幻の夢を追いかける華   作:日振

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それは、まるで花火の様な忘れられない煌めき。



応援の声、聞こえたね。

うん、うん! わたし、また上手に走れたんだ!


あぁ、ツバキ。見てごらん。ここにいる人達、この景色の全てが君を祝福しているよ。

はっ! 知らないね。テメーらの都合なんて!
大切なのはただ一つ。この場所でアセビスズナが1番強かった事実だけだ!


ルピナス、最強の最速息子。

んー? 最強とかよく分からないですけど、この僕が、1番速くて格好良くて強くて凄い。って事は、一生変わらない感じじゃないですか?


ロード。おめでとう!

おー。ようやっと、自分でも納得できる走りが出来た気がするね?


君は強い。だからこそ、俺を乗せてくれて有難う。ツバキ。

別に、アナタを乗せたい訳じゃない。アナタと、一緒に勝ちたかったの。


コウロの本当の強さ、見せられたね。

僕は強いからね!……なんか違うな。えぇと、俺様が最強!……しっくりこない。わたし達の勝ち!……うん! なんかこんな感じする!!!
 


眩しい色彩を

 

 

 日が落ち、気温は落ち着いたものの湿度によって蒸し暑く感じる夏の空気の中、暗くなった世界の中で1人の人間と、6人のウマ娘がいくつかのバケツを用意して楽しげに火薬へと火を点ける。

 パシパシと音を立てた火の粉が徐々に激しさを増して暗闇へと鮮やかな色を足す。

 1人はどちらかと言えば周りに花火を譲る役に徹し、1人はしゃがみ込みながらつまらなさそうにして、1人は手に数本の花火を持ち、1人は暗闇に記号を描いて、1人はその色彩に目を奪われていて、1人は音や火花に少し驚いている。そして、三者三様の行動をするウマ娘達を1人の男は笑いながら画面に収める。

 7人がわちゃわちゃと楽しげに話し、一つ目の花火セットを消費し終わった頃、チームのリーダーであるアセビボタンがとたとたと小走りで携帯を弄るアセビスズナの元へと歩く。

 

「ねぇ、スーちゃん。スーちゃんは、どんな花火が好き?」

 

 徐に問い掛けた言葉にスズナは「ア?」と面倒臭そうに目線だけをボタンへと向け、直ぐに画面の方へと戻す。

 

「……そんなんネーヨ」

「えぇ、本当に?」

「……強いて言うナラ今持ってるコレだ」

 

 スズナは手に持っていた線香花火をほんの少し持ち上げる。

 

「線香花火?」

「アァ。コイツはアタシと同じだ。ほんの少しの間煌めいて、後は地面に落ちる。アタシは、ダービーを勝ったウマ娘。だが、他のウマ娘と違ってアタシの名前ハ後世にきっと、伝わらない。世界中を探し回っても数年後ニハ、アタシの名前なんて忘れ去られているさ」

 

 ポトリと線香花火の赤い火が地面に落ちて暗くなる。スズナは細い持ち手の部分をクシャリと握り込む。

 相変わらずなスズナの姿を見つめながらボタンはそっとその頭へと手を乗せる。

 

「そんな事ないよ……スーちゃんは知ってる? 人間も、ウマ娘も意外と記憶を覚えているものなんだよ。それこそ、リアルタイムでは見ていなくても映像がある。写真がある。ファンの声がある。だからね、何十年先の未来でも、小さな少年が皺々のお爺ちゃんになったとしても、きっと、覚えているんだ。私達が死んじゃった後に、スーちゃんを知る人だって、絶対にいる」

「……ハッ! そんな奴が本当にいるのナラ、ソイツは相当な物好きだナ」

「そんな物好きが存在するのが、人生なんだよ」

 

 ね、スーちゃん?

 真っ白な芦毛を揺らして笑うボタンの瞳を見つめながら、スズナは相変わらず鼻で笑った。

 

 

 ボタンがスズナから離れ、辿り着いたのは丁度バケツの中へ炎の消えた花火を入れたルピナスの隣。

 どれにしようかと選ぶルピナスにこれが良いんじゃないとボタンが言えば、ルピナスはパッと顔を綻ばせる。

 

「ルーちゃんも花火、楽しんでるみたいだね?」

「およ? えぇ、それはそれは楽しんでいますねー」

「ルーちゃんは、どの花火がお気に入りだった?」

 

 ボタンが首を傾げれば、ルピナスはセットの花火から手を離し、中身のなくなった袋を手に取る。

 

「ピューンって飛んで行くのがルーちゃんみたいなのでー、お気に入りはロケット花火なんですけどー、ロケット花火は危険だからって、少しじゃないと駄目ですってナーさんに言われちゃいましたー」

「そっか。残念だったね」

「本当ですよー。だから、次はしがらみを受けずに、皆でもう一度、楽しみたい。ですねー」

「うん。またやろうね、絶対……でも、危険な事は私も許可出来ないよ?」

「残念ー。でも、絶対。ですねー!」

 

 ルピナスがそっと指を差し出せば、ボタンもまた自身の小指をそれに絡める。

 絶対にやりますと意気揚々と再度宣言したルピナスを見ながら、ボタンは無邪気な姿にクスクスと笑った。

 

 

 近くに立つ友人の姿を携帯で撮るアセビロードを驚かす様に、ワッと近付いてみればロードは驚く事なく「おやぁ?」と振り向く。

 ボタンはロードの驚かなさに若干の肩透かしを喰らいながらも、一緒に画面を見つめる。

 

「ローちゃんは、さっきまで楽しんでいる様に見えたけど、飽きちゃった?」

「へ? そんな事は、ないんですけどね?」

「本当? さっきから、あんまり手に持っていないみたいだったから……」

「あぁ、それは、うらはどちらかと言えば打ち上げ花火派なんですね?」

 

 ロードはそう言うと、ポツポツと星が散らばる空を見つめる。すると、タイミング良く近場で行われている花火大会で打ち上げられた花火が、空気を揺らして夜空に美しい模様を作り上げる。だが、建物や植物に遮られてボタン達がいる場所からは魅力が半減してしまっていた。

 それでも、ロードは満足げに夜空を見上げる。

 

「ローちゃんが打ち上げ花火好きなの、初めて知ったかも」

「そうですか? まぁ、個人的な気持ちですけど手持ち花火より打ち上げ花火の方が浪漫を感じますからね?」

「……浪漫?」

「えぇ。空に咲くのはのは一瞬でも、大きな音と美しい色彩で沢山の目を奪う。うらも障害レースをそんな世界にしたいのでね」

「ローちゃんって、意外とロマンチスト?」

「……今更ですかね?」

 

 想像していなかった一言に、ボタンは「まぁ!」と口元へ手を添えた。

 

 

 ロードの画面に映されていた友人であり、花火の煌めきに目を奪われていたアセビツバキの隣に花火を持ったボタンが隣に立てば、分かり易くツバキは背筋を伸ばし、身体を固まらせる。

 相変わらずボタンにのみ仰々しくなるツバキに頬を掻きながら、その火を受け継ぐ。

 

「ツーちゃん。楽しんでる?」

「……えぇ、楽しませて頂いています」

「そっか。ツーちゃんはどの花火が気に入った?」

「そうですね。吾は、今手に持っている花火が好きです。火薬が燃え尽きるまでに、沢山の色が変わって吾が今よりももっと小さな頃にやった事のある花火のイメージと違っていて、新しく、とても心惹かれます」

「そうなんだ。確かに、この花火はツーちゃんっぽいよね」

「……吾らしい、ですか?」

 

 キョトンと目を丸くするツバキと目を合わせながらボタンは頷いて、色の変わる花火へと視線を戻す。

 

「目まぐるしく色が変わっていっても、全てが損なわれずにお互いを高め合いながら輝いている。それはきっと、諦めずに走って世界にすら自分の名前を刻んだツーちゃんも同じ」

「そんな! 吾には恐れ多い事です……」

「恐れ多くなんてないよ。そもそも、元気に走れるだけで、私達ウマ娘は奇跡なんだから」

 

 それは、身体も心も。

 ボタンが静かに呟いた言葉に、ツバキもまた心当たりがあり過去に己が晒した醜態を思い出し、どこか苦い表情をしながら燃え尽きた花火と、最後の煌めきを見せる花火を見せる2つを見つめ続けた。

 

 

 既に何本も花火を楽しんでいるにも関わらず、火を付け火花が出る瞬間に新鮮な驚きを見せ続けるアセビコウロにボタンは近付き、先程は失敗した悪戯心を膨らませる。

 心の中でごめんねと呟きながらそっと、その両肩へ手を置く。

 

「……コーウーちゃーん」

「はい!? えぇ!! コウロはここにおりますとも!!」

「……んふふ。驚かせちゃってごめんね? 楽しんでる?」

「ボタン先輩! えぇ! とても楽しんでいます! 素晴らしい程に! それはもう恭しく!」

 

 花火以上に元気良くボタンの言葉に返事をするコウロの姿に笑いながらごめんねと頭を撫でると、コウロはパタパタと自身の尻尾を揺らす。

 

「楽しんでくれててたら良かった。コウちゃんは、どの花火が楽しかったかな?」

「え、えぇ! そうですね! わたしは、やっぱりオーソドックスなこれ!!! がががとても、良く、て、御座いますね……!!!」

「そっかそっか。じゃあ、沢山用意して正解だったね。楽しんでくれて、企画した方も嬉しい」

「ひゃい! トテモタノシミマス! 押忍!!!」

「うん。沢山楽しんで……そうだ、今度花火大会する時は、コウちゃんの活躍で奢って貰っちゃおうかな?」

 

 何の気なしに言ったボタンの言葉に、コウロはほんの少し固まった後、尻尾と共に耳を右往左往に動かす」

 

「え、えっと! きょ、きょ、恐悦しごくです!!!」

「嘘だよ。こういうのは年長者に払わせて……でも、コウちゃんの活躍を期待しているのは本当だからね?」

「は、はいぃ……!!」

 

 大袈裟に不恰好な敬礼をしてみせるコウロへ、ボタンは相変わらず妹と察する様な雰囲気で笑った。

 

 

 花火も僅かな本数を残し全員で楽しんだ後、ボタンは燃え尽きた花火をバケツの中へと入れるとトレーナーである若旅伊吹の元へと歩く。

 ボタンは他のメンバーへと聞いた様に、トレーナーへと楽しんだかどうかの質問をしようかと口を開こうとした手前、若旅が先に口を開く。

 

「なぁ、ボタンはどの花火が好きなんだ?」

「へ? えーと、そうですねぇ。ヘビ花火、でしょうか?」

「ヘビ花火? 確かに変わり種で買っておいたけど、なんて言うか意外だな」

「そうですか?まぁ、確かにキラキラしている訳ではありませんからね。でも、例え地味だとしても、物好きしか買わなかったとしても、今でもこの時間の中に残っている。それって凄い事だと思いません?」

「確かにな。それはそうだ」

 

 ペットボトルに残ったお茶を飲み干した若旅がバッグへとボトルを投げ捨てながら頷くと、仕切り直す様にボタンが一度だけ尻尾を揺らして若旅へと向き直る。

 

「……トレーナーさんはどの花火が好きなんですか?」

「花火か……そうだな。手筒花火、かな?」

「手筒花火? あの、物凄い火花を出して、男の人がわーって持っているやつですか?」

「おう。まぁ、お察しの通り特別な時にしか見れないけど」

「どこか好きなんですか?」

「どこ、どこがか……アレって、無病息災とか武運長久、家運隆盛みたいな意味があるらしいんだよね。だから、ウマ娘を手助けするトレーナーとして、これ程ピッタリな花火もそうないかなって」

「へぇ。確かに、そうかもしれませんね!」

 

 ボタンが若旅の言葉に同意した瞬間、ドンと今日一番の花火が空に舞う。時間的に最後のものだったのか、その花火はこれまでの打ち上げ花火よりも高い場所に届いてボタン達がいる場所からでもハッキリと綺麗に見える。

 遠くから「たーまやー」と叫ぶ声が聞こえて、花火を楽しんだという実感がより深く湧いてくる。

 ボタンは余韻を残し消えていく花火を見つめながら、またやろうねと全員に聞こえる声で言えば、ポツポツと元気な声が響き渡った。

 




 
それは、一緒に見た忘れられない思い出。



アセビさん。あの花火が見えるかな。馬に大きな音は駄目だと知っているけれど、あの美しい光景をアセビさんにも見て欲しいと思ってしまう。酷い人間だね、私は。

そんな事ないよ。大きい音はビックリしちゃうけど、つぶらやせんせいといっしょに過ごせるのはとっても嬉しいもの。
だから。これからもわたしはせんせいと同じ景色が見ていたい。
成長していくこれからも、お婆ちゃんになってからの毎日も、一緒に歩いて行きたいんだ。
 
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