幻の夢を追いかける華 作:日振
今回の話には、「未実装の元ネタがある」ウマ娘が登場します。
ウマ娘、アセビロードはチームシェアトの中で唯一の障害レース選手である。
障害レースは文字通り、ターフに設置された様々な障害を乗り越え、進み、一番を競う形態であり、日本のレース体系では陰に隠れた存在。それは、ある程度の年齢になったら障害レースにも挑戦するウマ娘達が多くいた戦前戦後の時代と比べたら、障害レースを行おうとするウマ娘が減った事や、現在は主要となった平地レースが整備されウマ娘が流れた事など、様々な理由があるが、兎に角この世に生まれたウマ娘の注目は基本的に芝か砂のレースとなっている。
レースを見るファン達は、「平地のレースでは息をする事が出来なかった2流、3流のウマ娘達の最終受け取り口」なんて言う事もあるけれど、それはきっと間違いで、レースを見た事がないヒト達が言っているのだろうとロードは携帯の画面を消す。
ロードは、同じ障害レースを走った沢山の「煌めき」を知っている。例えば、平地では23戦走ったものの重賞レースへ申請する事もままならなかった選手が、障害レースに舞台を変えた瞬間に引退までの10戦を連対率100%、つまり1着と2着にしかならなかったという素晴らしい記録を重ねたウマ娘がいる事を。
確かに、障害レースは特性上スピードが出辛いし、ロード自身も平地のレースでレコードを狙える様な脚の速さはない。けれど、ターフの上にある脚が竦んでしまう程巨大な障害を、深くて高い坂を進む能力を誰しもが持っている訳ではない。障害レースの選手が平地では上手くいかないのなら、平地の選手が障害レースを走れない様に、適材適所、誰しもが自分の「得意」で頑張っているだけなのだ。
ロードはふらりと立ち寄ったグラウンドの方を見つめる。相変わらず障害練習用のグラウンドはウマ娘が少なく、俗に言う閑古鳥が鳴いた状態となっている。
「……って、事で。うらは君達に期待しているんだね?」
自販機で買ったお茶を一口飲み、独り言の様にロードはポツリと言葉を溢す。それは、本来風に乗って何処かに飛んでいってしまう筈のものだったが、ロードの側を通り掛かったウマ娘が目敏く言葉を拾うとロードの隣へしゃがみ込む。
「デカい独り言か? あと、君達ってなんだよ」
水色のインナーカラーを入れた焦茶色の髪の毛を揺らしたウマ娘は、試す様な声色で首を傾げる。ロードは、ウマ娘へと目線を向けると楽しそうに笑う。
「君達は〜、君達。だね? うらの目の前にいるジュウちゃん、そして、デイトちゃん」
「は? アイツに期待してるってか?」
「うん。あの子は正に模範。綺麗に飛ぶ」
「へぇ……で? 俺は?」
「君は、荒々しい。見ていて心配になる。だけど、その強さはきっと沢山のヒトを惹き付けるんです。君が走り続ければ、デイトちゃんと二人で障害レースと言えば〜? みたいな感じになるだろうね!」
「ふーん……」
トレーニングがない為に制服姿のロードとは反対に、ジャージ姿の隣のウマ娘はつまらなさそうな相槌を打つと、のんびりとストレッチを始める。ロードはその様子を横目した後に、再びグラウンドへと目を向ける。遠いその場所では、話題に出した「デイトちゃん」が既にストレッチやウォーミングアップを終わらせ、本格的な障害練習を始めていた。相変わらず、惚れ惚れする様な姿勢でロードは思わず拍手をしてしまう。
練習風景ですら「楽しい」と表情に表しながらグラウンドを見つめるロードに対し、「ジュウちゃん」が何かに気が付いたかの様に問い掛ける。
「……そういえば、センパイは期待しねぇの?」
見る事に集中していたのか、ロードは軽く肩を上げた後に首を傾げる。
「期待って、何にかな?」
「センパイ自身」
真っ直ぐに見つめられて、ロードは居心地が悪そうに目を逸らす。
「……あー、えっと、凄く嬉しい事を言ってくれている様でとても心苦しいけど、うらにはそんな期待出来る程の力はないよ」
「そうか? 俺とアイツは、センパイの大障害見て障害レースやろうって決めたのに」
「……え……え!? それは初耳だね!?」
「今、初めて言ったからな」
何でもない様に、サラリと告げられる初めての告白にロードは驚愕と共に顔が熱くなる。
まさか、障害レースのスターともある「ジュウちゃん」からそんな事を言われるなんて思ってもいなかったロードは、どう反応すれば良いのか分からない。
障害レースという舞台でロードが頑張った結果、大き過ぎる成果を得た。それは、とても、嬉しいことであり、幸せなこと。けれど、マイペースに見えて少し自己肯定感の低い所があるロードは、自信満々に「やってやったぜ」と思える程の気持ちはない。
「……うん。とっても嬉しいね。初めて言われた感じだ」
「そうか、言わない方が良かったか?」
「そんな事ないね! これからの障害界を宜しく頼むんだよ!」
ロードは、自分自身が命を燃やして走った所で脚を止めるヒトは片手に収まる程度だろう。それも、普段は見慣れないものだからという好奇心からで自分自身に力はないと考えている。
だが、「デイトちゃん」と「ジュウちゃん」ならば、両手を飛び越えて何百、何千、はたまた何万人が目を止める存在になる筈だ。
圧倒的なカリスマ性と実力。平地レースで手に汗握る勝負を見る時と同じ熱狂を巻き起こせる。
それだけの力が2人にはある。
ロードは、未来の王者達よと前置きをする。
そして、自分の小さな背中など軽々と追い越して、日本中から愛されるウマ娘になっちゃってねと願う。
「それはセンパイもだろ」
「ありゃ? 声に出てた?」
「バッチリな」
「オジュウ! あなた、まだ準備が終わってないの?」
「げぇ、五月蝿いのがきた」
背中をグッと伸ばした「ジュウちゃん」が、嫌そうな言葉を溢しつつゆっくりと声の聞こえた方へ歩いて行く。その背中を見ながら、ロードは相変わらず楽しそうに手を振ると、2人が練習を終えるまで切磋琢磨する姿を見つめ続けた。
「彼女だって障害ウマ娘の象徴となれる筈なのにね」
「アイツも俺程じゃねぇけど、まぁ、良い感じだろ?」