世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

43 / 62
第43話【和解】

 ドラゴン襲撃による被害は建築物の破損が大半で、犠牲者は幸いにもゼロだった。

 

 その後はアクアヴェールの騎士に取り調べをくらい加害者の疑いを掛けられたが、リズの活躍を見ていた住民の言葉により信じてもらえ難を逃れた。

 

 決め手になったのは水底にあったドラゴンの死体だ。

 あれが証拠になり、リズの疑いは晴れた。

 

 騎士たちや領主に礼を言われ、様々な謝礼を受け取ったが、リズにとっての問題はその後だった。

 

「まったく! あなたの頑固さには呆れてモノも言えませんよ!」

 

 夜になったアクアヴェールの大通りでフェアリーの怒声が響いた。

 

 周囲にいる住民たちが驚き、視線を集めてしまい、リズはさらに恥ずかしい思いをしてしまう。

 

「犠牲者が出なかったから良かったものの! これで誰かが死んでいたらどう責任を取るつもりだったんですか!」

 

 フェアリーの言葉にリズは何も言えず、ただ沈黙の中でその痛みを受け入れるしかなかった。

 

「……ごめんなさい」っとリズの声は蚊の鳴くような小さな声だったが。

 

『……もうそのへんでよかろうフェアリー。今回の件は、ワタシが悪かった』

 

 リズを庇うように、水の精霊ウンディーネが静かに前に出てきた。

 周囲の人間たちが今更ウンディーネの存在に気づいて歓喜する。

 当のフェアリーは驚き、ウンディーネを見上げた。

 

「ウンディーネ様……」

 

『なぜサラマンダーがこの小娘に力を授けたか分かった。確かにコイツなら【精霊の力】を悪用したりはせんだろう』

 

「それはそうです。でも今回の件は度が過ぎます。次もこんなことをされたらたまったものではありません。【精霊の騎士】としての自覚を……」

 

『悪いのはワタシだと言った。頼むからもうこれ以上リズを怒るな。コイツを怒れば怒るだけワタシが惨めになる』

 

「! ……は」

 

 ウンディーネの言葉の意味を理解したフェアリーはようやく引き下がった。

 リズからすればウンディーネの言葉こそ意外だったのだが。

 

『リズ・リンド。ワタシは人間が嫌いだ。すぐに水を汚すからな』

 

「アタシもウンディーネ様は嫌いです。二度とフェアリーの命を軽く見ないでください」

 

 またも敵意剥き出しのリズに、フェアリーは溜め息をついた。

 どうしてこう噛みつくのか。

 自分のために言ってくれているのは分かるが、もう少し弁えてほしい。

 

「アタシはフェアリーの事を尊敬してるんです」

 

 そんなリズの不意の言葉にフェアリーとウンディーネは虚を突かれて視線を向けた。

 

「フェアリーも人間が嫌いなんです。でもずっと人間を守って戦ってくれてるんです。何億年もですよ? アタシだったらそんなの無理です」

 

『何億年も? フェアリーお前、そんなに永く生きてるのか?』

 

「……はい。運良く生き延びています」

 

 フェアリー的には運悪くと言いたいが、そこは弁えた。

 おそらくウンディーネはフェアリーよりもずっと年下の存在だ。

 フェアリーが数億年なら、ウンディーネはせいぜい5000年ほどしか生きてないだろう。

 

 彼女ら精霊たちは地球が誕生したその日に生まれるから、地球と同じ年齢になる。

 

「アタシはウンディーネ様のために我慢して戦えなんて言われても絶対に無理です。途中で投げます。だって嫌いだから」

 

『お前な……もう少し歯に衣着せんか』

 

「無理です。……でもそれを何億年もやり続けて来たのがここにいるこのフェアリーなんです」

 

『……』

 

「アタシ達がこうやって喋って生きていられるのも、フェアリー達が己を殺して戦ってくれているおかげなら……『代わりなんていくらでもいる』なんて言葉、絶対に言っちゃいけないと思います」

 

 凛として言い切ったリズのあと、しばらくの沈黙が大通りを支配した。

 関係ない周囲の人間たちもリズの言葉に立ち尽くす。

 

 そして他でもないフェアリーは、そんなリズを胸が締め付けられるような思いで見つめていた。

 

 宇宙に数億もいるフェアリー。

 代わりがいくらでもいるのは事実。

 同じ能力に同じ外見。

 

 そんなのがゾロゾロと居ればウンディーネのような考えになるのは至極当然のこと。

 でもこのリズはそれを良しとしない。

 当のフェアリーには理解し難い思考だったが、どこか救われるような熱が胸の奥に湧いた。

 

 その熱に戸惑いつつ、フェアリーはリズを見つめる。

 

『……感謝を忘れれば、信仰を無くした人間と同じか』

 

 ぼそりと呟いたウンディーネは、すぐにリズに言う。

 

『善処しよう。リズ・リンド』

 

 そう言ったウンディーネは空へと浮上していく。

 

『……お前は嫌いだが、その真っ直ぐなところは嫌いではないぞ』

 

 それだけ言い残してウンディーネの水玉は消えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。