幻の夢を追いかける華 作:日振
チームシェアトの全体ミーティングが行われる日、メンバーが着々と集まっていく中で、珍しくアセビロードの姿がない事に気付いたアセビツバキは首を傾げる。ロードはその穏やかな性格から時間にルーズだと思われる事が多いが、その実、何か特別な理由がない限り殆ど遅刻をしない程度にはしっかりしている。
「ロードの奴、ナニしてんダ」
「た、体調不良……でしょう、か?」
欠伸と共にスズナが全員の気持ちを代弁する様に言えば、近くに座っていたアセビコウロがキョロキョロと周りを見渡しながら返す。
その時、ロードへと連絡をしていたツバキが「全く」と、呆れた様な言葉を放つ。その言葉を聞き、リーダーであるアセビボタンがどうしたのと問い掛ければ、ツバキは申し訳なさそうに携帯の画面を向ける。
「皆様、申し訳ありません。今ロードから連絡が届きまして……遅れる。と」
チームに心配を掛けている張本人ではないにも関わらず、仰々しく頭を下げるツバキへとボタンは気にしないでねと宥めながら肩を叩く。
「それにしても、遅れる時も連絡は直ぐにしてくれるローちゃんが珍しい。本当に、緊急事態だったのかもね」
「だ、大丈夫。でしょうか?」
「それは心配ないでしょうー。もし、本当に大変な事になっていたら、大騒ぎでここまで噂が回ってきている筈ですからー」
「そりゃそうダ。でも、話がこねぇッテ事は大した事ジャねぇってナ」
「まぁ、ミーティングと言ってもそこまで重要なものじゃない。始まる時間がズレた所で、問題はないよ」
トレーナー、若旅伊吹がそう言えばツバキは安心したのかそっと肩を撫で下ろす。
カチカチと時計の針が進み、ミーティングが始まる予定だった時間になっても相変わらずロードの姿はない。
カチカチと時計の針が更に進み、予定から5分程経った頃。突如、扉が開かれる。
「御免なさい。遅れてしまったんだね」
話題の中心となっていたウマ娘が謝罪の言葉を口にしながら、部屋の中へと足を踏み入れる。
「ローちゃん、こんにちは。問題はなかった?」
「ボタン先輩! 問題はありません、うらが時間を掛け過ぎたのが駄目でしたね?」
「時間? 何があったの?」
ボタンからの問い掛けにロードは「良くぞ聞いてくれた!」という感情を両目に映しながら、得意げな表情でバッグの中からとあるものを取り出す。
それは、カラフルな紙で作られた、細長い短冊だった。
「それは……短冊か?」
確認する様に放たれた若旅の言葉に、ロードは頷くといそいそと自分以外の6人へカラフルなそれを手渡していく。
反応はそれぞれだが、ツバキは遅れた理由がこれなのかと訝しみ、スズナは渡されて直ぐに側にあった棚へと放り投げる。
「実はですね。今日遅れた理由はうらが皆から頼まれて七夕の笹を色々と準備していたからなんだけど、シェアトの皆様もお願い事どうですかってお誘いをしたいんだよね?」
「おー、それはそれは、魅力的ですー」
「七夕……こっちに来てからは初めて、です……」
「待ちなさい、ロード。七夕を楽しむのは良いのですが、まずはミーティングを」
「そうだね。ローちゃん、やるべき事はちゃんとやらないと」
「……という訳で、後に回しても大丈夫か?」
「それは勿論なんだね。七夕は皆で楽しみたいイベントだけど、それはチームの大事な予定を切り捨ててまでやる事ではないんだね」
ロードはちょこちょこと小走りで移動すると、普段と同じ場所に設置された椅子へと座る。若旅は、ロードが座った事を確認すると「よしっ」と手を叩き、一冊のファイルを手に取りホワイトボードの前に立つ。
いつもと変わらない、しかし、変わらないからこそ大切なミーティングを誰も茶化す事なく全員が真面目な態度で終わらせると、若旅は締めの言葉の後に「それでは〜」と言えば、ロードは「お待ちかねなんだね!」と大きく宣言する。
「短冊には自由にお願いを書いて欲しいんだね。見せたくないなら無理にとは言わないけど、学園内に色々と笹を設置しておいたから、浪漫としても良かったら飾って欲しいんだね!」
ロードが「楽しい」という感情を隠しもせずに真っ先に紙の上へとペンを走らせていく。その姿を見て、他のメンバーもまた同じ様にペンを動かしていく。
ミーティングと比べたらまばたき程度の時間で終わった願い事を書く行為は、最終的に「なんで書いたんだ?」から始まる言葉によって自然と一人一人が新年の抱負を発表するかの様に、宣言する時間となってしまった。
「俺は、これからも担当ウマ娘に怪我をさせない」
「私は、皆と一緒にあの子の背中へ追い付ける様に一番を目指します!」
「……程良くやりマース」
「ルーちゃんはー、マイルレースが走れるくらいには体力を付けたい。ですねー」
「うらは、うら達の輝ける場所をもっと盛り上げたいんだね?」
「皆様の期待、声援へと報いれる様に吾はもっと完璧へ」
「もっともっと沢山のレースで頑張る! 特に、浦和レース場!」
個性が溢れた言葉は、綺麗・達筆・繊細・大胆など個性豊かな文字で彩られ唯一無二のものへと変わる。
ロードが「それじゃあ」と前置きをして、部屋を飛び出していけばその背中を仕方ないなと若旅が追い掛ける。そして、その姿にまた他のウマ娘達が笑いながら、1人は呆れながら立ち上がる。
広大な学園の中を歩き、辿り着く笹の前。矢張りイベントとあってかある程の人混みとなっていて、その中を掻き分けて短冊を結び付ければそれらは静かに揺れている。
「来年も、全員揃って出来ると良いですね」
ポツリとボタンが溢した言葉に、若旅は任せろと胸を張る。
「俺がいて、怪我なんてさせてやるものか。それにチームシェアトが実家に帰りますってなる時は、笑顔で卒業してからだ」
「……期待。してますよ?」
「あぁ! 俺の力は微々たるものだが、その点に関してはドンと期待して良いよ!」
言い切ってみせる若旅の言葉に、ボタンは安心する様に笹の方へと目線を戻した。