世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第15話【フェアリーの日常】

 そんな未来の良い相棒と共にリズも食事にありつく。

 

【炎の神殿】はリズの叙任式で華やかな会場と化している。

 騎士や貴族たちが豪華な料理が盛られた長卓周りで歓談を楽しんでいた。

 

「ところでこれ全部食べていいんですか?」

 

 長卓に並べられた御馳走を指差したながら問う。

 すでに骨付き肉を骨ごとバリバリ食ってるフェアリーに、顎どんだけ強いんだと思いながらリズは頷いた。

 

「どうぞ。これはお金気にしなくていいから好きなだけ食べて」

 

「本当ですか! いただきます!」

 

 一気に食べるスピードが跳ね上がった。

 ガツガツガツガツとあれもこれも食べていくフェアリーは、好き嫌いがないようだ。

 

 いつもムスッとしているが、こうやって食事に有りつけると途端に目を輝かせて頬張り始める。

 食事に目覚めてしまったらしい彼女を微笑ましく見ていると。

 

「リズ。フェアリー。楽しんでる?」

 

【炎の神殿】の奥からやってきたイルセラに声を掛けられた。

 

「あ! イルセラ様! はい! 楽しんでます! ね? フェアリー」

 

 フェアリーは食事に夢中でそもそもイルセラに気づいていなかった。

 

「ちょっとフェアリー! 私達の君主に挨拶しなさいよ!」

 

「むぐ?」

 

 食事を邪魔されて露骨にリズを睨むフェアリーは、イルセラの存在に気づいた。

 なんだお前か、と言わんばかりの顔をしてからすぐに食事を再開した。

 

「挨拶しろっての!」

「うぶっ! なんですかさっきから!」

 

 リズもフェアリーも怒り、またケンカになりそうだったのでイルセラがすぐに仲裁する。

 

「やめなさい二人とも。まったくすぐケンカするんだから……」

 

「す、すみません……」

「……」

 

 リズが謝り、フェアリーは相変わらず骨付き肉を頬張っている。

 そんなフェアリーにイルセラは苦笑しながら口を開く。

 

「食事の邪魔をしてごめんなさいねフェアリー。でもあなたに聞きたいことがあるの」

 

「むぐ……ゴクン! なんですか?」

 

「あなた普通の『使い魔』じゃないわよね? 喋るし、ご飯は食べるし、寝るし。それに生まれが世界樹で、素性が妖精ってどういうことなの?」

 

「どうもこうも、そのまんまの意味ですよ。私はリズさんに召喚される前は宇宙でドラゴンと戦っていました」

 

「宇宙? ドラゴン?」

 

 また知らない言葉が出てきてイルセラは顔を顰めながらリズを見た。

 リズも実はあまりフェアリーの事を理解していないと首を振って伝える。

 

「こんな召喚パターンもあるのね……」と呟いたイルセラはすぐに続けた。

 

「普通【召喚】というのはその【魔法使い】のイメージの中から形成されて外に出るわ。でもあなた達のように余所から引っ張ってくる召喚もあるみたいね」

 

 イルセラが理解したように言うが、まったく違う。

 世界樹さまに地球送りにされて、その時たまたまリズが召喚しようとしてて、そこにフェアリーが転送それて来ただけに過ぎない。

 

 でもそれを言うと話が拗れそうだから、フェアリーは黙っておくことにした。 

 

「ねぇフェアリー。あなたのことをもう少し聞かせて。その宇宙やドラゴンや世界樹の話が気になるわ」

 

「あ、アタシも聞きたいです」

 

 イルセラにリズも便乗してきた。

 食事を満喫したかったフェアリーは面倒くさそうな顔をした。

 それを見越したかのようにイルセラがニヤリと笑う。

 

「作り話じゃないんでしょう? あなたのあの強さの根源を知りたいわ。普段はどう過ごしていたの?」

 

 しつこく聞かれ、フェアリーは溜め息を吐く。

 どうせ話しても信じてもらえないだろうと思いつつ、フェアリーは仕方なく語り出した。

 

 

『ドラゴンの殲滅を確認。仲間の被害は?』

 

 世界樹がフェアリーに問う。

  

『数百やられました』

 

 淡々と答えるフェアリーに世界樹も『軽微だな。了解した』と慣れた口調で答える。

 

 妖精たちの死に動じないのはいつものことで、途方もない時を戦ってきたことによる慣れもあるのだろう。 

 

『第二波が来るかもしれない。警戒を怠るな』

 

 世界樹が仲間たちに命令し、仲間たちは『了解』と返した。

 フェアリーも同じく『了解』と返す。

 それがフェアリーの日常だった。

 

 フェアリーの真下に広がる青く美しい地球。

 その真上には虹色の葉で覆われた世界樹が虚空に根を張り、世界に生命エネルギーを送っては受け取り、巡る生命エネルギーを今日も巡回させている。

 

 もうすぐ世界樹は生命エネルギーで満たされる。

 満たされた世界樹は子種を宇宙へ飛ばす。

 世界樹繁栄のために。

 

 だが今の地球はドラゴンにとっても最高のご馳走になる。

 この地球が侵略された場合、いったい何体のドラゴンが生まれてしまうのか?

 考えただけでおぞましい。

 

『……フェアリー』

 

 不意に呼ばれ、フェアリーは自分の事かと戸惑いつつ世界樹を見た。

 

『お前は優秀だな』

 

 世界樹の発言に虚を突かれた。

 妖精に優劣などないのに。

 

「どうしたんですか急に?」

 

『お前は数々の地球を渡り、ドラゴンと戦ってきたのだろう? よく生き残ってきたなと思ってな』

 

 妖精に寿命は無いが、平均寿命は短いとされている。

 ドラゴンとの戦いですぐに戦死するからだ。

 減ればすぐに世界樹が供給する替えの利く兵士だ。

 

 フェアリーもその例に漏れない数いる一匹。

 

「運が良かっただけですよ」

 

『そうか』

 

 実際、本当に運が良かっただけだ。

 ドラゴンとの戦いは熾烈を極める。

 奴らの爪とブレスに当たればフェアリーとて軽傷では済まない。

 下手すれば即死だ。

 

 そんな即死級の攻撃が飛び交うのが宇宙での戦闘だ。

 自分に当たるはずだった攻撃が仲間に当たっただけのこと。

 

 助けてくれた仲間が次の瞬間消し飛んだりするなんてことはよくあった。

 

 助けたかったが間に合わず、死なせてしまった仲間もたくさんいる。

 何度看取り役をやらされるのか? 

 

『第二波接近。ドラゴンの群れだ。みんな。迎撃してくれ』

 

 物思いにふけていた頭を世界樹の警告で叩かれ覚醒させられた。

 

 世界樹の指示に妖精たちはすぐに【聖剣】を形成して臨戦態勢に切り替えた。

 妖精は陣形を整え、フェアリーもそれに加わる。

 

 すると間もなく深淵の奥から赤い光が無数に現れた。

 ドラゴンの眼の光だ。

 光の数だけドラゴンがいる。

 パッと見ても軽く百は超えていた。

 

『来たぞ。数が多い。今度は本隊のようだ。各自連携を怠るな。お前たちが突破されれば地球は丸裸になる』

 

『了解。守り切ってみせます』

 

 世界樹の言葉にフェアリーはそう答え、仲間と共に交戦を開始した。

 

 宇宙の彼方に広がる無限の闇の中、星々が輝きを放つ。

 

 その中を自由自在に泳ぐ大きなドラゴン。

 その姿が赤い眼を光らせながら迫って来る。

 

 宇宙空間に浮かぶドラゴンは甲殻生物だ。

 多数の翼を持ち、その大口の中には奴らの武器である牙を隠し持っている。

 

 ドラゴンは無重力の中でも躍動感を持ちながら、柔らかな翼を使って周囲の宇宙塵や小惑星をどかし前進してくる。

 

 宇宙に揺れる翼膜は透明感がありながらも非常に頑丈で、さまざまな方向にしなる。ドラゴンはこの宇宙を素早く泳ぎ、目標である地球へとひたすら突き進む。

 

 それを阻止すべくフェアリーたちが応戦。

 互いに射程圏内に入ると凄まじい数の光弾とブレスが弾幕として撃ち放たれ交差する。

 

 フェアリーはドラゴンのブレスを回避しながら【流聖】を撃ち返し二体を仕留める。

 すると隣にいた仲間がドラゴンのブレスを浴びて蒸発するのが見えた。

 

 嘆く間もなく次のドラゴンが肉薄し、フェアリーはすれ違いざまに【聖剣】で斬り抜く。

 

 刹那、次のドラゴンが飛び掛かってくる。

 咄嗟に【聖剣】で防御し、ドラゴンの爪を受け止めた。

 鍔迫り合いになり、そこからさらに別のドラゴンがフェアリーを狙う。

 

『くっ』

 

 脇から攻撃されると思ったが、駆けつけてくれた仲間のフェアリーがカバーしてくれた。

 

『大丈夫か。コイツは任せろ』

 

『感謝します』

 

 仲間のフェアリーもドラゴンと激しい剣戟を交え始める。

 当のフェアリーは鍔迫り合いに押し勝ちドラゴンの体幹を崩した。

 その隙を逃さず敵の顔を【聖剣】で貫く。

 

『ぐぁあああああ!』

 

 聞こえたのは仲間の悲鳴。

 ドラゴン撃破とほぼ同時に先程カバーしてくれた仲間がドラゴンの爪を突き刺され絶命していた。

 

 お互いに目前の敵を撃破したフェアリーとドラゴンは光弾とブレスを撃ち合う。

 互いに避けて流れるように近接戦闘。

 何合かの爪と剣を交えて最後にパリィを決めたフェアリーはドラゴンの胴体を真っ二つに斬り裂いた。

 

 まだ戦いは終わらない。

 息づく間もなく次のドラゴンたちが迫って来る。

 ブレスの弾幕が次々と仲間のフェアリーを蒸発させていく。

 

 それらを悲しむ余裕などない。

 

 フェアリーは少しでも仲間の被害を止めるため前に出ていく。

 

 眼下に広がる地球を守るため。

 

 いつかブレスに焼かれるその日まで、フェアリーの生涯に終わりはない。

 

 それがフェアリーの日常だった。

 

 

「……それ、本当なの?」

 

 イルセラが疑わしげにフェアリーを見つめながら言った。

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