世界樹のフェアリー   作:ミズノみすぎ

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第54話【迫る別れの時】

 せっかく取った宿はキャンセルし、ばっちりキャンセル料を取られた。

 

 まさかこんなにも簡単にノーム様の力を貰えるとは思ってなかったのと、こんなにもすぐ船を用意してもらえると思ってなかったのだ。

 

 昔のリズならキャンセル料に悲鳴を上げていたが、今のリズは資金には困っていない。

 

 お金はあればあるだけ心が豊かになる……というか余裕が出てくる。

 

 しかし、それとは別の不安がリズの心に余裕を無くさせている。

 

 次の目的地は【風の鳴く島】。

 最後の精霊シルフ様がいる島だ。

 

 そこが終わってシルフ様のお力を貰えばフェアリーは世界樹さまと交信し……おそらく宇宙に帰ってしまうだろう。

 

 そうなったら……

 

 もう二度とフェアリーに会えない……

 

 その不安ばかりが募っていく。

 

 どうしてこんなにフェアリーと離れるのが怖いのだろう?

 

「……? ……? ……ズ! ……リズ!」

 

「はっ!?」

 

 フェアリーの声に叩かれて、リズは意識を引き戻された。

 そこはすでに海の上。

 船の甲板でボーっと海面を眺めていた。

 船は今まっすぐ【風の鳴く島】へ向かっている。

 いつ出港したのか、記憶にない。

 それほどリズは考え事をしていた。

 ずっと。

 

「リズ。大丈夫ですか?」

 

 フェアリーが背中を擦ってくれた。

 船酔いしたと思われたのだろうか?

 

「ん……大丈夫。……船酔いとかじゃないから」

 

 そう答えるリズだが、フェアリーの顔は納得していない様子だった。

 

「おい。連れは大丈夫なのかフェアリー?」

 

 現れたのはこの船の船長にして三将軍の一人タスティエラだった。

 アシュラムから国王へ。

 国王からタスティエラへと連絡が行き、今に至る。

 

 飛び入り参戦して大会をある意味でメチャクチャにしたフェアリーに船を出してくれたのだ。

 

「大丈夫みたいです。船酔いではないようですし、少し疲れが溜まっているのでしょう」

 

「そうか。甲板の下にラウンジがある。横になれるスペースもあるからいつでも使ってくれて構わんぞ」

 

「感謝しますタスティエラさん」

 

 去るタスティエラに礼を言い、フェアリーはリズに視線を戻した。

 

「リズ。まだ私が宇宙へ帰ることを嫌がっているのですか?」

 

「! い、いや……そんなこと……」

 

「嘘ですね。グランドクリフに着いた時は明るさが回復していました。けれどあなたは旅が進むと途端に暗くなる。今がまさにそうです」

 

 まさかフェアリーがここまで人を観ているとはリズも予想外だった。

 返す言葉もないほどに正解だった。

 

「………………ごめん。でもアタシ……フェアリーの事……」

 

「やめてください。聞きたくありません」

 

 突き放すようなフェアリーの声にリズは目を大きくした。

 

「……あなたの気持ちは嬉しいですよ。でも私は妖精です。あなたとは住んでいる世界が違うんです」

 

「フェアリー……」

 

「……リズ。あなたは不思議な人です。私のために泣いたり怒ったり……私の何がそんなに好きなんです?」

 

「生き方だよ!」

 

「え?」

 

「フェアリーの生き方が、凄くカッコよくて……でも、それが報われてなくて……報われてほしいのに……どうしていいか分からなくて……」

 

「リズ……」

 

「このまま宇宙に帰したら……フェアリーは永遠に報われない……ずっと苦しんで…………アタシ、フェアリーのこと好きなのに……助けたいのに分からなくて……アタシ……アタシ!」

 

 ついにリズが泣き出した。

 涙の粒が甲板を濡らしていく。

 フェアリーはそんなリズを前に、小さく溜め息を漏らして、小さく微笑んだ。

 

「余計なお世話ですよ。リズ」

 

 そう言って、フェアリーはリズを包み込むようの抱き締めた。

 

「でも……ありがとう」

 

 リズの耳元でフェアリーが囁く。

 それはとても優しい声音で、本当にフェアリーの声なのかと疑うほどだった。

 

 でもフェアリーのぬくもりと、優しい力加減での抱擁は嘘をつかない。

 あんなに人間を嫌っていたフェアリーは、リズをしっかり抱きしめて全身を密着させている。

 リズの涙を、その胸で受け止めている。

 

「人間は嫌いですが、あなたは好きです。リズ」

 

「フェアリー……」

 

 リズは顔を上げて、フェアリーを見つめた。

 胸が高鳴り、どうしようもない感情が沸き起こる。

 女の外見をしているフェアリーに、こんな感情を持つのはいけないと思っているのに、フェアリー自体に性別がないというのが引っ掛かってメチャクチャになる。

 

 そんなリズの気持ちを知ってか知らずか、フェアリーはまた優しく微笑んできた。

 

「私がここまで来れたのはあなたのおかげです。リズ。でも、あなたの気持ちに答えるわけにはいきません。…………ですからこれが、私の精一杯です」

 

 そう言ってフェアリーはギュッとリズを抱き締めて包んだ。

 フェアリーの精一杯がとても嬉しくて、リズは彼女の背中に手を回し、さらに密着した。

 

【風の鳴く島】が終われば別れの時。

 こんなに抱きしめ合っているのに、その時を回避する方法がリズには思いつかなかった。

 

 いつの間にかこんなにも大好きになっていたフェアリーに、報われて幸せになってほしいと願うのは……やはり余計なお世話なのだろうか……

 

 フェアリーの大きな胸に顔をうずめていたリズは、ゆっくりと顔を上げてフェアリーを見つめた。

 フェアリーもリズを見ていた。

 

 互いに見つめ合う形になり、リズは頬が赤くなる。

 そんなリズを、フェアリーは愛おしそうに頭を撫でてきた。

 

「リズ。私の事は気にせず、幸せになってください。そのために私は戦います」

 

「そんなこと言わないでよフェアリー……」

 

「いいえ。言います。あなたと、そしてあなたの子孫のために、いつまでも地球を守ります。だから――」

 

 その先の言葉は、リズが遮った。

 リズの唇が、そっとフェアリーの唇に触れた瞬間、世界が静かに止まった。

 

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