幻の夢を追いかける華 作:日振
ざわざわって大きな音がする。たくさんのヒトたちが見ているのが分かる。
わたしたちを見ているヒトたちは、わたしたちに向かって「がんばれー!」って応援しながら、キャーって楽しそうに笑っている。わたしは、ヒトが笑っている姿が大好きだから、その笑顔がもっともっと見れるように、もっと笑顔になってくれる様に「頑張るぞ!」って気持ちになる。
「こんにちは」
頑張るぞときあいを入れながら、こがねいじょっきーをせなかに乗せて歩いていれば、となりから突然あいさつをされてびっくりする。
そんなわたしを見て、あいさつをしてきた知らないオトコノコはすみませんと笑った。
「イヤな子。驚かすなんてサイテイね」
「シツレイしました。どうか、許してはくれませんか? お嬢さん」
「イヤ。わたし、お嬢さんじゃないもん。わたしはアセビボタンって言うのよ。素敵な名前があるの」
「それは、重ねてシツレイを……ボクはトキノミノルと言います」
「ふーん。アナタはトキノミノルって言うのね……それなら、アナタはミーちゃんね」
「ミーちゃん……ボクは、オトコノコ、なのですが……」
ミーちゃんはなんだか恥ずかしそうに首を振る。でも、ミーちゃんって名前を気に入らないなら、許さないわって言ったら、それで良いですってミーちゃんはあせったみたいなかんじで言った。
わたしは、となりのミーちゃんと話してなんだかふしぎな気持ちになる。となりにいるのはつぶらやせんせいとかほうじくんとか、こがねいじょっきーじゃないのに、わたしの嫌いな子たちと同じなのに、あんまり嫌に思わない。
「……ねぇ、どうしてアナタは大丈夫なの?」
「大丈夫。とは、どういう意味でしょうか」
「わたしね、ヒトが好きなの。それ以外はキライ。でも、ミーちゃんは大丈夫なの。不思議だわ」
そう言うと、ミーちゃんはさっきと変わってなんだか誇らしげに笑った。
もうすぐで走る時間なのに、いつもと違って頑張るぞって気持ち以外のキモチがあってヘンな感じだ。
「もしかしたら、これからも会うかもしれないから……宜しくね、トキノミノルさん」
「はい……はい! 宜しくお願いします! アセビボタンさん!」
わたしとミーちゃんの鼻を合わせる、オカアサンとしかやった事がない、はじめてほかの子とやった、わたし達の挨拶。
「ミーちゃんとわたし、今から走るでしょ。だからね、おたがい頑張りましょう」
「うん。ボクたち、全力で走りましょう!」
そして、勝ったらボクのお願いを聞いてください。
勿論。ボタンが勝っても同じです。
そんな事をミーちゃんから言われてわたしはふふんって笑う。
「わたし、ミーちゃんに勝っちゃうよ? こう見えて、あしがとっても速いの」
「何を言いますか。ボクだってソウトウ速いんですからね? それはもう、とってもね」
わたしの方が速い。ボクの方が速い。なんて言い合って、それなら今から始まる競争でしょうめいするってミーちゃんと決めながら位置について、よーい、ドンで走り始める。
ミーちゃんはわたしよりも前にいた。ずっとずっと先頭を走っている。わたしはただ、その背中を見つめている。
こがねいじょっきーがわたしのニガテな所から外に出してくれて、ようやく息ができるようだった。
ミーちゃんに追い付きたい気持ちをガマンして、こがねいじょっきーからの合図を貰ってから、全力で走る。オーちゃん、ヒロくん、ミツくんを追い抜いて、もう直ぐでゴール。
最後にセイくんを追い抜いて、ミーちゃんと並ぶ。
でも、勝てなかった。わたしは、初めて2番になった。
けっかが分かったしゅんかんに、知らない感情が湧いてきて、気持ちのままに叫んで、地面を叩く。
こがねいじょっきーが危ないよってわたしを慰めてくれるけど、わたしは信じられなくてもう一度地面を叩けば、目の前にミーちゃんがやって来る。
「ボクの、勝ちです……!」
誇らしげに、嬉しそうに、そう言ってわたしとの約束を口にする。
「また、一緒に走りましょうね! ボクもゼンリョク、ボタンもゼンリョクで! これがボクの願いです! ボク、キミの事が好きなので! ヒトメボレ、です……!」
「……うん、分かった。また、走ろうね。わたしもヒト以外なら、あなたが一番すきよ」
最初みたいに鼻を合わせる。やっぱり、ミーちゃんは不思議な感じがする。
ミーちゃんとなら、ずっと一緒にいても大丈夫だなって思う。だって、ミーちゃんだけは、いじめっ子たちと同じ見た目をしていても、気にならないから。
初めて、好き、って思ったから。
ミーちゃんとまた一緒に走ろうねって約束をしてから、たくさんの時間が経った。
あの日、一緒に走った後にお別れをしてからはもう、ミーちゃんと顔を合わせていない。
ミーちゃんが勝って、ミーちゃんが決めたお願いなのにいつまでわたしを待たせるの。
わたし、オカアサンになっちゃったよ。
ミーちゃんが全力ってお願いしてきたのに、わたしはもう全力で走れないんだから。
せめて、わたしに会いに来るくらい、してくれても良いじゃない。