「シニョール葉一! アナタはこのワタシ、デュエルアカデミアの実技指導最高責任者である『クロノス・デ・メディチ』が直々に相手をしてあげまスーノ!」
「な、なんでこんな事に……」
伝説的存在の白塗りおかっぱを前に、冷や汗を流しながら少年はデュエルディスクを構える。そして伸びきった前髪の隙間から眼前の相手を見据え、自らの至らなさを反省しつつ、「負けたら死」と不穏なワードを目の前の相手に聞こえない声量でぶつぶつと繰り返す。
彼に一体何があったのか。
時は1ヶ月前に遡る。
「――んん、あれ……ここは……?」
目を覚ませば知らない天井。
彼は覚醒しきらない頭でどうにか状況把握をしようと試みる。
彼の名は『
某IT企業に勤めるSEで、勤続六年の若手中堅社員だ。
週末の休日に隣町のホームセンターに向かって自転車を漕いでいたところ、日頃の激務による疲労とあまりの猛暑に意識が遠のき、そこで記憶が途切れている。
自分が寝ている場所がベッドらしいと気付いた葉一は、熱中症で倒れて病院に運ばれたのかと考えたがどうも様子がおかしい。
寝ぼけ眼で周囲を見渡すが明らかに病院の内装ではない。どうやらワンルームのアパートの一室である事が伺える。
部屋の中央にテーブルがあり、その上にはノートPCと何らかの書類が入っているであろうバインダー。そしてテーブルの脇には黒いリュックがあった。
まずはバインダーを手に取り、中身を改める。何枚かめくっていくとこの部屋のものと思われる各種契約書類である事がわかった。
葉一は書類を持って外に出て部屋番号を確認したが、書類の記載と一致している。サインと捺印を確認するも、サインは英語と思われる達筆な筆記体のせいもあるが、何故か脳が理解を拒む感覚があり読み取れず、捺印は『神』の1文字。
葉一が混乱しながらバインダーをめくっていくと、挟まれていた何かが足元に落下する。それは初めて見る名前の銀行の通帳とキャッシュカード。そして暗証番号と思われる四桁の数字が記された1枚のメモだった。
通帳とキャッシュカードの記名から先程のサインの主を確認しようとするが、そこには葉一の名前が記されていた。
葉一は夢でも見ているのかと自身の頬を抓るが、そこから伝わる紛れも無い現実の痛みに顔を顰める。
「痛っ――痛み……? そういえば……!」
ふと何かを思い出した葉一はシャツの袖とズボンの裾を捲り、自身の身体を確認する。よく見れば着ている服も見覚えが無いが、そこは些事。
葉一の記憶が正しければ、自転車に乗っていた状態で倒れたはず。であれば、大なり小なり怪我をしていて然るべきであるが、彼は先程から何の痛みも感じてはいない。そして確認した限りどこも負傷しておらず、それどころか平常時より身体が軽く感じる。
より詳細に身体の状態を確認しようと、葉一は鏡を見るために洗面所へ向かう。そして目に飛び込んだ自身の姿に驚愕した。
「――えっ? これ……ぼ、僕――若っ!?」
そこに映っていたのは、中高生の頃に若返った自身の姿だった。
三時間後。部屋のPCやリュックの中身等を確認し、葉一は自身の置かれている状況を理解した。
まずPCを使って現在地や世界の情勢等を確認したが、ここは彼の知る世界ではなかった。
元の世界に照らし合わせるなら彼が住んでいた場所に非常に近い場所ではあったが、周辺の建物が全く異なる。中でも特に彼の目を引いた施設が数駅先と近くに存在していた。
「海馬ランド、ねぇ……」
海馬ランド。この世界における最高規模のゲームアミューズメント企業。そこが経営する国内、いや、世界最大規模の遊園地である。それが存在するということは即ち――
「遊戯王の世界に転生でもしちゃったのかな……」
彼の趣味の一つでもあったカードゲーム、『遊戯王OCG』。その原作であるアニメの世界である事は間違い無い。さらにリュックの中には彼が今まで使用してたカードと、デュエルアカデミアの受験票まで入っていた。
即ちここは遊戯王GXの世界で、葉一をデュエルアカデミアに入学させようという何らかの意思が働いていると推測できる。
他に生活の指針なるものが無い以上、その意思に縋り従うしかないと諦める葉一。そして元の世界に残してきた家族や友人――ではなく、自室で育てていた『観葉植物』たちに思いを馳せ、天井を仰ぐ。
「こないだ大枚叩いて落札したばかりなんだけどなあ……」
葉一のもう1つの趣味、それは食虫植物である。
自室のベランダには所狭しとハエトリグサやサラセニアといった日本の気候でも栽培可能な種類の食虫植物が並び、その他日本の環境に合わない植物は室内に温室まで設置して管理していた程で、増えすぎた株は時折イベントやネットオークションで売ったりしていた。
先日ネットオークションで落札したばかりのレアな品種含め、手塩にかけて育てた彼らが誰もいない部屋で今頃干からびているであろう事を想像し、葉一は涙する。
それはともかく、今現在の葉一にとって大きな問題が2つあった。
1つは生活費。
まとまったお金が通帳に記されていた為、当面生きていくことはできる。しかし一生働かずに生きていける額ではない為、やはり学歴を得て就職――即ちデュエルアカデミアに入学し手に職を付ける必要がある。
口座の残高をざっと計算したところ、入学金と学費、生活費といった、学校を出るまでの必要な金額ギリギリといった具合である為、留年は許されない。
そしてもう1つ。これが葉一にとって最も大きな問題である。
「まさか……まさか『サボテンの小畑』が存在しないなんて……!」
『サボテンの小畑』。その名の通りサボテンをはじめとした多くの観葉植物を取り扱い、全国の園芸店やホームセンターに商品として卸している生産元で、食虫植物界隈でも最大手とされている。しかしここは異世界。似たような業者は数あれど、この『サボテンの小畑』は存在しないのだ。そうなると何が問題か。
観葉植植物における『品種』というのは主に2通りの方法で生み出される。
1つは交配。
異なる形質の近縁種、あるいは同一種を掛け合わせることで、親の形質をそれぞれ受け継いだ新しい品種が生まれる。
犬で言うミックスのような手法で、食虫植物においてはサラセニアやウツボカズラ等で多く実施されている。
そしてもう1つが突然変異。
品種名を持たない株同士からできた種子でも、稀に明らかに変わった形質を持つ株が生まれることがある。
その株に品種名を与え、葉挿しや株分けなどで増やす。そういった経緯で流通している植物も多々存在している。
食虫植物の代表格である『ハエトリグサ』は1属1種であり近縁種が存在しない。その為後者の方法によって品種が生み出されるが……どのような形質が出るか。いつどのタイミングで現れるか。言ってしまえば完全なる運ゲーである。
運良く品種と呼べる変異が現れたとしても、流通可能なレベルまで増やすのに10年近くの歳月を要するという。
つまり、前の世界の大手生産元である『サボテンの小畑』が存在しないということは、そこで生み出されたあらゆるハエトリグサと全く同じ形質の品種が存在し得る可能性が限りなく低いという事である。
初めは葉一も元の世界では見たこともない品種をネットで見て興奮していたものの、やがてこの事実に突き当たり、底知れぬ絶望の淵に沈んでいた。
「そんな……『ミヤコクリムゾン』も『マリボール』も、ギリギリまで粘って落札した『シーアーチン』も二度とお目にかかれないなんて……!!」
頭を抱え、またも涙する葉一。しばらくそのままでいたが、ふとテーブルに置いたデュエルアカデミアの受験票が目に入る。
「――待てよ? この世界では政界、財界に次いでデュエル界と並ぶ程デュエルの重要度が高い……もしアカデミアを優秀な成績で卒業できれば、プロデュエリストにしろ何にしろ、社会的な地位が約束されるようなもの。つまり大金を稼いで大規模な栽培環境を作り上げる事も夢じゃない……そうだ……失われた数多の品種――無ければ僕が生み出すしかないんだ……!!」
よくわからないモチベーションで葉一は己を奮い立たせ、来る筆記試験に向けて十数年ぶりに勉強に打ち込んだ。しかし付け焼き刃。長期のブランクもあり、それがそのまま受験番号98番という数字に反映されるもなんとか筆記試験は合格できた。
そして実技試験当日、寝坊してギリギリの時間に出発した挙句電車の遅延に巻き込まれ大遅刻。慌てて電車を降りて海馬ランドに向かって走る中、恐らく同じ電車に乗っていたであろう本編の主人公である『遊城十代』と遭遇したり、十代が前作主人公の『武藤遊戯』にハネクリボーのカードを貰うイベントに遭遇したり、原作ファンとしては目が離せないイベントが多かったものの葉一にとっては文字通り命をかけた戦いの日。感動の余韻を味わっている間もなく、体感ダイジェストで名シーンが過ぎ去って行く。
どうにか滑り込みで二人とも受験受付を完了し、会場に通される。
丁度受験番号1番の『三沢大地』のデュエルが終了するところで、ここまで原作通りの展開であることに葉一は安堵する。
原作の流れでは、実技指導最高責任者である『クロノス・デ・メディチ』が、遅刻した上に筆記の成績も低い十代を完膚なきまでに打ちのめそうと自前のデッキで試験官を買って出る展開である。しかし今回は遅刻者は2人。幸い、葉一の方が十代より筆記の成績がわずかに優っており、十代の方がクロノスに目をつけられる可能性が高い。そうなれば、ただでさえ遅刻者のせいで時間が延びている実技試験。片方は一般の試験官が着いて同時進行で行う事になる事は想像に難くない。
葉一基準でレベルの低い試験デュエル。そのハードルがさらに下がるのであれば、彼にとっては喜ばしい事である。
その後、三沢やその場にいた受験番号119番の『丸藤翔』と会話をする(陰キャ故にまともに会話できていなかったが)等、葉一の存在を除き大凡原作通りの展開が続く。そしてついに、遅刻組の試験実施の為のアナウンスが会場に響き渡る。
『受験番号110、遊城十代君――』
「よーし、俺の番だ!」
「あ、じ、じゃあ僕も失礼して――」
「待ちたまえ、98番君」
「は、はい! えっと、何――あっ」
十代と共に席を立ち、デュエルフィールドに向かおうとする葉一を三沢が呼び止める。何かと思い振り返ると同時に、葉一はある違和感に気付いた。
「気付いたようだな。君はまだ呼ばれていない。流石に君だけが受験資格を取り消されるということはないだろうから落ち着いて、座って待っているといい」
「……マジか」
がっかりした様子で席に座り、十代とクロノスのデュエルを眺める葉一。
やがて原作通り、《フレイム・ウィングマン》の効果によりクロノスに勝利した十代が戻ってくると同時に、再び会場内にアナウンスが響いた。
『受験番号98番、華埜井葉一君――』
――そして現在。会場のデュエルフィールドに案内された葉一の目の前には十代に負けた汚名を雪がんとばかりにクロノスが立ちはだかり、先ほどの醜態はどこへやら、毅然とした態度で葉一を見据えている。
「あ、えっと……受験番号98番、華埜井葉一、です……」
「シニョール葉一! アナタはこのワタシ、デュエルアカデミアの実技指導最高責任者である『クロノス・デ・メディチ』が直々に相手をしてあげますーノ!」
「な、なんでこんな事に……」
伝説的存在の白塗りおかっぱを前に、冷や汗を流しながら少年はデュエルディスクを構える。そして伸びきった前髪の隙間から眼前の相手を見据え、自らの至らなさを反省しつつ、「負けたら死」と不穏なワードを目の前の相手に聞こえない声量でぶつぶつと繰り返す。
やがて精神が落ち着いたところで葉一は深呼吸をし、表情を引き締める。それを合図としたかのように、両者の高らかな宣言が会場に響いた。
「――デュエル!!」
葉一:LP4000 VS クロノス:LP4000
「先攻はワタシナノーネ! ドローニョ!」
「あっ、どうぞ……」
「……フフン、ワタシは《トロイホース》を召カーン!」
トロイホース
☆☆☆☆
ATK1000
「――《トロイホース》?」
「さらにワタシは
クロノスの宣言に会場がざわつく。
直前のデュエルでも見せたレアカード、《
そんな彼を意に介さず、クロノスはデュエルを続ける。
「《トロイホース》を生贄に――《
☆☆☆☆☆☆☆☆
ATK3000
攻撃力3000の、文字通り大型モンスターの先攻1ターン目での登場に会場が沸き立つ。
得意げな表情のクロノスに対し、葉一は言葉を失っていた。
「おンやぁ? どうしたノーネ、シニョール葉一? このモンスターの圧倒的パワーを前に声も出ないのでスーカ? 所詮はドロップアウトボーイなノーネ」
「い、いえ……大丈夫です。お構いなく……」
「フン、強がリーを……ワタシはこれでターンエンドなノーネ!」
クロノス
LP4000
手札:3
モンスター
・
(攻)
魔法罠
・無し
葉一
LP4000
手札:5
モンスター
・無し
魔法罠
・無し
自信満々にターンエンドを宣言するクロノス。
数秒の沈黙の後、葉一が驚いた様子で言葉を発した。
「――えっ、終わりですか?」
「なっ……どういう意味なノーネ!」
「い、いえ、そのままの意味――あっそうか! そう、ですよね。受験ですもんね。さっきのデュエルの周りの反応からして受験用のデッキではないようなので、てっきり、ほ、本気で潰しにかかられるものかと……」
葉一の言葉に会場が騒然とする。
つまるところそれは「クロノスは手加減をしてくれている」と言っているようなもの。会場の他の受験生や見物に来ていたオベリスクブルーの生徒だけでなく、クロノス本人や成績優秀な三沢含め、葉一言葉の意味を理解しかねていた。
いくら葉一が先攻制圧上等の現代遊戯王に染まっているとはいえ、遊戯王GX作中のパワー基準を理解していないわけではない。
実際、葉一のデッキはこの世界に合わせて可能な限りパワーダウンさせつつ勝てる程度にチューニングが施されている。
それでも尚クロノスのプレイを手加減と認識する理由があった。
「だ、だって、いくら攻撃力が高いとはいえ、わざわざ先攻を取っておきながら、相手ターンに有効な効果を持たないモンスターを一体出しただけで終わりって……つ、つまり、攻撃力の高いモンスターをどう突破するかをテストしている……と、いうことですよね……!」
「はっ……! そ、そうなノーネ! よよよよく気付きましターネ」
ここでクロノスも自らの過ちに気付き、葉一の言葉に乗って誤魔化す。
普段のクロノスであればこのようなプレイはしない。
実際に先の十代とのデュエルでは先攻を取った十代に対し、《
今のクロノスは成績の低い受験生に負けた事で、力を誇示して名誉を挽回する方向に思考が傾いている。その結果がこれである。
しかしコミュ障陰キャの葉一がそんなクロノスの心情を察することができるはずもなく、デュエル中のプレイの粗を単なるプレミとしか認識できない。そんな彼が必死に考えた答えが『接待』であった。
無論、作中におけるクロノスがそのようなことをするキャラではない事は陽一も理解しているが、自身の筆記の成績が比較的マシだからとか、十代に負けたことを引きずって保険として負けの言い訳ができるデュエルをしているとか、何かしらの理由があると自らを納得させていた。
結果、葉一の言葉とクロノスの反応に、会場の全員が納得し、ガヤが収まる。
同時に葉一も緊張が解れたのか、気色の悪い陰キャスマイルを浮かべてデュエルを続行する。
「そ、そういうことでしたら任せてください……。ぼ、僕のデッキにはこういう状況の突破が得意なモンスターが入っています……!」
「!? ほ、本当に《
「ええ……ぼ、僕の自慢のデッキをお披露目します……! 僕のターン、ドロー! ――ぼ、僕は《
☆☆
ATK400
「ほう、彼は植物族使いか。珍しいな。それに俺も知らないカードだ」
「ああ、一体どんなデュエルを見せてくれるんだろうな! ワクワクするぜ!」
「でもあんな攻撃力も低くて弱そうなモンスターでどうするんだろう……」
興味津々な三沢と十代に対し、翔は心配げな様子である。
彼の言う通り、現れたのは《
「――ハン! 珍しいカードを使うようでスーガ、そんなちっぽけな葉っパさんで何ができると言うノーネ!」
「あっ、せせせ、先生もこの子に――興味がおありですか?」
「ニョ?」
葉一の目の色が変わり、弱々しく吃っていた声も芯の通ったものに変わる。
突然の変化に目を丸くするクロノスを無視し、葉一はひとつ咳払いをする。
「フライ・ヘル――即ちハエジゴク。ハエトリグサの別名ですね。ウツボカズラ目モウセンゴケ科ハエトリグサ属の、北アメリカ原産の食虫植物です。ご存知ですか? ハエトリグサは捕虫葉の内側に感覚毛があり、それに30秒以上の間隔を空けずに獲物が二回触れると閉じる仕組みなんですが……その速さは0.5秒。まさに一瞬の早技で獲物を逃げる間もなく捕えることができるのです。この仕組みにより雨などに反応して誤って閉じることによるエネルギー消費を抑えているのですが、それでも誤って閉じた場合に獲物とそれ以外を認識する仕組みが存在します。捕えられた獲物は当然脱出しようと葉の中で暴れるわけですが、その際再び感覚毛に触れることになります。それによりハエトリグサは確実に獲物が入ったことを認識し、捕虫葉の締め付けを強くして消化液を分泌し――」
「き、急にめっちゃ喋るノーネ……」
先程までとは打って変わって流暢に喋り出す葉一にたじろぐクロノス。そんな彼を気にすることなく葉一は意気揚々とデュエルを進める。
「では獲物を捕える準備をしましょう。《フライ・ヘル》の効果を発動! 1ターンに1度、相手モンスターに捕食カウンターを置きます。そして捕食カウンターが置かれたモンスターのレベルは1になります」
☆☆☆☆☆☆☆☆→☆
《フライ・ヘル》の口から獣の頭部のような形状の小さな植物体――捕食カウンターが放たれ、《
「……フン、何をするかと思えーば。実技指導最高責任者としてひとつ、指導してあげるノーネ。モンスター同士のバトルは攻撃力、守備力の数値を参照するので、レベルを下げたところで意味はアーりまセン! デュエルモンスターズの初歩の初歩でスーノ」
「それはどうでしょう。《
「正気なノーネ!?」
葉一の命令で《
「ギョギョギョー!?」
「《フライ・ヘル》の効果。自身のレベル以下のモンスターとバトルする際、ダメージステップ開始時にその相手モンスターを破壊する! 『ヴィーナス・トラップ』!!」
葉一の講釈の通り、抵抗する間もなく一瞬で呑み込まれる《
手札を3枚消費して召喚したエースモンスターを最下級モンスター1体に処理されクロノスは愕然とするが、巨大化した《フライ・ヘル》の
「……ン? そのモンスター、大きくなったままなノーネ?」
「ええ、《フライ・ヘル》の効果には続きがあります。自身の効果でモンスターを破壊した後、さらにそのモンスターの元々のレベル分、自身のレベルを上昇させます」
「と、いうこトーハ……!」
「そう、破壊した《
☆☆→☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「マンマミーヤ!? そ、そんなモンスター、掟破り級でスーノ!!」
クロノスは驚愕のあまり、奇しくも翔の《
それもそのはず。原作である遊戯王GXの放送期間中の環境では、《
《
対して《フライ・ヘル》の場合、捕食カウンターを置くことに成功すればどんなモンスターであれ必ずレベル1になり破壊圏内に入る。また、レベル上昇効果により返しの戦闘にも強い。このようなカードが当時の環境でそのまま出回っていれば凡ゆるグッドスタッフ構築に採用され、すぐさま規制を受けていたであろう。
さらにこの状況に於いては、エースである《
クロノスは除去効果を持つカードを引かなければ、攻撃力400のモンスターを棒立ちさせている葉一相手に戦闘ダメージを与える事すらできなくなってしまった。
「あとは……そうだな、カードを1枚伏せてターンを終了します」
葉一
LP4000
手札:4
モンスター
・
(攻/Lv10)
魔法罠
・伏1
クロノス
LP4000
手札:3
モンスター
・無し
魔法罠
・無し
「ぐぬぬ……厄介なモンスターなノーネ……! しかーし、所詮は攻撃力400の低級モンスター。放置したところでワタシのライフを刈り取るにはパワー不足! ゆっくりフィールドと手札を整えさせてもらうノーネ。――ワタシのターン、ドローニョ! ワタシは
現代では禁止カード代表である《強欲な壺》も、この時代においては現役である。
クロノスはドローしたカードと元の手札を交互に見やり、余程引きが良かったのかニヤリと笑みを浮かべる。
「――ムフフ、このターンでそのモンスターをなんとかできそうでスーネ。ワタシは装備魔法《強奪》を発ドーウ! アナタの《フライ・ヘル》に装備し、そのコントロールを奪うノーネ!」
「くっ……いいでしょう。大事にしてくださいね」
「ま、まあ、デュエルアカデミアの講師たる者、カードは大切に扱いまスーガ……なんかニュアンスが違う気がするノーネ……」
クロノスと葉一は互いに前に出て、《強奪》の効果処理により葉一から《フライ・ヘル》のカードの引き渡しを行う。それぞれ持ち場に戻ると、クロノスは気を取り直してデュエルを続行する。
「――と、とにカーク、これで厄介なモンスターは退かせたノーネ。とはいえ、またあんなモンスターを出されたらたまったものではあーリまセン。このターンで決めさせてもらうノーネ!」
クロノスの目が本気になり、葉一だけでなく観客席の人々も息を呑む。
《
「ここからは本気……と、いうことですね。つまり、前のターンの対応については合格という認識でよろしいでしょうか?」
「そういえばそういう話だったノーネ……ごほん、このカードは受験生はおろか、我が校の生徒相手にすら召喚したことは一度もありまセーン。光栄に思いなサーイ!――
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ATK4400
手札より現れた機械仕掛けの巨人と2隊の兵士が渦に飲み込まれ溶け合い、クロノスの切り札、《
デュエルアカデミアの実技指導最高責任者、その全力の象徴である超大型モンスターの登場に、会場は歓声に包まれた。
「アナタのフィールドはガラ空き。伏せカードが1枚あるのみですが、《
「くっ……」
「もう無理だ……勝てっこないよ」
「98番君もここまでか。この状況で伏せカードを使わないという事は、あのカードは《激流葬》のような召喚反応型の罠や、《強制脱出装置》のようなフリーチェーンの除去カードでもない。それらの罠である可能性を無視して手札を全て使い切ったクロノス教諭のプレイはやや勝負を焦ったようにも見えるが、結果としてそれが彼を追い詰める事となったか」
「いや、それはどうかな」
そう声を上げたのは十代。
諦めムードの翔と三沢に対し、彼はまだ葉一の敗北を疑っていた。
「葉一は『自慢のデッキをお披露目する』って言ったんだ。『自慢のカード』じゃなく、な。確かに《フライ・ヘル》は強力なモンスターだ。けど、あいつがそういう言い方をするなら、きっと《フライ・ヘル》1体に頼らない『何か』を見せてくれるはずだぜ」
十代の言葉にハッとした二人はデュエルコートの葉一の方へ向き直る。観客席からはその表情から彼の意図を読み取る事などできないが、それでも、気のせいかもしれないが、勝負を諦めない
「覚悟するノーネ! 《
「――この瞬間、手札の《
☆
DEF600
葉一のフィールドに、背中から筒状の葉――サラセニアを生やした、植物体の巨大な蟻が現れる。そして巨人の攻撃から葉一を庇うように立ち塞がった。
「そんな雑魚モンスターを壁にしたところで無駄なノーネ! 《
「ぐっ……!」
葉一:LP4000→200
《
「……サラセニアは食虫植物の中でもかなりの大食漢ですが、消化酵素を殆ど分泌しません。しかしそれによりあえて一度消化不良を起こし、捕虫葉内でバクテリアを繁殖させることで消化を促進して栄養を吸収するのです」
「それがどうしたノーネ。デュエルに関係ない講釈は――いや、《フライ・ヘル》の時も……もしやそのモンスターにはまだ効果があるのでスーカ?」
「その通りです先生。《セラセニアント》の更なる効果! このカードが戦闘で破壊されたことで、デッキから『プレデター』と名の付くカードを手札に加えます。僕が手札に加えるのは、《
「ホーウ? 《
先程まで葉一の味方として敵モンスターを喰らったその大口が、今度は葉一に牙を剥き襲いかかる。
《フライ・ヘル》が目の前まで迫ってきたところで葉一はデュエルディスクを操作し、伏せカードを発動する。
「
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆→☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆→☆
「今更レベルを変えたところで――」
「ダメージ計算前、墓地の《ドロソフィルム・ヒドラ》の効果を発動! 墓地から《セラセニアント》を除外し、《フライ・ヘル》の攻撃力を500ポイントダウンさせます!」
「なんでスート!?」
ATK400→0
「ぐぬぬ……これではダメージを与えられないノーネ……しかーし、アナタのライフは最早風前の灯! 次のターンでトドメを刺してあげるノーネ! ワタシはこれでターンエンド」
クロノス
LP4000
手札:0
モンスター
・
(攻/Lv1/捕食カウンター)
・
(攻/Lv1/ATK0/捕食カウンター)
魔法罠
・強奪
(対象:
葉一
LP200
手札:4
モンスター
・無し
魔法罠
・無し
「おお! 葉一の奴、やっぱりやるなあ! クロノス先生の全力の攻撃を耐え切ったぜ!」
「でもクロノス先生の場には攻撃力4400のモンスターがいるんだよ。ここから巻き返すなんて無理だよ」
「いや、それはどうかな。クロノス教諭は切り札の召喚のためにリソースを使い切っている。それに彼のデッキは見たところ、捕食カウンターを活用するデッキのようだ。先程の《
三沢の視線がクロノスの場の《フライ・ヘル》へ向く。そんな彼の考えを葉一が知る由もないが、葉一もまた同じく《フライ・ヘル》を見てにやりと笑みを浮かべていた。
「僕のターン、ドロー! まずは先生の《強奪》の効果でライフを1000ポイント回復させていただきます」
葉一:LP200→1200
「さて、ここから反撃開始――いや、このターンで勝たせてもらいますよ。先生」
「ま、まさか、そんな事できるわけないノーネ!」
葉一の勝利宣言にクロノスはたじろぎながらも強く反論する。
しかしクロノスにとって葉一のデッキは完全に未知の存在。今の所1枚も彼の知るカードを使われていない。手札も伏せカードもなく、葉一のターンで有効な効果を発揮するカードはフィールドにも墓地にも1枚も存在しないクロノスに対し、葉一には手札が5枚もある。クロノスは内心、もしかしたらあの5枚で巻き返されるのではと、己の勝利に対する自身が揺らいでいた。
「僕は《
☆☆
ATK600
葉一の場に現れたのは、粘着質の繊毛の生えた葉――
「《サンデウ・キンジー》の効果を発動します。このカードを含む融合素材モンスターを手札かフィールドから墓地へ送り、闇属性融合モンスターの融合召喚を行います」
「ナヌ!? アナタも融合召喚を使うノーネ!?」
「それだけではありません。この効果で融合する時、相手の場の捕食カウンターの置かれたモンスターも素材にすることができます。僕は《サンデウ・キンジー》と《フライ・ヘル》を融合!」
「なっ!?」
クロノスが《サンデウ・キンジー》の能力に驚いている間に、その粘着質の舌が《フライ・ヘル》を捕える。そしてそのまま《フライ・ヘル》を融合召喚の
2体は溶け合うように渦に吸い込まれる。やがてその奥から龍の眼光が禍々しい輝きを放った。
「召喚条件はフィールドの闇属性モンスター2体――現れろ、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン
☆☆☆☆☆☆☆☆
ATK2800
「成程、《サンデウ・キンジー》の能力を最大限活かせる召喚条件――そのモンスターがアナタのエースというワケでスーか。しかし、《
「このモンスターの本当の力はここからです。《スターヴ・ヴェノム》の効果発動! このカードの融合召喚成功時、相手の場の特殊召喚されたモンスター1体を選び、ターンの終わりまでその攻撃力を自身に加算する!」
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン
ATK2800→7200
「攻撃力7200!? ――でもこのターンでワタシのライフを削り切ることは不可能。それにその効果はターン終了時まで。《
「いえ、終わりですよ。先生が仰るように、《ドロソフィルム・ヒドラ》がいますからね」
「ム、一体どういう――」
その瞬間、大きな音を立てて地面を割りながら緑色の触手が現れ、《
「こ、これは一体……!?」
「食虫植物のトラップの中でも、最大の捕虫率を誇るのがモウセンゴケに代表されるトリモチ式。触れさえすれば良いワケですからね。そしてその中でもドロソフィルムは最強と呼ばれる捕虫力を持っているんですよ。――《ドロソフィルム・ヒドラ》の効果。このカードは場の捕食カウンターの置かれたモンスターを生贄に捧げる事で、手札か墓地から特殊召喚できます」
「生贄……というこトーハ……!」
「そう、破壊が条件である《
緑の触手――《ドロソフィルム・ヒドラ》の消化液により《
☆☆☆☆☆
DEF2300
「あわわ……成績下位の受験生に2度も負けるなんて……ありえなイーノ、ペペロンチーノ……」
「すみませんが、こちらも合格しなければ後がないので勝たせていただきます。――さあバトルです。《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》で、クロノス先生にダイレクト・アタック!」
《スターヴ・ヴェノム》の背にエネルギーが集まり、禍々しい形の翼のような模様を描く。そこからさらに頭上にエネルギーを集約し、巨大な光線となってクロノスに向けて放たれた。
「マンマミーヤァァァ!?」
クロノス:LP4000→0
クロノスは攻撃力7200の直接攻撃の衝撃と、2度も受験生に敗北したショックでその場に膝をついて放心する。
葉一はデュエルが終了したことで我に帰り、元の調子に戻っていた。
「あ、あの、あああありがとうございました……」
そう一言挨拶を告げ、デュエルコートから立ち去る葉一。クロノスに勝った以上合格は間違いないだろうと安堵しているが、後日、海馬コーポレーションのデータベースに存在しないカードを使ったということで、社長でありデュエルアカデミアのオーナーでもある『海馬瀬人』に呼び出される事になるのだが……それはまた別のお話である。
今書いている別の作品が詰まっちゃったので息抜きで読切を書いちゃいました。クロノスの口調難しいですね……。誤字とかあったらごめんなさい。
連載中の作品が完結したら本作も連載したりしなかったり……。