世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第30話【2体目】

 

「ちょっとフェアリー! あんたいい加減にしなさいよ!」

 

 しかしリズの静止も聞かず、フェアリーは奥にいる作業員たちに声を掛けた。

 

「誰でもいいです。船を出せる方は今すぐ出してください。ドラゴンは待ってはくれません。繁殖されたらそれこそ手に負えなくなります」

 

「な、なんだコイツいきなり……」

「ドラゴンってなんだい?」

 

「ドラゴンとはこの空より遥か上に生息する化物の事です。ヤツはなんでも捕食します。放っておけば地球上の生命体は根絶やしにさせられるでしょう」

 

 フェアリーが言い終えると、ほんの一瞬だけ沈黙してから漁師たちがこぞって大爆笑をし始めた。

 

「「「ぎゃっはっはっはっはっは!」」」

 

「な、何が可笑しいんですか!」

 

「ソイツは大きいのかい?」

 

「大きいですよ!」

 

「鋭い牙とか持ってるぅ?」

 

「持ってますよ! 船を出してください!」

 

 笑われ怒るフェアリーに、先程の漁師さんが腕を組んでやってきた。

 顔は呆れ返っている。

 

「おい姉ちゃん。妄想なら余所でやってくれや」

 

「妄想!?」

 

「こっちは仕事中だ。姉ちゃんの遊びに付き合ってる暇はねぇ。帰んな」

 

 

「何なんですかアイツらは! ドラゴンの事を説明したのに何で笑ってられるんですか!」

 

 港町レザーフの通りを、フェアリーは苦情が来そうなレベルで喚く。

 近所迷惑この上ない。

 

「落ち着きなさいよ。あれが普通の反応よ。ドラゴンなんて見るまでアタシも信じられなかったもん」

 

「あなたも口添えしてくれれば信じてもらえたかもしれないのに、なんで黙ってたんですか!」

 

「無理だからよ。アタシが口添えしたところで信じてもらえなかったわ。大人しく船を待つしかなかったのよ」

 

「エタンセルの状況を教えれば信じてくれましたよ!」

 

「だから無理だって。アタシとあんたじゃ発言力がなさ過ぎるのよ。今すぐ信じてもらうのはどうやっても無理だわ。もっと情報が回ってからじゃないと……」

 

「……ぁあもう! 人間ってヤツは本当に……っ! こっちが助けてあげようとしてるのにこれだ!」

 

「わかったからもう休みましょう。戦うのはアタシたちなんだから。寝不足でヘロヘロだなんて笑えないわ」

 

 言いながらリズは通りの途中で見つけたベンチで横になった。

 こんな時間に開いている宿屋はない。

 朝まで船には乗れない。

 

 もう野宿しか選択肢がなかった。

 まさか騎士の身分になってまで野宿するとは思わなかったが。

 だいたいフェアリーのせいな気がする。

 

「アイツらがドラゴンに襲われても守りませんからね。私は」

 

「はいはい……ならアタシが代わりに守るから……おやすみ」

 

「ふん……」

 

 フェアリーはもう一つのベンチに座って腕を組んで空を見上げていた。

 顔はもうカンカンで強張っている。

 どうしようもないのだから、もっと肩の力を抜けばいいのに。

 

 

 朝日が昇り始め、港は光に照らされ始めた。

 作業を終えた漁師たちはエールを片手に朝食を取りながら雑談を楽しんでいる。

 

「しかし残念美人だったなぁ……」

 

「あぁ、あの銀髪の娘か? 確かにスゲェ美人ではあったな。妄想語りさえなければ」

 

「そーそー、ドラゴンだっけ? みんなを根絶やしにしてくるとかなんとか」

 

「この空より上にいる化物なんだろ? はっは。そんなのが実在するなら見てみてぇもんだ」  

 

 みんなで「ちげぇねぇ」と大笑いしていると、それを掻き消すほどの轟音が海から響いた。

 

「なんだ!?」

 

 突然の事に戸惑いながらも立ち上がり、音の方を見る。

 静寂を破ったのは船が轟沈する音だった。

 

「船が沈んだぞ!」

 

 一人の漁師が叫んだ。

 大きさ20メートル幅7メートルの船が真っ二つにされて沈んでいく。

 さらに轟音が響き、別の船が粉砕した!

 

「な、何が起きてんだ!?」

「分かりません! うわっ!」

 

 今度は漁師達の近くにあった船が何者かによって持ち上げられた。

 

「え……」

 

 船底の下には、青い鱗に覆われた赤い瞳の化物がいた!

 その大きさは船と大差なく巨大だった。

 

「ひっ!」

「な、な……!?」

 

 漁師たちはいきなりの出来事に脳がパニックを起こして腰が抜けた。

 

 鋭い視線は一瞬で周囲を見渡し、何者も逃れられないかのような圧倒的な存在感を放っている。

 船を優に持ち上げる上半身は強靭な筋肉と鱗で覆われていた。

 

「な、なんだこの化物!?」

 

 漁師の悲鳴に反応したドラゴンは一瞬睨み、即座に船を投げ飛ばしてきた。

 

「「「うわああああああああああああ!」」」

 

 20メートルもの船が漁師たちに迫りくる!

 腰が抜けて立てない漁師たちは悲鳴を上げるしかできなかった。

 もうダメだとみんなが諦めかけたその時、一人の影が飛び出してきた!

 

 ドンッ!

 

 その影は蹴り一発で船を跳ね返し、ドラゴンの顔面にブチ当てた。

 

「へ!?」

 

 何が起こったか分からない漁師たちは現れた影を見る。

 そいつはあの時の……銀髪の残念美人!

 

「ふん……そっちから来てくれるとは好都合だ!」

 

 

 まるで男のような口調で言い放つ残念美人に、漁師たちは尻餅をついたまま呆然とした。

 

 な、なんだ!?

 いまコイツ……船を蹴り飛ばしてなかったか!?

 20メートルもある漁船だぞ!?

 

 漁師たちが驚いている間に海の化物が怒りの大咆哮を放った。

 

「ひぃいいいっ!」

 

 意識が飛びかけるほどの殺気を浴びせられ、漁師たちはすくみ上がる。

 銀髪美人は地面を踏み砕き、浮き出た破片を蹴り飛ばす。

 海の化物はそれを水中に潜って避けた。

 

 舌打ちする銀髪美人。

 その隣にもう一人の少女が駆けつけてきた。

 

「おまたせフェアリー!」

 

 漁師たちが情けなく縮こまっている中、堂々とした佇まいで現れた少女。

 赤いツインテールに赤黒の鎧を身に纏っており、片手には赤い刃の大剣を握っている。

 

 今度はなんだ!?

 なんかカッコいい女騎士が現れたぞ!?

 

「ここはアタシたちが食い止めます! みなさんは避難してください!」

 

「い、いや、そんなこと言ってもよ、腰が抜けて立て――」

 

 漁師が言い終える前に、水面が爆発するように飛沫を上げた。

 

 水面から海の化物が姿を現し、空へ大きく跳躍した。

 青い鱗は虹色に輝き、鋭い牙が陽に照らされて光る。

 化物の下半身は魚のようになっており、その形状がこれほどの跳躍を可能にしていることがわかった。

 

 空中に出た化物は口を開け水玉を発射!

 それは先程の船と同じほどの大きさだった。

 漁師たちは水玉の影に覆われて目が飛び出る。

 

「うわあああああああああ! なんじゃこりゃあああああああああああああ!」

 

 ドッパァンと港に水玉が直撃して弾け飛んだ。

 港を形成する石はごっそり抉られ、周囲に停められていた船は巻き込まれて沈没する。

 

 その場にいた漁師たちは二人の少女によって助けられており、港から少し離れた場所へ移動した。

 

 女騎士の方は二人の漁師を優しく地面に置いたが、銀髪美人の方は二人の漁師を雑に投げ捨てた。

 

「うげっ!」

「うごっ!」

 

「港に近づくなよ? 邪魔だ」

 

 また男のような口調で指差してきた銀髪美人に漁師たちは冷や汗ダラダラになりながら何度も頷いた。

 

 女騎士と銀髪美人はすぐに港に戻って行き、それを見送った漁師たちは顔を見合わせた。

 みんな心臓がバクついている。

 

 信じられない体験をさせられた。

 凄まじい身体能力を持つ女の子二人。

 そして海の化物。

 

「な、なんだったんだありゃあ……」

「あの化物……あれが言ってたドラゴンってヤツか!?」

「あの子が言ってたのは、本当だったのかよ……」

 

 

 海のドラゴンはリズとフェアリーを探すように港を爪で斬り裂いていた。

 港の原型がなくなっていく中、リズとフェアリーが再度ドラゴンの前に現れた。

 ドラゴンは怒りの咆哮を上げ、再び水中へと潜る。

 

「また潜った!」

 

 リズが言うとフェアリーが空を指差す。

 

「またあの水ブレスが来る! 空中に出たところを狙え! 遠距離攻撃は!?」

 

「あるわ!【ブレード・イグニション】!」

 

 赤い大剣が轟と燃え上がりリズは構えた。

 ドラゴンが再び水面に現れた瞬間!

 

「【レッドウィング】!」

 

 大剣を振り抜き、業火の刃が翼の如く撃ち放たれた。

 燃え盛る飛ぶ斬撃は、しかしドラゴンの腕から繰り出された水の飛沫によって掻き消された。

 

「ウソでしょ!?」

 

 仕留め損ねたドラゴンはその巨大な尾で水を叩き、津波を発生させリズとフェアリーを攻撃する!

 

「うわあああああああ!」

「きゃあああああああ!」

 

 津波に飲まれたリズは近くの建物にぶち当たった。

 引き潮に引っ張られそうになり、慌ててその建物に掴まってふんばる。

 

「げほっ! げほっ! なんてヤツなの……フェアリー! フェアリー?」

 

 津波が収まり、港が姿を現したが、そこにフェアリーの姿はなかった。

 

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