私は何をやっているんだろう。
フェアリーはそんな雑念を抱きながらドラゴンと斬り合っていた。
不慣れな大剣を使っているせいもあり、戦いはすでに劣勢を極めている。
さっさと【憑依】を使ってしまえばそれで良かったのに、未だにそれをせずドラゴンと無駄な打ち合いを続けている。
エタンセルの街中はドラゴンのブレスにより火の手が上がり、建築物に無用な被害が広がっていく。
一刻も早くドラゴンを倒さねばならないのに……自分は、リズを待っているのだろうか?
『【憑依】はまだ使わないで! もう少しだけ粘って! 絶対に助けるから!』
人間にドラゴンをどうにかできるものか。
たとえどうにか出来ても、対ドラゴンという妖精の専門分野で人間に助けられるのは癪だ。
でも、ここで生き残ればまだ私は戦い続けられる。
より多くのドラゴンを倒すことができる。
世界樹の兵士として生き残ることは重要だ。
もし、リズに何かしらの打開策があって、それによって自分が生存できるなら、そちらを選ぶ方が正しい。
「おおおおおおおおお!」
フェアリーは吼えながら自分の背丈より長い大剣を振りかざす。
ドラゴンは両腕をクロスしてその一撃を受け止めた。
大剣の一撃はドラゴンの足下に亀裂を走らせるほどに強力だが、やはり敵の鱗は抜けない。
渾身の力を込めた一撃はついに弾かれ、同時に腹に蹴りを叩き込まれた。
「ぐっ!」
また何件かの建物を貫通し、大通りまで吹き飛ばされた。
そのど真ん中で何とか受け身を取った。
しかしドラゴンがすでにフェアリーに肉薄していた!
「!」
凶悪な爪がフェアリーに向かって振り下ろされる!
もう防御も間に合わない!
直撃だ!
「フェアリィイイイイイーッ!」
目を瞑った瞬間に聞こえた声。
熱風が巻き起こり、振り下ろされたドラゴンの爪が腕ごと斬り飛ばされた!
「なっ!?」
目を開けて事態を見たフェアリーは、限界まで目を開くハメになる。
フェアリーの目前に現れたのは、赤いツインテールと黒い鎧を身に纏ったリズだった。
赤い刃の大剣を煌めかせ、腕を斬られたドラゴンは驚き後退した。
当のリズはそんなドラゴンを見据えつつ、フェアリーに背を向けたまま語る。
「お待たせフェアリー! あとはアタシに任せて!」
「リ、リズ!? あなた、その格好は!?」
「サラマンダー様に力を貰ったの。本当はサラマンダー様に戦ってほしかったんだけどね」
力を貰った!?
まさか!
【精霊の力】をリズに!?
なんて愚かなことをサラマンダー様!
「さぁ! 覚悟しなさいよあんた!【ブレード・イグニション】!」
唱えると赤い刃の大剣に真紅のオーラが走り、解き放たれるように炎が点火!
リズの魔力を帯びて紅の輝きを放ち始める。
「はああああああああああああっ!」
リズが雄々しく吼えた。
その踏み込みは人間時とは比べ物にならないほど別物と化しており、あまりに強く、あまりに鋭い加速だった。
一歩一歩が地面を爆ぜらせ、後退したドラゴンとの距離を一瞬にして詰める。
ドラゴンは残った片腕でリズを迎撃しようとするが、それを紙一重で躱し、燃え盛る大剣を振った。
あれだけ無敵の防御を誇っていたドラゴンの鱗をあっさり両断し、斬り裂かれた腕が宙を舞い燃える。
「終わりよ!」
リズの突きがドラゴンの腹を貫き、トドメに腹から頭部へと一閃!
切り口が発火し、業火がドラゴンを焼き尽くしていく。
ドラゴンは断末魔にも似た咆哮を上げて、ついに灰となって絶命した。