。

 

「何、本当に怖いんだけど」

「とぼけなくて良いんだね? うらは耳が早い! ジュウちゃんがURAから表彰されたお話は、とても鼻が高いよ!」

「表彰だぁ? あぁ、その話か」

「もっと喜ぶんだね!」

「いや、喜んでるよ? ただセンパイの奇行の所為でそれ以上に困惑してんだよ」

 

 ロードが手渡したもの、水色のリボンでまとめられた花束は寮や学園の外で渡されていたとしたらまだ別の反応があったかもしれないが、学園の廊下で渡されるものにしてはあまりにも目を引いてしまう。しかも、百歩譲ってプレゼントであると押し通せる手のひらサイズという事でもなく、プロポーズにでも使うのかと言いたくなる程に、大きくしっかりとしたデザインだった。

 

「トルコキキョウとゼラニウム……嫌いだった?」

「そうじゃねぇ、無駄にデカい花束が学生のTPOに反してるって言ってんだ」

「でも、お祝いだから……」

「オメデトーで良いだろ」

「それだけだとうらのこの祝福したい気持ちには足りないよ」

「いや、持ち帰る俺の身にもなってくれ?」

 

 ほのぼのとしているが、それ故に時々恥じらいと言うべきか、他者が感じる様な感覚にロードは鈍い所があった。

 今もジュウちゃんが困った様子で花束を持っているにも関わらずロードは何も気にしていない。

 

「……なぁ、センパイよ」

 

 小さく息を吐いたジュウちゃんがロードの瞳を真っ直ぐに見つめる。ロードは首を傾げながらも、ジュウちゃんの瞳を見つめ返す。

 

「次からは前もって言ってくれよな」

「う、ん……ごめんね」

 

 ピシッとした口調に、いよいよこれは相手を不快にしてしまったのかとロードは耳を下げる。

 だが、ロードが困らせようとか、わざとプレゼントを大きなものにしたとか、そういった悪意となり得る感情を一切込めずに0から100まで、全て純粋な好意でやっているのもジュウちゃんは分かってしまっていた。

 

「なんだよ急に静かになりやがって」

「だって、困らせちゃったから」

「あー、もう! ありがとよ! 嬉しいよ!」

「ほ、本当……!?」

「ほんとだホント。だが! 贈り物するんだったら事前に言え。これだってこんなに綺麗にしてもいきなりだと飾る所がねぇんだよ」

「……気を付ける、んだね」

「おう」

 

 しゅんとした所から、パタリと尻尾が一度揺れる。

 機嫌は治ったかと思った瞬間、ロードがジュウちゃんへと両手を伸ばす。

 

「今度はなんだよ」

「プレゼント、考え直してくるんだよ」

「良いよ。貰っとく……どうせ、無駄に色々考えてんだろ?」

「無駄には考えてないんだね? リボンはジュウちゃんの色、ゼラニウムは誕生花、トルコキキョウは6月に咲いている花……それくらいなんだ」

「うーわ、無駄に色々考えてる」

「な、この程度考えているに入るのかな!?」

「考えてるよ。俺ならチロルで済ますね」

 

 ジュウちゃんはうへぇと言いたげにへの字の口を作るが、直ぐにクツクツと喉を鳴らす。

 相変わらず無駄に色々考える奴だと思いながら、己より少し高い位置にある頭を乱雑に撫でる。綺麗に整えられた髪がくしゃくしゃにされても、ロードはされるがまま、逆にどこか嬉しそうに目を細める。

 

「貰ってくれて、有難う……改めて、おめでとう」

「センパイも表彰される様に頑張れよ」

「うらは〜、ちょっと難しそうだね?」

「諦めんな。夢見るのはタダだぞ?」

「……そっか、そうだね」

 

 GIレースを勝利しているという何者にも変えられない実力があるとは言え、今回表彰されたジュウちゃんの様な華々しい何かを持っている訳ではないアセビロードが表彰される未来は、天地がひっくり返る程の事が起こらない限り難しい。

 だがしかし、トレセン学園へ入学する時、荒唐無稽だとしても沢山の夢を抱えていた様に、目標や夢を持つのは誰にも害されない自由。

 ロードは有難うと言いながらジュウちゃんの身体を思いっきり抱き締める。今度は、苦しい、離れろと叫ぶジュウちゃんの声が、廊下中に響き渡っていた。

 

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