「サラマンダー様! なぜリズさんに【精霊の力】を与えたんですか! 世界樹さまの掟を忘れたのですか!」
朝から早々に怒鳴るフェアリーにサラマンダーはやれやれと見えない溜め息を吐いた。
【炎の神殿】には何人かの礼拝者たちがすでにおり、みんな怒っているフェアリーに何事かと視線を向けている。
『忘れてねぇよ。しょうがねぇだろ? ああでもしなきゃお前死んでたんだぜ?』
「【憑依】を使えば勝てましたよ!」
『その代わりお前が死ぬじゃねぇか』
「妖精がドラゴンと戦って死ぬなんて当たり前じゃないですか!」
『んなこたぁわかってるよ』
「だったらなんでリズさんにあんな過剰な力を! 人間は力を得たら何をしでかすか分からない生き物ですよ!」
『あの子なら大丈夫さ。お前のために泣けるような人間だぜ?』
そのサラマンダーの言葉に、フェアリーはピクリと止まった。
「……私のために、泣ける?」
『おお。なんでもお前に報いてあげたいとか、ありがとうってもっと言ってあげたいとか、美味しい物ももっと食べさせてあげたいとか言ってたぜ?』
「リズさんが、そんなことを……?」
『ああ。あんなこと面と向かって泣きながら言われたらなぁ……信じてやってもいいかなって思っちまったんだよ』
「で……ですが……」
『そもそもの話。地球にドラゴンが侵入してる時点でお前らフェアリーの失態だろうが。それの尻拭いをしてやったんだ。お前らがつべこべ言える立場かよ? んん?』
「そ、それは……」
言い返せなくなったフェアリーはダラダラと冷や汗を流した。
「サラマンダー様あああああああああ!」
遠くから凄まじい速度で走って来たのはナイトルージュ姿のリズだった。
やれやれ、朝から千客万来だなとサラマンダーは思った。
【精霊の力】の件で感謝でも言いに来たのかもしれない。
律儀な子だなと思うと、しかしリズの形相は完全に怒だった。
なんだなんだ!? めっちゃ怒ってるぞ?
フェアリーと言い、リズと言い、朝っぱらから怒りすぎだろコイツら。
「サラマンダー様! なんですかこのナイトルージュの鎧のデザインは!」
『あ? 鎧のデザイン?』
「これですよ! 今着てるコレ! なんでこんな胸元ぱっくり開いてるんですか!? 下半身もなんでこんなパンツ丸出しみたいな感じなんですか!? 変えてくださいよ!」
『パンツ丸出し? なんだパンツって?』
精霊たるサラマンダーが人間の下着に詳しいはずもない。
「え!? ええっと、下着の事です! 人間は服の下にパンツとかを履いてるんですよ!」
『知らねーよそんなもん』
「ああんもぅ! なんでもいいからデザイン変えてください! こんな格好で戦いたくありません!」
『もう変えられねぇよ。だいたいデザインしたのは俺じゃねぇし』
「え?」
『譲渡した【精霊の力】がお前に合わせて鎧を形成したんだ。動きやすいだろ?』
「そりゃ動きやすいですけど……」
『何が不満なんだよ。カッコいいじゃねぇかその鎧』
「どこがですか! こんなもん着てるだけで恥ずかしいですよ!」
『な、なにィ!? 精霊の鎧だぞ! むしろ誇らしいだろ!』
「誇らしくないですよ! ねぇフェアリー! あんたからも何か言ってよ!」
「そんなことはどうでもいいです」
「ど……!?」
「いいですかリズさん。あなたは【精霊の力】を手に入れてしまいました。あなたにはその力を制御する責任があります」
「え? あ、うん……」
「闇雲に振るって良い力ではありません。本当に必要な時にだけその力を使うように」
「わかってるわよ」
「あなたがその力に溺れて暴走しないか、私が見張ります。覚悟するように」
「どうせ一緒にいるじゃない。それよりこの鎧のデザインはフェアリー的にはどう?」
力の責任うんぬんより鎧のデザインの話をするリズに、フェアリーは面倒くさそうに顔を顰めた。
「……そんなことどうでもいいでしょう?」
「どうでも良くない! 答えてくれないなら美味しい物食べさせてあげないからね!」
「……っ。その鎧ですか……良いと思いますけどね」
「あんたまでそんなこと言う……どこが良いのよこれ……」
「太もも?」
「またどこ見てんのよ! おっさんか!」