死に損ない、幻想郷にて死を望む。   作:飛煙

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第十一話「彼女の行方」

 妖夢は慧音(けいね)に言われて部屋の中へ入った。そこで事のあらましを話された。

 

「慧音さんだけが記憶を失った理由が分かりませんね。」

妹紅(もこう)妖夢(ようむ)の共通点は生を逸脱していることだ。もしかするとそこに糸口があるのかもしれん。彼女のことを知らせた人間に話を聞ければよいのだが......」

「そもそも覚えていないから聞くあてをつけられない、か。」

「......」

 

 言葉が出ないのは妖夢(ようむ)だけではなかった。失ったものは玲子(れいこ)との関わりの記憶。無くても困らない程度のもの。このまま関わらず有耶無耶(うやむや)にした方が丸いだろうという雰囲気がその場に漂っていた。

 

「なんにせよ、玲子(れいこ)という外来人を見つけなきゃ話が始まらん。アイツはどこで来たんだ?」

 

 その雰囲気を変えたのは妹紅(もこう)だった。彼女は原因がどうであれ玲子(れいこ)と会うことが目的であることは変わらない。例え危機や影響がなくともやることは変わらないのだ。

 

守矢(もりや)神社への道を案内してる最中に消えてしまいました。あまり使われていない参道でした。」

「なんだと?場所が場所だ。もしかすると人里の人間に影響があるかもしれん。注意の呼びかけをしたほうがいいか......」

「とりあえずは守矢(もりや)のとこに連絡だな。参拝すると神隠しに合うだなんて噂が流れたらひとたまりもないだろう。」

「確かにそうだな。協力を仰いでみよう。」

「すみません、私はあまり(ちから)になれなさそうです。」

「なに、大丈夫だ。多忙の身なのだろう?大きな異変が起きたわけではない。私も本腰を入れて調査はできないさ。」

「ま、身軽な私が嗅ぎまわってみるさ。何か掴み次第慧音(けいね)に話しておくから、気になるなら聞きに来い。」

「ありがとうございます。」

 

 記憶の消失というインパクトのある事件が起きたものの、事件の大枠は良くわからない人物の失踪。ここにいる誰もがその人物との縁は深くはなかった。さらに該当人物は幽霊で生死の問題が薄い。普段の予定を曲げてまで調査する理由がなかった。

 

「(玲子(れいこ)さんは()()()()と思っていました。そんな(かた)が簡単に消えるとは思えません。きっとどこかにいます。)」

 

 妖夢(ようむ)にとって、彼女は自分の成長を形としてみることができるかもしれない人物だった。彼女を斬れるようになった時、それは間違いなく何かを掴んだ時といえる。半人前としてはこのまま失うには惜しい人物であった。それだけではない。もし彼女が消えたのなら、彼女のような存在が己の欲望(死にたい)を拒否している者がどう欲を押し通したのか妖夢(ようむ)は知りたかった。

 

「すまないが妖夢(ようむ)玲子(れいこ)の顔の特徴とか教えてくれないか?声は聴いていたが容姿が分からなくてな。」

「もちろんいいですよ!」

 

 こうして参道の神隠しの調査が始まった。攫われたのか、消えたのか。それすら分からない。幻想郷との人物と関わり合いが少ない外来人という境遇。攫われたとしても攫う人物に当てをつけるのも不可能だった。唯一のヒントは、犯人は少なくとも妖夢(ようむ)に気づかれぬよう攫う程度の実力を持つ者ということだ。適切な警戒度を持ってこの事件に妹紅(もこう)は臨むのだった。

 

 

 

「はあ、なるほど。死んでいる、と。」

「そ。満足した?」

 

 場所は博麗神社。(あや)の取材に霊夢(れいむ)はこたえていた。

 

「亡霊の死体なんてものが見れるなんて思ってもみませんでした。かなり珍しいんじゃないですか?」

「そうね。こんな奇妙なもの見たことないわ。いい記事になるんじゃないかしら?」

 

 それは皮肉だった。珍しいものに必ずしも価値があるわけではないのだ。

 

「えぇ、いい記事が書けそうですよ。」

 

 そう言うと(あや)は半目で口元をペンでおさえた。

 

「なーんか匂うわねぇ。あんた(なに)か知ってるの?」

「あや、霊夢さん。興味あります?」

「別に何でもいいわ。果報は寝て待つともう決めているのよ。」

「彼女もそうして果報を待っているんですかねぇ?」

 

 (あや)は壁越しに玲子(れいこ)の方へ視線を向けてそう言った。

 

「それはないわね。」

「あや?何故(なぜ)そう言い切るので?」

「彼女に果報なんてものはないということよ。さ、聞くこと聞いたら帰った帰った。」

「あやややや!見舞いの品も持ってきたのにー!」

「それはありがたく私がすべていただくわ。どうもありがとう。」

 

 やいのやいのと騒ぎつつも(あや)は飛び立って行った。やっと静かになった博麗神社で、霊夢(れいむ)はすっかり冷めた茶を飲みほした。

 

「(どうせ守矢(もりや)神社で何か情報を掴んだのでしょう。私は焦らないわ。)」

 

 (あや)が余裕を見せていた理由に当たりをつけながら、霊夢(れいむ)は日常を取り戻していく。きっと今回の件は守矢(もりや)の患者が起きるまで進まないと霊夢(れいむ)は感じ取っていた。亡霊の死体があるなんて奇妙なことがあるにも関わらず、嘘のように変わらない日常が過ぎていった。

 

 そんなある日。

 

「よう、博麗(はくれい)の。」

「あら、ここに月はいないわよ。」

 

 博麗神社に妹紅(もこう)が訪れてきた。

 

(やなぎ)玲子(れいこ)、という亡霊を知らないか?」

「......」

 

 霊夢(れいむ)は札を構えた。

 

「ハハッ、いいね。お互い進展を迎えることができそうだ。」

「(アイツの言葉にコイツの名前はなかった。やり取りをするのは真意を確かめた後......!!)」

 

 妹紅(もこう)から玲子(れいこ)の名前が出てきた。それが果報だとは霊夢(れいむ)は思えなかった。鈴仙(れいせん)早苗(さなえ)なら()(かく)、無関係に思える人物からその名が出てきてしまえば警戒せずにはいられない。霊夢(れいむ)は事の重さをまだ測り切れていないのだ。石橋を叩いて渡るくらいが丁度良い。

 

「アンタに恨みはないわ。もちろん、これが理不尽だってことも分かってる。ただそれでも、真意を確かめさせてちょうだい!」

 

 先手必勝。そう言わんばかりに妹紅(もこう)を囲むように投げたお札が地面の三点を抑え結界を発動する。霊夢(れいむ)は自由を奪われた妹紅(もこう)に肉薄しお祓い棒で殴りかかる。

 

「っ!」

 

 霊夢(れいむ)が近づいたその時、妹紅(もこう)がその場で燃え上がった。霊夢は危機を察知してすんでのところで距離を取ることに成功したが、たまらず冷やせがたらりと(ほお)を伝った。

 

「真意、ね。何を警戒しているかは分からないが......」

 

 炎の中から妹紅(もこう)が出てくる。霊夢(れいむ)が投げたお札は焼け焦げてボロボロになり、妹紅(もこう)の腕も焼け皮膚が剥がれていた。しかし、霊夢(れいむ)のお札とは違い彼女の腕は再生し火で焼けたのが嘘だったと言わんばかりに元の美しい姿を取り戻していた。

 

「腹を割って話すのは嫌いじゃない。」

 

 妹紅(もこう)(くう)を蹴り上げるとそれに押されるようにして炎が霊夢(れいむ)の方へ走った。当然、霊夢(れいむ)は回避するがそれを読んで近づいていた妹紅(もこう)に蹴り飛ばされてしまう。落ち着く()もなく地面から伸びる炎が霊夢に向かっていく。

 

「暑苦しいわね!」

 

 霊夢(れいむ)が霊力を込めてお祓い棒を横に振ると風が炎に向かっていった。炎の進みは止まったが風を受けて成長した炎は高く高く燃え上がる。その炎は何かに押しつぶされるようにして妹紅(もこう)の方へ倒れていった。

 

 妹紅(もこう)は津波のように襲い掛かる炎の下を駆け抜けることで直撃を避ける。と同時に霊夢(れいむ)との距離を詰めた。

 

 手に炎を発生させて殴りつけるようにして霊夢に攻撃をしかけた。霊夢(れいむ)は咄嗟にお祓い棒で防御するも、妹紅(もこう)の手にあった炎は消え妹紅(もこう)にお祓い棒を掴まれてしまう。炎はブラフだったのだ。

 

「アイツの何がしりたいわけ?」

「死ぬ理由、かな。今はそれより、アンタがあの外来人についてどれだけ知ってるかを知りたい。」

「まるで何かを知っているかのような物言いね!」

「逆だよ。何も知らない。でも、本当に知らないわけじゃない。アンタはどうだ?」

「何を言って」

 

 突然お祓い棒が燃え上がる。お祓い棒を持っていた手を放し、反対の手でお札を妹紅(もこう)の胸に貼った。お札を爆破し、妹紅(もこう)を吹き飛ばすことで霊夢(れいむ)は距離をとることに成功する。

 

 吹き飛ばされた妹紅(もこう)は地面に倒れるもおもむろに立ち上がった。

 

「なぁ!アンタは覚えているのか?アイツのことを!」

「覚えている?私は彼女と面識はないわ!少なくとも、意識を失う直前までは無かった。」

「違うね。」

 

 霊夢はその否定に言葉が出なかった。本能的に妹紅(もこう)の言葉を待ってしまう。

 

「アイツはアンタと面識があった。それだけじゃない。お前はアイツを一度殺したんだ。」

 

 妹紅(もこう)は飛び上がり背中に大きな炎を呼び出した。炎はうねり、大きな鳥のように翼を広げている。羽にはいくつも模様があった。孔雀(クジャク)のような目のような、人魂のような。そんな炎の弾幕が一斉に霊夢(れいむ)の方へと飛んでいく。

 

「殺したですって?そんなわけないじゃない!だったらあの子は私に助けを求めるはずがないでしょう!?」

 

 3つの陰陽玉(おんみょうだま)が衛星のように霊夢(れいむ)を中心に周りだす。夢想封印の構えだった。

 

「それが成り立つのさ。彼女の救いは死なのだから。」

「だから殺しに来たってわけ?」

 

 虹色の玉と大量の炎がぶつかり合う。衝撃が風となって周囲の木々を揺らしていた。

 

「まさか!話がしたいんだ。()()()()って聞いたんでね。」

「お生憎様!彼女は蓬莱人ではないわ。消えなさい!」

 

 虹色の玉が大きな爆発を起こす。大量にあった炎の弾幕も、妹紅(もこう)の後ろにいた火の鳥も掻き消された。

 

「はぁ......はぁ......」

「それも分かってる。私のことはいい。大事なのはアンタのことだ。」

「なによ......それ......」

 

 妹紅(もこう)は地上の霊夢(れいむ)の元へと降りてきた。

 

「初対面なのにアイツはお前のことを知っていなかったか?」

「......」

「......慧音も、忘れていたんだ。」

「え......?」

「慧音は、玲子(れいこ)の記憶を失った。原因は分からない。未だに思い出すこともない。」

 

 霊夢(れいむ)玲子(れいこ)の言葉を思い出していた。確かに、彼女は霊夢(れいむ)たちのことを知っていた。しかしそれは玲子(れいこ)の言葉から推測するにもう一つの幻想郷とやらの話のはず。しかしそれは玲子(れいこ)の視点から見た話でしかない。

 もし、玲子(れいこ)霊夢(れいむ)と面識があることが事実で、霊夢(れいむ)がそのことを忘れているとしたら?その可能性を霊夢(れいむ)は否定できなかった。それどころか、その事象を詳しく説明できるであろう人物が目の前にいる。

 

「......上がりなさい。話があるわ。」

「真意とやらは掴めたのか?」

「いいえ。ただ話を聞く価値が跳ね上がったわ。」

「そりゃよかった。ま、私としては得るものが少なそうなんだが。」

「そうでもないわ。」

 

 霊夢(れいむ)は振り向き、妹紅(もこう)にこう伝えた。

 

「あなたを玲子(れいこ)に会わせてあげる。」

「......へぇ。」

 

 妹紅(もこう)は笑った。その笑顔は緊張を含んだものだった。

 

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