神様さえ、知らない場所へ『ダークソウル2』 作:Artificial Line
ただこの世界を見たい。
ただまだ見ぬ敵と合間見えたい。
ただ召喚者に死なれるのは気分が悪い。
それだけの話なのだ。
「日が大分傾いてきたな」
私たちは国境へと続く街道を歩いていた。
馬を使えれば良かったのだが。
廃屋から出たときには既に、無事な馬は一頭も残っていなかった。
「そうだな。本来ならこの時間には王都へ到着しているはずだ」
「きっと、今頃王都では大騒ぎになってるでしょうね」
先程まで頭上にあった太陽が、今は丘の影に没しようとしている。
現在は、先刻助けた二人と共に″王都″へ向かっている最中だ。
赤髪の、アリョーナという少女が先導し
次いでこの世界の主であるらしい白髪のリリィという少女。
そして殿として私が最後尾についている。
正直なことを謂うならば、三人でこの陣形をとっても余り意味はないのだが。
まあ何もしないよりはましなのだろうか。
最初は、王都などという目立つ場所に行くことには抵抗があった。
何故かと問われれば。
不死人である私は、永らく人目を避けて生活してきたからだ。
余りにも長い時間。
そうして生活してきたせいで人目のある場所に行くのには抵抗があった。
まあ、とは言っても。
そもそも人目と言える人目と最後に遭遇したのは、何百年も前のことなのだが。
では何故。
彼女達と共に王都へ向かうことにしたのか。
それは単純にこの世界についての情報が欲しかったからだ。
たとえ敵意を向けられたとしても、障害を駆逐し逃げ出せる自信があるというのも大きい。
この世界が、元いた世界と違う世界なのか。
或いは元いた世界の未来、もしくは過去の世界なのか。
まあそのどちらにせよ、正直の所どうでもいいのだが。
もうひとつの理由として。
――いやどちらかと言えばこちらが本心だろう。
ただ、純粋に、興味があるのだ。
不死人でも亡者でもない人間たち。
見たことも無い景色に頭上で輝く太陽。
聞いたことも無い土地に国。
それら全てに。
私は惹かれていた。
確かに、リスクはあるが。
今まで何度も死地を経験してきた私にとっては天秤を傾ける重りにはならなかった。
道すがら、彼女達がこの世界について色々と話してくれた。
最初に話してくれたのは、この世界にも魔法が存在し、幾つかの属性に分かれているということ。
魔法といっても、私が扱うソウルの魔術や呪術などとは大分異なるようで。
基本は火、水、風、土という四大属性と呼ばれるものらしいのだが。
その他にも、極少数だけが扱える光、闇、雷などの属性が存在しているそうだ。
特に雷属性は一時代に一人の人間しか扱えず、その魔法を扱える者は勇者と呼ばれるらしい。
……私の扱う攻撃奇跡の殆どは雷なのだが、大丈夫なのだろうか。
さらに彼女らが言うには、魔法には先天的に得意不得意とする属性があるらしく。
基本的には一人2種程しか扱えないそうだ。
稀に2種以上の魔法を行使する者もいるそうなのだが。
それは先天的な天才か。
或いは遥かな時を生きた賢者か。
そのどちらかだそうだ。
……私は魔術、奇跡、呪術、闇術全てを一応は扱えるのだが大丈夫だろうか。
次に話してくれたのは、周辺の地理についてだった。
いま、私達がいるのはアルスティン王国という農業国家らしい。
長閑な草原地帯に構えた国家で、軍事力は正直な所貧弱の一言だそうだ。
彼女達は食料問題の交渉のためアリスティン王国を訪問しており、母国への帰り道に襲撃にあったそうだ。
次に私達が今向かっている国。
彼女達の母国でもあるその国家は、名をビカーナ王国というらしい。
この地方では二番目に大きな国家であり、農業と漁業によって栄えている大国だそうだ。
そして何よりも驚いたことは。
美しい白髪に切れ長の目が特徴のこの美少女。
私の召喚主でもあるリリィ・ビカーナ。
彼女は、そのビカーナ王国の第一王女らしいのだ。
これまた大変な人に召喚されてしまったな、と内心苦笑した。
なぜアリョーナはリリィの事を姫様と呼んでいるのか気になってはいたのだが。
その理由もよく理解した。
まあ今までも。
御伽噺の主人公。
不死の王子リカール。
グウィン王の四騎士の一人。
深淵歩きアルトリウス。
亡国の姫君である。
ウーラシールの宵闇。
ドラングレイグの王国隊長。
ドラモンド。
など様々な文献に顔を覗かせていた者たちに召喚された経験があるので、別段焦ってもいない。
そして先程の騎士たちが所属していた国家。
ライトセイン帝国という国家について話してくれた。
ビカーナ王国やアリスティン王国より北方に位置し、この周辺では最大規模を誇る大国らしい。
軍事産業や戦争によって栄え、周辺国に侵攻しては領土を拡張してきた凶国であるそうだ。
現在も隣国へ侵攻中であり、目下戦争状態にあるらしい。
そしてその凶国が現在侵攻している国家というのは。
――彼女達の母国、ビカーナ王国だそうだ。
兵力差はおよそ3倍。
電撃戦で侵攻され、王国の北部はほぼ制圧されてしまっているそうだ。
現在は、王都より北方に位置する最後の城塞都市に防衛線を築き、なんとか保っている状況らしい。
だが、それはすなわち。
その城塞都市の陥落と同時に、王都は最後の砦を失うことを意味している。
そのことを話す彼女等の顔には憂いが浮かんでいた。
恐く、このままでは国がどうなるのか。
よく、理解できているのであろう。
ともかくとして、召喚されたからには世界の主を守ることが白霊としての誉れだ。
……まあ今の身体は白くもなければ、霊体の身体でもなく。
生身なわけであるのだが。
それは些細な問題だろう。
それに。
純粋に好奇心が刺激されるのだ。
――この地では一体どのような敵が出迎えてくれるのか。
――私よりも強い敵はいるのだろうか。
自分でいうのもおかしなことなのだが。
私は根っからの戦闘狂なのだ。
自分より強い敵。
困難な状況。
それらに直面すればするほど、あらゆる策を講じそれを突破することに楽しみを覚える。
でなければ。
あの果てしない旅の中で、私はとっくに亡者へ堕ちていたことだろう。
兎に角。
彼女の護衛としてついていれば遅かれ早かれ戦闘に巡り会えることであろう。
それに、召喚者に死なれるのも気分が悪い。
「あ、検問所が見えてきましたよッ!!」
「本当だわ!!襲撃がなくて良かったわね」
「あれが検問所……なのか?」
アリョーナの声に釣られ、思考を中断し前を見る。
視界に映ったのは巨大な石造り砦。
そしてどこか緊迫した様子の大勢の兵士達。
丘と丘の間を通る街道をぴったり遮るようにして造られたそれは。
どこからどう見ても検問所ではなく防衛用の拠点であった。
検問所の大扉の前にいた兵士たちが此方を指差してざわめき始めた。
どうやら我々に気がついたようだ。
対応は、基本的には彼女らに任せ、私は合わせる事にしよう。
数百年ぶりに見た正規の国軍や、稼働してる砦に多少感動しつつ。
私たちは検問所へ向けて歩みを進めた。
「姫様!!!!」
入室して開口一番。
髭面の中年男性がそう叫ぶ。
私たちは今、兵士に連れられ検問所の指揮官室へやってきていた。
兵士たちは私に対して訝しげな視線を送ってくるが、まあ仕方のないことだろう。
安否を心配されていた姫が怪しげな男と共に突然現れたのだ。
それを疑問に思わない者などきっといないだろう。
「ヘンケン警備隊長!!お久しぶりです!」
髭面に対して、リリィはそう返した。
どうやら知り合いだったようだ。
ならばスムーズに話は進むだろう。
微かな安堵感を覚え、小さく息をつく。
「ご無事で何よりです姫。アリョーナもよくぞ無事でいてくれた。して……そちらの男性は?」
「ああ、こちらは私たちを助けてくれた傭兵のストレイドよ」
リリィの紹介に合わせ、髭面が此方を見据える。
それに軽く会釈で返し、こちらも彼の目を見た。
そしてひとつの事を直感する。
――この男は……武人だ。
「傭兵ですか……それよりも助けてくれたと言いましたな?」
「ええ。私たちはアリスティンからの帰還中にライトセインの襲撃を受けました」
「なんとっ!アリスティンの領内でですか!?」
「そうよ。ただ小規模の部隊だったわ。恐く斥候か密命を受けた精鋭でしょうね」
「なるほど……」
「それでアリョーナを除いた護衛が壊滅し、覚悟を決めた時。たまたま通りかかった彼がライトセインの騎士たち5人を瞬時に倒して助けてくれたのよ」
「騎士を5人も同時にですかッ!?」
髭面は驚愕したような表情で此方を見てくる。
そんなにも驚くことなのだろうか?
正直な話。
彼ら5人よりも王国兵1人の方が強かった。
そんなどうでもいいことを考えていると、髭面が真面目な顔で此方に近づいてくる。
彼から放たれる威圧感は、凄まじいの一言だった。
が、私は表情一つ変えずに彼の方へ体を向ける。
もはやただの人間相手にたじろぐことなどありえない。
「貴公……今の話は本当なのだな?」
一部は嘘。
その言葉を喉の奥へ飲み込み、無表情で応対する。
「ああ。本当だ」
「……姫様を助けていただいたこと、深く感謝する。ありがとう」
「気にするな」
「一つ質問をいいか?」
「答えられる範囲なら」
「貴公は何故姫様を助けたのだ?見たところビカーナ人には見えないが」
「通り道で美女達が襲われていたら普通助けるだろう」
理由を考えるのも面倒だったので、私はそう答えた。
先程まで真顔だった髭面の表情が、気抜けしたように崩れる。
ふと彼女等の方へ目をやると、リリィは目を丸くして顔を赤めていた。
アリョーナは俯きながら体を震えさせている。
――二人共未通女だな。
またもやそんなどうでもいいことが頭をよぎった。
どうも永すぎる流浪の結果。
私の緊張感は麻痺しきっているらしい。
「ふっ。なるほどな。傭兵か」
そういうと。
髭面はリリィ達の方へ向き直る。
失言だったかと、内心思っていたのだが杞憂に終わったようだ。
「姫様、これよりどうなさるおつもりですか?」
「……(ボーッ」
「姫様?」
「えっ!?ああ!そうね、とりあえず一刻早く王都ヘ戻りたいと思っているわ」
「そちらの傭兵も一緒にですか?」
「ええそうよ。偶然とはいえ、私たちの命を助けて頂いたのだからお礼はしなければならないし。それに彼が護衛に着いてくれていれば安心だしね」
「姫様が決めたことならば私めは何も申し上げませんが……。一言だけ。もうちょっと慎重にお考え下さい」
「慎重に考えた結果よ」
「分かりました。今日はこの砦でお休みになって、明日の早朝お立ちになるといいでしょう。もう日も暮れますゆえ。王都へは伝令兵を向かわせておきます」
「色々ありがとう。ええ、そうさせてもらうわ」
色々あった1日。
まあ私からしたらまだ数時間しか過ごしていないのだが。
それもなんとか終わりそうだ。
部屋のドアが小気味よくノックされる。
まあ大方誰だかは予想が付いている。
最悪家畜小屋で寝ることを覚悟していたのだが、私に貸し与えられた部屋は予想以上に綺麗な客室だった。
正直、今まで過ごしてきた世界が世界だったので違和感しか感じない。
「どうぞ」
「お邪魔しまーす。って凄い武器!!?どうしたのこれ?」
部屋中に所狭しと並べられた武器を見たリリィが目を丸くする。
まあ至って当然の反応だろう。
「今後使うべき武器の選定。そちらこそどうしたんだ?こんな夜更けに」
「私はせっかくだから貴方に色々お話を聞きたいと思って。それよりもこんな数の武器どうしたの?こんな大荷物持っていたようには見えなかったけど」
「ああ、ソウルの収納術で……ってこちらの世界にはソウルの術がなかったのだな。まあ簡単に説明すると、私の世界では物質を魂に変換する術が確立されているんだ。それで
魂に刻み込んでいた物を自由に取り出したり閉まったりすることができるのさ。この武具は全てそうして魂に変換して持ち歩いていたものだよ」
「何それッ!!凄い便利な術ね!!」
彼女は驚いた様な表情で、部屋に置かれた武具を眺めていた。
果たして女性が武具などを見て楽しいのか。
私には解りかねるが彼女が楽しそうなのでまあ良しとしよう。
「凄い…どれも洗練されていて素晴らしい武具ね。さぞ高価な物なのではなくて?」
「さぁ。どうだろうな。人殺しの道具に価値なぞつけても私は仕方ないと思うがね」
私はそう言うと、使わない武具をソウルに変換して収納し始める。
武具が白い光に包まれ、最後には粒子となって胸へ吸い込まれていく。
その光景を見ていたリリィは、心底驚いた様な表情を浮かべていた。
「それがソウルの収納術…?」
「ああ。そうだ」
「なんだかとても不思議な術ね。物が白い光になって消えちゃうなんて」
「使い慣れた私からしたら、あまりそうは感じないな。でも、確かに初めて見た時は衝撃的だった記憶があるよ」
後に残ったのはアルバの兜、ロイエスの鎧、ロイエスの籠手、上級騎士の具足。
そして太陽の直剣、番兵の盾、渇望の鈴。
「これが明日身に着ける武具?」
「ああ。王都、それも姫と共に行くのだから中途半端な武具は身につけられないだろ?」
多少茶化しながら。
私はそう言うとその武具たちを身に纏わせる。
刹那、全身が淡い光に包まれる。
何が起きたか、リリィが理解するよりも早く。
一瞬の内に、先ほどまで目の前にあった武具を私は身にまとっていた。
「身に着けるとこんな感じだ」
「凄い……御伽話に出てくる聖騎士様のようだわ…」
しばらく、彼女は私の姿を眺めていた。
余りにも見てくるため少し照れくさくなり、彼女へ言葉を飛ばす。
「それよりも、何か話を聞きにきたのではないか?」
「あ、ああ…そうだったわ。すっかり忘れるところだった」
「私に答えられることなら話そう。暇つぶしにもならないかもしれないが」
兜の下で苦笑しつつ、リリィに椅子に座ることを促す。
私はフル装備のままベットに腰を掛けた。
ギィっとベットが唸ったが、きっと平気だろう。
「で、何がききたいんだ?」
「う~ん、そうねぇ。じゃあいっぺんに聞くのもあれだから一つだけ。この世界に召喚される前は何をしていたの?」
「召喚される前か…。多分聞いてもつまらないぞ?」
「それでも聞いてみたいの。平気よ」
「そっか。じゃあ少しだけ話すぞ。っと、その前にアリョーナ、扉の外から盗み聞きなんてしてないで入って来い」
私がそう言うと、リリィは訝しげな表情をしたが、それもすぐに驚きへと変わる。
キィっと木扉が開き、アリョーナが入室してきたのだ。
「バレていたのか…………」
「当たり前だ。最初からわかっていたぞ」
「え!!?アリョーナ!?」
「すいません姫様、盗み聞きなどしてしまい」
「おい、私への謝罪はどうした」
「貴方を見張るのも私の仕事。致し方ない事だ」
「何開き直ってんだ。まあいいや。それじゃ話すぞ。アリョーナはそのへんに座ってくれ。」
私は、ゆっくりと語り始める。
今までの自らの軌跡を振り返るように。
今まで乗り越えてきた試練を思い出しながら。
もちろん、不死の呪いの部分は伏せて。
「なんだか凄い興味をそそられる話だったわね…」
「御伽話の様でしたね。しかし彼の強さと比較して考えるとあながち虚構でもない気がします」
彼の話を聞き終えた後、私達は自室に戻ってきていた。
普段ならばそれぞれ別の個室が用意されるのだが。
姫様が『アリョーナと同室がいいわ』とおっしゃったので久々に同じ部屋で夜を過ごすことになった。
恐らく。
今日起きた事が原因だろう。
あんなモノを耐性のない人間が見たら、だれでも恐怖心を抱くに決まっている。
表面上では明るく振舞っていても、やはりどこか恐怖を感じているのだろう。
私にできることは彼女のそばに居てあげる事しかない。
「たしかにね。まあでも彼が悪い人じゃなくてよかったわ。人格破綻者だったら今頃私達まで殺されていたかもしれないし」
「そう決めつけるのは些か早計ですよ。まだ彼の詳しい素性もわからないんですからあまり気を許しすぎないでください」
「大丈夫よ。彼、心に影があるのは確かだけど根は悪人じゃないわ」
自信満々と言った表情で姫様はそう語る。
そのドヤ顔に少々イラッと来たが、姫様のこう言う勘は外れたことがないので何も言い返せない。
彼女は先天的に他人を見抜く才能があるのだ。
だから彼女に隠し事は愚か、スパイでさえも通用しない。
昔に一度。
王宮にスパイが潜入していたことがあったのだが、その時も姫様が一発で見破りあえなく御用となった。
この姫様の才能は、人間それぞれが持っている類のものなのか、はたまた魔法の類なのかハッキリとはわかっていない。
ただ恐らく。
彼女には魔力の流れや波長を読み取る力があるらしく、それを応用しているのではないか?と学者は言っていた。
ただ本人もこの力の事をよく理解していないらしく真相は定かではない。
「ただストレイド。心の大部分が影で隠れちゃっててちっとも心情が読めないのよねぇ。解るのは基幹となってる人格くらいだもの。オマケにポーカーフェイスだし」
「…………それって相当危険じゃないんですか?」
「ああ、大丈夫だと思うわ。その基幹となってる人格が善人みたいだから」
姫様の適当っぷりに若干呆れる。
まあ彼女のこの性格は今に始まったことではない。
「…………くれぐれも用心だけはしてくださいね?私だっていつもお側に入れるとは限らないのですから」
「はいはーい。ほら、もう寝ないと明日に響くわよ?明かり消すね」
「わかりました。お休みなさいリリィ」
「おやすみ、アリョーナ」
部屋の明かりが落とされる。
月明かりを残し、暗闇に包まれた室内には虫の囁きが響いていた。
「ねぇ、アリョーナ」
「何ですか?」
「(頼りにしてるからね)」
「?」
彼女のその小さい呟きは私の耳に届くことはなく、虫の声と共に虚空へ消えていった。
「あれが王都…?」
「ああ、そうだ」
早朝砦から出発し、馬を走らせること2時間。
視界の先に何やら巨大な城壁のようなものが見えてきた。
アノールロンド程の物ではないが、それでも立派で強固そうな城壁だ。
王都に近づくに連れ人通りも増え、朝の活気が肌に伝わってきた。
数百年ぶりに見た人の営みに、思わず涙すら零れそうになる。
酷く懐かしい、忘れかけていた感覚だ。
悠久の時を旅した中で、忘却されていた記憶が蘇ってきた。
「凄いな…」
「そうか?」
隣を征くアリョーナがそう聞き返してくる。
「ああ…元の世界じゃ何年も人の営みなんて見てなかったからな」
「昨日話してくれたことだが、そんなにも酷いものだったのか?その元いた世界というのは?」
「ここと比べたら地獄と天国くらい差があるな」
自嘲混じりにそう答える。
前の世界の凄惨さを伝えるには言葉だけでは足りない。
そこら中にうごめく亡者。
ソウルに狂った人間たち。
人を喰らう異型の怪物たち。
きっとこの世界の住人達には想像もできないだろう。
「昨日も少しだけ見たが装備を変えたのだな。相当高価な甲冑に見えるが……そんなモノを着て戦えるのか?」
「神の武器にすら対抗できる防御力はあるさ」
そう冗談交じりに返すとアリョーナは訝しげにこちらを覗きこんできた。
実際冗談ではないのだが…まあそれは言うに及ばず。
来るべき時に見せたほうが早いだろう。
「既に出迎えの部隊が展開しているな。ストレイド、くれぐれも素性はバラすなよ?」
「解ってる。私だって面倒事はゴメンだ」
城門前に到達すると、既に近衛隊だろうか?
アリョーナの身につけている甲冑と似た装備に身を包んだ部隊が出迎えてくれた。
赤い衣が印象的な、凛々しい鎧だ。
どことなく放浪騎士アルバのものと似ているなとそう感じた。
「おかえりなさいませ姫様!!心配しておりました!!アリョーナもよくぞ無事に戻ってきてくれた」
白髪交じりの髭面が特徴的な中年男性が、馬車から降りるリリィに手を貸しながらそういった。
リリィが馬車から降りるのに合わせ、部隊の兵士達も一斉に馬から降りる。
私もそれに習い、馬から飛び降りた。
見たところ髭面の彼がこの赤い部隊の隊長のようだ。
「ライル少将、出迎えご苦労様。ご心配をかけました」
「いえいえ、我々の力及ばず、姫様をこのような目に合わせてしまったのですから。いかなる処分も謹んで受ける所存にございまする」
「そんなことおっしゃらないで。彼らがいなければ私も、そしてアリョーナもここには帰ってこれませんでした」
「ありがとう御座います。して…アリョーナの隣におられる騎士殿は?」
近衛隊の兵士、全員の視線がこちらに突き刺さる。
まあ予想通りの展開なので一切たじろぐことはない。
「ああ、彼は道中私達の事を救ってくれた傭兵で放浪騎士のストレイドです。道中の護衛をしていただきました。これから報酬の支払い等の為、一度王宮に招待する予定です」
「傭兵…………ですと…?」
ライルという髭面の眉間に皺が寄る。
周りの近衛隊士たちもざわつき始めた。
まあそれも当然か。
「おい、傭兵だってよ」
「あの甲冑で傭兵?ありゃ国宝レベルのしろものだぞ」
「それに放浪騎士って、どこかの国の元上級騎士か?」
「傭兵なんかに姫様の護衛を任せていたのか!?」
彼らは国軍、それも近衛隊という誇りある部隊の兵士たちだ。
金次第でどこへでもつく傭兵にいい思いは抱いていないのだろう。
そしてその傭兵に姫の護衛という最重要任務が任されていたのだ。
よく思う人間などいるわけがない。
「ふむ…アリョーナ。彼は信用できるのかね?」
「まだ顔を合わせてから短いのでなんとも。ただ腕は私が今まで見てきた剣士の中で最も優れているでしょう」
「なるほど…これは騎士殿、失礼仕った。私はライル・アークマン少将、近衛大隊の指揮官兼ビカーナ王国の筆頭武官だ。よろしくお願いする」
「こちらこそ。放浪騎士で傭兵のストレイドだ。よろしく頼む」
差し出されたライルの手をしっかり握り、堅い握手を交わす。
まるでこちらの人間性を確かめるかのように交わされた握手は普通よりも長く続いた。
「では姫様、国王様がお待ちです。王宮へと向かいましょう」
王都専用の馬車にリリィが乗り込むと、兵士達もそれぞれ馬へとまたがった。
説明回ですね。
言ってた通り続きとして投稿させていただきやした。
これだけじゃ味気ないし進展もないので今日の深夜。
次話も投稿させてもらいます。
ストレイドという名前は、オラフィスのストレイドさんから取ったのではなく
アーマードコアfAの主人公の機体の初期名です。
オレ「主人公名何にしよう……」
オレ「あ、せや!!ACfAの初期機体名とかいいんじゃね!」
オレ「よし、『ストレイド』と」
オレ「フーっ、やっと書き終わった」
オレ「ん?そういやDks2にもストレイドっていなかったっけ……?」