幻の夢を追いかける華   作:日振

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狙え、ジャパンカップ海外招待枠

 

 とある日、とある場所、遠征支援委員会に相談しオススメされたホテルの一室に1人のウマ娘と、1人のトレーナーバッジを付けたトレーナーが窓の側に置かれた椅子に座り、書類を広げながら今後の活動について話している。

 ジッと書類に目を落とし内容を確認しているトレーナーと契約したウマ娘は、耳と尻尾を揺らしながら、手に持った一枚の書類をペラペラと揺らす。その瞳はサングラスで隠れており、何かを考えているらしい事は伝わるが、真意は分からない。しかし、分かり易く口がへの字を作っていてどちらかと言えば困っている、もしくは納得のいかない風であった。

 

「どうしたんですか? デージー」

 

 トレーナーがウマ娘の違和感に気付き、書類から顔を上げ首を傾げる。

 

「ん? あぁ、コレ。ジャパンカップの出走登録書類〜」

「ジャパン……え!? ジャパンカップ出るですか!? オトトイL'Arcを走りましたのに!?」

「いやぁ……俺もさ、キングジョージ勝って、凱旋門も5センチとかの差で惜しくも2着。日本では正直落ちこぼれみたいな感じだったけど、これだけやれる様になったんだ。そろそろ地元でも頑張れそうじゃない?」

 

 トレーナーの焦りとは反対にどこまでも楽しそうに話しながら、デージーと呼ばれたウマ娘は手に持っていた紙を自身の契約したトレーナーへと手渡す。

 トレーナー、ルドルフ・コヴァーチュはデージーが出走登録書類だと言っていたそれを受け取ると、記入するべき項目が全て埋められた書類の文字を目で追う。

 しかし、何年もの勉強を重ね、読める様になった日本語で「提出期限」と他よりも更に濃い文字で示された欄の日付けは既に過ぎ去った過去で、今から、ましてや現在滞在している海外から送るとなると期限を勘違いしたウマ娘とトレーナーが大切な機会を盛大に逃したのだと思われるのが関の山だ。

 

「これ、やはりですが提出期限過ぎてますね。kopírovat?」

「いんや。普通に出してないけど?」

「……全くアナタは。いっしゅん驚きましたよ、ガイセンモンからジャパンカップまで約二ヶ月、移動も含めてどうするか思いました」

「あっはっは! 流石の俺もそんな無茶はしないさ」

「無茶はしない……? だけど、メルボルン、シドニーと身体に負荷がある長距離を連続で出るスケジュールも、こんな世界いっぱい歩き回る選択も認めてないよ」

「それは、仕方ないってやつだね!」

「……全く。トレーナーとしてこのスケジュールは本当に心配してます。いくらデージー頑丈でも、怪我する可能性はありますから。少しでも違和感感じたら直ぐ辞めますよ」

「大丈夫、大丈夫。わーってるって!」

 

 デージーは耳や髪に付け沢山の飾りを揺らしながら、カラカラと歯を見せて楽しそうに笑う。

 だが、ふとした瞬間にその表情はどこか物足りなさそうに壁に掛かった日本の風景をデッサンした絵画を見つめている。デージーがこういった表情をするのは初めてではなく、ルドルフは椅子と共に場所を移動し、隣に座ると妹にする様な優しさでその頭を軽く撫でる。

 

「残念ですか。ジャパンカップに出られないのは」

「別に、特別ジャパンカップに出たい訳じゃない。ただ、応援も殆どない、アウェーにしかならないこの場所にいると、日本に嫉妬する」

「シット?」

「あぁ。俺に走る力があれば、日本で力が使えれば今頃スゲー奴らと同じ様に歓声を向けられていたのかもしれない。この気持ちが贅沢で、世の中には何処にも走る力を見つけられなかった奴らがいる事も分かっているが、なんだろうな、俺は、欲張りだから。ターフから戻った時に俺の名を呼んでくれる存在が、お前以外にもいて欲しいと思う」

「デージー……」

「……願うしかない。この旅の末、俺達が歓声を向けられる事を」

 

 デージーは、肝が据わっていて格上の存在にも怖気付く事なく接するタイプではあるが、その実は同年代のウマ娘達と同じ様に少しセンチメンタルな部分を持っている。

 ルドルフは、トレーナーとして、年長者としてそんなデージーが少しでも肩を寄せる事が出来る存在になれる様に、常に気丈に振る舞う事を心掛け、今回もまたデージーの意識を変える為に2人の目標を口にする。

 

「ラストランは有馬記念です。その時に、出来るでしょう。今のデージーなら、セイエンを受けられる走りを」

 

 静かに、読み聞かせる様に伝えられた言葉を飲み込んで、デージーはパッと表情を変える。この意識の切り替えが早い所がアセビデージーというウマ娘の美徳であった。

 

「……その通り! 有馬で走れるかどうかは知らんが、出たら出たでキャー! デージーちゃーん! なんて言われるんだ!! 俺は!!!」

「その為に、ガンバルですね?」

「おうとも。次はダート、やるぞ。ルドルフ」

「えぇ。やりましょう、デージー」

 

 気合いを入れながらお互いの拳を合わせる。ルドルフの大きな拳と、デージーの小さな拳。

 応援もされない、時に罵倒だって聞こえる日本から離れた地で2人だけのドサ回りとも言える旅は着々と、デージーの実力を高めていた。

 気合いを入れ合った後、デージーが閃いたとばかりに指を鳴らす。

 

「……あっ! ジャパンカップの海外ウマ娘枠で招待されたりしないかな? 俺って、実質海外ウマ娘みたいなもんじゃん?」

「流石に無理。コクセキはダマせないね」

「やっぱりか……ん? 日本ってよ、ハタチまでなら二重国籍いけるんじゃなかったか?」

「デージーの良心がそれを良しとするなら私は止めませんけど、出走登録期間が過ぎている事実は変わりませんね」

「そーだよなぁ」

 

 ウインクをしながら提案をし、態とらしく肩を落としてみせるデージーを見て、ルドルフは笑いながらもう一度デージーの頭を撫でた。

 

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