幻の夢を追いかける華   作:日振

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皆が歩む旅路が、幸せなものになるよう見守っていて下さい。

現状維持。

もう少し、速くなりたいですねー。

重賞も沢山勝ちたいけど、何より皆が怪我なく走れるようにお願いするんだね。

我々はもっと高い頂きへ。そして無事に日々を過ごせますよう。

ちゅ、中央の、G1を……勝ちたいですー……!

トレーナーとしてチームの汚点にならないように更に精進。




明けましておめでとう御座います

 

 初詣。という単語を聞くと、真っ先に長蛇の列や人混みなんかが真っ先に思い浮かぶ。しかし、全ての場所がそうなのかと問われたら必ずしもそうではなく、世の中に名が知れ渡った場所以外、言ってしまえばネームバリューがない場所であれば、寒空の元長時間並ぶ事もなく賽銭を終わらせ、ある程度の余裕を持って初詣を楽しむ事が出来る。

 地元の人間しか知らない様な場所であれば、その確率も更に上がる。

 1月1日、数時間前に新しい年を迎えた日の早朝。アセビボタンを中心とするチームシェアトのメンバーであるウマ娘達は、一年の中で最初の一大イベントである初詣を行う為に、神社の鳥居をくぐるとまずは配られていた甘酒を手にして暖かいそれを口にする。

 

「明けましておめでとう御座います。今年も、チームシェアトで頑張ろうね」

 

 トレーニング以外では基本的に自然のまま下ろしている髪を簪などを使い綺麗に纏め、見慣れない着物を身に纏ったウマ娘が新年の挨拶を行えば、周りにいたウマ娘達も其々の言葉で返す。

 スカジャンにショートパンツ。学校指定のコート。普段とは違う髪型。珍しい海外ブランドの洋服。逆に着物に着られていたりと様々な様子のウマ娘達、チームシェアトに所属するアセビスズナ、アセビルピナス、アセビロード、アセビツバキ、アセビコウロは甘酒で身体を温めながら、何人かが並んでいる列に加わる。

 

「皆で初詣なんて初めてだね。初日の出にも間に合いそうだし、楽しみ」

「ンー」

「皆さんはー、絵馬。書きますかー?」

「うらは毎年書いているんだね? 神頼みでもなんでも、やっているとお得感があるんだ」

「吾も絵馬とおみくじを引こうかと考えています」

「わ、わたしも書こうかなー……なんて……!」

「うん。それじゃあ、皆揃って新年初の運試し、だね」

 

 6人はワイワイと会話に花を咲かせながら、列の動きに合わせて時折半歩程前に出る。初詣とあって、願う量が多くなるのか日常的なお参りと比べて少し進みが遅い様に感じた。

 ボタン達がやって来た神社は地元の人々に親しまれたローカルな場所ながら、絵馬やおみくじは勿論、豊富な種類が用意されたお守りや破魔矢の販売などもあり、地元の人間に、地元のウマ娘、ごく稀に観光のついでに見つけた人がいる以外には知られていないのが不思議にも感じられる場所だった。

 静かな境内で本坪鈴をガラガラと鳴らし、思い思いの硬貨を賽銭箱に投げ入れて手を合わせる。前に並んでいた初詣の客と同じ様に、いつもより時間を掛けて願いを込めたボタン達は脇に逸れた後一先ずは大きなイベントが終わった事に安堵する。

 

「……ねぇ、皆は何をお願いしたのかな?」

「教えねェ」

「それは、乙女の内緒。ですねー」

「ふっふっふー」

「申し訳ありません。願った事を口にすると叶わなくなるという噂を聞きまして……」

「ぎゃ、逆に! ボタン先輩はな、何を、願われまして……?」

 

 コウロの問い掛けに、ボタンは楽しそうに笑い、口元に指を持っていく。ウインクをしながら、楽しそうに己の言葉を放つ。

 

「そうだなぁ……私も秘密。かな」

 

 時間的に、ボタン達を除けば数えられる程の人数しかいない境内に、スズナのなんだそれと口を歪ませながら言った言葉が響き渡る。

 楽しそうに、仲良さげに笑っていれば、頭を出し始めた太陽が神社に一筋の光を届け始め、誘われる様に視線を向ければ建物や自然の影から見える美しさに耳が動いて、尻尾が揺れる。

 無意識に敷地を囲う柵まで小走りで近付けば袴を着た神主や、お参りに来ていた近所の顔馴染みから気を付けてねと声を掛けられて、元気良く返事をする。

 キラキラと太陽が煌めいて、新しくなった世界を照らす。日常の中では絶対に見る事が出来ない独特な、見慣れない美しい風景に夢中になる。

 

 

 太陽が綺麗に昇り、満足するまで写真を撮ったボタン達は、先程までの楽しさから一旦落ち着いて、携帯の画面を触れる。

 今となっては慣れる事が出来た操作を行えば、携帯からは聞き馴染みのある音が流れる。何秒か待ち、ぷつりと音が繋がれる。

 

「もしもし、ボタン? 何かあったか?」

「おはよう御座います、トレーナーさん。もしかして、トレーナーさんも初詣ですか? 後ろから色んな音が聞こえます」

「おう、知り合いとな。豪勢に有名な所に来てみたが、人が多過ぎて初日の出は見逃した……って、もって事はボタンもか?」

「えぇ。私と、スーちゃん達と」

「そうか、楽しんでるか?」

「はい! あと、私達はしっかり、初日の出見れましたよ!」

 

 ボタンは悔しそうなトレーナーである若旅の言葉を聞きながら携帯をスピーカーモードにすると、他のメンバーにジェスチャーで合図を送る。

 せーの、と口パクで言った後に言葉を合わせる。

 

「明けましておめでとう!」

 

 その後に続く言葉は、其々の呼び方があった所為で綺麗に揃う事はなかったが、本命となる言葉は合わせられたので、ボタンは満足げに笑う。

 

「こちらこそ、明けましておめでとうウマ娘(おしえご)達」

 

 スピーカーの先から聞こえる若旅の声もまたボタン達と同じく、楽しそうに笑っていた。

 

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