世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第52話【あ……】

 沸き起こる歓声は凄まじい熱気だった。

 長年誰も勝てなかった無双の三将軍をフェアリーは二人も撃破したのだ。

 みなが興奮するのも当然だろう。

 

 おかげで特別席にノームがいることに誰も気づかない。

 そしてリズがいることも誰も気づかない。

  

 歓声はまさに地鳴りのようで、フェアリーの勝利を祝う群衆の叫び声が空気を震わせる。人々は立ち上がり、手を振り、口々に歓喜の声を上げている。

 

『ほ〜〜〜、強いとは聞いとったが、これほどとはなぁ〜』

 

 ノームが満足そうな声音でそう言ってきた。

 隣のリズも頷き「大陸最強が相手になってませんね……」と返し、フェアリーの強さを改めて実感した。

 

 まさか直前に教えた【ビンタ百裂拳】と【普通のビンタ】を使って倒すとは思ってなかった。

 

 いくらフェアリーのパワーでもビンタ一発で倒せるとは思ってなかったけど、二人とも一撃で倒してた。

 

 しかもフェアリーは男口調になっていなかったから、あれはまだ本気モードになっていない。

 

 数億年の戦闘キャリアは伊達ではなかった。

 

『フェアリーから見れば人間に毛が生えた程度の強さなんじゃろうな。いやぁスッキリしたわい。ほれ【大地の力】を与えておくぞ』

 

「え、あ……ありがとうございます!」

 

 なんかあっさりノーム様にお力を貰えた。

 

「でも良いんですか? まだ最後の一人が残ってますよ?」

 

『アイツは慎重な男じゃ。無謀な挑戦はせんよ』

 

 

 倒れたタスティエラが医療班に運ばれ、それを見送ったフェアリーはギロッとジオグリスを睨んだ。

 

「次はあなたです。さぁ、こちらへ」

 

「ぃ、いや! 私は辞退しよう。彼らが勝てぬなら私も勝てぬ。優勝は君だ。フェアリー殿」

 

 賢明な判断を下すジオグリスに、フェアリーはすぐに構えを解いて踵を返す。

 

「そうですか。では失礼します」

 

 それだけ言ってフェアリーはコロシアムの出口に歩き出した。

 

「あ、待ってくれ! 優勝したのだぞキミは! 壇上で王からの御言葉を!」

 

「いりません。先を急ぐので」

 

「な……」

 

 ジオグリスの静止を聞かないフェアリーは、しかしある事を思い出して止まった。

 

「あ、そうでした。ノーム様からの伝言です。『三将軍は強すぎるから大会に参戦するな。見ていてつまらん』だそうです」

 

 ノーム様の伝言?

 伝言!?

 

「な……なんだって!? 君はノーム様の御言葉が分かるのか!」

 

「はい。訳あって精霊様の御言葉は聞こえます。では、確かに伝えましたよ?」

 

「あ、ちょっと!」

 

 手を伸ばすが、フェアリーの姿は出口に消えた。

 

「行ってしまった……」

 

「何者だったんですかね? 彼女……」っと審判の者が言うのでジオグリスは首を振った。

 

「わからん。だがノーム様の御言葉が聞こえるということは只者ではあるまい」

 

「え、信じるんですか? それ」

 

「当然だ。嘘をついているようにはまったく見えなかったからな」

 

 それに、ノーム様が御姿を見せてくれていないのが何よりの証拠だろう。

 もともと三将軍の参戦は否定的だった自分からすれば、今回の件はありがたい情報だった。

 

 

【土の神殿】へと戻り、フェアリーはリズとノームと合流した。

 グランドクリフ王国は相変わらずお祭り騒ぎになっているが、ここはまだ誰も来ておらず静かだ。

 一人を除いて。

 

『よーくやったぞフェアリー! さすがじゃなぁ!』

 

 大変満足そうなノーム様に、フェアリーは真顔のまま口を開く。

 

「約束ですよノーム様。リズに力を与えてください」

 

『それならもうやったぞ。なぁ?』

 

「はい。もう貰ったから大丈夫よフェアリー」

 

「そうですか。なら次へ行きましょう。次は最後の精霊であるシルフ様です。場所は【風の鳴く島】ですね」

 

「地図の中心にある島ね。どうやって行くのかしら? 船の便は……さすがに無いわよね?」

 

 チラッとノーム様を見るリズ。

 釣られてフェアリーもノーム様を見た。

 

『うむうむ【風の鳴く島】に行きたいなら国王から許可を貰って船を出してもらえばいい。というかさっきジオグリスに取り合ってもらえば良かったのに……』

 

「良かったのにって、先に言ってくださいよ!」

 

 二度手間感が拭えないフェアリーはノームに言うが。

 

『聞かれなかったんじゃもん』

 

 っと開き直るノームに、フェアリーの目が据わる。

 

『そ、そう睨むでない。ほら、ちょうどいいところにちょうどいいヤツが来おったぞ』

 

 ちょうどいいヤツ? っとフェアリーとリズは神殿の出入口から感じる気配に目を寄せた。

 そこに現れたのはハムスターみたいに頬が膨らんだ男だった。

 

「やい! そこのフェアリーってヤツ!」

 

「あ! あの人はさっきの……」

 

 リズは気づいたらしいが、フェアリーは思い出せない。見覚えはあるのだが。

 

「誰でしたっけ?」

 

「もう忘れたの!? ほらさっき大会で戦った【ゴミ捨てアシュラム】よ!」

 

「【斬り捨てアシュラム】だ! なんだそのモラルの無さそうな名は!」

 

 怒りながらズカズカ神殿に入って来る男。

 なぜ彼はこんなにも頬が腫れているのだろう?

 まるでハムスターのように可愛いが。

 

「何か御用ですか?」

 

「おう。あの時は油断した。もう一回、俺と勝負しろ!」

 

「え、嫌です」

 

「んな!?」

 

「殺さないように手加減するのって、大変なんですよ?」

 

「て、手加減……だと……!」

 

 フェアリー的には正直に言ったつもりだったが、彼にはかなり屈辱的だったらしい。

 顔を真っ赤にして震えている。

 今にも殴りかかって来そうだ。

 

「待ってフェアリー。ノーム様の言う通りちょうどいいよこれ。この人は三将軍だし国王さまに取り合ってもらえば船を出してもらえるよ?」

 

 リズの言葉で、フェアリーは目の前がパアッと明るくなった。

 そうか彼は三将軍だった!

 これはありがたい!

 

「ああ! なるほど! ではアシムラさん。あなたの挑戦をお受けします」

 

「誰がアシムラだ! アシュラムだ! 俺はアシュラム・ジェレス……あ、違う! アシュラム・ソードだ!」

 

「ジェレス? いまジェレスって言いました?」っとリズ。

 

「言ってねぇよ!」

 

「ジェレスと言えばロザリーヌさんと同じですね」っとフェアリー。

 

「ロザリーヌ!? なんでお前らが婆ちゃんのこと知ってんだよ!」

 

「「婆ちゃん?」」

 

「あ……」

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