作者はブルアカをハーメルンや二次創作でしか知りません。
それでも良いという方がいれば、ぜひお手に取って読んで欲しいです。
シャーレの先生がその生徒を知ったのは連邦生徒会より渡された書類からだった。
「これは……」
それは各学園の実力者や責任者、要注意人物などが纏められた顔写真入りの名簿だった。先日のサンクトゥムタワー奪還に協力してくれた早瀬ユウカを始めとした生徒は勿論、狐坂ワカモのような七囚人の情報まで記載されている。
そんな中でとりわけ目を引かれたのが件の生徒だ。
その理由は大きく分けて二つ。
一つは彼がこの学園都市キヴォトス唯一の男子生徒であること。しかも学生なら誰もが持つヘイローが見受けられない事が生徒への興味に拍車をかける。
もう一つは顔写真。そこに写った生徒の顔を見て先生は一言、
「生徒…?」
その生徒が生徒であることに疑問を持つような一言に我ながら酷いことを言ってるなと思う先生だったが、そう思ってしまうのも無理はないだろう。何せ、切り傷や抉れたような傷跡が大小関係なく顔全面にあるのだから。
(どうしよう…ヤクザって言われた方がしっくり来る……)
「先生? どうかしました?」
「…ユウカちゃん。ごめんだけど、この子について詳しく教えてくれないかな?」
「ユウカちゃんは止めてください……で、どなたの事を知りたいんですか?」
本日の担当で仕事の手伝いに来てくれていた早瀬ユウカ。先生が件の生徒の書類を見せると彼女は『あぁ、彼についてですか』と納得した表情を見せる。
「先生の言わんとしていることは分かります……初見だと生徒には見えませんよね」
「しかもトリニティ所属ってなってるけど」
「はい。見た目ゲヘナですけど、間違いなくトリニティの生徒です」
私も最初は何度も目を疑いましたよ、とユウカは彼の逸話を語っていく。
曰く、学生でありながらブラックマーケットを統括するヤクザの一つの若頭である。
曰く、自分を狙った組織でさえ仲良く出来る程の懐の大きな人間である。
曰く、今のトリニティは彼のお蔭で成り立ってる。
曰く、ゲヘナにも太いパイプを持つ男である。
曰く、背中には立派な入れ墨がある。
曰く、ヘイロー無しでもステゴロならキヴォトス一である。
曰く、トランプの束を引きちぎる程の握力を持つ。
曰く、装甲車をパンチ一つで破壊出来る男である。
曰く、銃で撃たれても○なない男である。
曰く、七囚人の一人も一目置く男である。
曰く、曰く、曰く……
ユウカの口から語られる彼の逸話。幾つか冗談でしょ?と思う物もあったが、全て真実ですというユウカの言葉に驚きを隠せない先生。嘗て、エンジニア部が彼の身体能力を検査したこともあるそうな。
「ミレニアムのエンジニア部が興味を持つなんてよっぽどだね」
「それくらい彼の影響力や身体能力がスゴいという事ですよ」
ユウカはプロフィール表を返し、先生は改めて彼のプロフィールに目を向ける。
「トリニティ所属 アリウス分派長 花山薫か……」
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正義実現委員会所属 仲正イチカは頭を悩ませていた。
「またっすか…」
彼女の目の前にはベンチに座り、スヤスヤと気持ち良さそうに熟睡している一人の巨漢がいた。
身長2.0m近く、見える肌には無数の傷跡。制服越しでも分かる強固な筋肉と堅牢な骨で構成された分厚い体。こんな人物、キヴォトスで該当するのは一人しか居ない。
「なんでこんな所で寝てるんすか、薫さん」
彼の名前は花山薫。ここトリニティ総合学園でアリウス分派の長であり、トリニティの政治機関ティーパーティーの一人である。
イチカは未だに熟睡する花山薫を指差し、自身の後ろに隠れる今年入ったばかりの新入生に問いかける。
「あなたが通報した不審者って言うのは彼で間違いないっすか?」
「は、はいッ! 早く対処して下さいッ!」
「と言われても彼はトリニティの生徒っすからね。しかもティーパーティー所属。対処も何も出来ないっすよ」
「ティーパーティーの一人ッ!? あの見た目ヤクザでッ!?」
「まあ、勘違いするのは新入生あるあるっすね」
とりあえず、起こしますかとイチカは花山薫に近づき声をかける。
「薫さん、起きてくださいっす」
「イ、イチカ先輩? この人ってティーパーティーの方なんですよね? そんな気軽に……」
「彼自身が好きに呼べって言ってるんすから問題ないっすよ。ほら、薫さーん」
「…………ん?」
見た目ヤクザが目を開ける。その光景に小さな悲鳴を上げて尻餅をつく新入生。一方の花山薫はまだ眠気が残るのか大きなアクビをする。
「おはようございます、薫さん」
「…イチカか。ソイツは?」
「いつもの奴っす」
「そうか……」
花山薫がベンチから立ち上がると未だに腰を抜かした新入生に歩み寄る。彼女からすれば大きなヒグマがゆっくりと近づいてくるのと同義。逃げ出そうにも体が言うことを聞かない。そんな彼女の状況を知らないのか、花山薫は彼女の前で膝をつくとゆっくり手を延ばす。
「(た、食べらr「大丈夫か?」……え?」
手の甲を下に、新入生に触れず、しかし新入生が少し手を延ばせば触れられる位置に固定した花山薫の掌。予想外の光景に新入生は一瞬ポカンとしながらも恐怖と困惑が頭を駆け巡る中で恐る恐る花山薫の掌に触れる。新入生が女性には無い固さと温もりに少しだけドキッとする中、花山薫は貴重品を扱うが如く、絹糸で編まれた上質な布を扱うが如く、新入生が立ち上がる補助を行う。
「あ、ありがとうございます」
「気にするな。こっちこそ怖がらせて悪かった」
「い、いえ、ティーパーティーの方とは知らず、勝手に怖がった私にも非がありますので」
(ど、どうしよう…なんで……なんで胸が高鳴るのッ!?)
(あー…またっすか)
外見から想像できない紳士な対応。
透き通るような優しい瞳。
怖がる自分を気遣う優しい微笑み。
ここキヴォトスでは彼が唯一の男子生徒。比較対象が居ないこの場所において、ほぼ男性に対する免疫がない女子生徒たちがときめかない理由がほぼ無い。
(お蔭で彼のファンクラブがあるわけっすけど、本当に罪な男っすよね)
なお、彼女もその一人だったりするのだが、その話はまた今度に……