適当に歩いていると、遠くでぽつんと立ち止まっているものに気がついた。
屋台を見て何だか渋い顔をしている。面白がるついでに声をかけることにした。
そのまま近付いてもつまらないので、彼女は自分の能力を使い突然現れてこう言った。
「やぁ、お前さん。
「わっ、すみません!えっと、その、はい。」
半袖に長ズボンという季節感のない恰好で立ち尽くしていた彼女は、期待通り驚愕の顔を浮かべていた。ただ同時に恐怖も感じ取れた。
「あの、それ、危ないですよ。」
どうやら背負ってる鎌が怖いらしい。
「ごめんよ!生憎これは商売道具でね。死神が鎌を捨てちゃあアイデンティティが消えちまう。どこかへほっぽるわけにもいかないの。何、大丈夫。これはパフォーマンス用だよ。」
「死神もいるんだ......」
死神を知らない素振りに違和感を覚える。
「嬢ちゃんはどこから来たんだ?」
「えっと、長野、です。」
「ながの?」
「す、すみません。」
どうも
霊力がない癖に、意識も記憶も持って霊として確かに存在しているという矛盾。そして確かに感じる
「嬢ちゃんは記憶があるの?」
「え、はい。あります。生まれて死ぬまで全部。」
「そーかそーか。あぁ、すまない。自己紹介をまだしていなかった。私は
決めポーズに鎌をぶんと振る。
「おー、本物だー......」
「おう、本物だ。」
あまりに純粋な反応に色々なことをつい教えたくなる。
「おまえさん、名前は?」
「あ、
「多分?あんた自分の死体を見ていないのか?」
「はい。寝て起きたらここにいました。」
「なるほどねぇ。幻想郷に来たのは最近かい?」
「幻想郷......?えっと、さっき起きました。あの、色々と教えていただきたいんですけど」
「いいよ。」
「その、死んだあとの手続きとかって......ありますか?」
「あるといえばある。」
「どこでできますか?」
「その前に質問だが、あんた未練は無いのか?」
「未練、ですか?」
「そうだ。」
「ないと思います。その、私は死にたくて死んだので。」
「ほう?あんた自殺したのか。」
「すみません......」
「死んでも気持ちは変わらなかったのか?」
「はい。むしろ、なんというか、生前より消えたい気持ちが強くなっている気がします。バカは死んでも治らないってやつですかね。はは......」
未練がないのに会話できるほどに強い存在感を得ている......まったくもってこれがなんなのか分からない。
「......」
「あ、えと、すみません。笑えませんよね......」
普通、死者の魂は喋らない。霊として姿を持ち喋るものは自分の死に気付いていなかったり、何かしら未練がある者だ。
ここ幻想郷では三途の川を渡る理由がないとして、霊のまま時間を謳歌している者も珍しくはないのだが......その話は割愛しよう。
「......」
「あの......?」
とはいえ生前の欲が強まったものというのは実に霊らしい。ならばこの奇妙な存在も欲を満たせば自ずと消えるだろう。
ただ、こうして姿を持ったのは何かの縁だろう。まぁ、縁がなくとももう一度死ぬことをすすめることはしないが。
「よし!」
「な、なんですか?」
「
「え、えっ、なんで、です?いや、行きます。」
少し話して博麗の巫女の元に送り届けてやろう。
「
「いえ、一文無しですが。こっちにきてからお給金をいただいたことはないです。」
「いや、死んだやつは三途の川を渡るためにお金を持っているんだ。どこかに入ってると思うよ」
「死んでもお金がかかるんですね......」
「何も、ないです......」
「驚いた。一文無しの霊なんて相当な嫌われ者しかいないのに。」
「そんな......嫌われるようなことをした覚えはないんですけど。」
「嫌われ者はみんなそう言うよ。」
「うっ、たしかに。」
「まぁ霊体は本質ではあるが一部でもある。今のお前さんはそこまで嫌な奴じゃないと思うよ。」
「そうですか?」
「消えたいと思ってる部分は嫌いだがね。」
「すみません......」
「まぁ珍しいものを見せてくれた礼だ。屋台で何か買ってやろう。」
「え、本当ですか?あの、すごい厚かましくて申し訳ないんですけど、礼なら三途の川を渡らせて欲しいんですけど......」
「無理だね。」
「あははは......すみません、ご厚意に泥を塗ってしまって。」
「いや、どちらかというと職場のルールでね。あと正直な話、お前さんが本当に霊なのかが分からない。得体の知れないものを送るわけにはいかないんだ。」
「そうなんですか。死後の世界にもいろいろあるんですね。」
あっ、と
「もしてして私、このままずっと死後の手続きができなかったりします?」
「ん~、直通だと無理だね。とりあえずその辺は私より適任がいるからそいつに任せるよ。変なやつのプロフェッショナルだ。」
「変なやつ......」
「さ、事務的な話はやめだ。屋台巡りをしよう!」
「お、お供させていただきます。」
「よし
「あ、はい。よい、しょっ......紙切れが引けました。」
「おめでとう!当たりじゃないか!」
「なんですか?これ。」
「地獄への切符さ。」
「危ないじゃないですか......!」
「おや、お前さん、消えたいんじゃなかったのか?」
「地獄って永遠って感じじゃないですか。三途の川はもやもや~......みたいな。」
「ぷっ、はははははは!」
「な、なんですか。」
「あはははははは!いや、なに。そこまでものを知らないとは思わなくてな。」
「ぐぐぐ......幻想郷、でしたっけ?聞いたことないですし、私死後の世界に来たばっかですし。」
「あ、風船が光ってる。」
「お、なんだ
「あ、えと、わっ!ありがとう、ございます......?でもこれ、普通の風船じゃないですよね?」
「人魂風船だ。元々の人格がなくなったものを使っていて、善行と悪行を溜め込む性質がある。悪いことをしたら不幸に導くし、良いことをしたら幸福なことがあるかもしれない。」
「ふわふわしてるのに重たいやつだ......」
ただもうコイツがなんなのかはどうでもよかった。今はとにかく新鮮な反応を楽しむことにした。
「金魚が宙を泳いでる......」
「
「すくうも何も自分で飛び出してるじゃないですか。」
「ほら、口より手を動かしな!」
「うぅ......」
「ズルじゃないですか!」
「幻想郷じゃ
「う~、遠距離攻撃なんて普通じゃないです......」
「ここじゃ割かし普通だよ。」
「あ、お面だ。やっと普通のやつがあった。」
「いらっしゃいませー」
「あ、どうもです。喋る店主もいるんだ......」
無許可営業の面屋だが、わざわざ言わなくてもいいだろう。
「すごい、全部綺麗ですね。」
「全部買ってくれていーよー。」
「あはは......すみません、お金なくて。」
「冷やかしか!帰るがいい!!」
「ごめんなさーい!!」
屋台を巡り終わり、博麗神社へ向かう。
「す、すごかった......!」
「私はあそこであんなはしゃぐやつは初めて見たよ。」
「なんだか生前よりもエネルギーで溢れている気がします。」
「私からみれば幻想郷で一番エネルギーが無いように見えるけどね。」
「そうなんですか?」
「まぁ、気にしなくていい。あんた、戦うのが好きとかではないだろう?」
「ないですね。金魚霊以下でも大丈夫です。」
「......結構悔しかったりする?」
「全然です。あれは金魚というか、霊なのでしょうがないです。」
「ははっ、そうか。」
「さて、着いたぞ。」
「あれ、神社......いつの間に。」
「おーい、博麗の。いるかー!」
静寂。
「いませんね。」
「いや、いる。」
しばらくすると渋い顔をした紅白の巫女服を着た少女がやって来た。
「ちょっと、境内で死神にうろつかれると不吉なんだけど?」
「仕方ないだろう?
「
「......(何か言ったほうがいいのかな?)」
神社から出てきた巫女は
「
「隠し子がいたらあんたに見せないよ。おもしろいやつだったから屋台で買ってあげたんだ。」
「子どもにこんな変なの買い与えないでよ。危ないでしょ。」
「(この人いい人だ......!)」
「あと、あんたは何でずっと黙ってるの?」
「すみません。死後の世界のノリにまだ慣れてなくて。」
「死後の世界......?」
「あぁ、こいつ幻想郷のことを死後の世界だと思っているらしい。」
「なんで訂正してあげないのよ!」
「(幻想郷って死後の世界じゃないのか......!)」
「どうせ送り届けるから二度手間になるでしょ?それに、あたい忙しいし。」
「都合よく仕事を理由にしちゃってさ。」
「あの......」
「なに?」
「私は死んでいるのでしょうか?」
「知らないわよ!そこの死神に聞きなさい。」
「
「
「良かった......」
「いいのか悪いのか......物騒な会話ね。」
「後は頼んだ。」
「待ちなさい!まだ説明してないことがあるんでしょう?全部吐いてから行きなさい。」
「はぁ......実にめんどうだわ。」
「すみません。」
「べつにいいわよ。あぁ、あとそれ。どうするつもり?」
「この風船ですか?どうすればいいのかは分からなくて......」
「そうね、
「あ、はい。」
「普通の
「あはは.......」
「あなた、消えたいそうね。」
「はい。」
「細かく説明してほしいか、さっさと消えるかどっちがいい?」
「さっさと消えたいです。」
「そう。じゃあ浄化するわね。」
「お願いします。」
「......あなた本当に未練が無いのね。」
「はい。なんでこうして意識があるのか分かりません。」
「私もよ。幻想郷はそういうことばかり。始めるわよ。」
「(おー、それっぽい。)」
「それじゃあ、さよならよ。」
「短い間でしたがありがとうございました。」
「調子狂うわね......」
「複雑そうな事情の割に嫌に順調だったわね。異変解決ばかりしてたから何だか拍子抜けだわ。」
巫女はそのまま神社へと帰った。
「今度こそ死後の世界かな?」
「あ、そうだ。一応確認しなきゃ。」
ポッケの中を確認するが、そこには何も入っていなかった。
「うーん、とりあえず死神の
死神を探して、