ようやっと長い階段を登りきり【水の神殿】に着いた。
リズはおんぶしていたロザリーヌを下ろしてナイトルージュの変身を解くと、頭のタンコブを撫でながらフェアリーを睨んだ。
「んもう! こんなに強く殴ることないでしょう!」
「【精霊の力】を遊び半分で使うからです」
「あんたが冷たいからでしょ。少しくらい待ってくれてもいいのに」
口を尖らせるリズに対し、フェアリーは冗談ではない怒り寄りの真顔で詰めてきた。
「いいですかリズさん。【精霊の力】は連続では使えないんですよ?」
「え!?」
「あれは1日1回限りの力です」
「嘘!? あ……本当だ。変身できない……」
「今この瞬間にドラゴンが現れたらどうするんです? 私に次の日まで戦えと言うんですか?」
現状、ドラゴンを倒せる武器を召喚できるのはリズのナイトルージュだけ。
精霊の力で形成された武器だけがドラゴンの装甲を切り裂くことができる。
だからナイトルージュに変身できない今の状況は本当に危険な状態なのだ。
「そ、それは……その……ごめん」
「分かればいいんです。以後、気をつけるように」
踵を返して神殿に向かって歩くフェアリー。
それに続くリズ。
そんな二人の後ろにいるロザリーヌが焦っていた。
「ちょ、ちょっと待って二人とも〜。話についていけないんだけど……二人は何者なの?」
聞かれたフェアリーが溜め息を吐きながら振り返る。
「言っても信じないでしょう? 話しても時間のムダです」
「し、信じる! 今なら信じるから〜」
「では一度しか言いませんからね。私は世界樹の妖精フェアリー。そしてこちらのリズさんはサラマンダー様から力を授かった【精霊の騎士】です」
「はぇ? 二人とも人間じゃないの?」
ロザリーヌの言葉にリズは慌てて補足する。
「あ、アタシは人間ですよ。フェアリーは妖精なんです。今ちょっと世界樹さまに人間にされちゃってますけど……」
そんなリズの説明にもロザリーヌはポカンとしていた。
やはり信じられないようだが、これはもう無理もない。
『おい貴様ああああ!』
「え!?」
鋭い女の声が支柱だらけの神殿から聞こえてきた。
神殿内から礼拝者たちの声が急に騒がしくなり、かと思ったら門がひとりでに開いて水玉が飛び出してきた。
『この感じ! お前が世界樹のフェアリーだな!』
その女の声は、飛び出してきた水玉から発せられていた。
ロザリーヌは目を限界まで見開いて驚愕していたが、リズはすぐに察した。
この水玉はウンディーネだ!
サラマンダーが火球だったから。
「お初にお目にかかりますウンディーネ様」
『挨拶はいい! 貴様らいったい何をしているんだ! サラマンダーから聞いたぞ! ドラゴンが2体も地球に侵入していたそうじゃないか!』
凄まじい怒鳴り声を撒き散らすウンディーネに、フェアリーはギクッとなりながら縮こまる。
「そ、それは……」
『貴様らの目はシーラカンス以下か! むざむざドラゴンを通しおって! たまたま現地にお前が居たから良かったものの! こんな運の良いこと何度も続かんぞ!』
「ぉ、仰るとおりです……申し訳ありません。しかしその2体も討伐済みですので、どうかご安心を」
あのフェアリーがペコペコ頭を下げている。
なんでフェアリーがこんな理不尽なお叱りを受けなければいけないのだろう?
ドラゴンが侵入したのはこのフェアリーのせいじゃないのに。
『当たり前だ! それがお前たちの仕事だろうが! そもそも地球に侵入させるな! 貴様らフェアリーの怠慢で地球を滅ぼすつもりか!』
「そのようなことは! 申し訳ありません!」
あのウンディーネってやつ!
黙って聞いていれば!
思い至ったリズはウンディーネの前に立った。
「あの! 御言葉ですが! このフェアリーは何も悪くありませんよ!」
『む? なんだ貴様は? ワタシの声が聞こえるのか?』
「聞こえます。さっきから聞いていればフェアリーばかりを責めて。他のフェアリーが犯したミスを、このフェアリーは尻拭いしたんですよ? なのになんでこのフェアリーがこんなに言われなければいけないのですか?」
リズは冷静に言ったつもりだったが、それは誰にでも分かるほどに怒りが籠もっていた。
隣のフェアリーは驚き、リズの横顔を見つめる。
『貴様……そうか。貴様がサラマンダーの言っていたリズ・リンドという人間か』