幻の夢を追いかける華 作:日振
深夜。テレビには華々しく着飾るタレントさん達が神社を背景に映っていて、笑顔で「明けましておめでとう御座います!」と口にしている。私達は、その言葉に釣られる様に同じ言葉を口にする。
しかし、全員で言った割に明るい声が少ないと思って私の左右を陣取る様にして炬燵に入っていたチビ達へと目線を向ければ、既に寝息を立てている事に気付いてそっとテレビの音量を下げる。
久し振りの帰省だったけれど、実家の雰囲気も、景色も全く変わっていなくて、安心する。チビ達の真似をして畳の上に寝転べば「お前もお眠か〜?」なんてお兄ちゃんから言われて、そんな事ないよと返す。
「……あ、そういえばチカラちゃんは?」
お兄ちゃんへと問い掛ける様に口にしながら携帯のパスワードを解き、トキノチカラと書かれたメッセージ欄を開く。そこには、日が変わる前にはこの家に着くと書かれているが、家の中にその姿はない。
「チカラかぁ、そっちには連絡きてないの?」
「きてない。でも、問題があれば一言送ってくる筈だから、無事ではあると思うんだけど」
「……また、誰かに捕まってるのかな」
「そうー、かも」
チカラちゃんは昔、私と同じレースに出走するウマ娘で人気者だった。それは、今も変わらずで所謂地元に愛される看板娘的な存在。だからこそ、年末年始というヒトやウマ娘の集まりが多くなる時期は高確率で色々な場所から声を掛けられて、身動きが取れなくなる。
一緒に年を越す瞬間を過ごしたかったという気持ちもあるが、きっともう少ししたらヘロヘロになったチカラちゃんがやって来ると思うと何だか面白い。
「おーっす、トキちゃんこと、トキノチカラですけど〜」
そんな声が家の中に響く。話題に出した瞬間、タイミング良く玄関の扉が開かれる。チカラちゃんから放たれたその音は案の定疲れが混じっている様な質感を持っていた。
チビ達を起こさない様に炬燵から這い出て、玄関へと向かえば、冬の夜らしく着膨れしたチカラちゃんの姿。
「お疲れだね〜」
「おー? お久し振りってカンジ〜、相変わらず元気そうで良かったかなー、みたいな?」
「お陰様で」
何度か言葉を交わし、お土産だと二つの紙袋を渡されて覗いてみれば、色とりどり、大きさも様々なタッパーが詰め込まれていて、その道すがらの苦労と時間が窺える。
私達の声に気付いた家族や親戚の皆が誘われる様にして廊下がいっぱいになる程の人数が顔を出し、チカラちゃんの姿を見ると周りを囲んで良いではないか、良いではないかと奥へと連れて行く。身内にも、チカラちゃんの看板娘っぷりは健在らしい。奥の方から、嬉しそうな声色の悲鳴が聞こえる。
「相変わらずだなぁ」
私も後であの輪に加わろうと思いながら、先程の部屋に戻りチビの一人を抱き上げる。
「あれ、向こうに混ざってて良いのに」
「大丈夫だよ。それに、重くなったこの子達を運ぶのに私がいた方が良いでしょ?」
「ふふっ、その通りだね。ありがと〜」
ヒョイヒョイと抱き上げて、敷かれた布団へと寝かせて行く。寮生活である以上一年に数度しかやる事がない行為だけど、その度に変わる重さを全身に感じて私もお母さんの様な気持ちになってしまう。
「そろそろ私も、お年玉を用意する歳かなぁ」
「なーに言ってんの。学生め、まだ貰える事実を堪能しときなさい」
頭を撫でられて思わず頬が緩む。トレセン学園や、チームメンバーとも違う暖かさが心地良い。
立ち上がって、チカラちゃん達のいる部屋へ向かおうとした瞬間に、「あっ」と思い出す。もう一度携帯のパスワードを解いてメッセージアプリを開く。
明けましておめでとう御座います。昨年は大変お世話になり、誠に有難う御座いました。本年度も、ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します。
皆さん、明けましておめでとう御座います!
今年も宜しくお願いします!
頑張ります!
明けましておめでとう。今年もどうぞ息災で。
業務連絡として、冬休みは食べ過ぎ注意でお願いします。
おめでとう御座います〜。今年もレースを頑張りますね〜。
オメ
おめでとう。うらは今年も絶好調なんです。
レース100勝くらいしちゃうから、期待してて欲しいんだね?
案外こういう所はしっかりしているメンバーからの個性豊かなメッセージを読んで、私もトツトツと画面を叩く。
新年だからと真面目な文章を考えて、下書きを終えた所で「違うな」と感じてしまって、下書きを消去する。そして、普段と変わらない文章にする。
明けましておめでとう御座います。
新しい年も何が起こるか分からないけど、皆で目標に向かって走っていきましょうね。
メッセージを送って、携帯をポケットへ仕舞う。
チビ達の寝顔を目に焼き付けてから、一段と騒がしい部屋へと向かう。
「お! ボンちゃんやっと来た! もうー、皆の相手疲れちったわ」
アルコールの匂いを漂わせてケラケラと笑うチカラちゃんの姿はなんだか珍しい。
飲み過ぎだよ。なんて言いながら、隣に座ってチカラちゃんと目を合わせる。
「言い忘れてた。チカラちゃん、あけおめ」
「おめ〜! 可愛い後輩よ〜!」
苦しいくらいに抱き締められて、新年早々変な声が出るけど、まだまだ終わる事のない盛り上がりに私もどっと楽しくなってくる。
「よーし! 私、歌います!」
「お! 良いぞー! 現役ウマ娘ー!」
私以外は殆どがお酒を飲んでいるからか、私の突拍子もない言葉にも疑問を持たれずに特等席へと促される。
既に寝ようなんて気持ちは何処かに消え去っているけど、携帯から流された音源と共に眠れない夜が始まる音がした。