クレイジー&ジャーニーズ   作:ホワイト・ラム

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随分時間が空いてしまいまいた……
待ってた人、お待たせしました。


ジャーニー&フラッシュバック

トレセン学園のトレーナーの朝は早い。

だが、それ以上に恋する乙女の朝も、時として早い。

となれば当然、夜も早い。

夜更かしなどアスリートたる彼女たちにはもっての他だ。

 

 

 

こッ。

 

部屋の壁に掛けられている時計が、夜の12時の10分前を指し示す。

それを見た、この部屋の住人オルフェーヴルはもう一人の住人である姉の声をかける。

 

「姉上、そろそろ(ねむ)る時間であろう」

 

「ん、ああ、そうだねオル。

おや?もう、こんな時間か」

オルフェーヴルの言葉に呆然としていたジャーニーが、ハッと気が付き部屋の電気を消してベッドに入り込む。

 

(最近、姉上の様子がおかしい)

闇の中、ベッドに寝ころんでいる姉を思い浮かべる。最近、姉の様子がおかしい。

突然、コースを全力で倒れるまで走ってみたり、部屋の中で惚けていたと思えば、幸せそうにイヤイヤと首を振ったりする。

今日もそうだ。ジャーニーは生活サイクルに厳しく11時から11時半までには必ず床に就いていたハズだ。

12時近くまで起きているなど、以前ならありえなかった。

 

(あの下郎と何か、有ったのだろうな)

自身の疑問に、姉は答えてくれないのはなんとなく分かっていたので、オルフェーヴルは何も尋ねない事にした。

幸せそうなのは分かる。それだけは分かっている。

 

(ならば、無暗に問いただす必要は無い)

そんなことを考えて、オルフェーヴルの意識が夢に溶けて行く。

 

 

 

(トレーナー、さん……)

オルフェーヴルの予想通り、ベッドに寝転がるジャーニーの脳裏を埋め尽くすのは彼女のトレーナーの姿と、先日の言葉。

ジャーニーの小さな胸の甘い疼きが止まらない。

 

(ああ、私を好きだなんて……学生の身分の相手に何て事を言ってしまうのでしょう?

本当に、本当にどうしようもない人、教育者としてあるまじき行為のダメトレーナー)

心の中では暴言が止まりはしないが、それと同じ、あるいはそれ以上の幸福な気持ちが止まらない。

 

(明日のお休みは、どうしましょう?

約束なんてありませんが、大好きな私が顔を見せてトレーナーさんは嫌な顔などする訳が有りません。

ふふ、それならば私をこんなに悩ませた責任を取って貰わなくては……)

ウキウキと心弾ませながら、明日の予定を考えて行く。

 

 

 

 

 

秘境と呼ばれる駅で2人が居りてから30分。

開けた場所に出た瞬間、トレーナーが駆けだした。

 

「ふぅー、すぅー、はぁー……空気が美味い!!

ジャーニー!!ジャーニー!!花!!花めっちゃ咲いてる!!あと、なんか小川流れてる!!

あと、空気が全然違う!これ無料で吸って良い空気だよね?有料じゃないよね?」

 

「この辺は、地元の人でもあまり知らない植物の群生地ですからね。

偶にはこの様な場所で羽を伸ばすのも良いですよね?」

お弁当の入ったバスケットを持ってジャーニーが、はしゃぐトレーナーの後を追う。

 

「へぇ!綺麗だなー、やっぱ都会も良いけど、こういう場所も大事やん?

やっぱ人間、いくら進化しても動物だから土とか風とか自然の中に居ないとダメだよなー」

ふっふー!なんて奇声を上げながら、地面に寝転がったりする。

 

「あやおや、まるで小さな子どもの様にはしゃぎますね。

いえ、あの姿は子どもと言うより――おや?」

ジャーニーの脳裏にとある言葉がよぎった瞬間、眼の前のトレーナーに変化が現れた。

 

「小川、見に行こ!小川!!」

キラキラとした目をするトレーナーの頭頂部には彼の髪と同色の獣の耳。

背中を見れば、尾てい骨辺りからも黒い毛の生えた尻尾が、せわしなく揺れている。

 

「ああ、あのはしゃぎよう……トレーナーさんはワンちゃんだったんですね」

妙に納得が行き、ジャーニーが何度も頷いた。

 

「魚居るかな!?魚!!遊んだらゴハンにしようぜ!!」

耳と尻尾をピコピコさせながら、なおもトレーナーは走り回る。

その勢いで足元の花が散り、ジャーニーが眉を顰める。

 

「……少々、躾が足りて居ないようですね。ならば、私が少し()()をしてあげませんと」

自らが下げるバスケットに手を伸ばすと、リング状の物に触れる。

ジャーニーは中を確認もせずに取り出すと、その手に握られていたのは鎖の付いた真っ赤な犬用の首輪だった。

 

「トレーナーさーん、こっちに来てくださーい」

後ろ手に首輪を隠し、はしゃぐトレーナーに声をかける。

ジャーニーの声に、トレーナーの頭の上の耳がピクリと反応し、笑顔を振りまきながら走って来る。

 

「ジャーニー!!」

 

「え!?」

トレーナーが飛び掛かり、ジャーニーを押し倒す。

その衝撃で花びらが舞い上がる。

ジャーニーを押し倒し、自ら組み敷いた小さな身体を見下ろす。

その眼にはギラギラとした獣性が宿っていた。

 

「と、れーな?」

 

「俺のこの前の言葉……忘れた訳じゃないよな?

自分を好いてるオトコを、わざわざ人の居ない場所まで連れて来たんだ。

これは、もう同意ってワケで良いよな?

ジャーニーも、その気みたいだしなぁ」

そう言って、ジャーニーが持っていた首輪を自らの手の中で弄んだ。

嬉しそうに獣耳が動き、ジャーニーの視界の端で尻尾が揺れていた。

 

(犬じゃなくて狼……トレーナーさんは、とんでもないケダモノだったんですね……)

 

「オマエを俺のモノにしてやるよ」

トレーナーが首輪をジャーニーの首に巻こうとする。

 

「ああ、ダメです……私たちはあくまで、指導者と生徒……そ、卒業まで待って……」

ジャーニーの言葉を聞いた瞬間、トレーナーの態度が瞬時にしぼんだ。

 

「そうか、そうだよな。俺なんかの好意はジャーニーにとって迷惑でしかないよな……

俺たちの関係はあくまで競技選手とその担当トレーナーってだけだもんな……。

俺、勘違いしてたよ。

ごめん。さよなら、ジャーニー……」

力なさげに立ち上がり、狼耳と尻尾を外す。

暗闇の中、肩を落としこちらに背を向けてトボトボと歩いて行くトレーナーの姿が浮かぶ。

 

「ちがいます!ちがいますよ!!誤解なんです、トレーナーさん!!トレーナーさぁん!!」

必死に成って追いすがるが追いつけない。

こちらを背にして、歩いている彼。走っても走ってもその背は遠くなる。

その姿は小さくなり、やがて――

 

 

 

「行かないで!!」

 

「姉上?どうした!!?」

突如飛び起きたジャーニーの言葉に、オルフェーヴルまでもが眼を覚ます。

不思議そうに、ベッドの近くのランプを付ける。

 

「はぁはぁはぁ……ごめんよオル、せっかく寝ていたのに起こしてしまったね。

大丈夫だよ、すこし良くない夢を見ただけだよ」

額の汗を拭い、ジャーニーが息を整える。

 

「構わぬ、その様な時も有る」

オルフェーヴルはその言葉を残し、再度寝転がった。

 

「…………」

夢の内容など、起きた瞬間に忘れてしまう。

だがジャーニーの中には漠然と『トレーナーが居なくなった』という実感が残っていた。

言いようのない嫌な感覚を忘れる様に、ジャーニーは頭を振って再度、横に成った。

 

(内容など、覚えてない。所詮、夢は夢……トレーナーさんが私に好意の告白をしたのは間違いなく現実)

揺るぎのない事実を傘にし、自らを安心させようとする。

心音がゆっくりと穏やかになり、横になり目を瞑る。

 

(――そういえば、あの時の返事をキチンと返し…………て?)

意識がほどけて行くジャーニーの瞼がピクリと強張る。

 

(トレーナーさんの言葉の後、私は――どうした?)

思い出すのは自らの行動。

心臓が跳ね、幸福な気持ちに成り、その後――()()()()()

 

好意を相手に伝えた後、相手がすさまじい勢いで逃げ出した場合、考えられる事は?

様々なパターンが有るが、そのどれもが決して好意的な物では無い。

その考えにたどり着いた瞬間、ジャーニーの背筋に冷たい物が流れた気がした。

 

『さよなら、ジャーニー……』

夢の中のトレーナーの去っていく姿が蘇る。

 

「ち、違います!!誤解です!!」

 

「姉上!?どうしたのだ!!

今夜、2度目だぞ!?」

飛び起きたジャーニーに、オルフェーヴルも飛び起きた。

 

 

 

 

 

翌朝

同室で眠る妹を起こさない様に、努めて寝床を抜け出し着替えをする。

唯一の明かりでも有ったスマフォで現在の時刻を確認して、ドアノブに手を伸ばす。

 

「姉上、外出か?」

部屋の中、暗闇の向こうからジャーニーの妹である、オルフェーヴルの凛とした声が聞こえる。

 

「ごめんよ、オル。気を付けては居たんだが起こしてしまった様だね。

まだ何時もの起床時間まで2時間近く有るから、ゆっくりおやすみ」

 

「質問に答えよ、姉上。

何時ものより2時間早く起き、何処へ行く?」

部屋がうっすらと明るくなり始める中、オルフェーヴルの声が再度響く。

 

「今日はせっかくのお休みだからね。

私のトレーナーさんに朝ごはんを作ってあげたいんだよ。

24時間開いてるスーパーがあるからソコで買い物をして、私のお味噌汁の匂いでトレーナーさんを目覚めさせてあげる計画さ」

ふふっとジャーニーが楽しそうに小さく笑った。

 

「そうか、大儀である」

オルフェーヴルがゴロンと布団に寝転がり、再度目を閉じだ。

 

「行ってくるよ、オル」

小さく声をかけて、ジャーニーが部屋を出た。

自らの姉の居なくなった部屋で、オルフェーヴルがつぶやく。

 

「――らしくないぞ、姉上。

何時もの姉上ならば、前日に買い物と仕込みの用意を済ませていたハズだ。

当日の朝に、決行などありえなかった」

オルフェーヴルの脳裏に、最近のジャーニーが何かを思い出したようにニヤニヤしたら、イヤイヤと首を嬉しそうに横に振る様子を思い出す。

そして、昨晩のひどく憔悴した様子の姿も。

何かに思い悩み、歩みが止まりかけるその様は――

 

「らしく、無いぞ、姉上……ぐぅ」

再度襲い来る睡魔に身を任せ、オルフェーヴルは眠りについた。

 

 

 

 

 

トレーナーの朝は存外早い。

まぁ、早いと言っても、仕事場で寝泊まりしている人物にとっては起きた瞬間から職場なので、その辺りは少し曖昧だ。

職場に居る時間という意味なら、ベットで眠っている時間も含むし、ボーっとしながらテレビを見る時間も含まれる。

 

『早朝星座占いのコーナー!!本日は週末!!なので!!土曜日、日曜日の運勢も総合した占いとなっておりまぁあああああすぅううう!!!!!』

古ぼけたTVの画面にファンシーな衣装を身に纏った女が朝から無駄に高いテンションで星座占いの結果を紹介していく。

2位に始まって、3位4位5位。画面が変わって更に下位の星座たちが並んでいく。

この番組は占いの順位を2位から11位までの順序で発表していく。

最後に1位を発表し、残った星座が最下位となる。

トレーナーはソファーに座りながら真剣な眼差しで順位を追っていく。

 

『では今週末、最も運勢の良い星座は――』

 

「ゲッ!」

発表された1位の星座を見て、ジャーニーのトレーナーが苦い顔をする。

一番最初から内容を目で追っていたのだ。

となれば今、ここに出ていない自分の星座が自動的に最下位になるのは当然だ。

さっきまでの1位の画面が暗転し、ドンヨリとした暗い画面にトレーナーの星座が浮かぶ。

言うまでも無いが、運勢最悪の星座は自分だった。

 

『――座の人でしたー、ごめんなさーい。他の人との距離感を間違えちゃうカモ?

でも心配はご無用です!!そんなアナタに幸運をもたらすラッキーアイテムは――』

 

ブツ!

 

「あー、やめやめ!占いなんて自分に自信が無いヤツが縋りつくモンだ!

俺様には一切!!合切!!縁のない物!!

真の強者は恐怖などと言う感情を持たぬ者!!つまり俺!!」

自らを鼓舞する様に立ち上がり、傍らに置いてあるリュックに手を伸ばす。

 

「『他人との距離感』、か……もっと早く言えよ」

なじる様に小さくつぶやき、立ち上がる。

脳裏の思い浮かぶのは、先日のジャーニーとの一件。

トレーナーとしてジャーニーに好意が有ることを伝えた瞬間、ジャーニーはその場から逃げる様に立ち去ってしまった。

 

「アレはキモかったよな……あー、契約解除までは行かない……と、思いたいが……」

失敗したなぁ、と内心で何度目か分からない後悔を呟く。

占いを見終わったトレーナーが、膝を叩いて勢いよく立ち上がる。

 

「よし、メシにするか!今日は適当にパンに砂糖とマーガリン塗ったヤツを――」

 

ガチャ

 

自身の部屋のドアノブが回される音に、トレーナーがそちらの方を向く。

視線の先でドアがゆっくり開かれ、自らの担当バ、ドリームジャーニーが姿を見せる。

トレーナーが先ほどの占い、更には前日の自身の言葉を思い出し僅かに身を強張らせる。

 

「おはようございます、トレーナーさん」

 

「お、おはよう、ジャーニー……なんか、連絡事項、か?」

休みの日の、約束など無い唐突な訪問。

先ほどまでの、嫌な想像(契約解除)がトレーナーの中で輪郭を得ていく。

そんなトレーナーの想像を他所に、ジャーニーがするりと部屋に入って来たかと思うと右手に持ったビニール袋を突き出した。

 

「朝ごはん、まだですよね?

以前のドーナツのお礼も兼ねて、作らせてくれませんか?」

 

「え、え?」

予想外の言葉に困惑するトレーナーの横を、ジャーニーがすり抜けていく。

 

「テレビでも見て、待っててください」

ジャーニーにより半場強制的にソファーに座らされ、彼女が抱えていたビニール袋を広げる。

さっきの占いのアドバイスがトレーナーの脳裏を過るが、止める間も無くジャーニーは料理を始めた。

 

「トレーナーさん、卵焼きを作ろうと思いますが、甘いのとしょっぱいのどちらが好みですか?」

エプロン姿でチラリとトレーナーに視線を投げる。

 

「甘い卵焼きに、後から醤油をかけるのが好き」

 

「…………とにかく、甘くしておきますね」

 

困惑するトレーナーを他所に、時間にして1時間足らずの間で、何時も2人がレースの話をしている横長のテーブルの上に朝食が並んだ。

白米、味噌汁、香の物は当然とし、甘じょっぱい厚焼き玉子、ほうれん草の胡麻汚し、焼き鮭、辛子明太子、ひじきの煮物、海苔の佃煮と並んでいく。

お茶漬けのアテになりそうなモノがやや多いのはジャーニーらしい。

 

「熱いうちに、どうぞ」

小さく笑みを浮かべて、ジャーニーが茶碗を差し出してくる。

 

「い、いただきます」

先日、自らが良くな事を口走った自覚がある分、トレーナーの態度は何処か余所余所しい。

ぎこちない動きで両手を合わせて、味噌汁を一口啜る。

 

「――美味(うま)い」

トレーナーが眼を見開き、小さく声を漏らす。

食事はレトルトや簡単に作れる物で文字通り()()()()いた為、この様な手の込んだ料理など久しく口にして居なかった。

先ほどの契約解除の不安など忘れて、夢中で箸を動かす。

 

「ふふ、それは良かった。

卵焼きもどうぞ、お口に合えば良いのですが」

トレーナーの言葉と様子にジャーニーが小さく笑みを浮かべる。

 

「うまいなぁ、うまいなぁ!

最高!味噌汁も卵焼きも文句無しだ!毎日食べても食べたいくらいだよ!」

ジャーニーの眼の前でトレーナーが自身の作った朝食を食べてゆく。

それだけでジャーニー口角が緩み、今朝方から感じている半ば強迫観念染みた不安が溶けて行くのが分かる。

不安が消えてゆくのはトレーナーも同じだった。

 

互いに言葉に出しはしないが、お互いがほんのりと相手から好意を感じていた。

 

(ああ、こんな日がずっと続けば良いのに)

ジャーニーは目を細め、美味い美味いと朝食を食べるトレーナーに微笑んだ。

その様に、昨晩の自らの想いは杞憂だったと確信して、自らも箸を手にした。

 

「ふぅ……腹いっぱい……幸せいっぱい……」

ソファーの背もたれに体を預け、ため息を吐く。

 

「お粗末様です」

ジャーニーがお茶を差し出す。

 

「粗末なんてモノは何一つ無いさ。

何から何まで、ぜーんぶ美味かった……

思わず、最高の朝メシに成ったぜ!」

 

「そうですか、それは良かった」

熱さに若干、手間取りながらトレーナーが湯飲みを傾ける。

 

「よぉし!皿も洗っておくか。

片付けまでさせるワケいかねーからな!」

腕まくりをして、トレーナーがスポンジを手にする。

 

「私もお手伝いします。

トレーナーさんは皿洗いを、私はお皿を拭いて片付けをします」

手早く役目を決めて、トレーナーの横にジャーニーが並ぶ。

 

「あの、トレーナーさん……明日の予定などはありますか?」

皿洗いをしながらジャーニーが口を開く。

 

「明日?明日は……あー、今のトコ空いている。

丁度、ラブキュアもお休みだし」

一瞬空を見てトレーナーが考え込む。

 

「そうですか」

当然ジャーニーは知っている。自分の担当トレーナーは日曜の朝は必ずTVを見ている事を。

日曜朝のTV番組をリアタイで視聴する派である彼は、その流れでなんだかんだ特撮番組を見て、更にSNSでの感想を読んだり書き込んだりをして結局11時過ぎまで部屋の中から出てこない。

必然的に彼は、日曜の朝から遊ぶのはこのタイミングしかないのだ。

 

「トレーナーさん」

 

「ん?」

ジャーニーに呼びかけられ、トレーナーが首を傾げる。

 

『私、アナタが好きです。私とデートしてください。恋人同士として』

ジャーニーがその言葉を出そうとするが、舌が回らない。

 

「わ、わたし、と」

言葉が途切れる。続きが出てこない。

 

「ジャーニー?」

あまり見ないジャーニーの様子に、トレーナーが首を傾げる。

それでも尚、ジャーニーが口を開こうとした瞬間――

 

 

 

~~~~~♪~~~♪~~~~♪

トレーナーの部屋の隅のスマフォからアニメ音楽の着信が聞こえてくる。

その音楽は、ジャーニーの小さな言葉をかき消した。

 

「あ、ごめん」

小さく謝って、トレーナーが着信を受ける。

 

「おう、どうした?――え?」

トレーナーの顔に焦りの表情が浮かぶ。

行儀は悪いと思いながらも、ジャーニーは会話の内容に耳を傾けようとするが、会話内容は拾えない。

 

「いや、え?マジ?朝、起きたらその状態!?わ、分かった……若干予定が変わったと思えば……」

歯切れの悪い言葉を残して、トレーナーが電話を切る。

振り返ったトレーナーの顔は酷く気まずいそうだった。

 

「トレーナー、さん?」

努めて不思議そうな顔をして、尋ねるジャーニー。

 

「ごめん、ジャーニー……たった今、約束したばっかりだけど、やっぱり明日は行けないわ。

てか、もっと言うと今日も――」

 

ガチャ――ギィィィィィィィぃィぃ……

 

その時、扉が開いた。

油が切れかけて建付けが悪いが、それを加味してもこの時の扉の開く音は、ジャーニーにとってなぜか酷く不気味に聞こえた。

そして、扉の向こうから『ソレ』は投下された。

 

「オッ!ジッ!!サッ!!!マァ~!!!!会いたかった、会いたかったですわぁ!!」

白いワンピースに赤い靴。

背中には黄色いリュックサックを背負っている。

白い唾の帽子からは2つのウマ耳、背後には尻尾が揺れている。

 

ウマ娘だ。それも10歳にも満たない程度の幼い姿の。

 

そのウマ娘は弾かれた様に走り出し、今も尚、スマフォを手にするトレーナーを押し倒した。

小さく音を立て、床を転がったスマフォがジャーニーの靴に当たる。

 

「ああん!愛してます、愛してますわぁ!ワタシの愛しい人!!

大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好きですわぁ!!」

ウマ乗りに成ったウマ娘がトレーナーの顔に自らの唇を、何度も何度も押し付ける。

 

「よ、よぉーし、よしよし、分かった、お前の気持ちはよぉーく分かった」

トレーナーが何とか、自らの腹の上のウマ娘をたしなめ、なんとか身体を起こす。

そして、こちらを呆然と見ているジャーニーに視線を投げる。

 

「えっと、この娘はラヴオアヴァレット……ラヴィちゃんって俺は呼んでる……んで……」

 

「パパぁ~、お慕いしておりますわぁ」

ラヴィがトレーナーの胸に、甘えた声を出して自らの顔を擦り付ける。

 

「と、トレーナーさんの、娘……?」

絶望的な表情でジャーニーがつぶやく。

 

「違う違う違う」

 

「ぱ、パパ活ですか!?」

 

「し、親戚の娘!!」

娘を抱きながら、トレーナーが声を荒げた。




後編へ続きます
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