先はもう短い。
運命がそう言っているかのようにすべてがうまくいっていた。
目の前には、地べたに這いつくばっているもう一人の私がいる。
もはや立ち上がる程度の
記憶のない彼女は霊達にとって余程都合がいいのだろう。自分が何者なのかすらはっきりせず、付け入る隙間だらけの少女など鍵のかかっていない家と同じ。どこからでも入りたい放題だ。
さぁ、早く消えてくれ。
霊の仕組みなど知らないが、これだけ取り憑く者がいれば弱い自意識など簡単に塗りつぶされて消えるだろう。そんな期待をしながら、私は彼女の顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。
「うぁ......ぁ......」
正に風前の
しばらく経つがしかし、すぐに消えるだろうという
「「どうして」」
言葉が重なったのは偶然か、もしくは同一人物であるという象徴か。
小さく漏れ出した同音異義の言葉が風向きの変化を伝えていた。
地面が見える程透けていた足はとうに光を遮るようになっていた。
何が起きている?
「(少しうまくいきすぎているとは思っていた。生前だってうまくいくことの方が少なかったんだ、これはいつも通り。大丈夫、大丈夫。)」
なぜ存在が濃くなっているのかは分からない。他の問題に目を向けようと
対して、己の質問に答える者もなくただ襲われることを受け入れるしかない少女がいた。
「(どうして私を消したいの......?あなたが私なら、理由を話して私を納得させてよ!こんな一方的な仕打ちをする必要なんてないはずななのに......)」
彼女にできることはもう一人の自分の表情から、何かを得ようとするくらいしかない。声を出せたら、自分の意思を伝えられたら。そう思うが濃くなる身体とは対照的に自意識は曖昧になっていた。自分が思った言葉が口まで届かない。
そんな気持など知らない
『ここは俺の、俺の場所だ!』
『あぁ!わたしのおうち......また、また失う......!』
『今度こそ、間違えない......今度こそ自分だけのために。』
『やめろ、おいだすなら、俺も、おまえを、おまえをぉぉぉ......!』
どうやら争いあっているらしい。取り憑く機会が同時にあらわれた結果、誰もが完全に取り憑くまでいかないという状況のようだ。
「互いに争ってもしょうがないでしょ!」
『おれの、おれの...』
霊は聞く耳を持たない。霊達は
「どうすれば......」
「(どうすれば私にとって最も都合がいい?)」
霊達による取り合い合戦の終わりを待つのが正解か?否、彼女の存在が濃くなっていく状況で時間をかけるのはきっと
彼女の消滅が叶わないとしても、自分にとって都合がいい形を考えるのが現実的だと
「(何か、何か......!)」
霊という幻想郷特有の存在をどうにかするには、幻想郷の知識で対抗するしかない。
『判決......黒。』
『な、なぜだ。それほど悪いことはしていないだろう!』
『その自己価値観で完結している
『そう、あなたが天人たるに
『修行のようなもの、でしょうか。』
『そうよ!幻想郷の天人は甘くないわ。』
その副産物か、
「
自分が
そのロジックは、今ここでもう一人の自分を消しても過去の自分と同じように幻想郷のどこかで復活するということを成立させる。
ただ、
自分の思惑通りにはいかなかったが、そのおかげで致命的なミスを犯す前に気付くことができたからだ。
「それなら......」
ここから目指せる最善、それは最悪を回避すること。
それを回避する方法は何か。
「わたしは、霊......」
思いついたのは『
バラバラでなければ、たとえ
彼女がひとつになることに同意してくれれば、この争いに戦わずして勝つことができるかもしれない。
二人の望みは奇妙な形で一致し、話し合いが始まった。
「ねぇ、苦しい?」
「.....して。」
「なにかな?」
「どう、して......こんな......ことっ!」
身体が濃くなった影響か、他の要因があるのか。とにかく、彼女は話せる程度の
「君を消すためだよ。」
「ちが、そうじゃ、なくて......!」
「でも、状況が変わったんだ。私は君に消えてほしくない。」
「っ!?」
「あなたも辛いでしょ?知らない
「な、んで......」
「理由を知りたいの?なら、いい提案があるよ。」
「......?」
「ひとつになろう。わたしたち。」
「ぇ......?」
「わたしたちが元に戻れば、あなたは記憶が手に入るし、私があなたにこうする理由も分かる。そして、私はあなたとひとつになりたい。どう?目的が一致してると思うな。」
「なんで......」
「理由がほしいならどうすればいいかわかるでしょ?」
「なんでッ!!」
「!」
あの弱々しさから出たとは思えない大声に
「どうして、どうしてそんなに一方的なの......?」
「......」
這いつくばっている彼女はどうか聞いてくれと言うように手を伸ばす。その手は
「ずっと、聞いてるのに、ずっと、知ろうとしてるのにッ!」
「な、にを......」
彼女はどこにそんな
「わっ!なに?」
どこにそんな
彼女は
「わたしはなにもわからない!そんな私があなたは嫌いなのかもしれない。だけど、そうならそう言ってよ!なにもわからなくて、知らないうちに嫌われて、かと思えば違うって言い出して、もうわけがわからないよぉ......!」
「......」
彼女の思いが言葉で伝えられる。言葉で伝えきれない感情が、涙となって彼女の目から溢れ出す。
「わたしはあなたのこと嫌いじゃないのに、消えてほしいなら消えるから、やなところがあるならなおすから!おしえてよぉ......!」
「だから、知りたいならひとつになればいいと」
「無視しないでよッ!わかってるでしょ!?あなたは私なんだから、私の言いたいことくらい分かってよ!!」
「私のくせに何もわからないやつがそれを言うの?無茶苦茶だね。」
「だって、だって......!」
「ただ、君が私とひとつになりたくないのはよくわかったよ。」
「ちがっ」
「どいてよ。」
もう用は済んだとばかりに
「どかない!ちゃんと話してもらうまで消えない!!いつもそうだ!私の意見は聞いてもらえない、全部、全部無視される!みんな私の気持ちを無視するんだ!!」
「!?」
「あ、あれ?みんな......?みんなってだれ?わ、わたしは......」
「どいてッ!!」
「いやぁっ!」
彼女が不安定になり
「な、んで......わたし......」
隙をつかれたこと、気持ちが伝わらなかったこと、記憶にないことを口にだしたこと。それらすべてが彼女を動揺させ、一度はっきりし始めた自我を再び曖昧にさせた。
「......ふぅ。じゃ、私はいくから。できれば円満な方法が良かったけど、私は君を弾き出すことに専念するよ。」
「いや、まって、まだ、まだわたしは......」
彼女から背を向け、霊を探しにいこうとした
『いかないでぇ......』
『いかないで、いかないで。』
『まってよぉ、どうして、なんで......』
「......?」
嫌な予感がした
「いかないでよぉ......」
『いかないでぇ、いやだぁ。』
『あぁ、どうして、まって、あぁ。』
彼女を取り巻く霊の一部が、彼女に呼応するかのように呟き始めたのだ。
自我が曖昧になっているのは彼女だけではなかった。何度も憑こうとして失敗した霊は、自分と彼女との境界が曖昧になっていた。
「まずい......!」
もし霊たちが自我を失い、彼女の自我が分散するとなればそれは最悪の事態であった。
「(早く、早く霊を集めないと!!)」
同じ霊を襲わせ続けるのは危険、ならば物量でその問題を解決すると
私は霊の発生場所なんて知らない。でもやるしかなかった。言葉が通じる通じないに関わらず、非現実的な存在なら誰彼構わず未練が解決できる場所があると吹いてまわった。さすがに妖精っぽい者にも言ったのは時間を無駄にしたのかもしれないと思ったが、嘘に『霊と同行すること』という条件を追加して伝えると、無邪気にも霊を探しに飛び去って行った。
これは、使える......!
そこからは同一人物が嘘をついて回っていることを隠すために、一部の妖精がしている噂として広めることにした。
妖精を探しては嘘をついて回った。妖精は花の群生や大木など自然のランドマークがある場所に多いことが分かったため、霊を探すより断然効率がいい。
「そろそろ様子を見にもど......あっ。」
噂を広めることばかりに集中してたせいで元の場所が分からない......
「何をするにしてもほんとダメだな、私。」
悪態をつきながらも元いた場所を探す。
でもそう簡単に辿り着けるわけもなく、幻想郷には朝が訪れていた。
もう一人の自分はどうなっているだろうか?私が戻るまで耐えられるだろうか?
どうしたものかと考えていると、切り株の周りで妖精達が話しているのが見えた。
「ねぇ、幽霊の宴会場に行ったことある?」
「ないけど......もしかして!」
「ふっふっふー、私はあるっ!」
「いいなー!」
「今夜みんなで行ってみようよ!」
「いく!でも、幽霊を見つけなきゃいけないんでしょ?」
「大丈夫!別に幽霊がいなくても行けるし、最近は逆に幽霊から道案内を頼まれるよ!」
「わー、すごい!死神みたい!」
「ふふん、みんなを鎌で切っちゃうぞー!!」
「きゃー!にげろー!」
今夜、か。
夜になったらここに来てみよう。もしあの子たちがいれば、道案内を頼んでみよう。
幻想郷に再び夜が来た。
「みんな、準備はいい?」
「もうとっくに済んでるよ。早くいこーよー。」
どうやら噂の宴会に行くらしい妖精に、
「ねぇ、もしかして宴会?」
「え。」
「あなた、だれ?」
「私はしがない霊だよ。最近、周りの霊が宴会とやらに行ったきり帰ってこなくてね。場所を聞くにも当てがないんだ。君たちは場所を知っていたりするかな?」
「すごい!本当に道案内を頼みにきたよ!」
「え、えぇ!当然よ!わたしは道案内の達人なんだから!」
嘘である。この妖精は幽霊を案内したことなどない。調子に乗って話を盛っていただけで、まさか本当にそんな霊がいるとは思っていなかった。彼女の内心はバクバクである。
「すごいね。じゃあ、案内してくれるかな?」
「ま、まかせなさい!!」
自称案内人の妖精は宴会場までの道は知っていた。こっちは本当のことで良かったと人知れず安堵するのであった。
妖精に案内されて宴会場らしい場所に着いた。
「なにあれ、おもち?」
「あれが宴会場の正体よ!」
そこには
「あれが、宴会場?」
「そうよ!さぁ、幽霊さん。宴会場の中へ案内してもらおうかしら。」
「え?入り口とかはないの?」
「ないわ!幽霊だけが入れるみたい。」
「そっか。でもごめんね。私宴会場の場所も知らないような幽霊なんだ。」
「あ、そっか。」
「じゃあ何もできないってことー!?」
「ごめんね。」
妖精たちはがっかりといった感情を体全体で表現していた。
「つまんない!帰る!!」
「えぇ!?待ってよー!」
用がないと分かれば妖精たちは
案内人の妖精はその後、入ったことないのかと一緒にいた妖精に詰められるが、初めては友達と一緒に入りたかったと言い訳して難を逃れるのであった。
その場にひとり残された
「(あれは......
緑の髪に、神事に関わっていそうな白と青紫の服を着た少女が地上に降りてきた。
片手に複数の札をぶら下げた彼女は白いドームに近付いた。
そして、彼女は立ち止まったかと思うと急に叫んだ。
「女の子がっ!?」
「(きっともうひとりの私のことだ......!)」
巫女が札をドームに投げると爆発が起きる。それがきっかけになったのか、ドームに異変が起こる。
「(ドームが回転してる?いや、あれは......霊だ!)」
ドームは霊の塊だったのだ。霊たちは巫女に威嚇するように扇状に広がると、一斉に巫女に向かって突撃した。
その時にできた隙間から、
「(やっぱり、私だ。)」
どうやらまだ耐えていたらしいと
同時に、こんな短期間でこれほどの霊が集まるかと
頭はなく首まである人の半身、首の周りに扇状の襟が広がったと思えばそこから
さてどうなるかなと
裏側へ行くと、見知った顔が背中から浮き出ていた。それは
『あぁ......あぁ......』
私を見つけたからか、その表情は恐怖を浮かべていた。
「ただいま。」
『あぁ!ああああああああ!!』
化け物の咆哮か、その顔から出た悲鳴か。ただ
巫女はそれを追いかけるように空を飛んだ。
「(そういえばあの巫女さん、当たり前のように空を飛んでる......)」
無力な
さすがに飛んで逃げられたらどうしようもないので、巫女にはアレを撃墜してほしいというのが
巫女と化け物の戦いを見ていると、突然大きな爆発が起きた。巫女の必殺技だろう。化け物が分散し、霊同士の繋がりが弱くなると、
その感覚を確かめるように指を引くと、
「(私だ......!)」
「(しまった!私が!!)」
隠れるのを優先して引っ張ることを中断した結果、白い塊は
「待って......!!」
「離れなさいッ!!」
「(来なさいッ!!)」
このチャンスを逃すまいと
「(さぁ、ひとつになろう。死ぬために。)」
『どうして、どうしてそんなに一方的なの......?』
『無視しないでよッ!わかってるでしょ!?あなたは私なんだから、私の言いたいことくらい分かってよ!!』
「(わたしが統合される......)」
『どかない!ちゃんと話してもらうまで消えない!!いつもそうだ!私の意見は聞いてもらえない、全部、全部無視される!みんな私の気持ちを無視するんだ!!』
「......」
吸収した
「(私に抱いた恐怖心はどこ......?)」
「(まだあそこに......)」
巫女は
「(振り出し、か......でも、状況は少しだけ良くなったはず。)」
「(今度は私が私を乗っ取る。魂の
それなら後は
「(今回は予想外のことばかりだった......これは、私が幻想郷を知らなすぎるせいだ。
その時
『あなたと直接会えるのを楽しみにしているわ。』
「ただものではないよね......」
あれが追体験なのか、現実の出来事なのかは
「あれ、月がない。」
「(妖精さんに聞けば答えてくれるかな?)」
いたずら好きの妖精が素直に教えてくれるかは不明だが、