幻の夢を追いかける華   作:日振

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 稀代の白銀、常例の重なり

 

 枕元に置かれた携帯電話がジリジリと音を鳴らす。その音に釣られ、分厚い毛布の中に潜り込んだ何かがモゾモゾと動く。

 緩慢な動きで手が伸び、携帯から流れる音が止まる。

 くぐもった呻き声がほんの少し静かな部屋に響いた後、毛布の中にいた何か、薄い灰色がかった芦毛を持つアセビコウロが勢いに乗せて身体を起こす。しかし、温かな毛布から一転暖房を突き抜けて感じる冴えた鋭さに身体を震わせ、いそいそと毛布を被り直す。

 顔だけを出したベッドの上、同じ様に顔を出すルームメイトが対面のベッドからおはようと口を開く。

 

「おはよう、御座います〜……」

「今日は一段と寒いねぇ。普段はもう少しあったかいんだけど」

「そ、そうですよね? 暖房、壊れてしまったのでしょうか」

「いやぁ。ただ外が寒いだけだと思うよ〜」

 

 対面のウマ娘は気合を入れると身体を起こす。そして、手早く靴下を履いた後ひょわーと高い声を上げながらパジャマを脱ぎ捨て、スラックスを履くと身体に密着するタイプのインナーとシャツ、ベストを着込む。

 休日だからこそパジャマから着替える衣服は違うものだが、本来なら苦労する筈ない行動に対して気合を入れなければいけないのは、ある意味で冬の風物詩となっていた。

 コウロはルームメイトの勇姿を追い掛け、自身も身体を起こすとひぇーと両脚をバタバタさせながらパジャマを投げ捨てながら、ジーパンにインナーとTシャツ、パーカーを着るが、その途中にルームメイトが「あっ!」と声を上げたのに首を傾げる。

 

「どうしましたか?」

「ね、これ見てー!」

 

 パーカーの裾を下に引っ張りながら、促されるままに窓の方へ歩けば開かれたカーテンの向こうは静かで、白い世界が広がっていた。わぁと無意識に声を漏らしながらそういえばと思い出す、何時もなら何かしらの音が聞こえてくる筈の世界が今日ばかりは全く聞こえない静寂に包まれていた事を。

 雪国出身の者からしたら鼻で笑う程度のものであるが、馴染みのない人々にとっては一大イベント的な状況にコウロは尻尾を揺らす。どちらかともなく視線を交差させ、コートにマフラー手袋などをかき集め、梅雨の時期に備えて仕舞い込んでいたブーツを模した長靴を引っ張り出す。

 

「ね、ねぇ! 関東でこれくらい積もるの久し振りだよね!」

 

 寮の外、コウロ達と同じ思考を持った何人かのウマ娘が同じ様に珍しい景色にはしゃいでいる。

 興奮したルームメイトの声にコウロも全力で頷きながら、真っ新な地面に長靴を押し付ける。綺麗に固まった足跡にまた、尻尾を揺らして走り辛い地面に次々と跡を残す。

 

「でも、北海道の人とか、東北の人はこれが毎年なんだよねー」

「そ、そうですね……しかも、信号機くらいまで……積もるって言い、ますからね……」

 

 しゃがみ込み、晒した赤い指先で小さな雪だるまや兎をブロックの上に作りながら、コウロは顔を上げる。視界の中に映すのは、葉っぱが残っていない木。

 どれ程の高さかは分からないけれど、きっと道路に並んでいる標識や信号機と並べられるだけの高さはある。

 

「あ、あれくらい、ですかね……?」

「うわー! ニュースとかだとあんまり実感湧かないけど、こうやって見ると凄いねぇ」

「毎日何回も、雪かきしても、足りなくなりますね」

 

 コウロとルームメイトは再び目を合わせると、何も言わずに同じ動きで寒さに耐える木に向かって手を合わせる。

 異様なその行動に通りすがったウマ娘が「え?」と困惑した声を上げるが、コウロはへへへと笑う。

 

「雪国の皆様〜、お疲れ様です〜」

「た、大変です……!」

 

 頭の中に浮かぶのは、ニュースでインタビューを受けていた雪国の人が雪かきに大変だと溢す姿。

 コウロとルームメイト、雪国に縁のない2人は目測で感じる雪の壁に狼狽えながら、学園に降り積もる真っ白なそれを見つめる。

 

「僕達はまだ楽しめる立ち位置にいるけど」

「毎年の事です、からね。向こうの人は」

 

 大変だ。

 揃った声に顔を見合わせて、クスクスと笑う。赤い手をまた手袋で覆って振り向けば、先程よりも外に出ているウマ娘は多くなっている様に感じた。

 暫くすると遠くから、雪合戦の始まりを告げる声が大きく響き渡る。

 

「僕達も混ぜて貰お!」

「い、良いんで、しょおかぁ……!?」

「良いんだよ! ビビらない!」

「は、はいぃ!」

 

 コウロは手を引かれ、雪合戦を行う為に集まったその中に紛れ込む。

 ウマ娘の体力は興奮も相まって無尽蔵となり、夕方前、陽が落ち始めた頃に寮長であるヒシアマゾンやフジキセキが声を掛けるまで雪合戦は続き、寮の敷地から周辺に至るまで自然と元来の地面の色が晒されており雪かきが済んだ状態に変わっていた。

 

「楽しかった!」

「は、はい! とっても!」

 

 雪に濡れたブーツを脱ぎ、マフラーを取り去る。周りからは今日の事を話す声や、夕食を待ち望む声が混じり合って少し騒がしいものとなっていた。

 身体を震わせながら目を覚ました早朝から一転、全身が燃え上がる程に熱くなった状態で、コウロは左右前後から聞こえる音に耳を揺らしながら額から流れる汗を拭った。

 

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