フォルカ団長に最後の薬を渡された時、リズはどうして見ず知らずの自分にここまでしてくれるのかと聞いた。
彼は迷わずこう言った。
『それが私の役目だからだよ』
その単純さと優しさ。
分けてもらった他者の情愛。
それに身も心も救われたリズは……
「……それでも、いつも思うんです」
涙を拭ったリズが、同じく涙を拭うイルセラに言う。
「アタシに薬を使わず、フォルカ団長に使っていれば、フォルカ団長はもっと多くの人を救えたんじゃないかって……」
「それは間違いないですね」
「フェアリーッ!」
突き刺すような怒声を発したのはイルセラだった。
急に怒鳴られたフェアリーは驚き硬直する。
「す、すみません……」
失言だったと気づいたらしいフェアリーは素直に謝った。
イルセラはリズに視線を戻して口を開く。
「フォルカがあなたを見捨てるなんて有り得ないわ。あの人は子供が好きだったから」
「そう、だったんですか……」
「それにあなたが疫病で死んでいたら、エタンセルは昨日の時点で終わっていたかもしれないわ。フォルカの選択は間違ってなかったのよ。……そうでしょ? フェアリー」
言葉で小突かれたフェアリーは砂を噛むような顔で「そう、ですね」と返した。
そんなフェアリーを見たリズは、何故かフォルカ団長と姿が重なって見えた。
自分の役目を全うするという意味ではフォルカ団長とフェアリーはよく似ている。
「フェアリー。あなたはもう少し言葉選びを気をつけなさい。いらぬ敵を作るわよ」
「……」
「聞いてるの!?」
「き、聞いてます! 気をつけます……」
数億年も生きているはずのフェアリーだが、この時の横顔は親に叱られて不貞腐れた子供のようだった。
「ならいいわ。それと……リズ」
「はい」
「あなたの志願理由はよく分かったわ。これから末永くよろしくね」
「……っ! はい! よろしくお願いします! 末永くコキ使ってください!」
「ふふ……あ、そうだった忘れるところだったわ。フェアリー」
イルセラに呼ばれたフェアリーはビクッとする。
「こ、今度はなんですか?」
「ドラゴンについて聞きたいのよ。もうドラゴンは現れないの?」
「ええ。もう大丈夫です。さすがにそう何度もドラゴンの侵入を許したりはしませんよ」
自信満々に言うフェアリーに、イルセラは怪訝な顔をする。
「ならいいけど……そもそもドラゴンは何が目的で地球に入って来るの?」
「繁殖です」
「「繁殖?」」
リズとイルセラが同時に首を傾げた。
フェアリーは二人を交互に見ながら続ける。
「奴らにとって地球に生きる生命体全てが餌なんです。特に人間はその最たるもので、ドラゴンにとっては栄養満点の餌なんですよ。繁殖には栄養が必要なので」
「なるほど……やってることはそのへんの動物と変わらないのね」
納得するイルセラにフェアリーは頷く。
「そうですね。他の動物より厄介な点は宇宙に無数にいて根絶やしにできないことです。奴らは本当に宇宙の至る所にいますから」
「……もう来ないなら【グランドクリフ】や【アクアヴェール】に報せなくても良さそうだけど。いや、待って?」
何かに気づいたらしいイルセラが、少し顔を険しくした。
「ねぇフェアリー。ドラゴンは空から降ってくるのよね?」
「ええ」
「その空から降ってくるドラゴンは、角度によっては流れ星のように見えたりするの?」
「しますね。奴らは降下する際は大気圏で全身が赤熱して光ってますから」
たいきけん?
フェアリーの謎の単語にリズは首を傾げる。
イルセラもそのへんは理解してなさそうだったが、それよりも重大なことに気づいたらしい。
「赤熱っ! ……一昨日の夜に流れ星を見たわ。あれは……大丈夫なのかしら?」
「!」
フェアリーも思い当たる節があるらしく、急に顔色を変え始めた。
リズだけが流れ星を見ていないので分からない。
「それ……私も見ました」っと緊張を見せるフェアリーに、イルセラも嫌な汗を垂らす。
「ほぼ同じタイミングでドラゴンが落ちてきていた……なんて偶然、あるのかしら?」
「否定はできません。タイミング的にも不安があります。確認してきましょう。方角は覚えています。行きますよリズさん」
一方的に言い放ってフェアリーは部屋の扉に手を掛けた。
それを見兼ねたリズが慌てる。
「ちょ、ちょっとフェアリー! 今から行くつもり!? もう夜なのよ?」
「関係ありません。もし流れ星がドラゴンだったら一刻を争います。もしかしたらもう手遅れかもしれないんですよ?」
「ぅ……わ、わかったわよ……」
さすがに人命が掛かっている以上、嫌とは言えなかった。
イルセラに見送られ、リズとフェアリーは夜中にエタンセルの大都市を後にする。