せっかく取った宿はキャンセルし、ばっちりキャンセル料を取られた。
まさかこんなにも簡単にノーム様の力を貰えるとは思ってなかったのと、こんなにもすぐ船を用意してもらえると思ってなかったのだ。
昔のリズならキャンセル料に悲鳴を上げていたが、今のリズは資金には困っていない。
お金はあればあるだけ心が豊かになる……というか余裕が出てくる。
しかし、それとは別の不安がリズの心に余裕を無くさせている。
次の目的地は【風の鳴く島】。
最後の精霊シルフ様がいる島だ。
そこが終わってシルフ様のお力を貰えばフェアリーは世界樹さまと交信し……おそらく宇宙に帰ってしまうだろう。
そうなったら……
もう二度とフェアリーに会えない……
その不安ばかりが募っていく。
どうしてこんなにフェアリーと離れるのが怖いのだろう?
「……? ……? ……ズ! ……リズ!」
「はっ!?」
フェアリーの声に叩かれて、リズは意識を引き戻された。
そこはすでに海の上。
船の甲板でボーっと海面を眺めていた。
船は今まっすぐ【風の鳴く島】へ向かっている。
いつ出港したのか、記憶にない。
それほどリズは考え事をしていた。
ずっと。
「リズ。大丈夫ですか?」
フェアリーが背中を擦ってくれた。
船酔いしたと思われたのだろうか?
「ん……大丈夫。……船酔いとかじゃないから」
そう答えるリズだが、フェアリーの顔は納得していない様子だった。
「おい。連れは大丈夫なのかフェアリー?」
現れたのはこの船の船長にして三将軍の一人タスティエラだった。
アシュラムから国王へ。
国王からタスティエラへと連絡が行き、今に至る。
飛び入り参戦して大会をある意味でメチャクチャにしたフェアリーに船を出してくれたのだ。
「大丈夫みたいです。船酔いではないようですし、少し疲れが溜まっているのでしょう」
「そうか。甲板の下にラウンジがある。横になれるスペースもあるからいつでも使ってくれて構わんぞ」
「感謝しますタスティエラさん」
去るタスティエラに礼を言い、フェアリーはリズに視線を戻した。
「リズ。まだ私が宇宙へ帰ることを嫌がっているのですか?」
「! い、いや……そんなこと……」
「嘘ですね。グランドクリフに着いた時は明るさが回復していました。けれどあなたは旅が進むと途端に暗くなる。今がまさにそうです」
まさかフェアリーがここまで人を観ているとはリズも予想外だった。
返す言葉もないほどに正解だった。
「………………ごめん。でもアタシ……フェアリーの事……」
「やめてください。聞きたくありません」
突き放すようなフェアリーの声にリズは目を大きくした。
「……あなたの気持ちは嬉しいですよ。でも私は妖精です。あなたとは住んでいる世界が違うんです」
「フェアリー……」
「……リズ。あなたは不思議な人です。私のために泣いたり怒ったり……私の何がそんなに好きなんです?」
「生き方だよ!」
「え?」
「フェアリーの生き方が、凄くカッコよくて……でも、それが報われてなくて……報われてほしいのに……どうしていいか分からなくて……」
「リズ……」
「このまま宇宙に帰したら……フェアリーは永遠に報われない……ずっと苦しんで…………アタシ、フェアリーのこと好きなのに……助けたいのに分からなくて……アタシ……アタシ!」
ついにリズが泣き出した。
涙の粒が甲板を濡らしていく。
フェアリーはそんなリズを前に、小さく溜め息を漏らして、小さく微笑んだ。
「余計なお世話ですよ。リズ」
そう言って、フェアリーはリズを包み込むようの抱き締めた。
「でも……ありがとう」
リズの耳元でフェアリーが囁く。
それはとても優しい声音で、本当にフェアリーの声なのかと疑うほどだった。
でもフェアリーのぬくもりと、優しい力加減での抱擁は嘘をつかない。
あんなに人間を嫌っていたフェアリーは、リズをしっかり抱きしめて全身を密着させている。
リズの涙を、その胸で受け止めている。
「人間は嫌いですが、あなたは好きです。リズ」
「フェアリー……」
リズは顔を上げて、フェアリーを見つめた。
胸が高鳴り、どうしようもない感情が沸き起こる。
女の外見をしているフェアリーに、こんな感情を持つのはいけないと思っているのに、フェアリー自体に性別がないというのが引っ掛かってメチャクチャになる。
そんなリズの気持ちを知ってか知らずか、フェアリーはまた優しく微笑んできた。
「私がここまで来れたのはあなたのおかげです。リズ。でも、あなたの気持ちに答えるわけにはいきません。…………ですからこれが、私の精一杯です」
そう言ってフェアリーはギュッとリズを抱き締めて包んだ。
フェアリーの精一杯がとても嬉しくて、リズは彼女の背中に手を回し、さらに密着した。
【風の鳴く島】が終われば別れの時。
こんなに抱きしめ合っているのに、その時を回避する方法がリズには思いつかなかった。
いつの間にかこんなにも大好きになっていたフェアリーに、報われて幸せになってほしいと願うのは……やはり余計なお世話なのだろうか……
フェアリーの大きな胸に顔をうずめていたリズは、ゆっくりと顔を上げてフェアリーを見つめた。
フェアリーもリズを見ていた。
互いに見つめ合う形になり、リズは頬が赤くなる。
そんなリズを、フェアリーは愛おしそうに頭を撫でてきた。
「リズ。私の事は気にせず、幸せになってください。そのために私は戦います」
「そんなこと言わないでよフェアリー……」
「いいえ。言います。あなたと、そしてあなたの子孫のために、いつまでも地球を守ります。だから――」
その先の言葉は、リズが遮った。
リズの唇が、そっとフェアリーの唇に触れた瞬間、世界が静かに止まった。