世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第17話【降臨】

【炎の神殿】での宴会が終わった頃には、外はすっかり夜になっていた。

 それでもエタンセルの街中は明るい。

 

【消えない炎】で灯した街灯は朝までしっかり路面を照らしてくれるからだ。

 さすがに【消えない炎】本体と違ってランプに移した炎は消えるが、それでも普通の炎より遥かに長時間燃えてくれるのだ。

 

 そんな明るい夜のエタンセルをフェアリーはリズと共に歩いていた。

 今日は前に泊まった宿で休むことになっている。

 明日からはイルセラの計らいでリズの住み込み先が用意されるらしい。

 

「あんたって子供に優しいのね」

 

 隣を歩くリズに言われた。

 フェアリーは特に動揺もせず答える。

 

「子供は純粋です。まだ穢らわしくなっていないので」

 

「あの、アタシも子供なんだけど……まだ15だし」

 

「15じゃダメですね。私が許せるのは12歳が限界です」

 

「狭いって……」

 

 溜め息を吐くリズが街の周囲を見ると、そこら中にイチャイチャするカップルがたくさんいた。

 

 良いなぁと内心で羨ましがりつつ、隣のフェアリーを見る。

 リズより顔一個ほど高い身長のフェアリーは美人だが、中身は人間嫌いの妖精という人外。

 

「はぁ……あんた普通に男だったら良かったのに……」

 

「は?」

 

「なんでフェアリーって女の子にされたの?」

 

「知りませんよ。弱いからじゃないですか?」

 

「弱いから?」

 

「人間は男性と女性とでは身体のしくみが違うらしいので、戦闘能力の低い女体が選ばれたのだと思います」

 

「なんでそんなことを……」

 

「世界樹さまは私を出来るだけ弱体化したかったんでしょう。能力を封印されているのがその証拠です」

 

「それ、前から思ってたけど、なんでわざわざフェアリーの能力を封印するわけ?」

 

「人間に手を出させないためでしょう。妖精の強さは人間の比じゃないんです」

 

「うん。封印されててあの強さだからほとんど意味ないと思うのよ。今のままでもフェアリーめちゃくちゃ強いじゃない」

 

「まぁ……」

 

「世界樹さまって、なんか神さまみたいな感じかと思ったけど、そこまで凄いわけでもないのね。フェアリーのこと何も分かってないみたいだし」

 

「何がです?」

 

「フェアリーは凄く優しくて、子供にはもっと優しいって、世界樹さまは知らないでしょ?」

 

「何を根拠に言っているのか分かりませんが、私はあなたが思ってるほど優しくはありませんよ。世界樹さまの目がなければ、私は人間を手に掛けるかもしれません」

 

「それは分かってる。話を聞いてると、アタシたち人間はフェアリーに殺されても仕方ないようなことをしてるみたいだし……」

 

「……」

 

「でも、これだけ言わせて」

 

「なんです?」

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

「……………………?」

 

 リズの放った感謝の意味が分からず、フェアリーは怪訝な顔を浮かべて立ち止まった。

 

「アタシの住んでるこの世界……地球って言うんだっけ? フェアリーたちがずっと守ってくれてたんでしょ? だから、ありがとう」

 

「リズさん……」

 

「言われたことないんじゃない?『ありがとう』なんて。世界樹さまもなんかそんなこと言わなそうだし」

 

「……世界樹さまにとって妖精は替えの利く兵士です。何億といる妖精にいちいち礼なんて言うはずないでしょう」

 

「ならやっぱりアタシが言うわ。アタシの住む世界を守ってくれてありがとうフェアリー」

 

「……」

 

 複雑な顔をしてそっぽを向いたフェアリーに、リズは問う。

 

「フェアリーって、何年くらいこの地球を守ってきたの?」

 

「……私はこの地球に関しては日が浅いです。おそらくまだ500年くらいかと」

 

「長いって。アタシ生まれてないどころか影も形もないじゃない……」

 

 でも500年もこの地球を守ってくれていたということだ。

 やっぱりフェアリーには感謝しかない。

 彼女以外の妖精たちにも、感謝の言葉を贈りたい。

 

 戦って死ぬのが当たり前なフェアリーたちに、感謝の言葉くらい贈っても良いと思うのだ。

 人間ができることなんて、それくらいしかないだろうから。

 

「……」

 

「フェアリー?」

 

 当のフェアリーは急に空を見上げて黙った。

 その顔は、どこか険しい。

 リズもフェアリーの視線の先を追うと、夜空に流れ星が見えた。

 

「流れ星?」

 

「違う……あれは!」

 

 フェアリーの声色が急変した。

 赤い彗星の如く落ちてくる流れ星。

 それはたちまち人型へと姿を変えると、背中から両翼が生えてきた。

 赤く赤熱した外殻が夜の空気に冷えて黒く染まり、暗闇でも輝きを放っている。

 

 高度が下がるにつれて、その形状はハッキリしていく。

 

 頭部には鋭い牙と獰猛な赤い目があり、その眼差しは凶暴さを物語っている。

 黒い鱗に覆われた巨大な人型ドラゴンの身体は力強く引き締まっており、筋肉がひとつひとつ浮き出ている。

 

 そいつは翼で落下速度を減速させていくと、まっすぐエタンセルの街中へと降下していった。

 

「なにあれ!?」

 

「ドラゴンだ!」

 

 ほぼ怒声に近い声でフェアリーが言うと、リズの腰に掛けてあった剣を勝手に抜き出し、近くにいた見回りの騎士の剣と奪って走り出した。

 

「おい!」っと怒る騎士は無視してフェアリーは建物の屋根に飛び乗った。

 

「フェアリー!?」

 

「リズ! すぐに避難しろ! この街から出来るだけ離れるんだ!」

 

 急に男口調になったフェアリーの顔は目付きが違った。

 剣聖の時でさえ見せていなかったフェアリーの本気の顔。

 ソレに戸惑う間にフェアリーは凄まじい速度で屋根という屋根を飛び越えてドラゴンが降下した場所へと向かった。

 

「フェアリー……」

 

 刹那!

 ドラゴンが降下した街中が大爆発を起こした! 

 次いで住民の悲鳴が一気に沸き起こり、黒煙が巻き起こる。

 

 嘘でしょ……

 

 実在したドラゴンを目の当たりにしたリズは、すぐにフェアリーの言葉を思い出した。

 

『たった一匹でも地上に侵入を許せば、そこは瞬く間に血の海になります』

 

 それが今、リズの前で起ころうとしている。

 いきなり過ぎて半ばパニックになりそうだったリズは、すぐにイルセラを思い出して彼女の屋敷に向かって走り出した。

 

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