幻の夢を追いかける華 作:日振
休日。真っ白なベレー帽を被ったアセビルピナスは、本人の資質とは反対にゆったりとした脚取りでコンクリートの上を歩いていた。
特に目的がある訳でもないが、何となく、ほわほわとしていれば、遠くに見知った後ろ姿を見つけて声を上げる。
「こんにちはー、ですねー」
ルピナスの声に反応した30センチ近く低い身長のウマ娘が振り返る。可愛らしい顔付きと、裏腹なスタイリッシュな服装。
「先輩、こんにちは!」
「偶然ですねー。今日は、お出掛け、ですかー?」
「あぁ、そうなんだ!」
「んー。でも、お友達、遅れてますねー?」
キョロキョロとルピナスが辺りを見渡すと偶然出会ったウマ娘、ビコーペガサスも釣られて同じ様な素振りを見せる。
そして、ルピナスが不思議がった状態に「大丈夫だ」と笑顔を見せる。
「今日は、張り切ってアタシが早く来ちゃっただけなんだ! 集合時間はまだ先で」
「およー? そうなんですねー……では、ルーちゃんはお友達の皆が来るまで一緒に過ごしても、良いですかー?」
「えっ? でも、先輩も用事があるんじゃ」
「いえいえー。ルーちゃんは、どちらかと言えばお散歩だけなのでー」
「そうなのか。じゃ、じゃあ、一緒にお話したい!」
「ふっふっふー。お任せあれ、ですねー」
ルピナスとビコーは直ぐ側にあるベンチに移動し、腰を下ろす。
休日ともあってか、視界に移る景色には数え切れない程の人間やウマ娘達が楽しそうに歩いていた。
「あ、そうでした。人参ジュースで良いですかー?」
ルピナスが近くにある自動販売機に目を向ければ、ビコーは焦った様に両手を振る。
「いや! 自分で買うから大丈夫だぞ! 気持ちだけ貰っておくよ!」
「ダメですー。こういう時は、先輩にちょっとでも格好付けさせて下さいー」
「……そ、そうなのか?」
「はいー。そうですよー」
「有難う! 頂きます!」
軽く頭を撫でた後、ルピナスは立ち上がり目的を済ませると再びビコーの隣に腰を下ろす。
食道を下っていく冷たさを感じながら、最近の肌寒さを思い出して間違えたなとどこか他人事の様に考える。
「そういえば、今日のビコーさんはいつもと雰囲気が違いますねー?」
「これか? これはな! 少し前に資料保管室調査隊として新しく買ったやつなんだ!」
「資料保管室調査隊? あぁ、聞いていますよー。確か、困ったさんにダメですよーって言って、その上で皆ハッピーにした、ですねー?」
「そうだぞ! と言っても、隊長には沢山迷惑を掛けちゃったんだけど……」
「隊長?」
「フェノーメノ先輩の事だ!」
フェノーメノ。その単語を頭の中で繰り返し、あぁ、とルピナスは思い出す。
だが、記憶の中にあるフェノーメノというウマ娘は中・長距離を専門とするウマ娘であり、ルピナスの勝負する舞台とは絶対に交わらないからこそ、その程度の事しか分かっていなかった。あとは、風紀委員会に属している事も。
「フェノーメノさんの事は、よく知りませんがー、きっと良きリーダーなんでしょうねー」
「隊長はすっごく優しいんだ! アタシたちが自分勝手な事をして失敗しちゃっても、それでも、アタシたちの気持ちを汲み取ってくれて……最後は、たくさん褒めてくれたんだ!」
ルピナス自身は出走するレースの適性の違いから、フェノーメノの事を殆ど知らないが、今、ビコーが語った話からでも仮定として言った「良きリーダー」という称号から外れない性格をしているという事が伝わってきた。
自分の知らないトレセン学園の話に、どこかワクワクとした感覚を覚えながら人参ジュースを飲めば、ただの街の一角ながらおしゃれなカフェにいる様な気持ちになって尻尾が揺れる。
一度、時計を確認すれば25分になる辺りを長針が指していた。
「あ!」
そろそろかと思っていた手前、タイミング良くビコーが声を上げる。同じ場所を見つめれば、学園で何度か見た事がある顔があって、ビコーに向けて手を振っていた。
「皆だ!」
「ではー、ルーちゃんはここでドロンしますねー」
「今日は皆でショッピングなんだ! 先輩もどうだ?」
「いえいえ、ルーちゃんが突然入ったらビックリさせてしまいますからー。また次の機会に、お邪魔しますー」
「そうか? じゃあ、今日は本当に有難う!」
ビコーが一歩を踏み出す。そして、タッタッタと軽い音を立てて進んだ後、不自然に立ち止まる。
「遊びに行くだけじゃなく、レースでもまた一緒に走ろう!」
「えぇ。負けません、ねー!」
「アタシだって、ヒーローが勝つ!」
お互いに拳を出し合って、ビコーはまたルピナスに背を向け走って行く。
ルピナスも立ち上がり、ゴミ箱へ人参ジュースのペットボトルを入れると歩き始める。
当てもなく、コツコツと靴を鳴らして楽しそう、急いでいそう、落ち込んでいそう、様々な感情を浮かべる相手とすれ違いながらほわほわと進んで行く。
「さーて、門限まで何をしますかねー?」
1人でテーマパークにでも行ってみようか、そんな事を考えながら携帯のパスコードを打ち込めば、気になっていた施設のブックマークしていた事を思い出す。
確認すれば、ルピナスが立っている場所からも遠くなく、休みでもない。
「思い立ったが吉日、ですねー」
ルピナスは公式ホームページの地図を確認すると、新たに一歩を踏み出した。