リズとフェアリーはロザリーヌに雇われ、何とかアクアヴェールへ入国することができた。
門番との問答を終わらせたロザリーヌが戻って来て、馬に跨り手綱を引く。
リズとフェアリーは商品用の荷台に乗せられ、そのままゆっくりと門を潜った。
アクアヴェールは海に面した階段状の大都市だった。
都市の最上部には目的地である【水の神殿】がそびえ立っている。
この神殿はウンディーネという水の精霊が住まう場所だ。
ウンディーネが生み出す水は【清浄なる水】と呼ばれ、いつでも飲めるほどに綺麗な水として有名だ。
神殿から流れ出る【清浄なる水】はいくつもの滝となって都市全体に広がり落ちている。
滝は階段状の都市を縦横に流れ、住民たちの生活を潤すだけでなく、その景観も圧巻だった。
滝の周りには色とりどりの花々や緑豊かな植物が生い茂り、自然と調和した美しい風景が広がっている。
そんな街の大通りを馬の引く荷台で行く。
「ふぅ、一時はどうなるかと思いましたね……」
隣のフェアリーが言った。
リズは「うん。ごめんね」と一言謝ってから手綱を引くロザリーヌを見た。
「ロザリーヌさん。本当にありがとうございます。助かりました」
「いいのよ〜。わたしも売り子のバイトを募集する手間が省けたから」
嬉しそうに言うロザリーヌだが、彼女も相当な美女だ。
わざわざお金を出して売り子を雇わなくても、自分が前に出れば普通に売れそうだが。
「お一人で行商をやっておられるのですか?」
「ええ。女の一人旅は何かと危険が多くてね〜。あなたのような騎士が居てくれると助かるのよ〜。リズさんはイルセラ様の騎士かしら? その赤いマントは【第三大陸】の騎士たちが付けてる物だし」
「その通りです。最近イルセラ様の騎士になったばかりの新人ですが……」
「あらそうなの〜。若いのにしっかりしてるわね〜」
「ロザリーヌさんだってまだまだ若いじゃないですか」
リズが笑いながらそう言うと、ロザリーヌはもっと笑ってきた。
「あら〜ん。わたしってそんなに若く見える? 嬉しいわ〜」
……え?
なに?
今の含みのある言い方……
ロザリーヌさんって、もしかして結構なご年齢なの?
リズはフェアリーに視線をやったが、彼女はこの話題にまったく興味無さそうに街の景色を眺めている。
リズは話題の共有を諦めて視線をロザリーヌに戻して続けた。
「え……ロザリーヌさん……って」
「ふふふ、わたしこう見えてもう孫のいるお婆ちゃんなのよ〜」
「ええええええええええええええ!?」
「昔は自信あったんだけど、さすがにこの歳になると踊り子の服には抵抗があってね〜。いつもこうやって若い女の子を雇ってるのよ〜」
「え、ちょ、ちょっと待ってください! お孫さんがいるって……ロザリーヌさん何歳なんですか!?」
「秘密〜」
リズにウインクして見せるロザリーヌは、どう見ても二十代で可愛く、とても孫のいるお婆ちゃんには見えなかった。
※
売り子だの踊り子だの、よく分からない事をロザリーヌは言っていたが、そーいうのはリズに任せておけばいいだろうとフェアリーは思っていた。
目的はあくまで【水の神殿】にいるウンディーネ様との接触。
ドラゴンがやたらと地球に侵入していることを世界樹さまに伝えるために力を貸してもらうのだ。
「ねぇフェアリー」
隣に座るリズが荷台に揺らされながらこちらの顔を覗き込んできた。
「なんですか?」
「ロザリーヌさん孫がいるんだって。あの見た目で」
「まご? まごってなんですか?」
賑わう大通りの中、フェアリーは聞き返した。
聞いたことがない単語だったからだ。
「あー、孫ってのはあれよ。ロザリーヌさんにはお子さんがいて、そのお子さんにも子供が生まれて、それを孫って言うのよ」
正直フェアリー的には凄くどうでもいい話だったが、また不機嫌になられても困るので相槌は打った。
「なるほど。で、それとロザリーヌさんの見た目と何か関係があるんですか?」
「だってロザリーヌさんあんなに若々しい見た目してるのにお婆ちゃんなのよ? 凄くない? 何歳なのかしら?」
「まぁ、私より年下だと思いますよ?」
「そりゃーそーでしょーよ」
「あらん!? 私より年上なの? 失礼だけど、フェアリーさんはおいくつなの?」
手綱を握るロザリーヌに聞かれ、フェアリーは迷わず答えた。
「さぁ?」
「え? さぁって?」
「数億年なので、細かい年齢はもう正直忘れました」
「数億年? ……あははは。フェアリーさんたら面白い人ね」
ロザリーヌはまったく信じていない様子だったが、フェアリー的には問題ないのでそれまでにした。
別に信じてもらう必要はない。
「ロザリーヌさん。すみませんがまず【水の神殿】に行かせてもらえませんか? 私達はウンディーネ様に会わなければいけないんです」
フェアリーのウンディーネという言葉にロザリーヌは驚いた。
ロザリーヌは手綱を引いているので振り返らず、前を見たまま言葉を返す。
「精霊さまに会うのかい? でも精霊さまは100年に一度しか姿を見せないそうよ? わたしもかれこれ一度も姿を拝んだことがないんよ。会うのは難しいんじゃないかしら……」
「それなら大丈夫ですよ」
言い切ったのはリズだった。
「アタシとフェアリーは精霊さまと会話が出来るんです。だからすぐに姿を見せてくれると思います」
「あらーん……リズさんまで。あんまりお年寄りをからかわないでおくれ」
「嘘じゃないんです。証明しますから【水の神殿】に行きませんか? 3人で」
3人で!? っとフェアリーはギョッとしてリズを見たが無視される。
当のロザリーヌも困ったように苦笑していた。
「ん〜……しょうがないねぇ……まぁ商売は明日からだし、今日はまず【水の神殿】でお祈りをしておこうかね〜」