世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第29話【流れ星】

 フクロウの鳴き声が聞こえる時刻。

 こんな時間に街道を歩く人間は普通いない。

 ただフェアリーの駆け抜ける足音だけが夜空に響いている。

 

 リズはまたお姫様抱っこされてフェアリーに運ばれていた。

 凄まじい速度で夜景が流れていく。

 早急に流れ星を確認するためにフェアリーはひたすら走り続けた。

 

「ねぇフェアリー。どこに向かってるの?」

 

「流れ星が落ちて行った先です。宿の窓から見た時はこの方角でした」

 

「エタンセルから北……ならこの先に【港町レザーフ】があるわ。そこに行ってみましょう」

 

「どこにあるんですかそれは?」

 

「このまま街道に沿って真っ直ぐ」

 

「了解です」

 

 フェアリーはまた速度を上げた。

 尋常ならぬ脚力で石で舗装された街道を駆け抜けていく。

 このスピードならあと数分でレザーフに着くだろう。

 本来は半日くらい掛かる距離なのだが。

 

「ねぇフェアリー。運んでもらうの悪いし、アタシも走るわ。ナイトルージュになればあんたと同じ速度で走れるし」

 

「ダメです。あなたはまだ【精霊の力】に慣れていません。ナイトルージュになったとしても長くは保たないでしょう。しかし現状、ドラゴンを倒せる火力を持っているのはあなただけです。ならばこんな移動で消耗してはいけません」

 

「は、はい……」

 

 凄い早口で言われ、リズは押し黙るしかなかった。

 

 それから数分後【港町レザーフ】に着いた。

 町は静かで滅んでもなければ火の手が上がっているわけでもなかった。

 ひとまずは安堵したリズとフェアリーは、町の中へと足を踏み入れていく。

 

 深夜の港町レザーフは、まるで時間が止まったかのような静けさだった。

 

 おそらく昼間は活気があるのだろうが、今は対照的に静寂に包まれている。

 月明かりが海面に優しく反射し、銀色の波が静かに揺れているのが見える。

 

 港の桟橋には数隻の漁船が揺らめき、遠くから聞こえる波の音が心地よいリズムを奏でている。

 街灯がぼんやりと灯り、石畳の道を淡い光で照らしている。

 

「静かですね」

 

「そりゃそうよ。こんな時間だもん。起きてるのなんて港の漁師さんくらいじゃない?」

 

「ではそこへ行って漁師さんとやらに話を聞いてみましょう。何か情報を得られるかもしれません」

 

「えー……そこまでやるの?」

 

「取り越し苦労なら大いに結構なんです。ドラゴンではなく本当にただの流れ星だったのならそれで良し。ほら、行きますよ」

 

「あぁ……眠い……」

 

 いつもならとっくに寝ている深夜だ。

 リズが睡魔に襲われるのも仕方のないことだった。

 

 

 港には力強い体つきをしたムキムキの漁師たちが一心不乱に作業を続けていた。

 彼らの筋肉が月明かりを受けて浮かび上がり、まるで彫刻のように美しいシルエットを描いている。

 

 漁師たちは網を引き上げたり、捕れた魚を選別したりと忙しく動き回っている。彼らの腕に光る汗がキラリと輝き、夜の静けさに包まれた港なのに活気で満ちていた。

 

 凄い……みんな寝ている時間なのに仕事してる。

 

 リズは内心でそう驚かずにはいられなかった。

 大きな漁船が波間に揺れ、漁師たちの掛け声と作業の音が夜の静寂を破る。

 その掛け声は力強く、仲間同士の結束を感じさせ、漁師たちの手際の良さと熟練の技が光り、見ているだけでも目が覚めた。

 

 しかしいつまでも見惚れているわけにはいかない、とリズはフェアリーと共にムキムキな漁師さんに話しかけた。

 

「こんばんわ〜」

 

「おお、おはようさん」

 

 え?

 おはようさん?

 深夜帯だと挨拶は朝のものになるのか。

 知らなかった。

 

 挨拶に驚くリズだが、漁師さんもこんな時間に女二人で港を歩いているリズとフェアリーに目を丸くしていた。

 しかし漁師はリズの格好を見て気づく。

 

「んん? その格好……騎士さんか? こんな時間にどうしたんだい?」

 

「お仕事中にすみません。実はお尋ねしたいことがありまして、最近この辺で流れ星を見ませんでしたか?」

 

「流れ星?」

 

 はて? と言った感じに首を傾げた漁師さんは、港の奥で働く他の従業員たちに声をかけた。

 

「おーい! 誰か最近流れ星見たやついるかー?」

 

「自分見ました」

「オレも見たぜ」

「一昨日の夜に見た」

「おれもー」

 

「みんな見たってよ。ついでに言うと俺も見たぞ」

 

「「見たんかい!」」

 

 リズとフェアリーが同時にツッコんだ。

 なぜさっき首を傾げたのか!

 

「……あの、どこに落ちたかとか分かりますか?」

 

 漁師さんのノリに困惑しつつフェアリーが聞いた。

 

「おお、落ちたかどうかは分かんねーけど、海の方角に流れてったなぁ」

 

「海の方角、ですか……だとしたら厄介ですね」

 

 険しい顔で顎を撫でるフェアリーに、隣のリズが「なんで?」と反応した。

 

「海に落ちたら溺れて勝手に自滅するんじゃないの?」

 

「いいえ。ドラゴンは環境に適応する能力を持っています。海に落ちてもすぐ水中に適応した形態になるんですよ」

 

「なにそれズルい!」

 

「そもそも宇宙を泳ぐような奴らです。水中なんてどうってことないでしょう。ただ……」

 

「ただ?」

 

「私、水中は……いえ、なんでもありません」

 

「?」

 

「コホン……とりあえずその流れ星が落ちた現場へ向かいたいのですが、どうすればいいですか?」

 

 咳払いで間を取り繕って聞くと、漁師さんは頭を掻きながら応じる。

 

「船に乗りたいってことか? だったら早朝になるぜ」

 

「そ、そんな! 一刻を争うんです! なんとかなりませんか?」

 

「いやそう言われてもなぁ。船乗りの連中はもう就寝してるしよ。俺たちもセリやら仕事があるからよ」

 

「そんなこと言ってる場合ですか! 流れ星がドラゴンだったらどうするんです!」

 

「ド、ドラゴン?」

 

 鬼気迫るフェアリーに気圧される漁師さんを見兼ねてリズが割って入った。

 

「こらフェアリー! 漁師さんに無理言わないの! 早朝って言ってるんだからそれまで待ちなさい!」

 

「あなたは寝たいだけでしょう! さっきから欠伸ばっかりして!」

 

「な! 違うわよ! 漁師さんの仕事の邪魔してまで強行するなって言ってんの!」

 

「ドラゴンの恐ろしさはあなたも知ってるはずです! 海に落ちたのなら早急に倒さないと、その海の生命体全てが根絶やしにされるんですよ! 奴らにとっては全てが餌なんですから!」

 

「誰もドラゴンを放置するなんて言ってないでしょ? 船が出るまで少し待てってだけじゃない」

 

「その待ってる間にどれだけの被害が出ると思ってるんですか! あなたは!」

 

「だから今はどうしようもないって言ってるでしょう!」

 

 いつかの時のように口論になりヒートアップしていくと、慌てた漁師さんが二人の間に入った。

 

「おいおいケンカしないでくれ嬢ちゃんたち!」

 

「あ、す、すみませんお騒がせして……」

 

 リズは謝るが、フェアリーはむしろ漁師さんを睨んでいた。

 

「何か事情があるんだろうけどよ。こればっかりはどうしようもねぇ。我慢してくれねぇか姉ちゃん?」

 

 そんなフェアリーの眼光に怯まず、漁師さんは冷静な声で宥めてくる。

 

「……どうしてもダメなのですか?」

 

「すまねぇな。できるだけ早く船を出してもらうからよ。それで勘弁してくれや。な?」

 

「……あなたでは話にならないみたいですね。他の人間に話してみます」

 

「ええ!?」

 

「ちょっとフェアリー! あんたいい加減にしなさいよ!」

 

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