幻の夢を追いかける華   作:日振

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 軽口を携え天路を往く

 

 至る所で笹の葉が揺れる商店街や街並みを見つめながら、楽しそうな脚取りでアセビデージーは歩く。時折着用したサングラスを上げ、すげーと小さく声を上げれば近くに立つスタッフか、店の関係者から細長く切られた紙を渡されて手に取る。

 

「W」

 

 サラサラとペンで文字を書き、何色もの色で彩られた笹へと結び付ければ「サンキュー」と言われ、ウインクを返す。

 笹と短冊が飾られている度に脚を止め、その度に願い事を書く。「Facciamo del nostro meglio」、「Hälsa」、「Viel Glück!」と、毎度毎度最後には「サンキュー」と言われ、毎度毎度ウインクを返していく。

 

「お、デージー来ましたね」

「おーす。時間ピッタリだったろ?」

「2分チコク」

「はぁ!? 2分くらい遅刻したに入んねーだろ。姑かよ」

「シュウト、メ……は分からないけど、これがレースなら駄目はデージーね」

「……ぎゃふん」

「ぎゃふん?」

 

 デージーが口をへの字に歪め目線を外すが、トレーナーであるルドルフ・コヴァーチュは特に気にする事もなく、慣れた様子で肩を叩く。

 学生とトレーナーの二人組にしては大きめの荷物を引き連れてわちゃわちゃと話しながら移動すれば、少し前に世話になった施設へと辿り着く。

 

「オッケー」

「あと一時間、自由時間にしましょう」

 

 必要な手続きを済ませ、時計を確認すれば予定時刻の一時間半前を針は指している。

 ルドルフの言葉にデージーはサムズアップで了承を伝えると、くるりと踵を返して歩き出す。集合場所は決めていないが、別れた場所の近くにカフェがあったのでルドルフはそこにいるだろうとデージーは思い、実際にルドルフは真っ直ぐとそのカフェへと入店する。

 以心伝心なんて格好良いものは持ち合わせていないが、相手が行きそうな場所の目星を付けられる程の仲の良さは持ち合わせていた。

 

「ど、れ、に、し、よ、う、か、なぁ〜?」

 

 ずらりと並んだショップの一つ、目に留まった場所に並ぶ様々な食べ物へ目を向けながら楽しそうに言えば、運良く一番気になっていたものの前で指が止まる。

 デージーは内心「よしっ」とガッツポーズをすると、手に取りレジへと向かう。賑わいをみせる店内は何人かの客が列を作っており、「儲けてんねぇ」とデージーは下世話な事を考えながらその列へと加わった。

 

 

 予定時刻丁度にデージーとルドルフは飛行機へ乗り込むと、滑走路から鉄の塊は無事に飛び立つ。

 小さくなっていく地面と、移り変わる景色を見つめながらデージーは楽しそうにサングラスを外す。

 

「まさか、この俺が短期間に2度も飛行機の世話になるとはねぇ」

「これからもっとお世話なりますね? 我々は、外の舞台を目標にしますから」

「誰だっけか……そう、ドリームジャーニーさん? も驚いてたなぁ。こんだけ委員会を活用してくれるウマ娘はいないって」

「海外に行かないウマ娘が殆どですからね」

「俺達って珍しいね?」

「珍しい通り越して異常、だね」

 

 違いないとデージーは先程貰った林檎ジュースを飲みながら再び窓の外へ目を向ける。

 滑走路を離れてから時間が経ち、眼下の景色はもう見慣れないものへと変わっていた。

 

「そういえばさ、今日七夕じゃん?」

 

 景色を眺めるのを辞め、映画を見ていたデージーが何の気なしに言えば、パソコンで作業していたルドルフがそうですねと頷きながら手を止める。

 

「いや別に、特別な事がある訳じゃないんだけどさ、今日待ち合わせ場所に向かうまでの道で見つけた笹に全部願いをくっ付けて来たんだけど」

「普通、そういうのは一度なのでは?」

「まぁまぁ良いじゃん、向こうがくれたんだから」

「……全く」

「でな。普通に書くのも面白味がないってんで、スペイン語とかドイツ語とか、全部日本語とは違う言語で書いたんだよ」

「本当に何しますね?」

「そしたらさ、必ずサンキューって言われた。俺、ガチで海外のウマ娘だと思われたみたいなんだわ。こんなにもJAPAN感マシマシなのに」

「それだけ不思議に見えたって事ですね」

「え? 遂にデージーちゃん、ミステリアス属性追加って事?」

「いや、チカヨリガタイとかよく分からないという意味の不思議って事ですね」

「不思議ちゃんの方かい」

 

 デージーは「えー」と文句を言いたそうにしながらも、どこか自覚はあるのか次の言葉が出る事はなかった。

 意識こそ向いていなかったが、再生のままになっていた映画を止め、ダージーはグッと身体を伸ばす。目的地までの長時間フライトに、流石のウマ娘でも身体が凝り固まっていた。

 

「椅子、倒します?」

「んー……迷惑になるから良いよ」

「後ろ、誰もいないね。Neboj se.」

「そうか? じゃ、遠慮なく」

 

 デージーは少し辿々しい手付きでリクライニングを操作すれば、「楽だー」とルドルフへドヤ顔混じりに言う。

 背もたれの角度を調節し気付いたのか、デージーの後ろは偶然にも空席となっていたが、ルドルフの後ろには1人の強面に見える旅行客が座っていた。

 

「聞いてやろうか?」

「何を」

「Je v pořádku, když sklopím židli? って」

「全く、生意気ウマ娘だね」

「えー? 俺、悲しいなぁ。泣いちゃうなぁ」

 

 表情を変えないまま言うデージーに対し、ルドルフも笑いながらその耳を擽れば、デージーは「ギャッ」と間抜けな声を上げた。

 

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