ジャスティスと一緒   作:僕の親戚の伯父さんの友達の姪の孫のペット


オリジナル現代/日常
タグ:ジャスティスと僕 蜥蜴 一人称視点
“僕”と“ジャスティス”の話。或いはいつかの僕達の話。

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ジャスティスと一緒

 

 

 

 僕はそこら辺に居そうな平凡な人間さ。

 家族でありペットであり相棒の親友、ジャスティスとの日常をここに語ろう。いつか読み返せば、それはそれは楽しい日々が蘇るだろう。

 

 これから話す事を信じるも信じないも君の勝手、でも僕は本当の事しか話さないつもりだよ。

 

 そうだね、まずはジャスティスとの出会いから話そうか。

 

 

 

 

 あの時は、今にも雨が降り出しそうな雲が夕陽を透かして、黒とも灰ともつかない暗い空だった。

 

 通学カバンからはみ出した、折り畳み傘の取手が鬱陶しくて、僕の心はまるで空を写した模様だった学校の帰り道。

 その日は部活が無くて、特に遊ぶ約束もしてなくて、ただのんびりと歩いていたんだ。

 

 僕は、歩道橋が好きなんだ。

 特に理由なんて無いけれど、走る車や歩く人を見下ろした風景は割と好き。なんだか自分が巨人になったような気がして、ほんの少しの勇気が湧いてくる。

 

 歩道橋の階段を半分ちょっと登った所で、僕はジャスティスと出会った。

 

 ジャスティスは階段の、上から二段目に居た。

 そこから僕を、静かにじっと見つめていたんだ。

 

 ジャスティスと目があった僕は、まるで世界が静止したかのような感覚に陥った。

 真っ黒なジャスティスの目玉が僕を射抜いていた。

 

 

『汝、流るるが如し日々。曰く、悠遠を歩むか?』

 

 

 ジャスティスがそう言った気がした。

 

 言葉の意味はよく分からなかったけど、多分「一緒に遊ぼうぜ!」的な感じだと思った僕はジャスティスに手を伸ばした。

 口先に指先で届く時、ジャスティスは僕の人指をチロチロと舐めたんだ。ちょっぴりくすぐったかったけれど、動かさない様に我慢する。

 

 そのまま僕とジャスティスは暫く固まって居たけれど、だんだん腕を伸ばし続けるのが辛くなってきた僕は階段を上がって、ジャスティスの近くにしゃがみ込んだ。

 

 すると、ジャスティスは僕の足を駆け上がって、腿を登って、背中を通り過ぎて、僕の左肩にやって来た。あまりの事に僕はビックリしてしまって、その場で尻もちを付いてしまったんだ。

 今覚えば、階段から落ちなくて本当によかったよ。

 

 僕の肩の上を陣取ったジャスティスは、きっと澄ました顔で前を向いていたと思う。だって、僕からはよく見えないからね。

 

 

『征け、臆するな。我が選んと思う迄』

 

 

 ジャスティスが偉そうに、僕に指示を出している気がした。

 

 気付けばそこにジャスティスは居る事にも慣れてきて、荷物を拾って立ち上がる。

 ちょうどそのタイミングで、とうとう空から水滴が落ちてきた。

 

 あの黒にも灰にも見える雲は、もう水が溢れ出してしまうみたいだ。

 

 だから僕は折り畳みの癖に無駄に大きな傘を取り出して、急いで開く。

 傘を水滴が叩く音を聞きながら、僕とジャスティスの生活は始まったんだ。

 

 

 

 それから数ヶ月が経った。

 僕は学年の割に貯金が出来る方だと思ってる。お小遣いを貰っても、使う機会が少ないからだ。 

 

 僕は当時、部活動を頑張っていた。

 平日は勿論、土日だって一日中練習の毎日だから。登下校の間に寄り道しようにも、家から学校までが近くて、結局は遠回りになってしまう。それでもせいぜいコンビニが一軒あるぐらい。

 

 小学生の時はあまりお金を使った記憶がないし、中学生になってからも大きなお金は使っていないんだ。

 友達に合わせてゲームは持ってるし、そう言うので遊ぶのも好きだ。でもそれらは誕生日とかに親から買ってもらうのが全部で、自分で買った事は無いんだよ。

 

 そんな僕が初めて使った大金は、ケージとヒーターだった。

 ジャスティスを連れて帰った僕に、両親は笑って飼うことを許してくれた。きっと共働きで家に居ない事が多いから、それを気にしていたのかも。

 

 勿論、ルールを決められた。

 命を飼うのだからと、途中で投げ出さない事が絶対のルールだ。

 

 こうして僕の新しい日常が始まったんだ。

 

 

 

 

 僕は何時だってジャスティスと一緒。

 朝起きて、朝食を食べて、家を出る時もジャスティスと一緒。通学の時も、授業中だって一緒だ。

 僕とジャスティスは一心同体だった。

 

 初めのうちは友達もびっくりしてたけど、それもすぐに慣れる。ジャスティスはいつも、僕の左肩に乗っている。

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして、僕は高校生になった。

 家から一番近い学校が進学校で、僕は人生で初めて家の中で勉強をした。

 これでも僕はそれなりに成績が良いんだ。一応、テストだって全教科とも平均点より20点ぐらい上にある。満点は取れないけど、良い点は取れてるよ。

 それにテストって、授業でやった所からしか出ないからね。ちゃんと聴いていれはこれくらいは出来るさ。

 

 でも受験勉強って、今までの範囲全部から出るんだよ。流石にそんなに覚えてないし、そこまで頭は良くないからね。

 古い教科書を発掘したり、過去問を探したり、先生に対策の問題集を貰ったり、いっぱいやったよ。

 

 終わってみれば、そんなにやらなくても良かった気もするけどね。

 ジャスティスが呆れた目で僕を見ていたのを覚えてる。

 

 そうそう、僕のクラスには同じ中学の子が居なかった。他の子達は割とグループが出来ていたから、馴染めるまで少し寂しかった記憶がある。

 それになんでか皆、僕を少し避けていたんだ。

 

 中学では皆慣れてたから忘れちゃってたけど、そういえば普通、肩に蜥蜴を乗せてる人はいないよね。

 

 まぁ、出だしは良くなかったけれど、気が付けば普通に友達も出来た。何ならもうすぐ卒業だけとね。

 だって仕方ないじゃないか。何も無かったんだもの。

 

 勿論、高校生活におけるイベントは楽しんだよ。それはもう楽しかったさ、留年でもしてやろうかと思うぐらいにはね。

 

 

 進学校なだけあって、僕含めてみんながそれぞれ大学へ行く。僕は特別やりたい事があった訳でも無い、かと言って何もしたくない訳でも無い。手頃な…って言い方は良くないかもしれないけれど、僕はそこそこ良い大学に入る事が出来たんだ。

 

 

 

 

 

 それから、

 

 

 

 それから、

 

 

 

 

 それから、

 

 

 

 

 

 それから、

 

 

 

 

 

 ジャスティスが死んだ。

 

 共に過ごした楽しかった日々が、共に過ごした色鮮やかな日々が、共に過ごした大切な時間が、僕の脳裏に強く焼き付いている。目を瞑れば、瞼の裏ではっきりと再生される。

 

 僕は、そろそろ大人にならなければいけないのだろう。

 分かっている。曖昧になってしまった色彩の薄れた日々を惰性で過ごして、僕はほろろに大学生を終わらせてしまった。

 

 気付けば僕は、社会人になろうとしている。

 

 大人になれば、大人に成れると思っていたけれど、いつまでたっても僕は子供のままな気がしてならないんだ。

 

 

 心にぽっかり空いた大穴を、仮で埋めることも出来ずに僕は空を見上げる。

 

 今日の天気予報は外れかもしれない。晴れると言っていたから、僕は傘を持っていないのに。空は今にも雨が降り出しそうな、黒とも灰ともつかない暗い雲に覆われている。

 

 

 僕は自分のアパートに戻る帰り道、歩道橋の階段に足を掛ける。

 

 

 

 僕は昔から、歩道橋が好きだった。

 

 

 理由はなんだったろうか…今では思いだせないけれど、僕は昔から歩道橋が好きだった。

 

 渡り終えて、階段を下る途中で、僕はふと足を止めた。

 呼び止められた気がしたんだ。

 

 ちょうど雨が降り出した。憂鬱な気分を抱いたまま、僕は振り返り、目線を上げた。

 

 

 

 真っ黒な目玉が、僕を見つめていた。

 

 

 

『汝、流るるが如し日々。共に、悠遠を歩むか?』

 

 

 

 ああ、なんて懐かしい姿だろう。

 やおら手を伸ばし、指先をチロチロと舐めるその光景は、いつかの記憶を彷彿とさせる。

 

 突然、それは僕の指先を、掌を、腕を駆け上り、左肩までやってきた。

 

 

 

『征け。我が選んとした者よ』

 

 

 

 澄ました顔で、きっと前を向いているんだろう。

 

 降り出した雨の中、僕は歩いている。

 友に涙を見せたくはないから、少しだけ、歩く速度を落として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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