神様さえ、知らない場所へ『ダークソウル2』   作:Artificial Line

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3年ぶりの投稿に自分でも草を禁じ得ない。
本当に申し訳ありませんでしたぁーーー!!!!


不死の英雄の逆鱗

彼は兜の下で口角を釣り上げた。

 

視線の先では陽炎のように赤が揺れめいていた。

圧倒的なまでのオーラ。どれだけの不死を屠ってきたのだろう?

自らにまさるとも劣らない莫大なソウル。

 

赤と兜のせいで、その視線は見えないが、それでもこちらに殺気を向けている事は十全に理解できる。

 

彼は左手の聖鈴をしまい、虚空より小盾を掴む。

ドランシールド。彼を彼の地で支え続けた相棒とも言える盾。

 

パリイをしやすい小盾ながら、相応の防御性能も兼ね備えている逸品。

 

クレイモアの切っ先を闇霊へと向ける。

それに習ってか、闇霊も一礼にて応えた。

 

 

瞬間、お互いが地面を蹴り上げる。

あまりの膂力によって地面は抉られ、土煙を上げる。

 

ルーラーソードとクレイモアの切っ先がぶつかり、尋常ではない金属音が辺りへと響き渡った。

 

―――重いな…。

 

鍔迫り合いに持ち込まれては不利になる。

彼は瞬時にそう思考し、バックステップで距離をとろうとする。

 

だがそれを許すほど闇霊は甘くはなかった。

彼が引いた瞬間、前へローリングし大剣の切っ先をストレイドへと突き立てる。

 

ストレイドはそれをドランシールドで防ぎつつ、闇霊の右へと回り込もうとする。

だがそんな行動はわかっている、とでも言わんばかりに闇霊は大剣を両手持ちにし連撃を浴びせた。

 

一撃一撃が酷く重い。

防ぐたびに小盾を握る左腕がしびれる。

 

このままでは守りを崩される。

ストレイドは連撃の隙をついて闇霊のプレートアーマーに前蹴りを放った。

 

それにより闇霊は数歩後ずさる。

そのチャンスを逃すまいと、ストレイドはクレイモアで突きを放つ。

闇霊はギリギリの所で盾でそれを防ぎきった。

 

その直後闇霊とストレイドは同時にバックステップで距離を取る。

 

クレイモアをソウルへと還し、虚空からロングソードに持ち替える。

 

仕切り直しだ。

 

互いが再び肉薄し、剣戟が巻き起こる。

防ぎ反撃し、また防ぎ回避し、反撃する。

甲高い金属音が連続し、火花が散った。

 

闇霊とストレイドの剣戟の速さに空気が悲鳴を上げ、風切り音と金属音がこだまする。

 

右からの大剣による切り払い、ブラフ、本命は次段のシールドバッシュ。右へローリングで回避。ついで反撃、起き上がりと同時に切り上げ、ミス、左からのなぎ払い、防がれる。

 

高速で思考し、それを実践していく。

だがそれは相手も同じ。

ここまでのオーラを纏う相手だ、生半可な敵ではないと理解していたがここまでとは。

生死のかかった剣戟の最中だというのに、ストレイドも

そして闇霊も兜の下で嗤っていた。

 

ああ、ここまで闘気の高ぶる戦いはいつ以来だ。

オーンスタインに殺されたときか?アルトリウスに蹂躙されたときか?毒竜を打倒したときか?反逆者レイムと打ち合ったときか?白王を相手にしたときか?それとも別世界の己が侵入してきたときか?

 

声にならぬ嗤いが互いから漏れていた。

 

互いに距離を取り、息を整える。

そして互いに左手に出現させたのは、聖鈴。

 

ストレイドは暗月の剣のエンチャントを。闇霊は固い騎士の誓いを。

 

さあ、これで決めようか。

どちらも無言ではあったが、そう伝わってくるものがあった。

 

武器を構え直し、互いに駆け出す――――事はなかった。

 

 

 

『グォオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

 

周囲に人のものではない咆哮が轟、闇霊とストレイドは緩慢な動作でそちらを見やる。

 

視界に写ったものは赤。

凶暴性の実体化とはこういうものか。見たものにそう思わせる獰猛な面が空を羽ばたいていた。

 

トカゲのような四肢に大きな翼。

彼らにとっては見慣れた存在。

 

「間に合ったか!誉れある帝国の竜騎兵よ!」

 

耳障りな帝国司令官の声が聞こえた気がする。

破壊の化身、ドラゴンがそこにはいた。

 

 

「…………」

 

『………』

 

 

だが闇霊とストレイドの間には、竜を前にした高揚感も、恐怖も何もなかった。

あるのは"苛立ち"。

久方ぶりの強敵との死合を邪魔されたという苛立ちのみ。

 

闇霊がこちらを見る。

ストレイドはそれに応えるようにゆっくりと頷いた。

 

闇霊がドラゴン、ひいてはその背に乗る竜騎兵に向けて首切りの動作を行う。

 

この竜騎兵は大変に不幸であった。

ただ職務に忠実だった結果、最悪のタイミングで戦場についてしまった。

 

怒りを覚えた不死の英雄達はどうするのか。

 

「さあそこな悪鬼どもを焼き尽くし、我らが皇帝陛下に勝r…を!?」

 

答えは簡単――――――蹂躙である。

 

帝国の司令官が口上をいい切る前に、空に太陽の光が奔った。

同時に深淵色をした闇の塊も。

 

突然の事に反応が遅れたドラゴンは次々と被弾し、20秒も持たずドラゴンステーキとなった。

もはやステーキというよりも消し炭だが。

 

だが彼ら不死の英雄達の怒りはこの程度では収まらない。

であればどうするか?

 

この水をさした眼の前の軍隊への報復である。

 

闇霊とストレイドは一瞬、チラリと視線を合わせると互いに駆け出した。

目標は帝国軍の陣地。

 

突然の標的変更に帝国軍はざわめきたつが、すぐさま弓などを用いて反撃に移れた事はさすがと言えよう。

だが無意味だ。

 

闇霊がハベルの大盾を両手に構え矢を防ぎ、疾走する。

その影に隠れるようにして、ストレイドがソウルの魔術で応射していく。

 

ソウルの槍、結晶槍、白竜の息、ソウルの奔流。

 

それは帝国軍にとって間違いなく地獄だった。

 

青い魔力の奔流に掠っただけで、跡形もなく消え去る兵士たち。

それを見た者たちは恐怖のあまり逃走を開始した。

 

一度瓦解を初めてしまえば後は早く。

次々に逃亡兵が増え陣形は崩壊していく。

 

不死の英雄たちはそんなものお構いなしと。

崩れた隊列に突っ込んでいく。

ハベルの大盾の圧倒的質量は兵士を唯の肉塊へと変えていく。

 

そうしてできた死体はストレイドが生命の残滓で爆弾へと。

 

しばしそれが続いた後、その陣地で動くものは2つの人影だけだった。

 

闇霊とストレイド。

不死の英雄たちの逆鱗に触れた帝国軍は今、逃げ切れた者を除き

唯の例外もなく屍となっている。

 

その光景に、闇霊は呆れるといった動作を行ったあと、天を仰いだ。

それはまるで、『情けなさすぎるぞ貴様ら』と言っているようにも見える。

 

しばしの間をおいて、闇霊はストレイドに向き直った。

思わず身構えたが、闇霊はストレイドに対し一礼をする。

 

どういうことだと、とりあえず返しておくかと彼も礼をする。

 

それをみた闇霊は小さくこちらに手をふった後、自らの首に大剣を当て切り落とした。

赤い残滓となって消えていく闇霊。

ストレイドは唖然とするしかなかった。

 

「十分な人間性を得て満足したのか、それとも面白そうな世界を見つけたと喜々して帰っただけか…さて…どうでもいいが疲れたな…」

 

彼はつぶやき、血溜まりの上に腰を下ろした。

 

アリシア達近衛隊が彼のもとにやってきたのは、その5分後であった。


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