世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第19話【フェアリーの本性】

 イルセラ邸の三階にある執務室。

 エタンセルの西側で起きた大爆発の地鳴りはここまで響いていた。

 

 テーブルに置かれた紅茶入りのカップが落ちて割れ、館全体が揺らされるほどの衝撃波が後から届いて窓ガラスを激しく揺らす。

 

 何事なの!?

 

 イスから立ち上がったイルセラは窓の外を見た。

 西側の街中で黒煙が上がっており、人々の悲鳴が聞こえ始めた。

 

 只事じゃないと即座に判断したイルセラはすぐに娘が眠る子供部屋へと向かおうと扉に走る。

 開けようとしたその時「イルセラ様!」とベネディクトが力強くノックしてきた。

 

 イルセラは応じるよりも速く扉を開けると、執事ベネディクトがゼラードを抱いていた。

 

「ママ!」

「ああゼラード! 良かった……ありがとうベネディクト」

「いえ! しかし今の揺れはいったい?」

「分からないわ。何が起こってるのかしら……」

 

 娘を引き継ぎ抱っこして、イルセラはまた窓の外を見た。

 何やら西側の街中で爆発が連続で起きている。

 爆発! 爆発! 爆発! 爆発! 爆発!

 至る所にある建物が弾け飛んでいく!

 しまいには時計台が斬り崩された!

 

「こ、これは……」

 

 外の光景を目の当たりにしたベネディクトが絶句する。

 それはイルセラも同じだった。

 

 野盗でも侵入したか?

 いや、それにしたって派手すぎる。

 奴らはもっと静かに事を成す連中だ。

 こんな騎士を呼ぶような目立つ行為はしない。

 そもそも野盗如きが時計台を斬るなんて芸当が出来るはずもない。

 

「あ! ママ! フェアリーがいる!」

「え?」

 

 娘が指差した場所は一軒家の屋根。

 そこでは火花が派手に散っている。

 銀の光が激しく交差しているが、人影らしき者は見えない。

 

 ゼラードは今フェアリーと言ったが、あの火花が散る屋根の上にフェアリーがいるのだろうか?

 夜のせいで視界が悪い。

 

 フェアリーは目視できないが、火花が散るその場所はついに建物ごと弾け飛んで破砕した。

 

 すると今度は別の建物の屋根に火花が発生し始め、やがてそこも破砕して消し飛ぶ。

 

 間髪入れず何かが吹き飛び、住宅群の中を貫通していく影が見えた。

 それこそ娘が指したフェアリーだった。

 

 彼女はどうやら吹き飛ばされたらしく、何件もの建物を貫通して倒れた。

 しかしすぐに立ち上がり何かに向かっていく。

 

「フェアリー!? あの子なにやってるの!?」

 

 この騒動はまさかフェアリーの仕業か?

 フェアリーが人間嫌いだと知っているから、一瞬だけそう疑ってしまった。

 

 しかしフェアリーの斬り結ぶ敵の存在に気づき、距離が近くなったことでようやくそれが見えた。

 

 敵は見たこともない黒い怪物だった。

 黒い甲殻に鋭利な爪や牙。そして尻尾を持っている。顔の形状はよく見えないが、赤い瞳だけはハッキリと見えた。

 恐ろしいまでの殺気を感じさせる血のように赤い眼だ。

 

「な! なんなのアレは!?」と驚くイルセラに「分かりません!」と応じるベネディクト。

 ゼラードが怖がってイルセラに抱きついてき、イルセラも守るように娘を抱き直した。

 

 フェアリーと怪物の戦闘音がどんどん近付いてくる。

 次々とその戦闘に巻き込まれて破壊されていく建物。

 その中から慌てて逃げ出してくる住民たち。

 

 そんな彼らを怪物が狙おうとした時、フェアリーがそれを阻止するように割り込んで戦うのが見えた。

 

 フェアリーは住民を守っている!

 この騒動の元凶はあの怪物だ!

 

 ようやく事態が飲み込めてきたイルセラはベネディクトに指示を出そうとする。

 が、次の瞬間! フェアリーが怪物に蹴り飛ばされ、三階にある執務室の壁を突き破って飛んできた。

 

 ガシャンと派手な轟音が鳴り響き、ガラスが割れて弾け飛ぶ。

 その破片からゼラードを守ろうと屈むイルセラ。

 そのイルセラを守ろうとベネディクトが自分の背を盾にした。

 

 飛び散ったガラス片は床に落ち、一時の静寂の間に別の足音が駆け上がってくるのが聞こえた。

 

「イルセラ様!」

 

 開いている扉から現れたのはリズ・リンド。

 彼女の眼に先に入って来たのは吹き飛ばされてきたフェアリー。

 

「フェアリー!」

 

「リズ!? なにやってるんだ! 早く逃げろと言っただろう!」

 

 イルセラは耳を疑った。

 本当にフェアリーが言ったのかと思うほどに口調が変わっていたからだ。

 まるで男のような言い方をするフェアリーに冗談の色はない。

 むしろ本気で激怒しているように見える。

 

「く、君主を置いて先に逃げられるわけないでしょう! アタシはもう――」

 

 ――リズが言い終える前に、あの怪物がいつの間にかこの執務室に侵入して来ていた。

 

 あまりの速さに誰も怪物の存在に気づいていない。

 ヤツはすでにリズの目前におり、人間の皮膚など容易く切断する爪が首を狙う!

 

 その爪を間一髪で弾いたフェアリーは敵を蹴り飛ばし間合いを空けた。

 怪物は思わぬ強敵に忌々しい目を向けて爪を構え直す。

 

「早く逃げろ! 私がコイツを抑えていられるのも時間の問題だ! 急げ!」

 

「!? わ、わかったわ! イルセラ様! こっちです!」

 

 リズがイルセラたちを誘導すると怪物がそれを狙って動き出す。

 目にも止まらぬ速さで迫る怪物を、フェアリーは二刀流で受け止める。

 

「お前はジッとしていろ!」

 

 殺意剥き出しのフェアリーは、明らかにいつもと違った。

 どこか人を見下したような無礼なフェアリーではない。

 これがフェアリーの妖精としての本性なのだろうか。

 

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