幻の夢を追いかける華   作:日振

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馬、人、雪が降る世界

 

 わたしが生まれた時から変わらない事だけど、お外の空気が冷たくなるとふしぎな事が起こるの。今日もほら、冷たい空気につつまれるお外でチビと他のお友だちと過ごしていると、上から白いのが降ってくる。

 ほうじくんたちが話していたのをこっそり聞いて知ったけど、この白いのは「雪」って呼ばれてるもので、昔、わたしが呼ばれていたゆきかぜとおんなじ言葉が入っているから、嫌いじゃないわ。

 この雪がたくさん降るとわたしから見える世界が全部しろぉくなって、ちょっと前のゆでられるみたいな気持ちがわるくなる日とは違ったキレイな日が始まる。

 草がなくなって、葉っぱがなくなって、音がなくなる。だけど、ちょっと前よりマシな日々なの。

 

「寒くないかい? ボタンはもう17歳だからね、少し心配だよ」

 

 ほうじくんがわたしの頭に乗った雪を取って、タオルを被せてくれる。有難う、ほうじくん。わたしは元気、大丈夫だよ。

 それよりチビが心配なの。あの子、あんなに小さくて細いのに雪のかたまりに自分から入っていっちゃうんだから。

 

「でも季節が変わっても食欲は変わらない様だから、その部分に関しては心配をしていないけれど」

 

 ご飯美味しいもん。まだまだ沢山食べるよ。もう少し、増やしてくれても良いくらい。

 あ、走り回っていたチビが戻ってきた。本当に、元気なんだから。

 チビはほうじくんや他のヒトからは「かげろう」って呼ばれてるけど、わたしはチビっていう言い方の方が慣れてるから、ずっとチビって呼んでる。それに、チビもわたしみたいにケイバをやるかもしれないから、名前が変わった時に間違えたくないものね。

 ほうじくんはわたしとチビを撫でて、いつもみたいに笑った後他のお友だちの所へ行ってしまった。

 わたしはその背中を見送ってから少し暗い空をながめて、もう1度周りを見渡す。お友だちとほうじくんと、また走り回り始めるチビの姿。

 地面がちょっとずつ白くなり始めていて、今日もまた前の時みたいにワクワクする。

 

 ねぇ。つぶらやせんせい。あなたもこの雪を何処かで見ていてくれるのかな。

 今日もチビが元気に走ってるよ。

 ほら、見えるかな?

 

 わたし、もう走らなくなっちゃったから、目立たなくなって分からないのかしら。

 身体も雪みたいに白くなって世界の中に埋もれちゃうものね。

 でも、わたしはつぶらやせんせいに話し掛ける事はやめないよ。ほうじくんみたいに声が出せなくても、きっと、この声がつぶらやせんせいに届くって信じているもん。

 冷たくても、気持ちが悪くても、また会いにきてくれるまで、わたしは元気でいるからね。

 

 

 

 

 

 今年もまた、この季節がやってきた。少し前の茹だる様な暑さからは一点、身体の芯から固まってしまう様な寒さ厳しい季節が始まる。

 私はどうにも冬が苦手で、特注で作って貰った生地の分厚い特別な洋服を毎日着ては、その上からコートを羽織っていた日々を思い出す。友人の1人には冬など知らぬといった様子で一年中薄着で駆け回る者もいたが、私には到底真似できない。考えただけで、自然と身体が震えてしまう。

 だけど、その寒さを我慢してでも今日はどうしても行きたい場所があるのだ。

 

 人混みの中をふらふらと漂って、どこにも寄り道せずに真っ直ぐ目的地へと向かう。栄えた場所よりもずっと静かな場所へ。

 あの場所へはもう何年、下手したら何十年と顔を出していない筈なのに、自然とこの脚と、脳味噌は覚えた道筋をするすると辿っていく。風景が変わる度に私の心が期待に包まれる。

 もう直ぐで、もう直ぐで会える。あの子をもう1度この目で映す事が出来るのだと期待する。

 普通なら、こんな寒い時期に来るなんて芳司君達からしたら首を傾げてしまうのだろうが、私とあの子が出会った冷たい季節を私は自分勝手に選んでしまう。

 

「確か、この通りを……」

 

 記憶に残る道を暫く辿ってやって来た場所。季節が巡れば沢山の花が咲き誇るであろう花壇と、色々な動物達が走り回れる様にと建てられた柵。

 並んだ建物の奥からは聞き慣れた羊や犬や馬の鳴き声が聞こえてきて涙が溢れそうになった。

 その中でも、私の、最愛の1つ。顔を揺らしながらあの子の姿を探す。

 歩いて見つけた見慣れた黒い身体のあの子。いや、白くなってきたあの子の新しい身体。

 

「……見つけた」

 

 自分の記憶に残るあの子は雪の季節でも探し易いと思ったが、もう少しで雪の中に紛れてしまうのだろうな。

 小さな仔馬に顔を寄せて母の様な優しい顔をするあの子。そうか、私がいなくなった後にあの子は母となったのか。

 

「アセビさん」

 

 誰にも聞かれない私の声で名前を呼ぶ。

 そうすればアセビさんがタイミング良く顔を上げてくれて、私の声に応えてくれた様で嬉しくなる。

 湧き上がる罪悪感を押し込めて、もう一度口を開く。

 

「約束、守れなくて御免なさい。でも、これだけは……どうか、あなたが幸せであります様に」

 

 そして、私が愛するもの全てが、これからもずっとずっと変わらずに健やかに生きられます様に。

 

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