死に損ない、幻想郷にて死を望む。   作:飛煙

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第六話「幽々子(ゆゆこ)の推し事」

「その、正直何の迷惑をかけたのかはよく分かっていないのですが、迷惑をおかけしてすみませんでした。」

 

 初手謝罪。魔理沙(まりさ)さんの自宅で怪しげな本に流された結果、私は幽々子(ゆゆこ)さんと繋がったわけだけど......正直何が何だか分からない。でも釈明の機会を与えるとかで招待された身。まずは謝罪から入れば丸いはず。

 

「構わないわ。ちょっとウチの子に取り憑いていただけ。」

「結構なことだと思うんですけど......取り憑かれた子は大丈夫でしたか?」

「えぇ、問題ないわ。今は湯に浸かってゆっくりしているところよ。」

「そうでしたか。」

 

 なんかあっさりしてるなぁ。でも問題が解決したならいいか。

 

「でもそうねぇ。どうしてそうなったのか、説明くらいはして欲しいわ。」

「あ、はい。」

 

 どう説明したらいいんだろう。とりあえずふわっとでいいかな。

 

「私は死に関することを知りたかったんです。そのことを魔理沙(まりさ)さんに相談したら本を貸してくださいました。でもその本が普通の本ではなくてですね......」

 

 私はあの奇妙な体験を幽々子(ゆゆこ)さんに説明した。

 

「不思議な体験だわ~。」

「は、はい。そうなんです。」

 

 満足していただけたのだろうか。

 

「でも一番不思議なのは死に関する情報を集めていること。あなたはきっと、幻想郷の者ではない。」

「はい。外来人の霊らしいです。」

「どうして霊と思い込んでいるのか不思議でならないわ。」

「違うのでしょうか?」

「さぁ?あなたが私にどれだけ話してくれるかで変わるのかも。」

「別に隠しているわけではないんですけど......」

 

 難しいなぁ。どこまで話すべきなんだろう。何か知っていそうだし......いや、もう全部話そう。最悪なのは情報が足りずに新たな情報が出ないこと。

 

「今から全部話すので、気になったことがあれば後で質問していただければと思います。まず私は練炭自殺をしまして__」

 

 この世に未練がなく自殺をしたこと。そうしたら変な場所に出て小町(こまち)さんと出会い、自分が死んでいることが確定したこと。ここが幻想郷ということを霊夢(れいむ)さんから教わり、浄化してもらったこと。魔理沙(まりさ)さんに出会って自分が浄化されていないと気付いたこと。そこから消えるために試行錯誤を始めている中、幻想郷でもうひとりの自分を見つけたこと。両方消える必要があると考えた私はもうひとりの自分を殺そうとしたが失敗し、方針を変えて統合を目指したこと。そして、もうひとりの自分は巫女のような人物に保護されてしまったこと。その後の慧音(けいね)さんと妖夢(ようむ)さんとのやりとりについて話した。

 

「あ、巫女さんってことはもしかして守矢(もりや)神社に......」

「こわいわぁ。ひとの目の前で次の殺人計画を練るだなんて。」

「いえいえ、そんな。元に戻るだけですよ。」

「あそこは手ごわいわよぉ?神様ばかりなんだから。」

「むしろ好都合かもしれません。邪魔に思って消されるなら万々歳ですし。」

「うふふ、無敵って素敵ね。」

「無敵ではないですけど、何故か消えることができないんですよね。」

 

 とりあえず全部話したけど......なんだか幽々子(ゆゆこ)さんは楽しそうだ。楽しむのは結構なんだけど、私は情報がほしい。何か、何か知らないだろうか。

 

「その、できれば幽々子(ゆゆこ)さんが何者か教えていただけたらと思うのですが。」

「あら?言ってなかったかしら。」

「直接聞いたことはないです。白玉楼(はくぎょくろう)の主と認識しています。」

「そうよ。私は西行寺(さいぎょうじ)幽々子(ゆゆこ)白玉楼(はくぎょくろう)の主であり、冥界の管理を任されているわ。」

「め、冥界って、あるんだ......!」

「知らずについて来たのね。どう?知ったら帰りたくなったかしら。」

「いえ、むしろ運がいいと。」

「ふふ、そうよね。だってあなたは消えたいんだものね。」

「はい。あの、冥界パワーで私を消したりはできませんか?」

「もう試したのだけれど、結果は残念♪」

「そうですか......」

 

 どうして私のことを消そうとしたんだろう。妖夢(ようむ)さんの剣で斬れなかったから?なんにせよ、私の消滅に抵抗がないのはとても助かる。

 

「幻想郷では霊は成仏できないのでしょうか?」

「そんなことはないわ~。」

「うーん。外来人の霊だから......?あっ、私は霊なのでしょうか?」

「さぁ、どうなんでしょう。もし外来人の霊だとしても成仏はできるわ。」

「成仏しても困るんですけどね。外来人かどうかで変わるものではない、と......」

「そうとも限らないわ。」

「えっ?」

 

 意外な情報が出てきそうな気配に、つい幽々子(ゆゆこ)さんに期待の視線を送ってしまった。

 

「あなたが大嫌いな輪廻(りんね)は、それはもう美しい仕組みとして機能しているの。」

 

 でも、と幽々子(ゆゆこ)さんはいつから持っていたのか、扇子(せんす)を開いて口元を隠した。

 

「その美しい仕組みに(なら)わなくていい者がいる。誰かの私利私欲のために使われていい者がいる。さぁ、一体だぁれ?」

「え、そこ私に聞くんですか?うーん、知りませんけど......」

 

 話の流れ的には外来人かなぁ?

 

「外来人、ですか......?」

「うふふ......♪」

 

 正解かな?

 

「そうでしたか。私利私欲に使われるというのは弱肉強食だとして、輪廻(りんね)(なら)わないというのはよく分かりません。何か裏道が?」

「その二つを分けるから分からなくなるのよ~。」

「......」

 

 弱肉強食って生前の話じゃ?それが死後の輪廻(りんね)と繋がるの?正確にはすべての期間というか仕組みを輪廻(りんね)と言うのだろうけど。つまり輪廻(りんね)から外れる者がいるとしたら、弱肉強食を受ける生前に何かが起きたということ。利用されると言っていたから外来人が弱者側で、強者側が......何?なんでもいいけど、強者に何かされて死んでも魂が流転(るてん)しない状態になっている......?でもそれってその辺の霊と同じじゃ......なら違うかも。霊は霊として自我があるから、それを尊重しなければ......あれ?霊は既に死後の時間を生きているのだから、考える場所が違うような。

 

「利用されるのは生きている時、で大丈夫ですかね?」

「半分正解。頑張って。」

「半分ですか?じゃあ死んでいるときもってこと、ですか?」

「あら、ペケが増えて不合格になりそう。」

「うーん。」

 

 自分で考えろってこと?それとも正解から遠のいたのか。正解から遠のいたとして......半分なのに死後の時間は含まないの?生きているけど死んでいるみたいな?なんか、私と逆だ。肉体が死んでて生きてるのが私だから、肉体だけ生きてて中身をすっぽ抜かれた外来人が輪廻(りんね)(なら)わない存在ってこと?そりゃあ生きたままあの世にはいけないだろうけどさ。あれ?でも、その状態で中身が消えたらどうなるんだろう?うーん、ちょっと考えが進みすぎてるかも。

 

「その、生きている人の中身ってすっぽ抜けますかね?」

「えぇ、もちろん。」

「そのすっぽ抜かれたものが誰かに消費されたら、どうなるのでしょう?」

「さぁ?少なくとも、輪廻(りんね)の流れには乗れないでしょうね。」

「それを幻想郷の人間にやるのはダメなんですか?」

「あら、次の標的は人間かしら?」

「標的にする理由なんてないですよ。」

「理由があればやるだなんて、あぁこわい。こわいわぁ。」

「あはは......」

 

 なんというか、断片的にしか情報をくれないなぁ。しかもこの情報は何に使えるんだろう。これは輪廻(りんね)を外れて消滅できた人の話だから......体が生きている時に中身が死んだ外来人と、体が死んで中身が生きている私。しかも中身も霊夢(れいむ)さんに殺してもらったけど生きてる私。どういうこと?比較すると私、普通に幽霊街道をまっすぐ進めたと思うんだけど。

 

「あの、死ぬじゃないですか。霊になるじゃないですか。巫女さんに(はら)ってもらうじゃないですか。その、霊は成仏しますよね。」

「えぇ、そうね。」

「成仏しない霊なんているんですか?」

「小道具を使うような子なら、成仏しないかもね。」

「小道具......?」

「少なくとも、あなたにその知見があるようには見えないわねぇ。不思議ねぇ。」

「はぁ。」

「誰かに守られているのかしら?」

「いえ、守られる前にちゃんと死ぬまで見つからないよう細工して」

 

 言葉はそこで止まった。守られているという言葉を聞いて、巫女さんに抱えられた私の姿を思い出したから。

 

「......ぁ。」

「あら?」

 

 そう、生前の話じゃない。

 

「妖夢、入って来て大丈夫よ。」

「す、すみません。幽々子(ゆゆこ)様、柏餅をお持ちしました。一応、お客人の分も。」

 

 私の問題はすべて幻想郷で起きている。

 

「ありがとう。妖夢、あとで話があるわ。」

「うっ、すみません。」

 

 問題の原因もきっと、幻想郷にあるんだ。

 

「ねぇ、これ見て。あなたの柏餅よ。」

「ゆ、幽々子(ゆゆこ)様......!」

 

 私が最終的に目指さなきゃいけないのは幻想郷(ここ)から出ること。消滅できない場所で消える努力をしても不毛なのは当たり前。どうして気付かなかったんだろう?

 

「あむあむ......」

「......私は失礼しますね。」

おふはれはま(おつかれさま)ほーふ(ようむ)。」

 

 もうひとりの私を幻想郷の中で殺すこと自体、リスクが高い行為なんだ。アレを外に連れ出すことさえできれば、別に私は一つになる必要すらないのかも。むしろ変に状態を変える方が怖い。もうひとりの私を外に連れ出して一緒に死ぬ。これが私にとって最善のプラン。

 

幽々子(ゆゆこ)さん。」

はひはひは(なにかしら)?」

「あ、お食事中でしたか。あの、結局分かったことはひとつもありませんでした。でも、今後の方針が決まりました。ありがとうございます。」

 

 私には幻想郷は難しい。生前の世界以上に、よく分からない仕組みが絡み合っているのだろう。その仕組みを熟知するとしたら、一体どれだけの時間がかかるだろうか?考えるだけで身震いしてしまう。十数年を生きることすら辛かったんだ。私にそんな時間は耐えられない。一点集中で、できるだけ早く死にたい。死ナセロ。

 

 トン、と音が聞こえた。気付けば幽々子(ゆゆこ)さんが私に湯飲みを差し出していた。

 

「お茶でもどう?」

「え?あ、ありがとうございます。」

 

 

 

 話の場に軽食はつきものだ。脳が舌から受け取った刺激に反応して、幸福と同じ信号を弾き出す。その信号が話し合いが上手くいっていると錯覚させ、中身の良し悪しはともかく良い時間だったと円満で解散するのが談笑というものである。つまるところ、談笑に必要な軽食を用意したのにも関わらず、未だ届ける素振りを見せない妖夢(ようむ)には何か問題があるようだった。

 

『その美しい仕組みに(なら)わなくていい者がいる。誰かの私利私欲のために使われていい者がいる。さぁ、一体だぁれ?』

「......」

 

 妖夢(ようむ)はからかうような幽々子(ゆゆこ)声色(こわいろ)に、話の佳境を悟ったのだ。今入るべきではない。少なくとも、問いかけに対して応答があるまでは待つべきだと妖夢(ようむ)は判断した。しかし、妖夢(ようむ)が動きを止めた理由はそれだけではなかった。

 

「(玲子(れいこ)さん、あなたはどう答えますか?)」

 

 妖夢(ようむ)にとって玲子(れいこ)は得体の知れない者。その上脅威となるかもしれない相手の一挙手一投足が気になるのは当然のことだった。

 

『外来人、ですか......?』

 

 玲子(れいこ)の回答は至ってつまらないものだった。幽々子(ゆゆこ)の誘導に乗っただけの回答。その後の問答も印象に残るようなものはなかった。中身が無いのは無知(ゆえ)か。しかし、その手応えのなさはかえって別の印象を強めることとなった。

 

 掴みどころがない。

 

 妖夢(ようむ)が抱く玲子(れいこ)への印象は正にそれだった。妖夢(ようむ)は何も知らない。幽々子(ゆゆこ)が何故玲子(れいこ)を招待したのかも、玲子(れいこ)がそれに応じた理由も。分からないことばかりで妖夢(ようむ)は今になって思い出す。あの人里でのやり取り__

 

『あなたも本当に幽々子(ゆゆこ)様から招待されたというのなら、もちろん受け入れてくれますよね?』

『はい。』

 

 あの時は(めい)の執行に集中していたため無視していた妖夢(ようむ)だったが、よく考えればおかしなことだった。あの場面の玲子(れいこ)は、招待されていないと嘘をつくか命を捨てるか選べと言われたようなものだ。いくら無知とはいえ死がどういうものかは分かるだろう。

 

「(自信に満ちていた訳ではなかった。かといって不安も見られなかった。あれは、胡散臭(うさんくさ)い人達がいつも浮かべるどちらに転んでもいいという表情でした。でも__)」

 

 それにしても何が起こるか心底興味なさそうな顔をしていたなと妖夢(ようむ)が思い出していたところで、妖夢(ようむ)幽々子(ゆゆこ)から呼び出されることとなった。

 

 

 

 幽々子(ゆゆこ)は奇妙な客人に言葉をかけていた。自分の名を名乗る前に己の自殺を赤裸々に語る奇妙な客人。その語りに情緒など存在せず、本人にとってはそれが情報開示以上の意味がないことを幽々子(ゆゆこ)に伝えていた。しかし、その様子から多くのことを読み取れるのが幽々子(ゆゆこ)であった。

 

「(この子からは未練の一切を感じない。この子の言うもうひとりの方に集まっているのでしょう。)」

 

 相反する気持ちや、不要と捨てられたものが自我を持つことは起こりうることだ。玲子(れいこ)が消滅へ向かっているのならば、もうひとりは彼女が本来持っていたであろう消滅したくないという気持ちが集まっているのだろうと、幽々子(ゆゆこ)はシンプルな仮説を立てた。

 

「(消滅したくない気持ちが導き出した答えが記憶喪失。ふふ、おかしいわ。死にたい方、死にたくない方、そのどちらも自分の人生を否定しているだなんて。)」

 

 不要になった心が自我を持つのなら、分裂した双方から否定されている者はどこにいるのだろうか。

 

「(きっと、もうひとりいるわ。死にたいとも、死にたくないとも思わない。それでいて、自分の人生を受け入れている子がどこかに。)」

 

 幽々子(ゆゆこ)はその仮説から、自分の術が想定通りには効かなかった理由を導き出す。

 

「(違うわね。死にたい自分と、死にたくない自分を追い出しているのが三人目の本質かしら。)」

 

 となると三人目は言わば(ちから)の供給源。彼女がいる限り、死にたい者も、死にたくない者も生まれ続けるだろう。

 

「(この子は常に死に、常に生まれていたのね。)」

 

 死そのものである玲子(れいこ)がその矛盾を抱えているとして、死にたくない方はどうなるのだろうか?死に誘う記憶を拒否し続けている彼女。三人目が力尽きるまで記憶を拒否することができれば、彼女は隣り合わせの死から解放される。例え拒否できずに死んだとしても、三人目がいる限り彼女はまた生まれる。

 

「(あらあら。この子の目の前でこの仮説が出てくるのは心が痛いわ。)」

 

 考察を一旦区切り、先ほどから動きが止まっている妖夢(ようむ)を呼んで茶と菓子を持ってこさせる。

 三人目を知らない玲子(れいこ)では決して消滅までたどり着けないことを察した幽々子(ゆゆこ)は、おもしろそうに玲子(れいこ)を眺めながら口に柏餅を放り込んだ。幽々子(ゆゆこ)は彼女から何も感じない。繋がりさえも。

 

「(供給があるのに繋がりが見えない外来人の霊。それ即ち......)」

 

 幽々子(ゆゆこ)には何が見えたのか。彼女は手で口を隠し小さく笑った。

 

「(もしかすると幻想郷に穴があくかもね。のんびりしていると(ゆかり)と競争になるわ。うふふ、頑張っても報われないのに災難ね。応援しているわ。)」

 

 答えを察した幽々子(ゆゆこ)と、幻想郷側に問題があると思っている玲子(れいこ)。両者の思考は、奇しくも幻想郷の外を見ていた。

 

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