世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第50話【ビンタ百裂拳】

 広大な武闘大会用に設けられた豪華なコロシアム。

 

 周囲の観客席は凄まじい熱気で今か今かと大会の開催を待っている。

 

 しかしトーナメント表はがらんとしたまま。

 記入されている名前は三将軍だけ。

 武闘大会が始まるはずの時間なのに、しかし参加者は一人も現れなかったのだ。

 

「参加者ゼロ人だと? どうなっておるのだ。我々に打ち勝とうとする者は一人もおらんのか? 軟弱者どもめ……」

 

 吐き捨てたのは一人目の将軍【破壊の徒手タスティエラ】。

 金髪のオールバックで厳つい顔と大柄な体躯を持つその将軍は、無念の表情を浮かべていた。

 

「この盛大な舞台を無駄にするとは…我が国の兵士たちは何をしているのか」と深いため息をつく。

 

「情けねぇ。自分を磨いて夢も追えねぇのかよ。雑魚どもが」

 

 二人目の将軍は【斬り捨てアシュラム】。

 若くして名を馳せた剣の達人。

 彼はイライラとした様子で、腕を組んで足踏みを繰り返している。

 

「こんなことは初めてだぜ。他所から来る連中も、うちの兵士たちも、昔の心意気はどこに行ったんだぁ? この大会は奴らのためにもあるはずなのによぉ」

 

「だから前から言ってるでしょう? 我々が強すぎるからだと。我々はもう参加するべきではなかったのだ」

 

 三人目の将軍は【風花のジオグリス】。

 冷静沈着な戦略家だ。そんな彼にアシュラムは睨む。

 

「あぁ? 俺達と戦えること自体が名誉だろうが」

 

「それはもう昔の話だ。毎年毎年我々の誰かがしか勝たん。これでは楽しい祭りが盛り上がるものか」

 

 ジオグリスが言うと、タスティエラが口を挟んてくる。

 

「まるで我々が悪いと言いたそうだなジオグリス? 年々弱くなる参加者どものせいだとは思わんのか?」

 

「タスティエラ卿。あれを見ろ」

 

 ジオグリスが指を差したその先はノームが現れる専用の台座があった。

 いつもならあそこに土の塊が浮遊して、この大会を楽しんで眺めているのだが、今年は姿を見せていない。

 

「いつもならいるノーム様が今年はお見えになられていない。おそらくノーム様もつまらなかったんだろう」

 

「仮にそうだとしても、俺達のせいじゃねぇよ」

 

 痺れを切らしたようにアシュラムがコロシアムのステージに上がり、その中央に立って観客席に剣を向けた。

 

「よぉよぉへっぴり腰の諸君! 見ての通りお前らがあまりに雑魚で臆病者すぎて大会が腐っちまった! どうしてくれる! ぁあ?」

 

 言われた観客席のギャラリー達がざわめき戸惑っている。

 あのバカ……とジオグリスは頭を抱えた。

 

「誰かいねぇのかよ! おい! 俺達を打ち破ろうって骨のあるヤツァよ! こんなつまらねぇ大会にしてくれてんじゃねぇよ! 見ろあの台座を! いつもなら来るノームが現れねぇ! お前らのせいだぞ! ノームが現れねぇのは!」

 

 

 

「違います。ノーム様が現れないのはあなた方のせいです」

 

 

 

 突如響いた女の声にコロシアムにいる全員が驚いた。

 

「誰だ今言ったのは! 出て来やがれ!」

 

「後ろにいますが?」

 

「うおっ!?」

 

 アシュラムの背後に見知らぬ女が立っていた。

 銀髪の黒いドレスを身に纏ったその女性は、今まで見たどの女性よりも美しく可憐だった。

 

 そのあまりの美しさに目を奪われたジオグリスは、しかしハッと我に返って思考を巡らせる。

 

 この女、いつの間にステージの中央に!?

 アシュラムがあんなにあっさり背後を取られた!?

 

 いや、そもそもここには我々三将軍全員がいたのに、彼女の接近にまったく気づかなかった?

 誰一人として?

 そんなバカな!?

 

「な、なんだテメェは! どこから現れやがった!」

 

「フェアリーと申します。どこからと言われると正面の入口からです」

 

「嘘つけ! だったら気づくわ!」

 

「そんなことよりさっさと武闘大会とやらを始めてくれませんか?」

 

「は? お前、参加者なのか?」

 

「不本意ながら」っとフェアリーが本当に面倒くさそうな顔をして言っている。

 

 アシュラムを前にして、彼の圧にまったく動じていない。

 何者だこのフェアリーという女は?

 服装からして闘士には見えないが……

 

 ジオグリスがそう思考していると、アシュラムが腹を抱えて笑い出した。

 

「おいおいマジかよ! やっと現れた一人目の挑戦者がこんな細っこい女かよ! お前……そんな細腕で武器持てんのか?」

 

「武器を持つとうっかりあなた方を殺めてしまうかもしれませんので、素手でいきます。リズに良い攻撃方法を教わったので」

 

「素手だぁ? おいテメェふざけてんのか! 舐めた態度しやがって! この俺を誰だと思ってやがる! 殺す気で来ねぇとブチ殺すぞコラ!」

 

「よく喋りますね」

 

「んだとコラ!」

 

「やめないかアシュラム!」っとジオグリス。

 

「うるせぇ! おい審判! もう始めるぞ! 俺ぁコイツと勝負する!」

 

 ステージの奥に突っ立っていた審判がアシュラムに言われ、困ったようにジオグリスを見てきた。

 ジオグリスは小さく溜め息を吐いてから頷く。

 それを見た審判は手を挙げた。

 

「それでは第一試合を始めます!」

 

 すると待っていたかのように観客席から大喝采が起こった。

 両者が位置に付くと、アシュラムが剣を構えて口を開く。

 

「女だからって手加減してもらえると思うなよ?」

 

「無用です」

 

 互いに一言終えると、審判が叫ぶ。

 

「両者構え! ……始め!」

 

「ぶっっっひゃえあっ!」

 

 開始と共にアシュラムがブッ飛んだ!

 ジオグリス・タスティエラ・観客たち全員が「は?」となる。

 

 バタンと倒れたアシュラムは白眼を剥いており、その顔はハムスターのように頬が赤く腫れて膨れ上がっていた。

 

 キンと不思議な音を立ててアシュラムの横に現れたフェアリーはゆっくりと片手を振り払って、そして呟いた。

 

「リズ直伝……【ビンタ百裂拳】」

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