幻の夢を追いかける華 作:日振
学生ならば誰もが憂い、やってこない事を祈る8月31日。を目前に控えた日曜日の今日、チームシェアトと名付けられたチームメンバーの全員が普段、自身らが使う教室へと集まっていた。
6人のウマ娘が1つの机を囲み、2人ずつのペアになりながら目の前のテキストやノートに視線を落とす。
そんな中、1人のウマ娘だけが唯一顔全体に「焦り」を浮かばせながら宿題として出された範囲のテキストページを開く。
「忘れてましたぁ!!!!!」
皆の末っ子であるアセビコウロの叫び声は大きな勢いがありながらも、言霊となる事なく虚しく教室中に響き渡る。
コウロの目の前には「現代文」と書かれたテキストが開かれており、学年が違う分確かな事は言えないが、恐らく1ページも手を付けていない状態にあった。
「コウロ。吾が1週間前に大丈夫かと聞いた時には、胸を張って大丈夫ですと」
「……ほ、本当なら大丈夫だったんです!! ちゃんと予定も立てて……その通りにやって……でも現代文をうっかり予定に入れるのを忘れましたぁ!」
「……はぁ。君の時々出るその注意力散漫は、どうにかならないのか?」
「ご、ごめんなさぁい!!」
「しかし、このタイミングで気付けて良かった。もしこれが来週の出来事だったら、肝が冷える所の騒ぎではないからな」
「ほ、本当ですよね〜!!?」
半ば泣きながら、それでも真面目に手を動かすコウロに年の近いツバキは溜息を吐きながらも仕方ないと言ってコウロが進める内容へと、解き方のアドバイスを送りながら同じテキストを覗き込む。
そんな光景を見守る4人のウマ娘。の内、2人は同じ様に終わっていないであろう課題に追い詰められていた。コウロと違うのは、焦りというものが全くない点だろうか。
「スーちゃん……後、終わってないのは?」
「ンー、感想文とレースレポートと、絵描くヤツ」
「見事に全部創作系だ……本は読んだんだよね?」
「読んでナイ」
「え?」
「デモ、問題ねー。後書き読めバ、なんとかなる」
「なんとかなるって……もう!」
リーダーであり、チームの中では年長者なアセビボタンの呆れと、心配を他所にボタンから目を掛けられているアセビスズナは、用意していた小説のタイトルを原稿用紙に書き込むと、迷いなく小説を裏返す。
せめて、プロローグだけでも読んだらどうだと言うボタンの言葉を無視し、スズナは時折何かを思い出すかの様な素振りを見せながら迷いなく原稿用紙へとシャーペンを走らせていく。
数十分程達、必要最低限の文字数で感想文を終わらせたスズナは「ドラマ化してたから書き易かった」と言って、放置していた宿題の一つである感想文を終わらせる。その姿を見ながら、あらすじを見れば書けると言いつつ、その実殆どはドラマの知識で感想文を終わらせたスズナをボタンはクスクスと笑う。
「次は、レースレポート?」
「オー。まァ、そっちは資料だけは集めてあるカラ、まとめれバ直ぐ終わる」
「……その生真面目さがあるんだから、もう少し予定を組んでやれないかな?」
「ムリだな」
「無理かぁ」
うっかりミスで課題を忘れていたコウロ、何故だか創作系の課題のみを後回しにしていたスズナが着々と宿題を進める。そして、もう1人、チームシェアトには困ったさんがいる。
「追い込みが間に合うかねぇ」
「どうして逃げなかったんですー?」
複数の宿題を残していたスズナよりも多く宿題のテキストを重ねるウマ娘。アセビロード。
スズナ同様表情に焦りはなく、余裕だと言わんばかりであるが、コウロ・スズナと比べて9月1日の提出時間に間に合うかギリギリの量、端的に言うならばほぼ全ての宿題を残していた。
「ルーちゃんはー、もう夏休み始まって1週間で終わりましたけどー、どうして、まだ終わってないんですかー?」
「うらはエンジンの温まりが遅いんだね?」
「本当ですかねー? ルーちゃん。仕方ないから、手伝いますー?」
「それはそれは! えっと……お願いできると、嬉しいんだよね?」
「それでは、それではー。恵みの右手とー、左手をー、貸しますよー」
「おお! それは助かってしまうよ!」
1冊、宿題として出されている数学の冊子をロードの横に座っていた最速ウマ娘、アセビルピナスが手に取りスラスラと答えを書いていく。学年が違う以上、別のウマ娘が終わらせたなどと先生に知られたら怒られるで済まないかもしれない行動を、良い子ではあれど聖人君主ではないウマ娘達が集まったこの場所に嗜める存在はいない。
時間にしてほんの数十分、ロードが時間を掛けて漸く半分を超えた英語の宿題を横目に、パタンと数学の冊子をルピナスは閉じる。
「終わりましたー」
「おぉ! では、これもお願いします」
「はいー。後で、何を奢って貰いましょうかー」
渡される原稿用紙と、1冊の小説。
スズナと同じ読書感想文をやって欲しいと渡されたそれらの内、小説のタイトルを一目見たルピナスはタイトルを見て、どこか既視感のある口振りで「これの映画は見たから要らないですー」と、小説だけを返却する。
サクサクとレースでの走りの様に迷いなく、シャーペンを動かすルピナスを見ながら、普段のゆったりとした様子からは想像もつかないとロードは内心思いながらも、残りの英文へと目を通していく。
あまり緊迫感のない、夏休みの終わりへと向かう1日だった。