観客席は一瞬の静寂に包まれた。
誰もが目の前で何が起こったのか理解できずにざわめく。
「な、何が起こったんだ!?」
「アシュラム様が倒れてる!?」
「ほ、ほっぺが凄いことに!」
ジオグリスとタスティエラも同じで、あまりにも呆気なく終わった戦闘に現実味が無く、口を開けてポカンとしてしまっていた。
審判も驚きを隠せず、数秒間立ち尽くしていたが、ようやく我に返り、大声で宣言する。
「しょ、勝者、フェアリー!」
その宣言にようやく観客たちが状況を理解して拍手を起こした。
当のフェアリーはなんてことはないと髪を撫でている。
アシュラムはまだ白眼を剥いたまま、医療班に運ばれていった。
その姿を見た観客たちはますます興奮し、次の試合に対する期待に胸を膨らませ始めた。
「……見えたか? ジオグリス」
「まったく見えませんでした」
タスティエラの問いに即答するジオグリス。
「私もだ。何者だ? あのフェアリーという女は……」
「わかりません。ですが……」
ジオグリスはフェアリーを見据えた。
まともな男性ならば誰もが虜になりそうなほど美しい女だが、彼女の全身からはとんでもない量の覇気を感じた。
フェアリーから滲み出るオーラはアシュラムやタスティエラの比じゃない。
彼女のオーラは山のように大きな炎だ。
それに比べ我々のオーラは蝋燭の火も同然の小ささである。
大陸最強と謳われた我々が、まるで小さい。
なんなのだ? この女は……
これほどの闘士が、なぜ今の今まで無名だった?
そんなことを考えていると、ステージに立つフェアリーがタスティエラとジオグリスを見てきた。
「あの、早くしてもらえますか? 二人同時でも構いませんので」
三将軍の二角を同時に、だと!?
舐められている。
だが、舐められても仕方がないほどの実力差を感じる。
ダメだコイツは。
アシュラムとタスティエラと三人で掛かっても勝てる気がしない。
何故ならこのフェアリーという女は、まだ本気を出していないように見えたからだ。
先ほどフェアリーは武器を使うとうっかり殺してしまうかもと言っていた。
つまり彼女は武器を扱う技術を持っているということになる。
なのに使わなかった。
素手で本当にアシュラムを瞬殺してみせた。
今見えている彼女のオーラは、手加減してあの大きさなのかもしれない。
ただでさえこの大きなオーラが、実力の半分も出していないオーラだとしたら?
ジオグリスは人生で初めて全身が戦慄した。
何をやっても勝てない敵が目の前にいる。
いきなり現れたこのフェアリーという女は、なんなのだ!?
「調子に乗るなよ小娘が」
ズンと前に出たタスティエラはステージへ歩き出す。
「待てタスティエラ卿! 無理だ! 我々では彼女には勝てない!」
「黙って見ていろジオグリス」
「彼女のオーラが見えないのか! 私の知る限りではあんな巨大なオーラは見たことがない! まるで化け物だ!」
「見えているさ。だからこそ戦いたくもなる」
言い切ってタスティエラはステージに上がった。
沸き起こる歓声と共にフェアリーを見る。
「我が名はタスティエラ・ゴルディック。グランドクリフ王国の三将軍が一人! いざ尋常に勝負!」
タスティエラが拳を構え、フェアリーも無表情のまま彼を見据えた。
両者を交互に見た審判は手を挙げて、第2試合を告げる。
「それでは第2試合を始めます! 両者構え!」
シ~ンと静まり返るコロシアム。
ゴクリと生唾を飲むジオグリスと観客たち。
素手対素手のタスティエラVSフェアリーが、ついに始まろうとしている。
審判が一呼吸の間を入れてから、
「試合……始め!!!」
手を下げた!
刹那! 先手を取ったタスティエラが「ゆくぞ!」と言って消えた。
タスティエラは最初の踏み込みで最高速へ加速し、フェアリーの周囲を動き回り翻弄する。
その凄まじい速度は常人には追えない。
目で追えるのはこの場ではジオグリスのみ。
「【バニッシュインパクト】! 貴様に見切れるか!」
無数の残像が現れるほどに速度を重ね、フェアリーの隙を狙う。
しかし……
(こ、こいつ……!)
タスティエラは戦慄した。
フェアリーの視線が完全にこちらを捉えていた。
これだけの残像がいるのに、本体であるタスティエラを見据えてくる。
(こちらを見ている!? 私の速度が遅いとでも言うのか!?)
どれだけ加速を重ねてもフェアリーの視線は切れなかった。
ずっと見つめられ、いつでも反撃できると言わんばかりのフェアリーに、ついにタスティエラは恐怖する。
(ダ、ダメだ……いま手を出したらやられる! ここは距離を取って――――)
バチン!
「ぶっ!!」
フェアリーの平手がタスティエラの頬をブッ叩いた。
その威力はステージ端まで巨漢が吹っ飛ぶほど。
タスティエラは何度かステージを転げ回り、大の字になって倒れた。
もちろん白眼を剥いて気絶している。
そして当のフェアリーは。
「リズ直伝……【普通のビンタ】」